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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
駆け出し冒険者生活

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53/295

53 :交渉術

 冒険心に火が付き、泥沼フィールドを目指して奥の森踏破に挑んでみたが、俺にもやらねばならない仕事があったのだ。

 草を十五束刈りケダマ草を一袋集めると、まだ空も鮮やかな黄色の内に帰ることにした。


 次の十日分の宿代は貯まった。目標の千マグも稼げた。無理せず早く帰る日を設けるのも大切なことだ。

 ここでは休日という感覚がないのか、休める時に休むようだから、自分で管理しないとな。


 甲羅を背負っているため、報告だけしてギルドを早々に退出する。

 明るい内に戻れると気持ちに余裕ができるようだ。のんびり通りを眺めると、今日こそは多少だが異様な目で見られているように感じた。


 世にも珍しいカメ族だと思ったか?

 そんなものは居ないはずだ。


 そういえば、そのままだと空洞が邪魔で幾つも持てないから、運びやすいよう上下に割り皿のように重ねて背負っている。たった十枚とはいえ、その厚みは結構なもんだ。……冗談でなく亀に見えてもおかしくないな。


 前回よりも多いこれを、またストンリに押し付けるのも不憫というか不安だ。素材があると、何か作って貯めこむ癖があるらしいと発覚したからな。俺以外に木や殻装備なんか誰が買うんだと思うと申し訳ない気もする。


 店内にあった木防具を思い出すと、俺だって木防具はちょっとな……。

 何で嫌かって、強度の弱さから、どうしても分厚くなりがちらしいことだ。ぼてっとして動きを阻害されそうだった。

 フルウッドアーマーなんて姿を想像しただけで、微妙な気分になることとは関係ない。決してない。


 頼んじゃったものは、ありがたく使わせてもらうけどな。気が付けばストンリから伝言が届いていないかと、そわそわしている。

 急な仕事が入って忙しそうだったから延びるかもしれないが、こうして商品を待つのは楽しいな。予約したゲームの受け取りを思い出して、苦い笑いが浮かんだ。




「よっお帰りタロウ。今日は亀だな」

「亀じゃねえよ。ただいまおっさん……随分と若返ったな?」

「目が悪いのか。俺っちは息子の方だよ。父ちゃんは家畜の世話に出てる」


 へえ息子の方か……初めてまともに向かい合っただろうが。


 一応は交代で仕事してんだな。おっさんは常に張り付いてるのかと思い始めていた。しかも畑だけでなく家畜もいるとは、実は結構なやり手?

 それとも農地の人族の割り当てがあるとか? 出稼ぎで農地に来る人間は小作人のような扱いになるんだろうか。

 そういえば、宿なんて営んでるから自分ちの畑と思い込んだが、王様がいるような世界の土地は売買できるのか?


「ええと、農地で働いてるわけじゃないよな」

「おめぇ……こうして宿屋を営んでるし、利用もしてるじゃないか」


 盛大に呆れた目で節穴かと言わんばかりだが、本気で宿屋がメインだと思っているなら、そっちの方が驚きなんだが。


「うちは飯も出せる宿屋だぞ。最低限は自給できるよう、土地も確保するに決まってんだろ」


 客がない大部分の日は、ただの自給自足生活じゃ……いやいや日本の現代の感覚で物を考えてはいけないな。一日で大陸間を超えられる技術などなければ、観光客が数ヵ月に一度泊まるくらいで普通なのかもしれない。


「ま、農地の方にも手伝いに行ってっけどな」

「そうなんだ……まあ世話になってるよ。ええと、エヌエンさん、か?」

「おっと、しょっちゅう父ちゃんと話してるし、会話も丸聞こえだから自己紹介した気になってたな」


 まじかよ、だだ漏れかよ。家族団らんの部屋といったって、そこまで狭くないはず……まさか全員が壁の裏に潜んでんのか。


「シェファだ。ちなみに父ちゃんはキープ、母ちゃんはファムランな」

「あ、タロウです。どうも」


 おっさんにも名前があったんだな。エヌエンは苗字か。そりゃそうか。


 どっきりしすぎて用事を忘れるところだった。

 甲羅の別の用途に思い至ったから持ち帰ったんだが、どうしよう。

 シャリテイルに薪になると言われた時は冗談に聞こえたが、考えればこの街に電気だとか石油なんてものはなさそうだ。ランタンには植物油とかロウソクを使ってるようだし。この街しか知らないから、例えば王都とかなら、もっと良い物はあるかもな。


 とにかく、おっさんが燃料をケチってると言ったのを思い出し、使うなら渡そうと思ったんだ。いつも世話になってるし、他にも使い道を知ってるかもしれないしな。

 今は若い方のおっさんだが、目を合わせる。


「薪にいらないか?」


 背負っていた甲羅を示しながら言ってみた。

 シェファの目がきらりと光った。

 ほう、脈ありか。


「薪を仕入れるのも大変だからな。買おうじゃないか」

「えっ、いや貰ってくれるだけで」

「馬鹿いうな仕事は仕事だ! 子供の小遣い程度の金にしかならないけどそこは勘弁な!」


 またそのパターンかよ。しかし本当に息子なのか?


