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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
おまけ――トゥルーエンド

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ギルドの未来・前編

 ガーズの住宅街も押し寄せた魔物によって被害を受けたが、周辺も魔脈変動によって荒れ果てていた。

 いたるところがひび割れ削れ、崩れかけている。街を囲むような山並みでは、合間に通していた道が消えているところも多い。


 その崩落個所の続く山間を、シャリテイルとカイエンは、ゆっくりとした足取りで歩いていた。

 足元は細かな破片が折り重なるような瓦礫の道もあるが、二人には慎重を期してといった雰囲気はない。

 天気がいいから散歩でもしようという暢気さだ。


 邪竜という問題の根源が消えた。

 しかし冒険者ギルドは魔物に対して存在した機関だ。

 それは、己の意義をも失ったことになる。

 無論、喜ばしいことではある。


 とにかく今は、街を立て直すことが先決だ。

 そこで荒れの特に酷い山並みの外、パイロ王国側を調査するよう二人は指示を受けた。


 冒険者街ガーズから外に繋がる街道は南の一本のみで、そこから周囲の山並みを迂回するように東西へと延びている。

 しかしパイロ方面は岩山が広く連なり、崖崩れの為に埋まった道も多い。改めて通すのは大変な労力が必要だろうが、隣国との主要道であり復旧は急務だ。


 なんせ、邪竜討伐に駆けつけた救援部隊もまだ足止めを喰らっている。

 街の立て直しに手を借りているが、出来る限り早く見通しを立てて予定を提案せねば、慣れぬ土地でどのような不満が噴き出すか分からない。


 そのような事情もあり、土地勘もありギルドお抱えであるシャリテイルが派遣された。カイエンと組んだのは、救援部隊がそれぞれ森葉族と炎天族だから、それぞれに気を遣ってだ。


 それがなぜシャリテイルたちかといえば、別の理由だ。

 もはやランク分けなど意味のないものだが、身体能力の高さは残っている。

 危険と思われる場所の確認は、やはり上位者に任された。

 それに、よく組んでいた相手と行動する方がやりやすい。


 そういうわけで、二人は並んで歩いている。




 シャリテイルは周囲を見るともなく見て、たまに紙に書き止める。

 街から言葉もなく二人は歩き続けている。

 カイエンの方は元々、会話が苦手だからというのもあるが、どちらも無気力でいた。


 紙束から顔を上げたシャリテイルは、不快気に眉根を寄せる。

 あまりにも静かすぎるのだ。

 随分と長い事、どこまでも魔物の魔素と動きが続くようだった山が、今は吹き抜ける風に微かな反応を見せるだけ。


 不意に気付くとどうにも落ち着かず、ぶらぶらと付いてくるだけのカイエンへと声を掛けた。


「その腕、無理してるでしょ」


 カイエンは大剣を担いでいない。

 そもそも魔物用の過剰な装備など必須ではない。今後もそうだ。

 現在は護身用に一般的な剣を持つだけだが、それも取ってつけたようにぶら下げているだけで、咄嗟に使うことさえ考えているようには見えなかった。

 カイエンは、ぼそりと呟く。


「もう、してない」


 含みのある答えが気に障ったのか、シャリテイルは眉間に皺を寄せてカイエンを窺い見た。

 続きを待ったが、カイエンは押し黙ったままだ。いつものことではある。カイエンは話が長くなると居心地が悪くなるらしく、耐えられなくなると勝手に切り上げて去ってしまう。だからシャリテイルも脅かすように詰め寄ったりはしないことを学んでいた。

 その癖は直そうとしていたし、タロウと話してマシになったと言っていたはずだが……シャリテイルは小さな諦めの溜息を一つ吐くと前を向いた。




 カイエンは会話を避けようとしたわけではなかった。

 現在直面しているのは腕の状態だけの問題ではなく、かといって、それがどうしたという気分でもあったからだ。


 タロウが見たように、過剰なマグの取り込みで人体が耐えられず破壊されることは、何もいきなり起こるのではない。

 ジェネレション領主の私兵であるウル隊長率いる隊が、限界を追求する役目を負っていると言った理由も、そこにある。

 決死の覚悟で魔物相手に挑み続け、体の不調を乗り越えて残った兵で構成されるからだ。


 体が限界を迎える以前より異常は始まる。

 カイエンもここ最近は、日々体の節々が軋むのを感じていた。

 攻撃力が高まるのに比して、動ける時間は短くなっていくのを、戦う度に感じていたのだ。


 たとえ魔物が消えようとも、自然の中に邪質の魔素が在る限り、今後も触れないでいることはできない。

 だが少なくとも、突如身動きできなくなり魔物に集られて死ぬか、単純にヘマして命を落とすのが先かといった、徐々に蝕まれていくような不安はない。


 いずれはその日が来るのだと知りながら、生きるために戦い続けるせいで、死に邁進する矛盾を胸に抱えていた辛さからは解放されたのだ――永遠に。


 カイエンは満足に動かせなくなった利き手を持ち上げ、ぎこちなく手を開いた。

 マグの過剰取得のせいだけではなく、邪竜と相対するタロウを周囲の魔物から守るために戦った際に、食いちぎられかけたせいもある。


 あの時、際限なく魔物は増え、それが加速し、とても戦うなどという状況ではなくなった。ただ押し流され潰される。共に立っていた者の姿が見えなくなっていく中で、次は自分かと、そんな終わりを予感したとき、周囲から魔物が掻き消えた。

