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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
遠い過去――設定資料集的な連作短編集

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岩腕族の鉱脈・前編

 高所で冷たい風を受けながら、青空を仰ぎ、次には麓を見下ろす。天気が崩れる様子はない。

 すぐに、身を乗り出していた丸い穴から体を引っ込めた男は、屋内にいた者らに外の様子を告げると、連れ立って作業場のある下層へと向かった。

 その四肢は、砕いた石片を張り付けたように厚く、ごつごつとしている。誰もが岩のような手足を持っていた。


 彼ら岩の肌を持つ者らが西の果てと呼ぶところには、硬い岩の山が連なっている。灰の濃淡の中に、青みがかった筋が彩る山脈。緑など、他の色はない。その中の空洞を、彼らは住処にしていた。

 空洞とはいうが、全ての岩の肌を持つ人々が暮らせるほどに深い。

 山とはいえ網のように入り組んだ石の山脈であり、その地下から山の中腹までを、立体的に巡っているという長大な洞窟なのだ。


 彼らが住む山の麓には草原地帯が広がっているというのに、わざわざ穴倉に暮らすのには理由がある。

 冷えて乾いた大地は、とても肥沃とはいえない。大抵は過ごしやすい気候と言えるが、年の半分は雪に埋もれるためだ。

 特に冬季と呼ぶ、寒気に閉ざされる期間は、どこかに閉じこもって雪の風が過ぎるのを待つしかない。

 吹雪や、雪の重みに耐える硬い山の中は、拠点とするのにうってつけだったのだ。


 彼らには、雪を避けるためだけではなく、岩の質に青みがかった層があることも重要だった。

 なにより、彼らにとって青は、守りの色だ。

 いつから、そうなったのかは分からない。ただ、そうと代々伝えられてきたことだった。

 単純に、その岩は丈夫な道具を作るのに向いていることから、大切にするようにといった教えというだけなのかもしれない。

 だが実際に今も、彼らの生活を守っているとは言える。

 だから彼らは、この一帯を青い山脈と呼んで、岩場の広がる地を有り難がった。


 しかし、決して暮らしやすいと言い切れる場所ではない。

 どこも暗く、移動にも時間がかかり大変だ。火を灯し続けるための燃料の確保も難しい。それらは少しでも冬季のために確保しておく必要もあるためだ。


 それに糧を得るのが難しい環境である。

 この辺りに元から生えているのは苔のような植物くらいのものであり、食物を得るにはどうしても外に出る必要があった。

 長い積雪の期間を乗り切るために、外から土を運んできて作られた畑も、山の上層部にはある。

 空洞の途切れる山肌の幾つかが岩棚になっており、迫り出した岩場は、彼らの生活の場では最も日当たりの良い場所だ。それでも周囲の山々に囲まれているのだから、どうしても日陰となる時間は多く、十分な作物を得るには心許ない広さしかない。

 こちらの問題も、冬季の蓄えが必要ということだろう。


 山を下りたところで草原地帯だ。

 狩りに頼るにしろ、獲物となりうる動物も多くはない。小型の、せいぜいが鳥や兎のようなものばかりだ。


 少ない獲物を探し歩くために、毎日、山を上り下りする時間は無駄だ。そこで彼らは、気候の良い間だけは麓へと移り住む。

 山脈の洞窟内への出入り口付近には、雨を凌ぐに手ごろな洞穴もあるし、普段から石切り場やら作業場として整えてある。その下層と呼ぶ辺りに、寝泊まりの場を移すのだ。

 大まかに、麓に留まって短期に育つものを畑で育てる組と、草原地帯を区切る東の森林へと赴き、食材や木材などを確保する遠征組に分かれて活動していた。


 食物は長期保存のための処理を行い、寒さに備えて布織物に明け暮れる。織物といえど毛織物ではなく、植物繊維によるものだ。防寒性が高いとはいえないが、兎の毛皮や羽毛は希少品である。

 森も近くはないが、得られる動物の数よりは多くを確保できる。

 少しでも洞窟内の冷えを抑えるために、床だけでなく壁や天井にも掛けられ、大量に必要なのだ。

 暖かな場を維持するのは困難で、そのため広い洞窟内とはいえ冬は小さめの空間に集って過ごすのだが、材料の調達の難しさで十分に行き渡る訳ではない。


 そのため遠征組も、ずっと旅立っているわけではなく、材料を確保できれば麓へ戻ってと繰り返す。

 冬支度のために追われる期間だ。そうして慌ただしく、穏やかな季節は過ぎていく。



 雪が降り始めてしばらく。彼らは洞窟中へと少しずつ戻っていく。

 草原地帯が白く染まる中を遠征組が戻れば、冬ごもりの準備だ。

 下層では石材の調達に取り掛かり、洞窟内の資材置き場へと貯め込んでいく。


 何もできない屋内で彼らにできることは、頭を使うか、手先を使うことくらいのものだった。

 彼らの四肢は、とても細かな作業が得意には見えない。事実、この地に辿りつく以前は、地に穴を掘って住処を作っていたために手足が変化したといわれている。

 しかし環境が彼らの生活を変えた。

 幾ら皮膚が分厚く硬化しようとも、当然ながら手のひらや肘の内などの可動部は柔らかだ。自然、指周りも他よりは薄い。

 じっとしていることが苦手ではない性質が助けとなったのだろう。苦労しながらも取り組み、一つでも多く、出来ることを増やしていく。


 練習には、努力だけでなく材料が必要だが、幸い石の山だ。石材には困らない。

 屋内でできることとして、彼らは道具を開発し、様々な技術を高めていく。

 その一環として、手先のことだけでなく設計図なども詳細にするなど発達していけば、言葉や概念も複雑化していく。

 作業効率が上がるごとに自然と、高層の知識層と、低層の労働層へと別れていった。



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