表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
ランク外の冒険者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/295

31 :生活必需品の入手

「このくらいでいいかしら」


 シャリテイルの合図に、体を起こす。

 あいてて……夢中になりすぎて腰が痛い。


 そういや俺、このケダマ草採取依頼受けてねえな。

 今回は俺に教えた分、シャリテイル自身の成果はいまいちだろう。試しに採取した分を渡してもいいくらいだ。ギルドの扱いが気になるが。


「なあ、俺この依頼受けてないだろ。勝手に手伝って問題ないのか」

「常時受け付けている依頼だから、報告がてらで大丈夫よ」

「そうか。だけどほら」


 採取したケダマ草を袋ごと押し付けると、シャリテイルは反射的に受け取って不思議そうな顔をする。


「私に荷物持ちさせるつもり?」

「荷物って量かよ。教えてもらいながらだし時間とらせたろ。俺の成果にしたくない」

「ほぉ。ほっほーん。なかなか良い心がけね」


 ニヤニヤすんな!

 見たところシャリテイルの半分にも満たない成果で、いい気になれるか。


「タロウは頑固そうだもんね。なら、今回はお言葉に甘えるわ。あ、まとめて報告するのは一緒に窓口に行けば大丈夫よ」

「あーそうか。マグで誰が採取したか分かるんだったな」

「そういうこと」


 シャリテイルは俺から受け取った袋の中身を、自分の道具袋へと移し始めた。

 すでに一杯なのを押しつぶすように詰めているが、傷まないのかな。


「予備だし、そのまま貸していてもいいんだけど」

「ううん、袋は返すわ。なかなか丈夫なものだし、大事にしたほうがいいわよ」


 言われてみれば、俺も適当に袋に詰め込んだにもかかわらず、袋から茎が突き抜けてない。


「袋にも品質があるのか。そりゃあるよな」

「あら、そろそろね。報告を終えるころには道具屋も開いてるでしょうし、お昼は込む前に食堂に行きたいから、そろそろ戻りましょう」


 首を傾げたが、シャリテイルの言葉に何かが引っかかり意識を向ける。しかし促されるまま、その場を移動することにした。


 シャリテイルの道具袋は、両腕で抱えないといけないほどに丸々と膨らんでいたが、それでも生地にするほど足りるのか、一度の採取にしては少ないんじゃないかと疑問だ。


 森を抜けてようやく、先ほどの引っかかりに気付いた。


「は? そろそろってどういうことだ。やけに正確に開店時間を把握してるな」


 シャリテイルは目を点にしたまま、腰のベルトに通した小さな革製のポーチを開き、長い革紐に繋がったタグに使われているような水晶を取り出す。

 それを手のひらに載せ、無言で、俺に見えるように掲げた。


 円錐に見えるが底が丸く、起き上がりこぼしのようにゆらゆら揺れる。

 宝石のようにカットされていて、光を反射しキラキラしているが、その内側にはタグに吸収されたマグよりも鮮やかな赤い液体のようなものが、中ほどまで溜まっていた。上部から見ると、棒で混ぜたように円の筋を描いている。

 水晶に数字はなく、目盛りだろうか、短い線が側面に刻まれているだけだ。


「どうやったって、これ。マグ時計」

「時計があったのかよ!」


 目盛りの線の数は十二本。真ん中の二本と上下の線が太かったりと、また別の意味がありそうだが、地球と時間の流れや考え方に特別な差はないんだろうか。

 空には一つの太陽らしきものがあるし、街は昼の長さを基準に活動しているのは間違いないが。


 全体的に牧歌的で、遠い昔の集落ってこんなかなと思わせる街だ。

 でも井戸にポンプのようなものがあったりと、部分的な道具の進化具合がチグハグなような気はする。よく知らないから比較のしようはないけど。マグの利用で、また違った発展をしているのかもな。

 ……などと逃避しかけていたが、シャリテイルと目が合う。


 また妙なものを見る目つきだ。

 さすがに、時計の存在を知らないなんておかしすぎる、よな?


「ご、誤解だ。さすがに知ってるさ。そうじゃなくてだな。だってさ宿はともかく、ギルドでも見た覚えがない。そうだギルドにないのはおかしいだろ。依頼もあるんだし。だから時間を気にしないのんびりした所なのかと思い始めていたんだ。どうだ完璧な言い訳だろう!」