 同時に、全身がばらばらになりそうな痛みが襲う。

 聖魔素だ。


 タロウから恐ろしいほどの聖魔素が放たれ、邪竜の魔素と拮抗し、やがて逆転した。

 魔物と共に吹き飛ばされながら、必死に、戦いの中心を見続けるしかできなかった。

 孤独に、最後まで折れずに戦ったタロウのことを考えれば、この程度のことで泣き言など言えない。


 戦うどころか、満足に剣を掴むことさえできずとも、こうして動き回れるだけの命はある。


 強さだけが取り柄だと、タロウに言った。


 それなのに、守られてしまったのだと思うと、痺れたような感覚を握りつぶすように拳を固めた。


「もっと、話せばよかったと、それが心残りでな」


 あまりに長い間の後にカイエンは言った。

 繋がってるような、ないような物言いだが、なんの話だと確かめずとも続きなのだろう。

 珍しく会話を続ける気があることに安堵した様子のシャリテイルは、唐突に問うた。


「パイロに戻るの?」


 ずっと気になっていたのだろうか。シャリテイルの声音には、どうしても知りたいといった真剣さがあった。


 こうして調査の指示がギルド長から冒険者たちに出されたのは、なにも隣国の部隊と揉めないためだけではない。

 それが住民に日常生活を求めてのことだというのは、二人とも理解している。


 魔物の分布状況を確認する必要はなく、地中深くまで人を派遣することもない。

 必要と言えるのは、街道周辺の山崩れの確認くらいのものなのだ。戦いもないのだから、時間は余り過ぎるほどに感じられてしまう。

 それでも、戸惑いの中にある冒険者たちには、必要なことだった。


 今後を見据えての行動ではない。

 それは、国の方針を待つしかないだろう。

 その結果によっては多くの者が、今後の生活について悩むことになる。


 もちろん、黙って待つだけの人間ばかりではない。

 シャリテイルのように何かの使命を感じて生きてきた者は、次にやるべきことを頭に描き始めていた。

 カイエンは困ったように頭を掻いて、口を開いた。


「うんにゃ。狩りも難しいし、もうオレは馴染めないだろう」


 カイエンは子供の頃に親の商いでレリアス王国に連れられてきてから、そのまま過ごしてしまった。

 しかし、ことあるごとに家族から『オヤジ』の話を聞かされて育った。カイエンら家族が属する天幕の前幕長で、カイエンの名付け親でもある。カイエンが会ったのは赤子のときのみで、当然ながら記憶はない。


 そのオヤジ殿はパイロからの使者としてレリアスに訪れ、最期は英雄を守って散ったのだ――そんな話に憧れたわけではない。

 ただ人生の端々で、オヤジ殿が残した言葉が思い出された。


『家族みんなが好き勝手に暮らせる世界を、取り戻してぇだろ』


 軽口のようでいて、どんな場面と想いで言われたことなのかと頭から離れなかった。

 影響されたのだと素直に受け止め、オヤジ殿が求めていたものを探すのも一興かと、マイセロで冒険者ギルドに登録するとガーズまで来てしまったのだ。


 パイロの流儀など覚束ない。

 狩りで力を誇示することが望まれると聞いているが、この腕ではそれが無理だ。すんなり受け入れられることはないだろう。

 だからカイエンは、はっきりと答えた。


「ガーズに残る」




 カイエンの答えに、即座にシャリテイルは声を重ねていた。


「残れると、思ってる?」


 カイエンはムッとして黙った。

 意地の悪い言い方になってしまったが、シャリテイルは故郷のディプフ王国へ戻るかどうか悩んでいるところだった。

 今後の方向は見付けたが、それをどこで行うか考えあぐねていた。


 ガーズには、まだ鉱山がある。それに苦労して作り上げた拠点だ。三国の中継地点として良い位置にある。

 しかし確定していることはある。

 冒険者街としての役目を終えることだ。


 それはこれまで、三国の協定として最も明確な存在であった。

 共通の敵は消滅した。ギルドがなくなるということは、仮初の停戦協定は破棄されうる。


 過去の争いを思えば、新たな火種にならないようガーズ自体を撤去する可能性が高いということだ。


「王様たち次第なのよね」

「……それも、そうか」


 シャリテイルの意図を理解しカイエンは肩を落とした。

 こればかりは一市民にはどうしようもない問題だ。


 二人は再び口を閉じて、やけに静かな山中を歩いた。


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