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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
駆け出し冒険者生活

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64 :持ち物検査

 妙な鳥が窓際で鳴くのにも慣れた。

 ずんぐりした体は大きさといい鳩っぽいが、嘴にこぶのようなものはないし、茶色い縞々模様だ。


「いつも目覚ましご苦労さん……」


 ぼんやりとした頭でも、眠りを邪魔する憎い相手だといった判別はできる。

 忌々しげに睨むが、鳥どもはどこ吹く風である。


 のっそりと起き上がり、今日の予定はどうしようかと考えながら服を手に取る。

 本日のプランは?

 シェフのワクワクお任せ冒険者コースで頼む。


 誰だシェフ。

 そうでした、魔物の討伐に精を出そうかと思っていたんでしたね。

 別に予定など立てていない。

 立てられるほどの、選択の余地もない。


 でも何か考えてたよな。

 四脚ケダマを相手にしていたときだったか。

 もう少しどうにかできるだろうと考えたが、少しどうにかしたくらいで劇的に強くなるなんてないな。


 まあ体感できるかは置いておくとして、少しの改善でも、見込める成功率は小さくはないだろう。

 改悪ではなかったと分かるまでが大変だけどな!




 どうにかマシにできないかと考える度に、つい思い出してしまう。

 レベルでも上げるかってさ。


 もうね、意識すまいとしてきたんですよ。

 どのみち、画面の中のゲームとは違うし。

 コマンド選択して寝転がっていればいいわけじゃない。

 頭の中でコマンド選択したって実際に動かなけりゃならないし、敵が待ってくれるわけでもないってさ。


 こつこつと小金を貯めて装備を揃えるったって、安易に道具に頼っていい世界でもない。

 実際に現実にって意味で、うまく動けるようにならないと駄目なんだ。


 他にできることはないか。

 ループしてるっぽいけど、考えろ俺。

 定期的に見直すのは悪いことではないだろう。




 そんなわけでして。

 俺は改めて、普段から自分の身に着けているものをベッドに並べてみた。


 それらを眺める俺はと言えばだな。

 ふふ、もうパンツ一丁ではないのだよ。

 買ったばかりだというのに首回りがヨレヨレな気がするシャツに、目が粗くペラペラなズボンだ。

 だが、すーすーしないし、何よりも裸で窓に張り付く変態だと見咎められて通報される危険がないというのは素晴らしい進歩だ。


 ただ一つ難点があるとすれば、ここは土足上等の文化だってことだな。

 ……なんで俺はスリッパを買い忘れるんだよ。

 部屋の中でまで、ごついブーツを履いたままでいるのも辛い。

 スリッパがあるかは知らんが、室内履き代わりになりそうなものならなんでもいいや。

 忘れないようにメモしておこう。




 さて、改めて自分の身に以下略。

 もう少しどうにかならんかと考えた答えは、一瞬で出た。

 身軽にすることしか浮かばなかった。

 初めからそれしかないと分かっているのに、俺は自分自身に何を期待しているのだろうか。

 念じたところで鈍足は変わらない。


 あえて持ち出した理由は、思い切りをつける切っ掛けが欲しかったんだよ。




 暮らし始めてそれなりに経ち、なんとも治安が良いというか気の抜ける場所だと思い始めている。

 それでも、やはりどこか信用しきれていなかったんだろう。


 街並みを眺めても、しっかりとした錠らしきものは見た覚えがない。

 この部屋にしたって、閂があるだけだ。

 俺でも体当たりしたら簡単にぶっ壊れそうな代物に見える。

 もちろん部屋の外側にも鍵はない。

 悪戯でも閉じ込められたらと考えたら怖いからなくていいと思うけど。


 置きっぱなしの荷物に関しての心配はそこにあった。

 部屋に居るときはいいが、宿だからな。

 昼間はおっさんたちが掃除に入るし、畑に行くときは必ず一人は番をしているようだが、隣近所だって人気がなくなる。


 だからというか失くして困るような荷物は、すべて持ち歩いていた。

 まあ、途中からは癖だったけど。


 ベルトに通した袋類だけでも増えて嵩張ってきてるし、特に大きな袋が邪魔だ。

 コントローラーを突っ込んだままだから、他に何かを詰められるわけでもないというのが地味に困る。


 増えた採取物は、まとめて口を括って肩に引っ掛けて歩いたりもするが、戦闘になれば放り投げることになる。

 それで、二袋までならベルトに括りつけて歩いたりもするのだが……尻にぶらぶらとでかい袋が揺れるのも落ち着かない。

 カピボーに集られて、余計に重くなることもあるし。


