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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
駆け出し冒険者生活

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78 :西の森方面へ

78 :西の森方面へ


 鏡は雑貨屋にあるであろうとのお告げにより街を走る。

 一口に雑貨屋と言っても幾つかあるから、初めに駆け込んだ店で聞き直すはめになった。


 大通りから横道に入った、雑貨屋というよりは家具屋と呼ぶ方が相応しい、ひっそりとした店の片隅に、これまたひっそりと飾ってあった。

 見た目にはあまりこだわりがないんだろうか。女性だからと化粧してるような人も見かけない。

 とにかく無事に入手できたんだ。割れたら困るしと一度部屋に戻ることにした。


 箪笥の上に鏡を置く。

 裏面に木の支え棒が取り付けてあり設置方法をどうしようかと悩まずに済んだ。

 壁に勝手に引っ掛けるものを取り付けるわけにはいかないからな。


 またもや衝動買いだが満足だ。

 手のひらに収まる小さな物だが、あるとないでは大違いだ。葉書大のサイズもあったが、予算の問題で一番小さなこれになった。

 それでも二千マグもしたが、用は成すからいいのだ。これで髭を剃る時に肌を切ることも減るに違いない。


 よく見れば金属を磨いたものに、硝子ではなくマグ水晶らしきものを被せてあるように見える。それなら割れそうな心配はないだろうか。

 じっくりと眺め、出かけようとしたところで思い出した。


 まずはマグ時計を買おうと思ってたんだよ!


「くそっ、働いてやる!」


 フラフィエの依頼を終えたことだし、本日の仕事は元通り。

 草を刈ります。

 刈ります……。


 嫌じゃないんだ。

 とりあえずこれやっとけってことがあるというのも運がいいと思わなくもない。

 そうだ、仕事を選ぼうなんて贅沢言ってられる身分じゃないし。別に身体能力の問題でもなく、まだ始めたばっかりじゃないか。

 腐るな。

 前向きで行こう。

 いや前のめりくらいで。


「その間に、できそうなことを探していこうぜ」


 というわけで、自らに課した街の周辺を刈る任務を続行する。

 西の森方面へ急行せよ。

 以上。




 西の畑沿いの農道を、左手にやや下る草原を見下ろしながら歩く。草原との間に生えている背高草に目を留めた。


「お、あの辺かな」


 前回はどこまで刈ったのかと刈り後を辿ると、結構外れまで進んでいた。右手の畑へと視線を向けるとほとんど西の森の手前だ。


「こりゃ昼までには森側に到達するな」


 どの辺まで行こうかと目算を付けるために、西の森沿いを見渡す。あっちは適当でも刈られてるから、すぐに進めるだろう。

 そうだな、真ん中あたりまで目指してみるか。目標はでっかくだ。


 確認を終えたところで、道の向こうから大荷物を持って歩いてきた人族の男女二人組とすれ違った。外側の道はあまり使われておらず、砦の兵士たちの巡回がある程度だ。

 なんだが、どうも見覚えのある奴だったような。

 振り返ると二人とも大きな籠を背負って、さらに腕にも抱えて歩いている。男の方の癖があって跳ねている黒髪と、へらっと笑うおっさんによく似た横顔。


「シェファ!」

「うわっタロウどうしてここに!?」

「どうしてって、そりゃもうすごい崇高なる依頼をこなす途中だよ。で、なんで俺見て慌てるんだ」

「いっ、いやぁ急に出てきたから驚いちまってよ……」


 誤魔化しながらもシェファはチラチラと横目に女の子を見ている。女の子はタレ目をキョトンとさせていた。

 ぼさぼさのおさげ髪で、丸っこい顔の中心にソバカスが散っている。体つきは少しゴツめだけど、農地の仕事だからか、そんな人ばかりだ。

 ちょっと女将さんに似てなくもない。いや俺の目は節穴だからな。まだ種族ごとの特徴に気を取られて、個々の違いにまで意識が向いてないだけという気もする。


 それはともかく、おっさんからのタレこみによると、シェファは不純な動機で西の農地を手伝いにきているとのことだったな。


「あぁ、シェファが追っかけてるのってこの子……ぐふぁっ!」

「バッ、バカ言ってんじゃねえぞ! おぅ仕事はどうしたタロウおぅ?」

「わあ、あなたが噂のタロウさんですかぁ。孤高の草狩人とか草ころがしだとか、タロウさんの話題で持ち切りでしたよ。数日ほど」


 たった数日!

