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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
駆け出し冒険者生活

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41 :超えろ最低ランクの壁

 またしても筋肉痛の洗礼を受け、体を引きずりながら宿を出た。


 大量の魔物に向かってこられると、慎重に動いてどうにかなるものではない。繁殖期で仕方がないけどさ。無理して動くのは、思った以上に、この体には厳しすぎた。

 狂乱の日々よ、はよ終わるがいい。


 通りに出ると、明けかけの空を見上げる。

 まだ寝坊したことはないが、目覚まし時計がないのは不便だ。寝坊したところで、困るのは収入の減る俺自身だけど。

 よし、ゆとりを持てるよう気合い入れて働こう。草地に直行だ。


 昨晩は込み具合もあって、大枝嬢への質問タイムは諦めて戻ったが、最低限の確認は向こうがしてくれた。

 今日から低ランク以下の冒険者は、日常に戻って良いとのことだ。とはいえ、それは依頼に関してだ。

 繁殖期は初めの爆発的な魔物の増加を食い止められれば、あとは自然と数は安定してくるらしいが、もう数日は周囲を警戒し、討伐を心がけてほしいとのことだった。


 今回は俺の報告で早く変化に気付けたと、大枝嬢や他の奴らにも感謝されてしまったものの、その理由を考えると微妙な気持ちになる。


 ちょっとくらい魔物の数が増えたくらいだと、ほかの奴らは何とはなしに駆逐して終わるとか……。それで翌日になってから、すっげー増えてるじゃんと慌てるらしい。どうも緊迫感が薄く感じるのは気のせいだろうか。


 まあ、どんな理由だろうと、お役に立てたようで何よりだ。




 大枝嬢のぐんにゃり笑顔の、もう一つの理由を思い出した。

 首元からタグを手に取り、その濃さを増した赤い部分を眺める。


 疲労が半端なかったことと、カイエンや周囲の噂話のせいで気が気でなく、喜びは薄れてしまったが。


「おお、我がマグタグよ。なんと素晴らしい赤い輝きを放つのか……」


 げへっと顔が緩む。


 昨日の収入、なんと――6474マグ。


 改めて実感が湧くと膝から力が抜けそうになるが、どうにか踏みとどまる。


 奥の森方面へ近づくと、ケダマの他にレベル3までの魔物が現れた。

 レベル2のホカムリは、ケダマが枯草でほっかむりしたような魔物で、枝からぶら下がっている。位置を変えるのは時間がかかるのか、動きは遅く危険はない。真似た元は、どう考えても蓑虫だよな。


 面倒だったのはレベル3のキツッキという、(くちばし)の化け物だ。思い出すだけでぞっとする。


「キッ? キッキー!」


 幹に取り付いたそいつが、甲高くおぞましい声を上げたときは体が竦んだ。

 ケダマと大差ないサイズだが、嘴に目がついたような魔物だ。

 その嘴が繰り出す二段攻撃を受ければ、簡単に肉が抉られるだろう。知らずに通りかかって頭に落ちてくるとヤバそうだ。


 が、幸いなことに普段は木に張り付いて動かない。

 嘴と同サイズの、うずらのように丸い体に直接生えたような鉤爪部分は、重い嘴を支えるためか、幹に張り付くことにしか使われないようだ。攻撃するにも支えが要るよな。


 そいつを、カイエンがケダマを蹴散らしながらも木を蹴ったり殴ったりして地面に落とすから、俺の心臓は休む暇もなかった。

 しかしキツッキは嘴のせいでゴロゴロと転がるだけ。俺はそれを叩き切るだけの簡単なお仕事でした。




 見かけた魔物は、今のところ全てゲームに存在していたことだし、他の奴も居るんだろうな。


「はぁ……」


 昨日の討伐を思い返していると気が重くなり、知らず溜息が出た。

 あんな稼ぎ方は、二度としたくない。


 パワーレベリングって感じだったが、あんま好きじゃない方法だ。RPGの序盤のシビアさってのは、最初の楽しみどころだ。

 のんびりと、どう進めようか考えたり、工夫しながらじっくり遊ぶのが好きなんだよ。新しいゲームなら、徐々に世界が開かれていくようなワクワク感にも繋がるからな。


 嫌なのは、それだけではなく、現実だからだ。

 マジで死ぬかと思ったし、しばらくは、まず決めた日課をこなしたい。怠けたいわけではなく、討伐を避けたいのでもない。

 無理なくペースを守って日々コツコツいきたいんだよ!