 背中のバッグは邪魔にはならないからと持ち歩いていたが、大判の布が幅を取っているだけだ。

 間に弁当を詰めたりもするけど、基本は開くことがない。

 これは何かが起こって野宿するはめになったらと心配で手放せなかった。

 温かい季節だろうと山で遭難すると低体温症がどうのと怖いニュースを見たことがあるし。

 この体に起こり得るかは別として、それよりうっかり寝てしまえば魔物に齧られて詰む方が先だろう。


 そんなもしもの不安よりも、甲羅にしろ荷物を背負って持ち帰ることが多くなってきた今では、正直邪魔くさいのだ。



 それでも、様々な『もしも』の不安が過り、ぐにょぐにょとした思考が邪魔をする。


 ここで俺が買ったものはいいだろう。

 失くしても壊しても、また買えばいいだけだ。


 だけど、パンツ一枚にしたって、俺がこの世界に放り出された時――いや、生まれ変わったとき?

 どっちでもいいが、初めから持っていた初期装備を手放すことに不安と抵抗感があった。


 動き辛かろうと、持てなくはない量だから持ち歩いていたのは、意地だったのか考えるのが面倒だったのか。

 だけど、ここを拠点と決めたんだし。


「うーむ。もう、いいよな? すぱっと置いて行っちゃえよ。勇気と希望以外は、負担になるだけさ。なんのって、まあ色々だ……」


 大きな道具袋から、コントローラーと予備の道具袋を取り出した。

 それに詰め直し、口をがっちがちに固く結ぶ。


 借りている古箪笥は腰ほどの高さで上に物を置くのにちょうど良い。

 引き出しも三段あって、今の俺には十分な収納力だ。

 下段に魔素洗剤やロウソクの予備などの雑貨、中段に衣類をしまっている。

 もちろんスカスカである。


「ヘソクリといえば、衣類の隙間が定番だよな」


 そして泥棒にもよく狙われるところとか聞いたことがあるような気もするが、違う世界だし。そこは都合よく忘れておこう。


 着替えの奥に、コントローラーの袋を突っ込んだ。

 木の実袋などの小物も背の鞄に詰め直す。

 こっちは分かり易く、服と並べてしまっておくか。

 ダミーだ。

 エロいもんじゃないから見つかったところでどうということはないけどな。


 まあ、おっさんたちが箪笥の中まで掃除した形跡なんかない。

 お節介でも、そういったところは弁えている人たちだと、今は信頼している。




 箪笥を締めると、悩みも消えた。

 また一つ、わだかまりを捨てることが出来たか。

 このまま仙人でも目指すか。


 すっぱり気持ちを切り替えたことだし、さっさと着替えよう。

 出かける時間が遅れるだけ収入も減るぞ!




 現状、コントローラーの機能で分かっているのは、マグ獲得量や謎なレベルが確認できることだけだ。

 それが分かるだけでも、俺にとっては格段に便利になったといえる。


 でもさ。

 なんか、しょぼいよね。


 いや、だからって誰にでも知られていいものとは思わないよ。

 機能面よりも、材質が大問題だろう。

 この街を見ている限りだと、石油とか合成樹脂素材だとか?

 詳しくはないけどさ、偉い人に知られたら大変なことになるんじゃないか?


 何よりも、光るのが問題のような気もするが。

 こっちの聖なる質の魔素と似た光ってところが特に。

 問い詰められたりしたら面倒なんてものじゃない。

 答えられないのに吐けとかいって拷問されても嫌だし。死ぬしかないし。


「大した機能もないもので、そんな結果は御免だ。貴様とはお別れだぜ。さらば」


 今晩までだけどな。

 確認だけなら、夜に見ればいいのだ。

 飯食ってるときに暇だからって、魔物がうろついてる中で気を取られるのはどうかと思うんで。

 我慢すればいいだけって言われても、ねえ。

 手元に遊ぶもんがあると、気を取られちゃうからね。




 通りを歩いていて気付いた。


「いや、なんだろ。まじでスッキリ?」


 嵩張っていると余計に重く感じるもんかな。

 かなり動きやすくなった気がする。



 これは、いける。

 四脚ケダマ、いけるだろ!


 どうかな。

 さすがに五匹も来られたら、背後が問題だ。


 ここは、新たに探索を進めるのもいいんじゃないか?

 洞穴や花畑の方は、飛んでくる奴がいるから無理。

 泥沼の再探索ならどうにかなりそうだ。

 まだフナッチ一匹を相手にしただけだし、他のも見てみたい。


 魔物の討伐は、ツタンカメン辺りを重点的に倒してみようかな。

 甲羅も多めに持ち帰ってみたいし。

 より低ランクに魔物が分裂していくなら、カピボーやケダマ相手にするよりは、幾分か助けになるはずだ。

 はずだよな?

 そう思ってないと虚しいから、そういうことにしておこう。


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