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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
駆け出し冒険者生活

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83/295

83 :収穫

「おっと、交代の時間だ」

「長くなっちまったな」

「草も拾わにゃならんし急ごう。俺から担いでいく。お前先頭進め」

「おう」


 休憩を終えて全員が立ち上がり、戻る準備を整える。

 ひとまず放置していた嵩張る草の山をギュウギュウに縛りなおして、言い出しっぺの岩男が背負った。他の奴らが互いの背に積み上げながら、持てるだけ持って戻ろうというつもりらしい。

 しかしここは俺が一番張り切るべきところだろう。


「俺に任せてくれ。こういったことなら疲れないから」


 荷物たって草だし、たかが知れてる。


「よっさすが人族!」

「戦闘にまで手を借りたのに、すまねぇな」

「何度も戻ってくる方が面倒だろ。それに身動き取れるようにしていてもらわないと。またあんな魔物に来られたら困る」


 全部は無理だろうが、森の外に近い方なら取りに戻るのも楽だしな。

 そうと決まれば足早に移動を始めた。


 しばらくは木々の間から川が見えていたが、カーブして見えなくなった。

 川はジェッテブルク山の北側へと回り込んでいるようだ。この先から市街地まで水を引いてるらしい。あれだけ建物が密集していたら、井戸だけだと厳しそうだもんな。

 川が近くて良かったと思ったが、魔物入り飲料水と思うと微妙だ……。


 気が付くと周囲は静かだった。全員の足取りはしっかりしているが、行きがけほどの元気はないらしい。静かになったらなったで物足りない気もしてくる。

 癖になってしまい辺りを見回していると、ふと目に入った、でか岩男の表情に動揺した。

 なんで泣きべそかきそうにしてんだよ!

 その隣を歩く森男は頬を膨らませている。シャリテイルもそんな拗ね方してたが森葉族の癖かよ。野郎がやっても可愛くないからやめろ。

 他の二人に変化は見られないが、疲れではなく気落ちしてるのか?


 ちょっとばかり強い魔物が居て、まずい戦い方したって、いつもなら「今のはひやっとしたよな」と話題にして済むようなレベルに見えた。

 俺がいたせいだよな。そりゃこいつらが悪だくみしたからだけどさ、どうにかしようと真剣だったのは分かる。

 なんとなく悪い気がして、誤魔化すように声を掛けていた。


「クロッタ、デメント、バロック、ライシン。今日は楽しかったよな」


 四人は一斉に俺を振り返る。


「な、なにぃっ……楽しかっただと!」


 この善良な人族の俺を、突然魔物が現れたような顔で見るのはやめろ。

 絶えずべらべらと喋り倒していたのを聞いていたから、名前も覚えてしまった。

 でか岩男がクロッタ、岩男はバロック、小岩男はライシン、森男はデメントだ。


 今までも、まともに名乗られた記憶がない。最初っからみんな俺のことを知ってるつもりになってるのはなんなんだろうな。

 ああシャリテイルが吹聴して回ってくれたお陰だったよ。それは置いておいて。


「俺だけじゃ、ここまで来るのに何年かかったかしれない。名前だけ知ってる魔物の行動だとか、実際に目にすると迫力が違うよな」


 越えられない種族差だけでなく、こっちの常識だとか知識のなさもあるし、組む相手を探すことなんか考えもしなかった。大枝嬢からも、危険のない場所での活動を奨励されていたようだったからというのもある。

 せめて、ある程度の経験を積んでからと一人で頑張ってきたんだ。


 今までもシャリテイルやカイエンにフラフィエと、連れ出してくれたことはあったが、本当にただ後を付いて回っただけだ。

 へなちょこだろうと一緒に戦えたというのが、小学生かよというくらい嬉しかったんだ。


「そ、そうかよ。楽しかったのかよ」

「ははっ……まあ、そうだろうな!」

「あぁそりゃもう楽しかったって!」

「痛ぇ! 背中を叩くな枝が刺さる!」


 元気になってくれたのはいいが、うるさすぎて頭が痛い……。

 心なしか軽やかな動きに戻り、刈り取った草を集めながらも来がけより早く移動していた。




 森を出るころには、俺たちの背には山のような草が乗っていた。

 特に俺。


「おお、すげえ。よく動けるな!」


 などと言ってぽんぽんと乗せやがって。

 背中だけでなく頭にも乗ってるし、触手草で塊を吊るして両腕にも抱えて枝葉がバサバサと蠢いている。

 外から見たら藪が移動しているように異様な光景だろう。魔物が出たとかいって討伐されたらどうする。

 そんな心配を読んだように、森の外で待機していた冒険者たちが叫んだ。


「ゃ、ヤブリンが出たぞおおおっ!」

「こんな巨大なヤブリンがいてたまるか!」


 俺の叫びは草でこもって届かなかったようだが、クロッタたちが声をかけて騒ぎは静まった。


 荷を下ろしても、まだ全身がチクチクとむず痒い気がしてくる。

 俺は草の束の中から、状態の良いすだれ草を数枚ほど取り分けた。


「これでゴザってどう作るんだ?」


 こういったやつを利用するなら乾燥させるよな。陰干しだっけ。下手したら虫が湧きそうだし日干し?


