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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
駆け出し冒険者生活

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73 :ふらふらフラフィエ

 本日、道具屋フェザンは外の立て看板を引っ込めている。

 休業にするということだ。

 俺はその無残な店内を見渡し途方に暮れる。


 何をどう整頓すりゃいいのよ。

 片付けるつったって、俺に出来るのは運ぶだけのような気もするんだけど。


「それでは、私は出かけますので、あとはお願いしますね」


 フラフィエは、さも用は済んだといわんばかりの清々しい笑顔を浮かべて言い放った。

 今俺は、目を剥いてフラフィエを見ているはずだ。


「はあ!?」


 出た言葉はそんなもんだった。


「え、どうして怖い顔するんですか?」


 言葉を失ってフラフィエを見下ろしていたが、装いの違いに今更気付いた。

 いや何か重装備だなとは思ったが、この要塞の中で安全を確保するなら当然だろうと思ってスルーしていたんだろう。


 いつもはぶかぶかの長袖シャツに、下は広がりのある長めのスカートといった、どこかに引っ掛けそうで危険な格好だ。


 それが今は、全身を革装備で固めていた。

 頭部には、つばのない帽子にも見える革製の防具を被っている。襟首からは、短く柔らかな髪が跳ねていた。

 体にぴったり合った長袖のシャツの上から、肩や胸周りを覆う防具を身に着けているが、薄く軽そうだ。

 腕も薄い革のカバーが指先から肘辺りまでを覆っている。

 下は、これまたぴったり合ったズボンを膝を隠すオーバーニーソックス……ではなくオーバーニーブーツが包んでいる。

 腰回りには道具袋などを取り付けるベルトだけでなく、短冊状の革を繋いだものが取り付けてあった。一見するとミニスカートのようだ。

 鎧で言えば草摺とかいうやつだっけ。あんな用途なのかもしれない。


 何よりも、その背にあるものに目が行く。


「弓と、矢筒」

「え? ああなんだ、これに怯えていたんですか。タロウさんを脅して仕事させようなんて考えてないですよ?」


 そんなの分かってるよ!

 いや、意外と本気じゃないだろうな。


「どうせお休みにするなら、この機会に採取に出かけようと思ってるんです。ですから、のびのびと働いてくださいね!」


 再び笑顔を浮かべたフラフィエに、呆然とする。

 固まっていた俺を無視して出かけようとするフラフィエ。

 その前をとっさに遮った。


 冗談じゃない。

 このまま放置されてたまるか!


「俺はこの店で従業員として働いたこともなければ、道具屋で扱ってる物に詳しくもない! 整理整頓をするにしろ商品と私物の分別はどうすればいいのか、一覧はあるのか。仕分けたものは、どこに置くか決めてあるのか。店内に置き切れないものは、裏手に置くのか。廃棄する物があれば、その置き場は……」


 一息に前もって知りたいことを並べ立てていた。


「ということで、せめて最低限の説明をしてから出かけてください」

「う、ぅうっ、ごっごめんなさぁい! 分かりました説明しますから!」


 気が付けばフラフィエは目に涙をたたえてぷるぷると震えながら聞いていた。

 まるで俺が悪いことしたみたいじゃないか!


「ええと、強く言い過ぎたかもしれないけど、それを確認したら後はどうにかするから」

「いえ、だいじょうぶです。ちょっと混乱しただけです」


 混乱って。

 そんなに置き場すらどうすればいいほど分からな……困ってますよね。

 この状態を見れば聞くまでもなかった。

 改めて見るが、ひどい有様だ。


「どれだけ箱まみれなんだよ!?」


 二階もあるようだが、この狭い家のどこにこれだけの荷物が詰まってたのか不思議になってきた。

 よく考えたら、置き場に対して箱の量が多すぎないか。


「あー置き場に困ったら入れ物作っちゃえばいいかなと思いまして」


 てへっとか舌を出して笑って誤魔化してるんじゃない!


「それであの木材なのか……」

「おー鋭いですね」


 誰でも分かるよ!

 普段はどうやって仕事してるんだか、そっちが謎だ。


「奥の作業場以外の箱は、中もあまり見ないものだし適当に分別しちゃってください」


 入れたら置きっぱなしかよ!

 ふう……落ち着け。血圧上げてる場合じゃない。

 そうだ裏手の木材置き場には、ある程度の空きスペースがある。

 幾つか箱を空けて、分別用の箱を置こうか。

 それに、詰め終えた奴には種類ごとに箱に目印をつけておいた方がいいな。


「よし。さあ、始めるぞ」


 算段を付けると、気合いを入れ目の前の箱に手を掛けた。




 フラフィエ自身も何が何やら分かっていなかった物に埋もれたり、ずっと探していた物だといって別の箱に詰め直そうとするのを阻止したり、得体のしれない物体に悲鳴を上げつつ、悔恨の沸く開梱作業は続いた。

 時間は限られているから、俺も必死だった。


「ええと、これは作製用の道具か? んで、こっちは保管用の材料と、それからこれは?」

「……う、うぅぐるるるる……るるー」

「な、なにごと!?」


 ふと横を向けば、フラフィエは俯いて唸り声を上げていた。


「もおー……いや、ですーっ!!」


 ぎゃっ切れた!