 ってまたおかしな異名がついてるし!


「そりゃタロウはうちの飯食ってるかんな。力も出るってもんよ!」

「ふふ、シェファも力持ちさんですもんね」

「んじゃ、仕事に戻ろう! タロウもな、すんげぇ依頼とやらを頑張れよ」


 ぐっ、自分で言っておいて恥ずかしくなってきた。ただの最低ランク依頼だよ見栄はって悪かったな。

 お返しだ、喰らえニヤニヤ光線!


「シェファも頑張れよ!」


 ははっ顔真っ赤にしてやがる。ざまみろ。

 たれ目が優しそうな雰囲気の子だ。甘酸っぱくも微笑ましい二人の背に心で呪文を唱えた。


 りあじゅう、ばくはつしろ!


「よし。俺の心の平穏は保たれた……」


 いや駄目だ。今のは嘘です。ひがむなんてみっともないぞ。というか人を呪わばなんとやらだ。自分に不幸が降りかかるのは嫌だし、素直に応援しておこう。




 それから草原沿いの背高草刈りを達成したのは、真昼より少し前だ。

 土手で飯を済ますと、西の森方面へと移動した。

 近くで見ると草はまばらで、遠目に見るよりもスカスカに思える。点在しているからかな。これなら、でかい目標というほどでもない。

 とにかく端から刈ろう。


 やけに静かだと思いつつ黙々と作業していたが、周囲の気配に気付いた。なんだと顔を上げると、見張り番のはずである冒険者の何人かが、俺を半円状に取り囲んでいる。声には出さなかったが、めちゃくちゃびびった。


「ほほう、噂に違わぬ身のこなしよ」

「これが一夜にして、一帯を根絶やしにした技か!」

「うぬぅ、たかが風聞など大げさなものよと侮ったが、大したものだ。ワシも衰えたか」


 芝居がかった口調だが顔が緩んでいる。冷やかしかよ。


「何を、集まってんだよ」


 やめろ頼むから。


「よっす、タロウ!」

「いつ気付くかと思ったぜ」

「すげぇ集中力だよなあ」


 お前ら暇なのか。


「持ち場離れすぎだろ」

「ああうん、いいのいいの」

「交代したばっかだしよ」

「休憩も大事だぜ!」


 軽っ!

 休憩がてら暇つぶしに草刈りショーを楽しもうツアーか。観覧料むしるぞこら。

 邪魔にならないように、適度な距離を保っている小癪な親切心がまたむかつく。

 余計に恥ずかしいだろうが。


「やぁそれにしても、なかなかいい動きするじゃねえか。なぁ?」

「ああ、一部の隙もない規則的な動きだ」

「かなりの手練れだってのは、最低ランク依頼をかじった程度の俺にすら分かる」


 うるせえよ! 褒め殺しってやつかよ!

 そりゃ魔物は際限なく増えるわけではない。常に狩ってるなら、この周辺は空っぽでもおかしくはないけどさ。

 なるべく無視して、さっさと片づけよう。


「休憩っていっても、森を見てなくていいのかよ」


 狩りを続けつつ振り向いて尋ねたら、奴らは衝撃を受けたように固まった。

 今度は何なんだ。


「み、見たか!」

「見間違いじゃねえ……なんて余裕だ」

「こいつ、刈り込み中に喋りやがった!」


 脱力するってのは、こういうことだろうか。お前ら全員髪でも刈られたいのか。


「暇だからって、人の仕事をからかって遊ぶのはやめろよな」


 それともなんだ。これがこの街流のいじめなのか?


「がははっ!」

「悪ぃ悪ぃ」

「別にからかってんじゃないけどよ」


 いきなり砕けたな。やっぱりさっきの態度は、わざとかよ。


「あーゴホン。こっちまで来てくれたついで、といっちゃなんだけどよ」

「ちょっくら手伝ってくれないか」

「おいぃ俺が言おうとしてたのにぃ!」

「まぁまぁ。伝わりゃいいだろどっちでも」


 騒がしい。図体でかいからか声が良く通る。その内容も、嫌でも聞こえた。つい流れで聞き返してしまう。


「手伝う?」


 同じ低ランクらしいが、どう考えても実質は格上の冒険者たちを?

 思わず身構える俺に、そいつらは胡散臭いほどに同じ笑顔で頷いた。


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