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48 :奥の森で憂さ晴らし

「臨時出費の、恨み晴らさでおくべきか!」


 己の間抜けぶりは棚に上げておこう。安っすい魔技石をうっかり使っちまったのがなんだってんだ。もともと試すつもりだったし? 使い勝手が分かってちょうど良かったし。


 呆然としている間に聞こえたフラフィエの説明によれば、そっと取り出すなら壊れないらしい。あまりに脆ければ実用に耐えられないだろう。

 柔らかい理由は、ふらついて力が入らない状況などを想定してのことらしい。生々しいが、納得。

 それで俺が大ざっぱに摘まむもんだから、つい叫んでしまったとか。普段はポーチを開いてもらい、フラフィエがあの鍋掴みで渡すのだそうた。


 やっぱり叫ばなくてもよかったと思う。きっとあれは高い買い物をさせようといった罠だ……もちろん自分の無知のせいだって分かってる。

 愚痴は済んだか? そろそろ涙を拭いて顔を上げようぜ。


 そんなわけで午後の、安全に草刈りの予定は撤回する。ケダマ草採取を続行しつつ、ケダマらに挑むことにしよう。現場では臨機応変さが大切だぞ。



 森の中から、藪をつつきながら練り歩く。こんなことを続けていたら早々に背骨が曲がりそうだ。

 初日は草原側から森の様子を伺っていたが、南の森にいる魔物相手も慣れてきたし、ケダマ草が生えてそうな場所も把握してきたため中を歩く方が早い。

 どこ向いても似たような景色に思えるが、意外と覚えられるもんだな。


 木々の合間から西側を覗いてみた。草原だ。

 ケムシダマとの追いかけっこはトラウマものだったが、様子くらいは確かめている。心なしか森の中も魔物が減った感じはあった。草原を見れば一目瞭然だ。


「おおぅ、普通に爽やかな草原じゃねえかよ……」


 目を凝らしたが、ケムシダマの陰は遠いし、数も極端に減っている。

 やはりゲームと同じく本来は花畑周辺の魔物なんだ。


「くそっ、初めっからこうであればな」


 安全になったのを喜ぶべきだが、どうにも憎々しげに睨んでしまう。


「リベンジはまたの機会によろしく」


 今は南の森制覇に勤しもう。


「ぴキェーッ!」


 殻の剣マジ便利。

 藪をつつくだけのつもりが、そのまま一匹仕留められることも多い。一日にして元が取れ過ぎだろ。それ以上に散財してしまったが……。

 剣のお陰で楽になったのは嬉しいのだが、ふと考える。


 すでに魔物の数が平常時に戻りつつある。危険度は下がり、ほっとすると同時に、稼ぎが減る不安が募った。なんとアンビヴァレンスな悩みよ。

 頼れる相手もないだとか考えたりしたことが、折に触れて頭に浮かび、どうにも離れてくれない。


 こうなったら行くか、奥の森へ――。


 まったく懲りてないな。しかし今回はマグ回復もある。昨日とは違うはずだ!




 道標まで到着すると、そっと奥の森側へと近付く。この辺りから徐々に木々は密集しはじめ、視界は良くない。歩く先々にある不審な藪へと剣を突き入れた。


 いくつかの茂みを突いた時、聞き覚えのある甲高い断末魔の叫びが上がった。


「ャブリャーッ!」


 そのおぞましい叫びを聞いて剣を引き抜いた途端、周囲から紐が襲い掛かった。

 ツタンカメンだな?

 ヤブリンの背後に、広がるように隠れているらしい。


「これが、蔦攻撃……っ!」


 荷造り用の紙紐のように茶色い茎に、緑の葉っぱがまばらに生えている。飛んでくる方向を見るに、敵は五体。


 うわあ全身を触手に絡まれ美少女タロ子貞操の危機ぃ!?


 とっさに剣を立てて引き寄せていた。引き絞られる前に、外に押し出すようにすれば切れるんじゃないかと思ったからだ。

 これも麻痺攻撃のはずだが、ケムシダマとの大きな違いがある。


 くっつかない!


 つい無意識に遮ろうと伸ばしていた左手で、掴んだ蔦を引きちぎった。

 引きちぎ……あれ?


「フッ、たかが蔦など、この剣の前には無力!」


 全部手で引きちぎったけどな。

 強度もただの蔦草レベルだ。しかもマグ製らしく千切ると消えていく。

 びっくりさせんなよ!


 だが、そうやって抜け出そうとしている間に攻撃を仕掛けるのがセオリーだ。

 数秒でも足止めできれば勝機となり得る。漫画とかで言ってるし多分そう。


 だから必死に蔦を払って剣を構えなおす。予想通り、ツタンカメンは藪から姿を現していた。前方に半円状に位置していた列が狭まりながら迫っている!

