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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
駆け出し冒険者生活

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68 :買い出し

 他の買い物のために大通りを歩き始めた。

 漠然と、持ち物を増やしたくないなと思っていたような気がする。全財産は、身に着けて運べる程度に留めておきたかったからだ。


 何をするにも住所が必要で、戸籍もはっきりしているような日本で暮らしていたんだ。ホテル暮らしなんてどこの金持ちだよって。

 まあボロ宿住まいだから、実際は低賃金労働者って感じの方が近いか。とにかく今までは、旅行中のようにふわふわした感覚があった。


 だけど、そこそこ暮らして、これからも末永くお世話になりそうな実感が湧いてきた。少しずつ段階的に、元の世界への未練を断ち切っている。そんな気分だ。

 痛い目に遭うたびに一歩ずつというのが、なんとも諦めが悪いが。


 こうして過ごしていても、夢でも見ているような気分は抜けなかったのは、あまりにも英雄奇跡というゲームの世界に酷似しているからなんだろう。

 それに中途半端に現実だったもの――コントローラーがある。

 いっそ、すっぱりと元の世界と切り離されていたなら良かったのに。


「でも、似ているだけだ」


 強さは数値化なんてされないし、知らない奴らも普通に生活している。

 この世界はこの世界なりに回っているんだ。


 数値化されないと思うと、俺にあるレベルアップと思っていた妙な感覚も、実は関係ないんじゃないかと思えてくる。

 回復はどっちかといえば、マグ獲得量の影響なんじゃないだろうか。怪我を治療するのは、人体にも魔素が含まれているからじゃないかと。獲得分の魔素を補充できるからというなら、まだ納得できる。


 もちろん、それもおかしいけどさ。傷を塞ぐんだから、マグ回復の効果とは明らかに違うわけだし。

 まだまだ不明瞭なことばかりだな。


 説明書なんか読まない方だったけど、今ならその大切さが分かる。コスト削減かよ。ケチらず説明書よこせよな。

 ぶつぶつ文句言いながら大通りを横切った。




 雑貨屋に日用品店、それと衣料品店を巡って一通り必要なものを買い揃え、げっそりした気分で通りに出るとほっと息をついた。


 靴は、今履いているようなブーツとなると、安い奴でさえ五千マグもした。何をするにしろ、足回りは仕事の要だもんな。他に買う物もあるから、今回はパスだ。

 上履きのように薄い革靴なら安かったが、柔軟性は高くないし、ちょっと激しい運動したらすっぽ抜けそうだ。室内履きにいいかと買ったが、これも千マグした。


 買った物は斜めがけの鞄にも収まりきらず、新たに追加した予備の道具袋につめて口を縛り、紐を肩にかけて背にぶら下げながら歩いている。いったん荷物を置きに戻ろうか。


 次こそは金が入り次第ブーツは買うぞ。

 などと物欲に燃えてみると、ギルドに預金なんて、どれだけ先のことになるのかと肩が落ちる。

 必要最低限のものすら揃ってないのに、まずは預金からというのも順番が間違っていた気もするけどな。


 帰りかけたが、一番重要なもんを忘れてた。

 マグ回復の魔技石!

 今度は小回復の五個組と、中回復も一つ揃えておこう。


 改めて街並みと店の位置などを確認するように見回しつつ、道具屋フェザンを目指した。




 幅のない木製の扉を押し開くと、暗い店内に声をかける。


「ちわーっす、フラフィエいる?」


 あ、ちょっと馴れ馴れしい呼びかけだったかな。

 まあベクトルは違えど残念度合いはシャリテイルと張るからいいか。うぉっと危うく特大ブーメランが脳天をかち割るところだったぜ。残念具合なら俺も胸を張れるからな。


 変だな、静かすぎる。いつもは奥でガタゴトと音が鳴るはずだ。

 扉に鍵はかかってないし店内はゴチャゴチャしてるし、相変わらず不用心だ。


「ええと、ごめんください?」


 奥の作業場に反応はないかと、触れれば崩れそうな木箱タワーの隙間を覗く。

 かすかに物音はあるような。裏手にいるのかも。ちょっと待つか。


 在庫はあるかな。

 前回マグ回復が置いてあった棚を見上げたが、変わらず埃っぽい。ギルドへの納品で作ったりしてるのに、入れ替えないのかよ。

 小回復なんか遠征組が使いそうもないが、その隣に中回復も並んでいたはずだが、今も商品の並びに変化はない。手が届かないから、面倒くさいんだろうか。


「うおっと」


 棚の手前に並ぶ、崩れそうな荷が積まれたテーブルに近付くと、足元の何かを蹴った。前回フラフィエが持ってきた小さな踏み台だ。そのままかよ。


 今の内に降ろしておこうか?