 けど、喉元過ぎればである。

 残額が頭にちらつき、自然に何を買おうかと考えてしまうのを止められない。

 先に剣を買うことにしたんだったか。値段によって、他に何が買えるか決まる。

 明日は装備屋を訪ねてみるか。


「そのためにも、やりかけの仕事を片づけちまわないとな」


 道具袋に突っ込んだままのケダマ草は、摘んでから三日目だ。

 注意されたとおりに、しなびてきていた。


「覚悟しろよケダマ草。今日こそお前を毟り倒す!」




 草地に到着すると、さっさと草十五束で宿代ノルマを済ませておく。

 ちょっとくらい魔物を倒せるようになったくらいで、やめる気は起こらない。住民にも喜ばれているようだし、できるだけ欠かさず続けたい。ギルド職員も時に駆り出されていたらしいからな。競合者がいないというのも、焦らずに収入を当てにできて気が楽だ。

 それに、この辺を刈りつくしておけば俺も逃げやすい。


 その後の予定は、昼過ぎまでケダマ草採取して、魔物が活発化しそうな時間帯には、ここに戻って日が沈むまで草刈り。

 うむ。これなら、そこそこ安全に日々の糧を稼ぎつつ、余分も積み上げていけるだろう。


 そんな感じで、俺は気持ちも新たに、低ランク冒険者としての活動を開始する。


 ザクッ、ザクッ――。


 ふっ……一見やってることに変わりはない。




 そういやゲームのステータスを例に、今後どうするか考えたが、うっかりしていたことがある。

 持久力と皆が呼んでいる、人族に突出している補正、隠しステータスの存在だ。


 別に隠してるわけではないから、たんにスタミナ値ということなら、他の種族にもあるよな。

 個人的には、戦闘には関係ないかのような扱いをされているのが気になる。

 結構、必要なステだと思うんだけどなぁ。訓練とかでさ。


「十五束目っと。ちょっと考え込んでるだけで、ノルマ達成か。成長著しいな」


 草刈り長者に俺は……別にならなくてもいいな。

 ケダマ草採取行こう。


「キシェキシェうるせーよ!」

「シェぴッ!」


 言われたとおりに、まだ森の中は魔物が多い。

 数が多いから潜む場所が少ないのだろうか。午前中だというのに、やたらと出てくる。昨日の内にかなり片付けたおかげか、減ってるのは感じられるが。

 草を摘むのにナイフを持ったままは面倒だが、ずっと警戒していた方がいいな。




 それは、思ったよりずっと大変だった。

 摘もうと藪に近付けば魔物が飛び出てくるから、ナイフを前に掲げたまま、左手でそっと摘むという繰り返し。

 何が大変って、腰に来るんだよ!


 先にあらかた藪を突ついたと思っても、とりこぼしがあって叫ぶはめになったりさ。

 シャリテイルのマグ感知能力が心底うらやましい。


 それでも、しばらく魔物を倒していたら出なくなり、それから採取効率はあがった。つい夢中になって、一袋どころか二袋分も達成してました。

 ケダマ草の数が増えていたのもある。他に依頼受けてるやつもいないんだろうが、数日ばかり摘んでないからって、増えるのはえーな。


 シャリテイルも中ランク冒険者ってことだから、昨日から今日も魔物討伐に向かっているだろうし。


「おっし。予定通り……ではなく超えたが、このくらいにしておこう」




 再び草を刈っていたが、ふと手が止まった。集中しようとしても、気が付けば森に目が行く。


 現状のままで、良くないのは確かだ。だけど、焦っても仕方がないことだ。

 今の自分にしかできないこと。目の前のことをしっかりやっつけていく。

 それが分かっているなら、まずはそれでいい。

 決めた日課をコツコツとこなしていく……そう言い聞かせているのに。


「焦って、無理して、なんになる。一時的に頑張れたからって、疲労が後を引いて、体調を崩せば意味はない」


 そのちょっとした無理をするためにも、武器や防具を新調してからと考えた。

 分かっていても、今それなりに戦える武器があり、どうにかなった昨日の光景が頭を過る。

 ナイフの柄を強く握ると、その存在感が、やたらと大きくなった気がした。


「魔物を駆除するのも、予定の内だろ?」


 草をまとめると、まっすぐに森へ向かって歩いた。


 片っ端から藪をつついてはカピボーを潰し、ケダマを切り、ホカムリを突き、木に体当たりして落ちたキツッキを刺していく。


 絶好調すぎる。

 昨日までの苦しさが不思議なくらいだった。


 特に俺自身が、カピボーを超える素早さで動けるようになったとは思わない。ケダマより遅いのは、変わりないからだ。

 今まで、すぐにパニくって、急ごう急ごうと体を動かしていた。それが悪かったと、漠然と感じていた。


 避けるにしろ、倒しに行くにしろ、重心の移動を心がける。

 大きく動こうとしたくなる気持ちを抑え、小刻みに動く。

 少しの距離なら、小走りのスピードで十分なんだ。


「これが、人族の、そして俺の戦い方だよケダマ!」 

「キェビッ!」


 横から頭に突進してくるケダマを左腕でガードし、前方から突っ込んできた奴にはナイフを叩きつけるようにして振り下ろした。

 返す刀で半回転し、背後に跳び付こうとしていたケダマを横一文字に切り払う。


 ひとときの静けさが、周囲を包む。

 大きく深呼吸して、マグの煙がタグに吸い込まれていくのを、眺めていた。


「……傷ついた毛根の恨み、存分に晴らしたぜ」


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