表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
駆け出し冒険者生活

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/295

63 :難敵の居所を把握

 俺を置いてけぼりにして盛り上がっている低ランク冒険者たちを後にして、西の森との境界を進んだ。

 一応彼らの忠告らしきものを聞いて、警備中の冒険者たちの背後を移動する。

 言われなくとも、邪魔になるだろうし危険な場所を歩きはしないけどな。


 人が居なかったら?

 そりゃ入り込まないよ。俺だって、そこまで無謀ではないつもりだ……たぶん。


 西の森に面して冒険者たち数組が立っているのは、畑が広がっているから視界に入るが、その間隔は広い。到底、小さな魔物が出てくるのを遮れる距離ではない。

 森へと入ったり、出てきた組と入れ替わっているのも見るから、積極的に討伐する方がメインだろうな。つっ立ってるのも暇だろうし、討伐ばかりも疲れるだろうし合理的だ。




 改めてこうして見てみると、体格も配色も地球とは違いすぎる人種が並んでいるというのに、随分と慣れてきた。結局、人間は人間だからかな。

 今ここにいる主要な人種は四種族だ。

 畑側には人族ばかり。警備している冒険者側は、森葉族、岩腕族、炎天族の三種族だけだ。


 フラフィエのような首羽族の冒険者は、ギルド内では見かけるが数は多くない。

 街の中では少ないとも思えないし、店舗での従事者が多いのかな?

 樹人族は、今のところ大枝嬢しか知らない。


 唯一、人種名を知らなかったのは、ゲームに出てこなかった樹人族だけだった。

 だとすれば、まだ俺の知らない人種も存在するんだろうか。しそうだな。

 他国の事情は分からないけれど、また知る機会もあるだろう。


 暇な時間ならある。

 俺に人生の夢も希望も目標もない――この世界では、まだ。

 当面の予定は、宿代を稼いで明日を生き延びやすくするために装備を揃えることだけ。


 まっさらになったんだ。時間だけは、幾らでもある。


「あれ、今なんか気が滅入りかけたな。それより下見だ。観察に集中!」


 幾分、足を速めながら森の奥へも目を向けてみたが、一瞬で断念。南の奥の森並みに鬱蒼としすぎ。

 仮に踏み込むことがあったとしても、準備をしっかり整えてからだな。そんな機会はまだまだ先だ。

 仕方がないから、冒険者たちの姿を見ながら通り過ぎる。思ったよりも知らない顔は多かった。


 当たり前か。活動時間帯の違う奴らの方が多いだろう。

 しかも俺がギルドに行くのは報告程度の、わずかな時間だけだ。

 メンバーを待って明日の予定を立てるなんて必要がないからな……。


 ただ、向こうは俺を知っているのか声はかけられる。適当に挨拶を返すが、口ぶりからして未だ珍しい人族冒険者の話題は上るらしい。

 早く忘れろよ!

 ああ、草刈り新記録のネタもあったんだっけ。

 どっちにしても気にしないでいてくれよ!




 肝心の俺の狩場だが、森と畑との間にも、ちらほらと草が固まっているものの、随分とまばらだ。切った先が茶色く変色した草もあるが、塊の一部だったりと不揃いだ。少しずつしか対処してないらしい。


 なんだろう、ものすごくムズムズする。

 くっ……俺の左手が奴らを拘束したいと唸り、右腕が命を刈り取れと囁く!


 おかしいな。草刈りは、決して俺の本業ではないはずだ。

 俺は冒険者だし。

 冒険者、だし。


 ウズウズするが、見渡す限りは似たような状態だ。思い切って目を逸らすと、北側へと方向を変えて小走りに通り抜けた。





 畑の端を囲むように続いていた西の森は、北側の山へと連なるように葉の覆いを広げている。その木々もジェッテブルク山の麓辺りで、まばらになり途切れる。

 岩山とはいえ草くらいは生えているようだが、枯れたような色が張り付くばかりだ。


「殺風景、とも違うか?」


 一見、不穏な感じだが、自然って案外綺麗な緑色だけってこともないよな。

 日本の自然を残した観光地などでも、山道を逸れると倒木や枯れ葉に覆われて、ひんやりした暗がりが不気味に感じるところは多い。

 それを踏まえても、なんかすけえとか綺麗だなと思っていたけど。


 そのまま北側へと、畑を囲むように作られた道を進みながら視線を上げると、山腹に動きがあるのが目に入った。ゴツゴツとした岩肌の裾野から、回り込むようにして道らしき線が伸びている。遮る物はないから、遠目ながらも人の行き来だと分かった。


