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43 :武器入手

 目覚めの気分は悪くない。

 新しく案内された部屋を見上げた。これまで過ごした奥の部屋となんら変わりない、黒い木造の板がむき出しの天井だ。

 特にベッドの質も変わりはないが、やっちまった感で、やけに気持ちは静かであった。


「ふっ、これでいいのだよ」


 何がかは自分でもよく分からない。いい加減起きよう。

 体を起こすと部屋に渡した洗濯縄から服を取るのだが、ベッドから距離ができていた。

 廊下からは扉の位置が等間隔だったから分からなかったが、元の部屋より1.5倍は広い。多分、隣の部屋と同じ大きさで、奥の一部屋だけが狭いんだろう。


 おっさんは物置きにしていたと言っていたが、掃除は欠かしてないようで汚れた感じはない。

 慌ただしく移動されていったのは、幾つものでかい桶だとかのガラクタと、今は使っていない古箪笥などだった。

 なんでそんなものを客室に置いてんのかと思ったが、元は民家を宿に改造したから置き場に困っていたとか。


 確かに、すぐ裏手は共同井戸だし、倉庫のようなものは見当たらない。まさか、あの引っくり返る扉の奥が家族団らんの場とは、誰が考えようか。

 ともあれ移動しようとしていた箪笥は、置いたままでいい代わりに、荷物を置かせてもらうことにした。

 大したものはないが、着替えと洗剤は嵩張って邪魔だったしな。


「ほぅ、肩から憑きものが落ちたように軽い」


 背中の鞄は幅広の革紐で支えられているが、洗剤を詰めている間はズシリとした重さを感じていた。そんな状態で森を駆けずり回っていたんだよな。

 身も心もすっきり軽くなった今なら、少しはマシな気分で動けそうだ。


 だが、その前にやることがある。

 十日分の宿代を払ったから残額は減ってしまったが、予定通りに装備屋へは行くと決めていた。


 階下へ降りて朝飯を頼む。

 飯も安すぎだから特別価格なのかと交渉しなおそうと聞いてみたら、頑固にもお値段据え置きでいいと押し切られてしまった。


 気を遣ってかと思ったが、下手に高くすると凝らなきゃならないから手間だと本気で嫌がられた……おっさん。コマメなんだか面倒くさがりなんだか。

 そんなすったもんだの後に、弁当も頼んで宿を出た。




 さて、装備屋に行こうと決めたはいいが、さすがに開いてないよな。

 しかし道具屋の開店は遅めだったが、ストンリは冒険者の活動できる時間を気にしていた。

 まさか、こんな早朝から開いてたりは……念のため覗いてみるか。


 薄暗い裏通りを落ち着かない気分で歩く。

 意外すぎることに、人通りは結構あった。通りの住人らしき恰好の奴らだけでなく、冒険者の姿もある。仕事前の受け取りと考えれば普通にありそうだ。

 案の定、ベドロク装備店の立て看板も、しっかり外に出ていた。

 ブラックなんてもんじゃねえな。


 どこが取っ手だか分からん扉を押し開くと、頭だけで店内を見回す。

 カウンターの上から火の灯ったランタンがぶら下がっており、その側にストンリは椅子に腰かけてカウンターに背を預け、腕を組んだまま目を閉じていたようだ。

 だが物音ですぐに目を開き、立ち上がった。こんなとこで寝てんのかよ。


「よお。いらっしゃい」

「おはよう。開いてる?」

「たった今な」


 客が来た時が開店か。筋金入りだな。

 徹夜でもしたのか、ストンリの瞼は腫れぼったい。

 カウンターの上には箱が大量に積まれているし、奥の作業場に見える大きな台には大量の装備類が載っている。


「忙しそうだな。時間がないならまたにするが」

「まあ、ちょっとした手入れだ。繁殖期の影響だよ。今だけだ」


 こういったところにも影響があるのか。

 俺も、繁殖期を体験して魔物退治に適したもんが欲しくなったわけだし、冒険者と装備屋とは切っても切れない関係だろうな。

 なら、さっさと本題に入ろう。口を開けたが、遮られた。


「なんだ、革装備持ってるじゃないか」

「ぅえ? あ、ああこのグローブか」


 思わず自分を見回してしまった。草刈り時に一々グローブを付け外すのも面倒だなと、最近はずっと装備してたんだった。

 つうか俺の目は大概に節穴だな。確かに、これだって立派に革装備じゃん!


「金がないなんて言ってたが、最低限は必要な場所に使ったようだな」


 ストンリは妙に納得している。

 いやいや、本当に無一文だったから。感心したように頷かれると照れるだろ。

 しかし微妙なチョイスだし、俺を送り込んだ奴がいるものなら呪ってやろうと思っていたが、最低限の用意はされていたのか。ほんとに最低限のようだが。


「シャリテイルから、しょぼい装備と聞いていたからな。人の言うことを鵜呑みにしているつもりはなかったが」


 またシャリテイルが暗躍しているのか!