「なんだよ。じろじろ見やがって」

「いやあ、怒り方もおっさんそっくりだなーって」

「ふざけてんのか!」


 顔を真っ赤にして乗り出したシェファから体を引く。

 怒ってるというよりも照れてるなこれ。こっちの奴らは年齢が分かり辛いが、この様子だと年下そうだ。俺もこういうのは嫌だったよな……思春期の気まずい時期のことなど思い出したくはない。


「ごめん、ふと思っただけで、からかったんじゃない。それで甲羅なんだが、本物の薪ほどのものじゃないだろ? たまたま拾って少ないしさ。ただ、シェファに聞いていいのか?」

「もちろん、俺っちの仕事だからこそ提案してんだよ」


 腕組みしてヘソを曲げている姿もおっさんに似ているが、なだめて詳細を聞くことにする。

 今までは右も左も分からなすぎて、言われるがまま受け取ってきた。親切な人ばかりだったから痛い目には合ってないが、代わりに良くしてもらいすぎていると思うと落ち着かない。


 少しは交渉してみたいし、相手も多分、俺にはちょうど良いんじゃないか?

 おっさん相手だったら、とっくに押し切られているだろう。


「鍛冶屋じゃあるまいし、そんなに立派な薪はいらないんだ。畑周辺の枝や落ち葉拾ったりゴミを燃やしてっから、そいつなら上等だよ」

「なら余計に無駄遣いじゃないのか」

「拾って回るのも時間かかるんだよ。畑や家畜の世話ならまだしも、ゴミ拾いだって思うと、やる気だだ下がりだぞ?」


 ああ雑用を押し付けたいわけか。そう言われれば理解できるような腑に落ちないような……。


「それにな、そいつは既に乾燥してっから使いやすいんだよ」

「ほーそうなんだ」

「だがあまり拾ってくる奴もいないし、相場がないんでな。500マグでどうだ。大抵のちょっとした雑用は500で片づけてんだよ、この街はな」


 なんだと……だからフラフィエも500マグを報酬額にしたのか。ストンリに依頼した防具も、とりあえず500って感じだった。これまでのあれこれが氷解。

 俺は、そんな無いよりはマシ程度の額に翻弄されていたのかよ……。


『タロウはマメチシキをてにいれた。知力値が1あがった!』


 ゲームならこんな場面な気分だったわ。

 しかし納得できるかと言えばノーだ。


「高すぎる。魔物のマグも入手してるし、倒したついでなんだから一つ1マグでも十分だ。十個分あるんだぞ」

「やる気のない額だな。なら300に下げるぞ」

「どうせ拾いもんなんだから思い切って値切っておけよ。よし一つ10マグ、合わせて100マグならどうだ。十倍だぞ!」


 シェファの呆れる顔に手応えを感じた。どうだ、勝ったろ。


「分かった分かった、もうそれでいいからさ? 便所の近くに置き場があんだ。そこまで運んでくれっか」

「それくらいお安い御用だ」


 どうよ、俺にかかれば交渉だってこんなもんだぜ。こいつ面倒くせえといった空気を気にしてはいけない。

 俺でも安値と思える額まで下げて、納得してもらえた事実が重要だ。地道な成功体験を重ねるのだよ。どうせなら、もっと良いもん拾えるようになってから威張りたいしな。


 こっちだと言って裏手へ歩き出していたシェファを追う。わざわざ薪置き場へ連れてってくれるようだ。遠いの?

 宿の周辺は、大通り側と裏の井戸しか見ていない。

 両サイドの内の片方は別の家だけど、逆側は私道というか。住人でもないのに通るのは気が引けるような細さで、その路地を挟んだ北は民家もまばらだ。倉庫らしき掘っ立て小屋が増えるし、放牧地側の資材置き場なのかもしれない。


 井戸から路地の方へ進むと、低木を挟んだ奥に小屋があった。

 なるほど一見分かり辛いな。学校の中庭なんかにあるプレハブ倉庫というか、掃除道具置き場を思い出した。その小屋の裏手にも、まばらに低木が立ち並ぶ。

 細い通り道はやや下りながら延びていて、その先には東側の畑と、広々とした草地が目に入った。


「あそこに見える畑がうちのだ。すぐ側に家畜小屋があるとこな」


 言われてみればボロそうな小屋と、細かく区切られたような畑が見える。とはいえ、どこもそんな所ばかりに見えるため、ひとまず頷いておく。

 この宿、本当に大通りの端っこの店になるんだな。


 東側はほとんど放牧地に見えたが、柵を囲むように畑も連なっているらしい。そっか、おっさん達はこっち側で働いてんだな。




 改めて宿へと戻り、マグ読み取り器に設定された100マグの数値を確認すると、俺は報酬を受け取った。


「手間かけたな」

「俺っちは大助かりだからな、いつでも持ち込んでくれ」


 あっと、もう一つ用事があった。


「これからは晩飯も頼みたいんだけど、今晩はさすがに無理か?」


 未だ朝昼の二食でしのいでいたのだ。だが我慢せず、朝昼晩と食うことにした。

 どのみち、謎の木の実も残り少ない。ここらで生活を切り替えるべきだろう。


 そうさ、飯は力の源。

 飯こそ、パワー……。


「ぶつぶつ言われると怖いよ」

「あ、声に出てましたか」


 変な宗教に目覚めたようだ。布教はしないけど!


「なんで初めにそれ言わないんだ? だったら薪代と飯を交換でも良かったんだけどな」

「あ」


 やはり、どこか俺は抜けている。


「ま、まあ、同じだけ拾えるとは限らないからな」

「そりゃそうだけど。その様子だと次も泊まってくれそうだな」


 先の話ではあるが、次の十日分も確保はできてる。


「次回更新どころか、まだまだ世話になるつもりだ」


 拠点は滅多に変えるもんじゃないだろ。それに、住まいがどうのと思い悩むのからは、しばらく解放されたいんだよ!


「薪、頼むわ」

「おう、任せろ」


 ニッと笑うシェファに、俺も不敵なつもりの笑みを返した。


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