 しかし、俺の間合いの遥か外だった。


 遅っ!

 いくら真似た元が亀だからって、魔物がそんなところ順守しなくていいだろ。


「ならば、こっちから行かせてもらう!」


 ツタンカメンの甲羅は、樹皮を折り重ねて張り合わせたような見た目だ。茶色の歪な背は、薪でも背負っているようである。大きさは座布団、高さは頭を上げた状態でも膝までないくらいだ。硬そうには見えないが、念のため首か足を狙ってみるか。

 端の亀の側面へと回り込み、すれ違いざまに頭を切りつけた。


「ケメッ!」

「げっ!」


 大振りすぎて甲羅に刺さってしまった。

 だが足を止めず勢いのまま引きずり、他の亀から離れると甲羅を踏みつけ引っこ抜く。スポッと抜けた反動で亀は転がった。

 ツタンカメンは意外と軽かった。


 これは、使えるかも。

 腹を上にして、緑の手足をばたつかせている亀の甲羅を掴んで抱え上げる。

 のたのたと方向を変えて迫る仲間たちへと、亀を掲げたまま近付いた。思惑通り、他の亀から蔦攻撃が一斉に放たれた。


「かかったな。即席亀ボーラだおりゃっ!」


 蔦を束ねて掴むと、絡まった亀を振り回す。こいつが軽いと知ったからこそ出来た返し技だ。

 あえて言おう、技だ!


 カコンカコンと軽快な衝突音と共に、亀たちは転がっていった。深い森の中に、蔦四重奏が軽やかに響き渡る。振り回した亀も、一瞬で蔦が千切れて木にぶつかって落ちた。


「今だ!」


 手足を引っ込めることはしないんだろうか。これ幸いと、目を回しているように見える亀の首を次々と落としていった。

 全てが煙になったのを確認したが、消えないもんがある。


 樹皮のウェハースみたいな甲羅だ。再び生まれるなよ?

 遠くから剣でつっつくが何も起こらない。


「お、脅かすんじゃない……」


 そういえば、素材の最低ランクは木製だ。

 ゲームでこいつがドロップしていたのは立派な木材だったのに、現実にはこんなものになるとは。


 一応、拾っておこうかな?

 素材かもしれないと思えば、今はなんにでも縋りたい気分だ。

 木に絡まっている本物の蔦草を引きちぎって甲羅をまとめると、背負うことにした。

 このまま街へ戻ったら、また笑われるかもな。でも、もういいのさ。

 恥を恐れても腹は膨れない。

 甲羅を背に、慎重に来た道を戻り道標まで退避した。




 ふぅ、どうにかなったな。

 それは良かったが、これ本当に低ランクには厳しい魔物なのか?

 あんな蔦、足止めにすらならない。いやいや謙虚になろうぜ。予め大枝嬢の情報を聞いていたから手が打てたんだ。

 それに、大枝嬢は二組に挟まれたらと言ってなかったか?

 確かに知らずにそばを通りかかり、全方位から蔦を喰らえば危険そうだ。


「それにしても、気持ち悪かったなー……」


 ツタンカメンの頭には目に当たる部分がない。亀の頭の先のほとんどがパックリと裂けたように開き、上下に二本ずつ赤い牙が生えているが、人の指ほどの太さに、長さは半分ほどもある。足の先にも似たような二本の赤い爪があった。

 あんなのに食いつかれたら、ただじゃ済まない。今後も、安心安全のために藪刺し確認はしっかり行おうではないか。


「そうだレベルが上がったろ」


 今はレベルなどよりマグ獲得量の方が気になるところだが、読み取り器がないと確認できないから不便だ。一応コントローラーで確かめておこうか。

 いそいそと取り出して、光を確認する。


『レベル17:マグ14773』


 よしよし、なんでも上がるのはいいことだ。


 ツタンカメンはレベル6だし、手に入るマグ量は期待できる。

 ただ、五匹も倒したというのに1レベルしか上がらなかったのが気になる。こんなところはゲームと同じで、どんどん上がり辛くなっていくんだろうか。

 先へ進もうとすれば、単純にレベル分の強さだけでなく戦い辛い魔物も増える。

 喜びが萎むのは、限界が見えた気がしたせいだ。


「はぁ、レベル17か。マグは前回が一万ちょいだっけ……三千近く増えてる?」


 明日には次回の宿代十日分も貯まるじゃないか!

 あっさり気分の盛り上がる俺でした。


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