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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
駆け出し冒険者生活

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59 :遠征を見送る

 すっかり通勤路気分で大通りを南へ向かっていると、遠目に人だかりが見えた。

 南街道出口付近に並んでいるのは、パッと見二十人は下らないだろうか。

 というか整列してる?

 近付くにつれて把握できたのは、大荷物を抱えた冒険者たちだった。


 脇に立つ住人は、彼らを見てお喋りしている。会話の内容によると見物だ。俺もそこに混ざって様子を見ることにした。


 並ぶ面々はギルド内で見覚えのある者もいるが、あの場のように緩んだ空気はどこにもない。

 よく見ればギルドの男性職員らしき人もいる。いつもの制服ではなく、装備を整え大荷物を背負っているところを見ると、冒険者と変わりない。そして砦の兵も数人いる。


 皆が厳しい顔つきで、リーダーらしい冒険者や職員からの注意や兵の指示に耳を傾け頷きつつ、荷物のチェックをしている。がちゃがちゃと武具類のぶつかる音を聞くと気が張りつめるようだ。

 見たまんま、遠出するグループらしい。


「これが、カイエンが言っていた仕事か」


 想像以上に大規模というか、本格的で驚いていた。

 改めてこうして見ると、いかつさが強調され、本職らしい場慣れた雰囲気に圧倒されるものがある。

 ……俺が、暢気に草と戯れているように見えるのも、仕方がないんだろう。


 荷の確認が終わると職員は待機を指示し、ギルドへと足早に立ち去る。

 すると、一気に空気が緩んだ。


「ふひぃ、おやつを忘れたかと思って焦ったぜぇ!」

「へへ、こっそり酒も持ってきたぞ?」

「お前ら、そんな重いもんばかり持って遅れても知らんぞ。あ、そん時は余計な荷物だけ引き取ってやろう」


 あれ……いつもと変わんねえな。

 一瞬かっこいいとか思った気持ちを返せ。


 幾つか人垣から飛びぬけて高い頭がある。もちろん、どれも炎天族の赤い頭だが、その一つがこちらへ動いた。


「おっタロウ草か、なに生えてんだ」

「生えてねえよ」


 やはりカイエンだったか。

 ただし普段と違って、腕や頭部も防具で覆ってるし、他の者と同じく荷物を背負っている。予備の武器だかも括りつけてあるし、これで山越えなんて炎天族は行き倒れるんじゃないかと思える。そのために大人数で移動するのかもしれないが。


「例の、繁殖期時の遠征か」

「ほほう、覚えていやがったか」

「ついこの前だろ……じゃあ、全員が高ランク冒険者なのか」

「まさか。そんな素晴らしい者どもが何人もいてたまるかよ」


 てめえで言うか。


「この前、高ランクの仕事だとか言ってたろ」

「そりゃ最高難度の魔物が生まれる場合もあっから、その時のためのオレだ。ほとんどは中ランクの上位者だぜ。道中だって危険だからな。この街にいる高ランクは五人だし、何人かは残してないとまずいだろ」


 思わずカイエンを見上げた。


「たったの、五人……?」

「無論、オレもその一人よ」

「これだけの街に、それだけ」

「ふふん、どんなもんだい」


 また鼻高々だが、そりゃ自慢したくもなるだろう。褒めて欲しそうな雰囲気は無視するとして。

 しっかし、上位者だけでもこんなに人数を割くもんだとはな。


「よっぽど危険なんだな、魔泉ってのは」


 いつも自信満々のカイエンが、言葉に窮したように、はっきりしない笑みを浮かべた。苦い思い出でもあるようだな。


「ま、草に心配されるほどでもないかな?」


 人を忍者みたいに呼ぶな。


 カイエンが言うように、滅多になれないだろう高ランク含む上位者が連れ立って行かなければならない場所。どれだけ危険かなんて想像もつかない。

 どんなところかは知らずとも、俺なら百回は死ねるんじゃないだろうか。


「気ぃ付けろよ」

「おいおい、真面目に言われたら逆に何か起こりそうだろ? これも仕事の一つでしかないんだ。枯草みたいな顔すんなって!」

「いってえ! 馬鹿力で叩くな!」


 カイエンが俺の背をバンバンと叩くのを、必死に腕で受けたり避けたりする。

 いちいち一撃が重いんだよ、手加減しろ!