 さすがに勝手は良くないな。

 それにしても、出てこないのは別の作業してるのか?


 ん? 奥からガサゴソと聞こえたような。


「フラフィエ?」


 箱タワーの隙間へと、また声をかけたとたん、ものすごい音と悲鳴が聞こえた。


 手荷物を投げ捨て、作業場の足元に散らばるガラクタトラップを飛び越えると奥へ向かう。壁沿いに積み上げた箱の隙間に勝手口があり、そこが開いていた。

 迷わず潜り抜けると、宿にある共同井戸のようなスペースだった。井戸の代わりに木材が積まれていたり立てかけてあったりする。

 半分野ざらしだが、物置きか?


 見回すが人影はない。と思ったら、床に積まれた木材が蠢いた。

 あれ、置いてるんじゃなくて、崩れた?


「ぶうぅー……」

「フラフィエなのか? 木をどけるから動くなよ!」


 奇怪な音を発する木材に手を伸ばす。どっちが頭か分からないから、そっと木材を持ち上げて側の床へと移動させた。

 ほとんど角材だよ。痛そうだなおい。怪我とかしてませんように!


 すぐに見えた姿は、背を向けてのびていようと確かにフラフィエのものだ。

 伸ばした腕と同じく、力なく広がっている首から生えた一対の翼が目に飛び込んできた。

 しかしあろうことか、ささくれた角材の縁に柔らかそうな羽毛が挟まっている!


「だ、大丈夫か意識はあるか!」

「あ、あります。重い、です」

「あの、木材に羽が挟まってんだ。どうする? 毟れそうなんだけど……」

「かまいません、やっちまってください」


 あああ、だから言わんこっちゃない!

 なんでこんな進化だか退化だかしちゃってんだよ!


 なるべく羽に触れないよう、指先でつまむようにして割れかけの木屑を折った。


「うっ……よし、外れたからどけるぞ」


 ハラハラし過ぎて気持ち悪くなったが、これは人命救助だ。歯を食いしばって、作業に集中した。




 助け起こしたフラフィエは、涙目でお辞儀した。


「ふはあぁ……本当に助かりました。タロウさん、ありがとうございます」


 怪我はないようで良かったが。命にかかわる汚部屋ってどんだけだよ。


「やっぱ整頓は大事だと思う」

「う、そ、そうですね。見解の相違はしばしば存在するものですが、ええと……認めたくないとはいえ、慣れない人には混沌として見えるのも理解できますし……」


 清々しいほどに潔くないな!


「今回は大丈夫だったから良かったけど、いつもとは限らないだろ……俺も、最近つくづく思ったんだけどさ……」


 つい声が小さくなってしまう。これに関しては、人に文句言える立場にないからな。


「でも、確かに気が抜けていました……この機に整頓方法の変更は検討します!」


 言い方はあれだが、今回は本気でまずいと思ったみたいだ。


「俺も買い物しやすいと助かるし。頑張れよ」


 そうして店内に移動し、今回は素手で魔技石を掴んで潰すこともなく、無事に希望通りの数を買えた。


「また来てくださいね!」

「ありがとう。それじゃあまた」


 これで、本日の買い出しは終了だ。

 ようやく貯まりかけていた余分の金は消えてしまったが、気分は浮上していた。

 なんというか、今まで買うまいと抑えていたのを揃えたせいか、吹っ切れたような気分だ。買い物で気分転換ってやばいな。破産一直線だよ。




「ギルドにも報告に行っておくか」


 採取の依頼分はない。討伐の報告だけだ。結局、昨日はノルマと課していた分をこなせなかった。

 大枝嬢には、また無理な討伐してと呆れられそうだ。


 歩みを進めるごとに揺れる荷物の重みを感じる。これは間違いなく自分で稼いだ結果なんだ。

 そう思うと、自然と足に力がこもったようだった。


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