「せっかく久しぶりにお出かけできると思ったのに、これじゃあ何も変わらないじゃないですか! もうお昼になっちゃいますよぉ!」


 真横で叫ばないでほしいって、えっ!


「もう昼?」


 あちゃー……集中しすぎたか。

 そんなに経っていたとは、まったく気が付かなかった。

 カオス過ぎんだよ。


 うわっすごい睨まれてる!


「ご、ごめん。分かってる。分かってるから。あとは、そうこれ! これだけ聞いたら、もう大丈夫だ。出かけてくれて構わない。明日と明後日も丸々羽を伸ばせるだろ?」


 だからって怖い顔のまま文字通り羽を伸ばさないでほしい。


「説明ありがとう。タスカリマシタ」


 これでようく作業に集中できるな。

 俺は箱の中から発掘したヨレヨレになった紙束を貰い、それに内容物をメモして箱の隙間に差し挟んだ。

 大体のカテゴリも把握したし、また訳の分からないものが出て来たら別にまとめておけばいいだろう。


 忘れない内に気になったことをメモしながらフラフィエに視線をやると、まだ平べったい大きな袋を抱えていた。採取用だろう。

 すっかり元気を取り戻したらしく笑顔だ。

 切り替え、早いですね。


「じゃあタロウさん。出かけましょうか」


 俺はメモをまた一枚、箱に差し挟む。

 そして次の紙を手にし、思い切り首をひねった。


「はっ!?」


 きょとんとした顔が見返す。

 なんで不思議そうなんだ!?


「だって午前中は私もお手伝いしてしまったじゃないですか。ここは公平に、私の方の採取も手伝っていただきます」


 そんなバカな!


「報酬を減らしてもらうっていうのは」

「依頼の訂正って面倒くさいですし」


 またギルドに持って行って訂正して確認してと、なるほど手間のようだ。

 そうそう変更されても困るだろうしね。


 でも、どこか丸め込まれたような気がするのは何故だろうか。




 ピュー。

 そんな音を立てて風が吹き抜けている。

 遮るものなど何もない、だだっ広いだけの草原。そして目と鼻の先には、色とりどりに咲き乱れた花。青臭い中にも、多少の甘い香りがある。


「……なんで、俺、花畑にいるんだよ?」


 確か、ここへは来ないと決めた矢先ではなかったか。


 俺はフラフィエに連れられて、中ランクの採取場所である花畑にやってきた。

 畑と呼ばれているが、誰かが植えたわけではない。

 そもそも観賞用の華やかなものなどはなく、花をつける雑草だ。

 恐らく虫系の魔物がどこからか拾ってきた種が芽吹いたのではという話だ。

 

「今日は他の冒険者さんたちに会いませんね。あまり人気無いらしいですけど」


 フラフィエは既に弓を手にしている。


「あの、一応お尋ねしますが、俺が最低中の最低ランク冒険者というのはご存知ですかね」

「やだ幾ら作業場に籠ってばかりで情報に疎い私でも、人族の冒険者はタロウさん一人ということくらい知ってますよ。シャリテイルさんも話してましたし」


 どんな話をしたのやら。


「タロウさんは、その採取袋を頼みますね。やっぱり荷物運びは人族の方が得意ですから、正直助かります」


 少女の後ろを荷物持って歩く男か。

 すごく、情けない構図です。


 丘の上一帯が花だらけだが、普通の花ではない。

 一つ一つがでかい。

 これも魔物ではないかと錯覚しそうだが、ただの草花らしい。

 丼サイズの花なんて、もう綺麗とは言い難い。

 丈も膝上までありそうだ。


 そこへ踏み込んで恐る恐る歩くと、遠くの宙に蠢くものが確認できた。

 あれ、スリバッチじゃないのか……?

 まだ小さくしか見えないが、やはり動きは早そうだ。

 だいたい、この花畑の中にも身を潜めていそうだし、あんまり迂闊に近付くのもまずいんじゃないのか。


 そう思っていると、フラフィエは足を止めた。


「この辺にしましょう。ちょっと待っててくださいね」


 フラフィエは俺から横に少し離れた位置に立つと、矢をつがえた。


 背筋をぴんと伸ばし顔の緩みも引き締まると別人のようだ。

 中性的な顔立ちだから、少年ぽさが増すというか。

 同時に首の羽もぴんと伸ばされている。離れて正解だ。


 あの羽に近付きたくないのは変わらない。

 木材の下敷きになったフラフィエを掘り起こした際に、触れてしまった今はなおさらだ。

 あの高級羽毛布団を想起させる、ふわふわとした感触は思い出すだけで鳥肌が立つ。

 くわばらくわばら……。

 あの羽が魔物に齧られたりしませんようにと、息をひそめて見守った。


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