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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
駆け出し冒険者生活

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76 :汚部屋ダンジョン攻略

 間もなく日が落ち、暗い中を弱々しい蝋燭の灯りだけが辺りを赤く染める。

 月の明るい晩だろうと、森の側は暗い。少し大きめの月もどきを見上げた。


「そういや、月も太陽もあるのか。謎世界め」


 もちろんといっていいのか星もある。当然、星座なんかは違うはずだが。

 別にちょっとくらい世界線を超えたからって、地球と全く隔絶した環境である必要はないな。もし全く名状しがたい世界だったら俺の神経がやばいわ。あれ世界線ってそんな意味か? まあいいかどうでも。


 さて、休憩は終わりだ。立ち上がって剣とランタンを掴み直すと暗がりを睨む。


「短い停戦協定だったなカピボーよ」


 柵まで一時退避したのは俺の方だが。

 夜でも戦える俺カッケーしてみたかったんだ。映画やアメドラの刑事モノとかで見た、ライトと拳銃を持って暗い廃工場内を移動するようなシーンには、ハラハラドキドキしつつ憧れの目で見ていた。何かプロっぽいというかね。


「どだいロウソク燃料のランタンでは無理な話だったのだ……」


 撤退を余儀なくされた、先ほどの戦いを思い返し苦い気持ちになる。

 ランタンが揺れる度に、火とともに視界も揺れる分にはまだ良かった。背後の物音に飛び上がって急激に動いた際に、幹にランタンをぶつけて火が掻き消えてしまったのだ。火をつけ直すついでの休憩を取っていたというわけだ。


 ランタンの金属枠部分が当たっただけで良かったが、ガラスが割れていたら泣くところだ。実のところ、ガラスではなくマグ水晶っぽいから頑丈だとは思うが、試して割りたくない。


「だから、俺は急に大きな動きをしようたって向いてないんだっつうの。地面を滑るように、軽やかに舞え。いや舞うな。小刻みの移動を心がけろ」


 それと、叫ばないようにしないとな。魔物が飛び出すたびに驚いていては戦いにならない。

 そろそろ妙な悲鳴を上げる魔物が出たと勘違いされそうな心配もある。下手したら騒音問題に発展するだろう。ご近所付き合いは大切にだ。


「キェ!」

「ふくひゅっ……! こ、この驚かすなっての!」


 悲鳴を抑えようとして変な空気が漏れたが気にしない。って、今の鳴き声はカピボーじゃないな。

 灯りを反射して瞳をぎらつかせる、丸くもさもさした黒っぽい塊が顔面に迫っていた。


「ぅおおおりゃっ!」

「ぷキェー!」

「あ、あぶねぇ! 全く気が抜けねぇな」


 こんな場所にまでケダマが来るのかよ。夜だからか?

 いや、たまにそんな時はあるらしいことを聞かなかったっけ。

 そうだ、大枝嬢から聞いた。なんでいつも俺は、はぐれ魔物と出会うのかって。

 いやいや、多分夜だから。全体が藪のようなもんだからに違いない。

 暗いと結界が弱まるとか、魔物の行動が活発になるといったことは聞いたことなかったな。今度訊ねてみよう。覚えていたら。


 ふと空を見る。

 月の位置はあんまり気に掛けたことがないから、時刻がぱっとは理解できない。

 あまり遅くなって寝坊するのは困る。あ、それだけじゃなく、洗濯できる時間も気にかけた方がいいよな。水音が迷惑になるだろうし。


「あと一組くらい、カピボーを始末したら終わろうか」


 時間といえば、マグ時計があるんだったな。そろそろ買っても良さそうじゃないか?

 安くて五千マグらしいが、実際はもっと高いかもしれない。無難に過ごすだけなら無くても困らないが、今の内にそういった道具類を揃えておくと後が楽になるだろう。

 フラフィエからの臨時収入を当てにしているのは否めない。

 少しでも足しにすべく、これからは夜もカピボーを探し歩こう。



 ◆



 いててて……足腰が痛い。幾ら疲れにくい体だからって、夜に戦うのはやりすぎたか。いつもと違って無理な動きをしたのは間違いない。

 でも、おかげで良い経験になったはずだ。


「立て、立つんだタロー……今日を乗り切れば、箱詰め地獄とはおさらばだぜ」


 きっちり予定を組むのも大事なことだろうが、今日中に終わらせる気概で挑むんだ!