 採掘場入り口は、山の東側に位置するのだろう。記憶の地図にある洞穴に灯りが掲げられているようなアイコンの位置と重なる。

 名称は鉱山入口となっていたアイコンは、ここでは採掘場入り口ということになりそうだ。


 鉱山奥地という別のアイコンもあったんだけどな。

 それは別の場所に繋がっているのか、それとも広いから呼び分けているだけ、となるのか。

 人気の場所らしいが、ここぞ中ランクという難度の場所だろう。


「俺が目にする機会は、いつになることやら」




 真っ青な空を区切る黒い山は、厳かな美しさがある。

 とても危険度が高ランクに位置する場所の周辺とは思えない。

 この街の由縁や、現在も取り巻く魔物らの環境を考えると、信じられないほど長閑だ。


 どこか暢気にも思えるのは、何十年も過去の出来事だからなんだろうか。長いこと平和だと、世界を脅かす恐怖も薄れてしまってもおかしくはない。世代だって変わりつつあるだろうし。


 外見に大きな違いはあれど、こっちの人種も寿命に大した差はないらしい。樹人族が長生きするというが、それでもせいぜい百年ちょいくらいとのことだ。そんなところは地球と何も変わらない。植物や食べ物にしろ似通ってるんだから、生態も似てくるのかもな。


 それに、空が落ちるのを怖がるような態度でいたところで、時間の無駄だ。

 今を生きなきゃな。




 街の北側入り口は思ったより賑やかだった。

 賑やかといっても人よりも物が多い。

 資材や器材?

 木箱も積まれている。

 山との行き来のためだろうな。


 北側に着いたが、まだ明るい。


 もう少し足を延ばすと、道を遮るようにして古い砦が建っていた。

 道だけでなく柵もぶった切るように、はみ出ている。

 いや、街が後から出来たんだから逆か。

 街、はみ出すぎ。


 砦は一望できるくらいには小さなものだ。

 大きな四角い石を積み上げた建物だが、灰色というより砂色っぽい。

 外には、当然ながら砦の兵が何人もいる。

 以前にカピボーに齧られて血まみれになったときに通りかかった二人もだ。

 あ、思い出したらまたカピボーに腹が立ってきたな。


 そして、やっぱり忘れられてはいなかった。


「いつぞやの人族冒険者か」

「宣言通り、しっかり働いてるらしいな」


 この街、狭すぎやしませんかね。


「おかげさまで、どうにか」


 どうにか生き残ってますよ。


 街を見学している理由を軽く話すと、こっちを通れと道を教えてくれた。

 砦と山側の間には岩がゴロゴロし、さらには所々で低木が邪魔をしてくれるが、確かにほっそい通り道はあった。

 そこを抜けると、いきなり東側の牧草地が広がった。


 山の東には、小さめの岩山も連なっている。

 だけど牧草地の果ては、やはり森に囲まれているようだ。

 空を見上げて日の高さを確認する。

 かなり傾いているし、間もなく夕方って雰囲気になりそうだ。


「さすがに、あっちまで回る時間はないな」


 柵沿いに歩いて東側から入る道を見つけると、そこから街の中心部へと戻ってきた。

 ギルドへ辿り着いた頃には、いつも通りの帰宅時間となっていた。





 東側の森の情報は全くない。

 記憶のマップには、もう一つ薄暗い洞穴のアイコンがあっただけだ。

 だけどそれは、連なっていた小さめの岩山辺りになるんじゃないかと思う。

 だけど森ならば、出てくる魔物はケダマ辺りになりそうだ。


 まあ、ざっと回っただけだが十分だったかな。


「うん。下見してよかった」


 もっと早くに見ていたら良かったか?

 そうとは思えない。

 禄に事情を把握していなかったからな。


 今だから、確認できて意味があったという充足感があった。


 刈らねばならぬ難敵の居場所もしっかりと把握したしな。

 これで心置きなく、仕事に打ち込めるだろう。

 明日こそは、草刈りだけでなく魔物討伐にも精を出そうじゃないか!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