表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
駆け出し冒険者生活

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/295

74 :中ランク採取イベント

 異様な巨大花畑の半ば。

 他には風の音しかない場所に立ち、弓を構えているフラフィエと、その視線の先にある標的を順に眺めた。

 ふよふよと飛ぶ黒い点が、幾つかある。

 スリバッチという、蜂を元にしたのだろう魔物だ。


 初めて見るフラフィエの真剣味のある表情に、息を詰めて見守る。

 わずかだが、さらに緊張感が増したと思った時には、空を切る音が聞こえ矢は飛んでいった。

 そして一拍の後に、遠目に見えていた黒っぽい一点が落ちるのが見えた。


 お見事。

 ゴミ箱の作製技術ばかり磨いていたわけではないようだ。


「すごいな!」

「ほふぅ、久しぶりですけれど腕は落ちてませんでした」


 笑顔に緩んだ顔でフラフィエは、こちらを向いた。


 なんでこっち見んの!?

 標的は一匹じゃないぞ!


「フラフィエっ後ろ後ろ!」


 二匹ほどが見えていたが、その内の一匹が動いたと思った時には、すぐそこまで飛んできていた。


「ふぇ?」


 ふぇじゃねえよ!


 俺は慌てて抱えていた袋を放り投げ、殻の剣を抜いた。

 よもや、新たな剣を入手した途端に使うことになろうとはな!

 フラフィエの羽が、今まさに俺の想像通りに、スリバッチの尻から生えた針の餌食になろうとしている。


 俺の精神を削るような真似なんか!


「させるかあああぁぁっ!」


 地面を蹴って跳ぶと、それだけで脚がつりそうになるが、鈍足をカバーする速度を得るためだ。

 隙だらけだろうと構うか!

 思い切り殻の剣を上段から叩きつける。



 スカッ――。



 心地よいほどの爽快な空振りいぃ!

 くそバッチのやつ急停止しやがった!


 勢い余って前傾した体を立て直すことなどできるはずもなく、とっさに肩から受け身を取って花に突っ込んだ。

 ここが花畑で良かった……。


 痛みをこらえて転がり起きると、スリバッチは俺を嘲笑うような動きを見せやがった。


「ビビデブブデブー」


 妙な振動音を発したスリバッチは、空中で急停止し左右に体を揺らしていた。

 体長は俺の半分はありそうだというのに、虫特有の動きはそのままかよ。


 膝をついて身動き取れずに、複眼と睨み合う。

 頭と尻は黒く、首回りの柔らかそうな毛は緑だ。目や薄い翅は黄色がかっているが、透過気味だから蜂蜜のようだ。

 パッと見は巨大なだけの蜂だが、前足で抱え込んだ黄色く丸い物体だけが、ものすごい違和感を放っている。

 すり鉢だ。

 蜂蜜を固めたような入れ物に時おり尖った顎を突っ込んで、猛烈に掻き回している。

 ゲーム画面で見てすらデザイナーはどんな感性してんだネタ切れか、などと思ったような記憶が薄っすら甦った。


 時がゆっくりと流れているような緊張の中だ。

 睨み合っていたと思ったのは、わずかな時間だったのかもしれない。


「デぶッ!」


 スリバッチは地面に落ちて煙になる。

 マグが消えると、矢だけが残された。


「あのっごめんなさいタロウさん!」

「あ、うん。フラフィエこそ、大丈夫」


 周囲にも目を向けたが、気が付けば遠くに見えていた奴らは消えていた。


 え、俺が睨み合っていた間に、あっちを片付けてたの?


「すみません。獲物を横取りしたら悪いかなって見てたんですけど、タロウさん動かないから、つい倒してしまって」


 謝るところそこ!?

 スリバッチの前で竦んでいた時間が長く感じたのは、気のせいじゃなかった。


「いや、俺、あれ倒せないから」

「えっそうなんですか!?」


 俺を、ただの低ランク冒険者と思うなよ。

 ぶっちぎりで最下位の最低ランクだ。


「でも、タロウさんが気を引いてくれたお陰で助かりました。ありがとうございました」

「もっと周囲に気を配ろうね」

「はい、ごめんなさい!」


 なんて危なっかしいやつだよ。

 これで今までよく無事でいたな。


「さて、お邪魔蜂はいなくなったので、蜜の採取しましょう!」

「他にもいるんじゃないのか」

「縄張りがあるみたいですよ? ほら、あっちにも別の数匹がいますけど動きません。この場所のはさっきの四匹だけだったみたいです」


 フラフィエが指さした遠くには、霞んで黒い点が見えた。

 それから、フラフィエが倒した数匹が居た場所まで行くと、半畳ほどの青い花が密集した場所があった。

 青いといっても、やや紫がかっているようだ。

 生き物の中に青い色素がないらしいというのは、こっちの世界でも同じなんだろうか。


 ここ花畑面の採取物は、確か(あお)(ぱな)とかいう植物素材だ。

 絵と現実という見た目の差はあれど、やっぱ素材は同じものか。

 青い花の周囲には矢が落ちていた。

 縄張りか。

 スリバッチはこれを守るために飛んでるのか?


 矢を拾うフラフィエに問いかける。


「巣じゃないよな?」

「スリバッチのですか? 巣ではないですけど、特殊攻撃は、この花の蜜から作られているんですよ」


 げっ、すり鉢の中身はこいつだったのか。

 こいつの特殊攻撃って、誘引とかいう魅了攻撃だったはず。

 あれ、フラフィエが必要な素材って、主に魔技石用じゃないのか。

 フラフィエは道具袋から、木皿と綿棒のようなものを取り出している。


「でもそれ、魔技石用の素材なんだよな?」


 人体に問題ないんだろうか。


「はい、マグ回復用にも多少混ぜますね。魔技石として使いやすいように、硬くなりすぎず柔らかくなりすぎず調整するとか。他にも色々と用途がありますけど。マグが多く含まれてるから、魔物にとっても変換しやすいんじゃないかなって研究の結果が出てるんです」


 ほほう。

 フラフィエも道具作成関連なら、しっかり者に見えるのに。


「何か残念そうなお顔ですけど、どうしました?」


 なんでもないです。

 と言っても怪しまれそうだな。


「いやその、そんなに汎用的な採取物なら、もっと依頼が人気あっても良さそうなもんなのになと思って」

「まぁ小量で済みますしねえ。それに花の数だけしか採れませんし」


 確かに、わざわざ少量のために毎日通うのも面倒そうだ。

 場所も他の冒険者たちに人気の北側とは逆で、移動するのも大変だろう。


「作業自体も、辛いそうですからね」


 そう言ってフラフィエは花の側に屈んで、花びらの中心に先が捻じれた木の棒を刺しこみ、くるくる回すと蜜を掬い出した。

 それを、木皿にでろっと垂らす。

 花もでかいだけあって、すごい量だ。


「と、こんな風に採取します。タロウさんもやってみてください」

「あ、はい」


 見よう見まねで掬い取る。


 なるほど。地道な作業だな。

 でかい花で膝上ほどの高さはあるが、屈んで丹念に蜜を掬い取るのは体勢的に辛いだろう。

 ああ、こんなところでも人種的な差があるのかもな。


 俺には向いてるだろうし、競合者が少ないとなれば興味はあるが……。

 遠くに見える黒い点に目をやる。

 さっきの素晴らしい空振りに気を落とす。


 あの魔物が居る限り、迂闊に近寄れないからな。

 そうだ、決めた通り、この場所で無理はしない。

 今日は、引率者がいる特別な日だと心得よう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