「ほら気合い入れて終わらせっぞ!」


 両頬を叩くと力が漲る。

 よっしゃ、俺はこのゲーム「タロウの大冒険~汚部屋のダンジョン」を今日中にクリアしてみせる。腐ったパンは出てきても食べないけどな。

 目指せタイムアタック!




 汗を拭いながら、必死に取り組んだ。

 手を止める時間を一分一秒でも短くと、考えごともしないように集中して、日が傾くまでひたすら動き続けた。


「やれちゃったよ」


 店内の箱は片付き、分別済みの箱が裏手の木材置き場に積みあがっている。

 積みあげると言っても、後でフラフィエが確認しやすいようにと、低めに積まなければならず場所作りも大変なものだった。

 ダンジョンを脱出すると、後半は倉庫の番なパズルゲームとなっていた。使うのは頭より体力任せだったがな。


 採取から戻ってきたフラフィエは、店内を見て、ぽかんとした後に戸惑ったまま立ち尽くした。


「う、ぅわあーすごいです。まさか、本当に三日間で終わらせてしまうなんて、考えもしませんでした。ど、どうしよう……」


 店内に積むというか詰まっていた箱は綺麗さっぱりなくなったというのに、フラフィエは動揺している。


「まあ、まだ埃が残ってるから、すぐ片づけるよ。だけど、どうしようって、嬉しくないの」

「あっ! 嬉しいですよ嬉しいですとも! びっくりびっくりすぎなんです!」


 まさか何か企んでいたんだろうか。

 俺は箒を手に取り、床を掃きながらも胡散臭いと疑う目を向けると、フラフィエはボロを出した。


「その、まだ採取に行けるかなぁと、予定を立てていただけで……」


 やっぱりか。

 俺は精一杯、爽やかなつもりで笑った。


「どうせ休むならちょうど良かったな。片付けの後は再配置があるだろ? 在庫はこの木の台の下に置いてみたけど、陳列や置き場なんかも自分で把握しやすいようにやって貰わないとならないからさ」


 フラフィエはあわあわしながら震えている。

 後始末を考えてなかったのかよ……。


「ほら、踏み台も見つけたぞ。これで棚にも手が届くだろ」


 案の定、高さのある階段状の踏み台が箱の奥地の壁沿いに倒れて埋まっていた。

 これならフラフィエでも、棚に商品を並べることができるだろう。さすがに天井までは届かないだろうけど、フラフィエには活用してほしくないというか。

 念のため、客としては取り出すのに時間がかかりすぎるし困るからという理由で、最上段には物を置かないようにやんわりと伝えてみた。誰もいない間にスッ転んで大怪我されても困る。


 それと、もう場所がないからと箱を追加して積まないようにと念を押した。

 もう片付けアドバイザーなど誰がやるか。


 それに、二度とこんなディープなダンジョンはごめんだよ。俺はちょっとした段差を飛び降りて死んでしまいかねない某洞窟探検家なみの虚弱な冒険者だからな。

 後は、フラフィエが再びダンジョンマスターにならないように気を使ってくれるのを祈るしかない。


「うぅわかりました。はい本日の依頼書です。本当に、終わっちゃうんですか?」

「もう終わったんです」

「ま、また依頼したら来てくれますよね?」

「そりゃ依頼されたら、俺だって冒険者だから請けるよ」

「や、やったぁ!」


 両手を振り上げて喜んでいるのを見ると悪い気はしない。

 でもな。


「なるべく依頼しないように頑張ってくれって!」

「は、はぃ、努力します。そ、それではまた、何かあればお願いしますね!」


 ゴミを溜める恐ろしさが少しは理解できたようだ。これに懲りたら気を付けてほしいマジで。

 フラフィエは両手の拳を握りしめると、気持ちを切り替えたように表情を引き締めた。それから布きれを手にして棚を拭きはじめる。

 元々は働き者なんだろうな。一つのことに熱中しちゃうだけでさ。


「じゃ、お疲れさま」


 すっかり後片付けに夢中になっているフラフィエの背に声を掛けて、店を後にした。


 暮れ行く外へと踏み出すと、俺も再度気合いを入れ直す。


「よし、今晩も駆除活動やるか。またロウソクも買い足さないとなあ」


 一晩の経験くらいでいい気になれるはずもない。

 南の森方面へと足を早めた。


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