「ま、シャリテイルも能力の高い中ランク冒険者だから。その視点でみればしょぼくも見えるんだろう」


 などとストンリは呟きながら、何か箱を漁っている。

 シャリテイルだし、その辺の正直さに悪気はないんだろう。

 だがな、俺の程度の低さを侮ってもらっちゃあ困るぜ。

 というか、そのまま世間話して追い払われそうな気がしてきたし、急いで用件を伝える。


「少しずつ防具を揃えたいと話したろ、でも気が変わって武器が欲しくなって、相談したくて」


 ストンリの手が止まり瞼がやや持ち上がる。興味を引いたようだ。さすが職人。

 俺は壁にかかっていた長剣の一つに目を留めると説明した。


「剣が欲しい。ただし、こういった長剣よりも短く片手で扱える軽いものだ。まあ、無茶な相談かなーとは思ってる」

「今は、何を使ってるんだ」


 もっともな質問だ。

 ストンリが差し出した手に、慌ててマチェットナイフを取り出し柄を向ける。

 手に取ったストンリの半目が開いた。


「へぇ、なかなかのもんだな。こんなものにマグ加工を施すのは珍しいが……」


 丈夫な道具袋ねといった、シャリテイルの言葉が浮かんだ。ほつれにくい服だなと自分で感じてきたことも含めた、あれこれが思い浮かぶ。

 俺の装備――というかこの世界での初期装備は、どこか偏ってそうだな。


 ナイフに袋、グローブだけは丈夫なもの……おい、草刈りや採取に特化してないか?

 まあ、いい。助かっているし。今は、こんなものと言われた武器のことだ。


「それも使い慣れたし草刈りには便利なんだが、魔物との距離の近さに悩んでる」


 ストンリは首を傾げて思案し、何かを探すように室内を見渡した。


「そう、無茶でもない」


 木棚の下部は台座かと思っていたら、引き出しになっていた。そこを開いて取り出したものが、俺の前に差し出される。

 俺の貧相なイメージにある長剣は、柄も含めた全長が一メートルない程度で銀色の刃を持つファンタジックなやつだ。


 しかしストンリが掲げたものの、黒檀のような柄から伸びる刃は、薄く黄色味がかった白で表面に反射はない。刃の柄側は幅広で、先に向かってやや湾曲し、先端はかなり尖っている。


「こ、これは……」


 剣? カルシウムの塊とかでなく?

 骨を削りだしたんじゃないかって感じだ。

 手にした感じは、確かに――。


「軽い。文句なく」


 それでいて柄には多少の重みがあり、切った衝撃で手からすっぽ抜けるといったこともなさそうだ。


 渡されたのは、殻製の剣。


 肘と膝当てと同じだ、見覚えがあると思った。やっぱり俺には、これしかないのかよ……。

 確かに、軽いし鋭いし扱いやすそうだが、すぐにポッキリいきそうな見た目でもある。


 気分は盛り下がりつつも、剣を持ち上げたり軽く振ったりしてみる。軽いと思ったが、重量自体は俺のマチェットナイフと変わりない。大きくなった分だけ、軽く感じるんだろう。


「低ランクの魔物になら十分な働きをする。そう壊れはしないよ。軽くになるがマグ加工もしてある」


 不満が漏れていたようだ。今さらだが、予算も考えたら選択肢はないだろう。


「えーその。伝え忘れてたけど、できればお安めがありがたいのですが」

「殻製だからな。高くはない」


 そして提示された金額は、1000マグだった。

 適正価格なのか、それとも端数が面倒くさいのだろうか。


「鞘もつけとく。それと、このナイフも手入れしておいた」


 いつの間に!

 剣を振り回して悩みすぎたか。


「なんつうか、助かったよ」


 おまけは素直にありがたい。いつもながら、備品とかすっかり頭から抜け落ちていた。やはり本職さんにお任せするに限るな。


「次こそは防具を買うから、また頼む!」

「こっちこそ」


 すんなりと目標達成。なんと清々しい気分だ。

 剣の金額によって他の防具の購入を考えていたが、宿代に使ったこともあり今回は見送りだ。そもそも剣だって買えるとは思ってなかった。他に何かあると困るし残しておこう。


 そろそろ日用品店も開いてるかな。夜の安全のためにも、ロウソクだけは買い置きしなきゃな。

 腰にぶら下がる新たな鞘の存在に、そわそわして落ち着かない。使い勝手が悪ければ金を捨てることになるが、知識も経験もない俺には、それも必要な投資だ。


 初めて、まともに武器と呼べるものを手にできたんだ。そう思うと、みるみるうちに闘志が湧いてくる。

 待ってろよカピボーにケダマども!


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