 そうしていると気が付けば隣には、いつもギルドでカイエンとつるんでる奴らが、へらへら顔で並んでいた。さっきまで隊列組んでいたのが台無しだ。みんな本来は自由人なんだろう。

 だが良いところに来てくれた。お陰でカイエンの攻撃が止んでくれたぜ。


「よう、わざわざ見送りに来てくれるとは奇特な奴だなぁ」

「巡礼ご苦労、草毟る鎮魂を唱えし者よ……」

「ネイチャースイーパー。また腕が上がったって聞いたぜぇ!」


 くたびれた感じの岩腕族、中二病をこじらせたようにすかして立つ森葉族、筋肉盛り過ぎて喋ると胸筋を震わせる炎天族と次々と声を掛けて来た。濃い。


 なんかまた俺の進化が進んでる。だから草刈りの腕ってなんなんだよ。大体、なんで英語っぽく翻訳されてんだ……ああ、国など関係なく、冒険者として集まってくる者は歓迎している場所だったな。

 山を挟んではいるが、一応この街も国境沿いだ。近隣諸国の言葉が、そんな風に聞こえるようになってるんだろう。そういうことにしておこう。


「ただの野次馬だ。どこに行くのか気になってさ」


 途端に三人は言葉を被せるように話し始めた。やかましい。

 どうにか聞き取れたのは、この街の外の情報だ。当然、ゲームの知識にもない俺の知らないことだった。


「んー、こっから西方面の山脈だ。ま、幾つもあるんだけどよ。あぁ幾つかって? ずーっと西行くと王都があっだろ。その間に、えー三つは街を挟んでたか? 山もそんだけある」

「邪なもの眠りし真闇の山を中心に、この街を囲む山並みを越えれば、最も近い人里とを隔てる山脈があるのは知っているだろう。大抵は、その周辺を虱潰しに叩いていく。が、今回は、それでも足りん。より完全なる鉄槌を望まれたのだ……」

「あー要は山脈は危険が一杯ってこった! 起源の魔脈が走ってるからなぁ。あの辺の魔泉は定期的に潰しに行かにゃならん」


 魔脈(まみゃく)……またとんでもない情報が出てきたな。

 え、そんなものが幾つもあるって、世界中に巡ってるってこと?

 邪竜が生み出したらしい邪質の魔素は、ジェッテブルク山から漏れてるのではない?


 少なくとも近隣諸国に被害はある現象のはずだが、さすがに、ここに現れた魔物が全世界にまで影響するとは思えないもんな。


 不思議だった魔物を倒してもいつの間にか戻っている現象。

 邪質の魔素が流れているのが魔脈で、それが地上に溢れるポイントを魔泉と呼んでいる。

 魔物が湧くポイントとはいえ、定期的に回るってことは常に見張るほどじゃないんだろうか。立地的に難しいのかもしれないし、魔泉の数が多くて回り切れず半ば諦めているなども考えられる。

 ……地図、ないのかな。


 そういえばゲームの説明書には、画面写真だけでなく結構細かな美術設定や挿絵もあったのに地図はなかったな。クリア後のおまけで開示されるアルバム情報などにも存在しなかった。設定に凝ってるなら、あっても良さそうなもんなのに。

 そんなこと今ここで考えたところでネットもないし、次回作の要望など送れるはずもないが。


 意識を戻すと、カイエンたちの説明話はどんどん逸れて雑談に移っていた。

 ケロンというカエルの魔物が枕にちょうど良いから抱えていけたらなぁとか、理解できないし、したくもない話をしている。しかも他の奴らは真剣な顔で同意していた。


「だろ?」


 とか、意見を求められましても。

 答えに窮して曖昧に頷いていると、聞き覚えのある声が響いた。


「おっ待たせー! ギルドからの支給品よ。受け取ってちょうだい!」

「シャリテイル、遅いぞー!」

「ようやく来たか!」


 冒険者一行は、呼びかけられた方へと集まっていった。

 さっきギルドに戻っていった職員とシャリテイルは、共に大荷物を運んできたようだ。人垣の間から垣間見えたのは、木箱の底に車輪をつけたような台車の側に立って、中身の袋をみんなに手渡している手元だけだが。

 忙しくなるってのは、遠征の準備を手伝っていたからか。


「何かあれば遠慮なく使ってちょうだい。最低限の魔技石と回復薬だけどね」


 へえ、さすがにその位の補助はあるんだ。ん、あの台車に魔技石?

 この前フラフィエを手伝ったやつだろこれ。回復薬は違うだろうけど。


 全ての冒険者だけでなく兵達も受け取り、行きわたると人垣は再び列を作った。

 そうして、シャリテイルの全身が目に入ったわけだが。


「なんだあの風呂敷包みは!」


 いつもの白いワンピースなのかは、マントで全身が包まれ分からない。それはいいのだが、大きく膨らんだオリーブ色の布を背負って首元に括りつけられていた。

 大昔の人か泥棒かって感じだよ。


「やっほー、じゃ行ってくるわねー!」


 シャリテイルは隊列の背後へ向けて手を振った。俺や周囲で立ち見している住人、多分全員と顔見知りなんだろう。

 ていうか、シャリテイルも行くのか。

 中ランクの上位者とは聞いていたが、らしい働きを目にしたことはない。図らずも確かなランクなんだと知れたわけだ。

 俺も手を振り返しつつ、渋くなる気持ちで動き出した隊列を見送った。




 折った剣を新調したからカピボー退治に来たはずが、すっかり浮かれた気分は消えていた。

 シャリテイルも留守にするから、採取を頼むと言ってくれたんだろう。

 大変な行軍と比べりゃ些細な仕事だ。


「でも、当てにしてくれたんだよな」


 ならば代打としてしっかり毟り倒そう。

 ケダマ草を摘むため道具袋の口を開いた。


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