「どうだっけ、お前、雑貨屋を手伝ったことあったろ?」

「んなこと、てんで興味なかったからな。でも火に当てるとか言ってたようなー」

「火だと燃えちまうだろ」

「煙でどうのじゃなかったか」


 煙で燻すのはありそうだ。

 礼を言うと調子よく返される。


「くははっいいってことよ!」

「新人を導くのも先輩のお仕事だ!」

「ああ、ちょっとばかり先に始めただけの低ランク冒険者の教えだ。ゆくゆくは貴様の糧となろう」

「いい仕事したな俺たち!」


 まずは、おっさんに確認しよう。こいつらの話にはどこか穴がありそうだ。

 別にゴザを作りたいんじゃない。カーテンのない部屋が気になっていた。すだれならぴったりだよな。


 ほとんど部屋に居ないから日差しを遮る必要はないけど、日が沈んでも活動していると外に漏れる灯りが気になってたし。もうパンツ一枚で歩くことはなくとも、着替えもするし、あって困るものではないだろう。

 ランタンの灯りは暗いし誰も気にする人は居そうにないが、こういった現代日本社会での感覚はなかなか変えられない。


 ついでに触手草も幾つか見繕う。気持ち悪いが長さもあり丈夫だから、紐替わりに使おう。

 近くで休憩中だった奴らが集まって、クロッタたちに何事かと話しかけていた。

 が、その人垣を割る大音量が轟いた。


「おい! 交代時だってのに居ねぇから探してたら、何してた!」

「ふ、ふぁいぃ!」


 なぜか全員が、藪をつんざく怒声の発信元へと一斉に体を向けた。

 当然俺もとっさに振り返ると、一際いかつい炎天族の男がいた。背後には、やはりごっつい男を二人従えて、こちらへとやってくる。


「げっ、取りまとめ役だ……」

「よりによって交代があいつらかよ」


 俺も小声で尋ねる。


「まとめ役ってなんだ」

「ここらの警備依頼を指揮してる中ランクの奴だ」


 現場監督ってやつ?

 時間にはアバウトな場所のようだが、さすがに遅れすぎはまずいんだろうな。ここは大人しく怒られようか……。


 カイエンよりも縦横ある炎天族の男は、俺の目の前で止まった。なんでだよ。

 でか岩男ことクロッタより幅もある体躯だが、太ってるのではなく筋肉だ。怖ぇ。

 ギルドでも見かけたことはない。こんな奴見てたら忘れないと思う。

 まとめ役は草の山を刺すような視線で捉えると、次に立ち並ぶ俺たち五人をギロリと睨んだ。


「ぬ、なるほどな。藪を払っていたのは分かった。その理由もな」


 おい、今俺と掴んだままの葉っぱを見て頷きやがった。なぜか俺は、まとめ役の眼光に射すくめられる。やっぱりターゲットは俺?


「お前が刈り達人のタロウだな」

「人違いです」


 まとめ役とやらは、ふっと口元だけ歪めて笑い、両腕を組んで俺を見下ろす。


「用心深いのはいいことだが、まあ聞け」


 ちっ、誤魔化されないか。渋々と縮こまって頷く。


「さっきな、森ん中でこいつら探してたんだ。するとどうだい。いつもはバサバサと邪魔臭い葉っぱの感覚がなく、まるで森葉族の如く足取りが軽いではないか。その理由が今、分かったのだよ」

「は、はぁ」


 同意を求めるように力強く頷かれたが、訳が分からなくて不気味だ。

 突如まとめ役は両腕を解いて上体を倒す。俺はびびって後ずさった。

 上体を折ったまま、ぐわっと目を剥いたところは憤怒の形相だ。だが、俺に放たれた野太い声は見た目に反していた。


「ここらまで刈り修行、ご苦労様です! また来てね!」


 軽くお礼を言われた。こ、腰が抜けるかと思った……。

 まとめ役は目を眇めると、今度は並ぶ四人へと向ける。


「ずるしやがって。こういう時はな、一声かけてくれなくっちゃあ困るよ」

「はい! すいやせんっした!」


 どこの組だよ。

 そのままクロッタが報告を始め、ふんふんと真面目に聞いていたまとめ役だが、話が終わると、むんずとクロッタとデメントの首根っこを掴みあげる。すげえ……。

 まとめ役のパーティーらしき二人も、バロックとライシンを掴んだ。


「話は聞いた。まだ残ってるものはこちらで拾ってこよう。この報酬は全部お前のもんだ。管理人を呼んでこい」

「えっ、ありがとうございます」


 俺一人で刈ったわけでもないし気が引けるが、言い切られてしまった。大した報酬じゃないだろうけど……また手伝いにくればいいか。


 後の休憩は無しになったようで、クロッタたちは半ば持ち上げられたまま引き摺られていく。ご愁傷様です。

 そんな四人は手を振りながら声をかけてきた。


「また頼むなー!」

「気ぃ付けて刈れよー!」


 お前らよくそんな状態で暢気に挨拶できるな。

 俺も投げやりに手を振りつつ返す。


「この辺にいる時ならな!」


 ただの挨拶のつもりだったが、それに返したのは、まとめ役だった。


「ありがたくそうさせてもらおう!」


 あんたは本気にしないでくれ。

 まとめ役らが森の中へと吸い込まれていくのを見て、俺も畑に向かって走った。


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