 シャリテイルは憐れむとか呆れるとか怪訝だとか、様々な表情を絶妙なバランスで顔面に同時に再現するという離れ業をやってのけた。

 意外なことに、次には真面目な表情で言った。


「そこまで必死に取り繕わなくてもいいわよ。別に馬鹿にしたりしないわ。あんまり知識が偏ってたり勘違いしたままだと、危険だもの」


 危険――そのことにハッとさせられる。

 確かに、何も知らない魔物と戦うよりは幾らかでも知っていたほうが有利だ。それで安全さも変わってくる。

 特に俺は、半ばゲームの知識があるから、余計に危なっかしく見えるのかもしれない。


「でも、だからこそ、タロウが自分から色々知りたがってくれるのは、私たち先輩冒険者としては安心できるし、ありがたいわね」


 あれこれ聞いてウザがられないのも、偏った知識を矯正する会だとか言ってたのも、それが理由だったのか。


「そうか……こっちこそ、ありがとう」


 シャリテイルはポーチへとマグ時計をしまった。


「僻地に住んでたなら仕方ないわよ。遠慮せず聞いてちょうだい!」


 シャリテイルは何事もなかったように歩き出した。

 そんな未開人のような一言で片付けられるのも何ともいえない気持ちだが。ド新人なのは事実だしな。素直に教えを聞いておこう。

 もしかして教育係みたいな役割でもあんのかね。




 俺とシャリテイルは、ぶらぶらと歩いて通りへ戻る。


「道具屋の前に生活用品店に行きたい。近いか?」

「横道は過ぎちゃうけど、その店はこの通り沿いだから、先に行きましょうか」


 道具屋に行くとシャリテイルの説明が長そうだから、先にランタンだけでも確保しておきたい。

 生活用品店はギルドから看板が見えるほどの近さだった。

 冒険者の客は多そうだし、良い場所だろう。

 棚に並ぶ様々な照明道具を見て、即座に最小のランタンを手に取った。


「タロウ、それ、子供用よ?」

「ああ……問題ない」


 大人の背で道を照らすのに十分かは疑わしいが、予算の問題だ。

 日用品だから値が張るものではないだろうが、俺にはこれで精一杯だった。


「はい100マグね。まいどー」


 朗らかな店員の声を背に、そそくさと店を出た。

 俺には手の届かない、便利そうな道具の数々が目に痛かったからな。


 フッ、たかが小さなランタンひとつで100マグだってさ。

 残額? 160マグだよ!


「石鹸買えるかな……」

「あら、石鹸なら今の店にあるわよ?」

「俺が欲しいのは、魔素パワーで楽々洗浄できる粉石鹸だ」

「その売り文句、親父さんに聞いたの? うーん、幾らだったかしら」


 シャリテイルはすぐに値段を思い出すことを放棄し、代わりに使い方の豆知識披露にいそしんでいた。


 そうして、大通りを南へとしばらく歩いて西への脇道に入ると、穏やかな雰囲気に変わった。住宅地へと続いているようで、表通りほどの人ごみはなく、かといってストンリの装備店辺りのような薄暗さもない。

 そのまま住宅地を抜けると、農地へと続いているようだ。


 軒先に看板のぶら下がっている場所は、ポツポツとあるだけだ。

 道の中ほど、一つの店の前でシャリテイルは足を止めた。


 ゲームの知識は脇に置こうと考えはした。

 しかし位置情報は俺の脳に浮かんだマップに合致し、立て看板の文字に目を見開く。


『道具屋フェザン』


 ゲームの道具屋だったよ!


「こっんにちはー」


 看板をよく見る間もなく、シャリテイルは気の抜けるような声で挨拶しながら店内へと吸い込まれていった。

 複雑な気持ちのまま、慌てて後を追う。


「ちょっと待っててくださいねー」


 店内の奥からくぐもった声が聞こえる。

 また少し緊張してきた。


 ストンリの店よりも狭い木造の室内には、様々な道具が壁沿いの木の棚だけでなく、細長いテーブルの上にもごちゃっと積まれている。

 かろうじて高価そうな魔技石類などは、天井近くの段にきちっと並んでいるのだが。

 天井は、炎天族なら手を伸ばせば届きそうだ。

 といっても、盗もうと手を伸ばしたって、その手前の台に積まれたものが雪崩を起こして潰れそうだが。


 店の奥には、積まれた木箱類の隙間から作業場らしき部屋が覗いた。

 何かを片付けたのか、それとも崩したのか。木箱がぶつかるような音を立てた後に、ようやく顔を現した。


「ふぅーお待たせしました。もう、店が狭いから片付かなくって」


 おお! また一人、キャラをコンプしてしまった!


 出てきたのは中性的な顔立ちで細身の少女だ。

 店にこもっているからか色白で、蜂蜜色のショートヘアーとラベンダー色の瞳が映える。

 柔らかすぎるのか髪は真っ直ぐではなく、ふわふわと跳ねている。

 絵ではなくリアルになったことで、柔らかさが増して見えるせいか、前髪の下にのぞく額が可愛い。

 だが、リアルになったことで残念になったこともある。


「あっシャリテイルさん。と、お客さんですか。また紹介してくれたんですね。いらっしゃいませ!」


 ペコリとシャリテイルを向き、お辞儀をした彼女の首の後ろが動いた。

 うっ。

 思わず口を押さえる。


 彼女の首の下、肩に近い辺り。そこから、天使のようなふわふわとした白い羽が開いたのだ。

 一対の手のひらほどの小さな翼が、感情に合わせて開いたり閉じたりパタパタと蠢く。


 彼女の種族は――首羽(くびはね)族。


 彼女に非はない。ただ、どうしても、想像してしまうんだ。

 うっかりぶつかりでもしたら、もげそうで怖いって!


 失礼だと、顔に出さないように息を詰めた俺の前をシャリテイルがすっとんでいった。


「お客さんはおまけなの。フラフィエちゃん、遊びに来たのよー」

「あっシャリテイルさんは動いてはダメです」

「ふふ、相変わらず恥ずかしがりやさんなんだから」

「だから、抱きつかないで下さいって。埃が、品物があぁ!」


 小柄な女の子がシャリテイルの魔の手から逃れようとあがいている、ようにしか見えない。

 シャリテイル……本当に残念な奴のようだな。


 つうか、俺はおまけってどういうことだよ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