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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
ランク外の冒険者

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27 :念願のケダマ対決

 心なしか重い身体を引きずって、宿の階下へと降りる。

 昨日は限界を超えてやると、意気込んで動き続けてみたんだが、やりすぎたようだ。

 レベルアップの恩恵で作業自体の負担は軽減されていたように思うが、筋肉疲労は蓄積するだろう。


 特に戦闘なんて、まだまだ慣れはしない。

 作業をこなすことに夢中で、数えもせずカピボーを返り討ちにしていたら、気がつけば最多の討伐数だった。

 やっぱり適度な休憩は、余力を残すためにも大事だな。


 ぎぃぎぃと足元で鳴る階段の音で、下が記帳台スペースかつ、おっさんの秘密基地だと思い出す。降りたらすぐ顔を出すのって、この軋む音のせいか?

 降りながら手すり越しに下を覗き込むと、案の定、おっさんが壁から出てくるところだった。


「朝飯と弁当、たのむ」

「おうよ。なんだ眠そうだな」

「昨日張り切り過ぎて」

「ほどほどにな」


 以前は、早寝早起き生活なんてしてなかったな。毎朝六時から七時辺りに目覚めるのが、癖になってはいたけど。

 こうして夜明け辺りに目覚めることができるのが、今はありがたい。


 食卓に着くとき、テーブルに肘が当たりコツンと音がした。殻製の肘当てだ。

 げへっと顔が緩む。


 初の装備だもんな。これを活かす方向で行動してみるのもいいだろう。

 徐々に揃えるにしたって、このまま草刈りとカピボー退治で守りすぎるのも得策ではない。


 レベル5を超えたんだ。

 予定通り行こう、ケダマ討伐へ!


 よし、目が覚めてきたな。

 頭がはっきりしてきたところで、おっさんが朝飯を運んできた。


「なんだ、今度は嬉しそうだな。気持ちの悪い顔してっぞ」

「気持ち悪いは余計だよ!」

「ほお、それが頼んでた装備か。よしよし稼いでるのはいいことだ。ま、気ぃつけろよ」

「分かってるさ」


 頭で、分かってはいる。

 無茶はすべきじゃないが、このままでいいはずもない。出来ることも増やしていかないと。



 宿を出ようとして、足を止めた。

 装備屋で伝言を頼んだとき、ここの名前を知らず言えなかった。

 外の看板は、雨や土汚れで何が書いてあるのかさっぱりだ。

 また伝言を頼むこともあるだろうし、聞いておくか。


「お~いおっさん」


 もう畑にでも出かけたかと思ったが、すぐに壁から反応があった。


「驚かせるなよ。どうした」


 客を驚かせてるのはおっさんだよ。


「今さらだけど宿の名前を知りたい。あの看板読めないぞ」


 看板の件は牽制しておく。

 

「あぁ、おぉ、そうだったな。すっかり手入れを忘れていた」


 動揺したのか目を泳がせている。気にしてたんだな。

 名前を確認すると宿を出た。


「エヌエンの宿か。普通の名前だ」


 ファンタジーっぽく悪魔も微睡む宿とか、凝った名前を期待していた。

 考えたら「大通りの外れにある低ランク冒険者向けボロ宿」で通じたんだから知らなくても問題なかったな。

 おっさんよ、煩わせてすまんかった。


 ゲームで宿をどうしていたかといえば、基本的に泊まるという行動がなかった。

 一定の行動を取ると時間が進んだことになり、丸い昼夜メーターの針が動く。一周して朝になれば一日経ったということで、クエスト期限のために必要なだけだ。


 戦闘などで減ったステータスの回復に、キャンプ画面がありはした。

 休憩コマンドで一定の時間が進むのと引き換えに、一定量回復できたのだ。


 ただし、セーブ・ロードやステータスに装備やコンフィグ画面の確認なども兼ねていたため、マップ画面上であればどこでも操作可能なものだ。その操作性も延々とクエストを受け続けられる理由だった。


 ギルドとフィールドの移動だけ。我ながら、よく飽きなかったもんだ。

 よくよく考えてみれば、主人公はどこかの部屋を拠点にしているという設定もなかったから野宿していたとしか思えんな。




 ゲームについて、今更どうでもいいツッコミを心で入れつつ街を突っ切る。

 ケダマ討伐としゃれこもうと勢いづいていたが、足は草狩場へと向かっていた。

 まずは宿代十五束分は確保な。

 こんなところは堅実でなくていいと思うんだ。やるけど。


 それに、魔物は昼以降の方が活発なようだし、自ら出てきてくれたところを狙った方がマシなんじゃないか。幾ら今なら張り合えそうとはいえ、自ら藪をつついて回るのは、まだ危険だろう。

 とはいえ、もう十五束程度では、かなり時間が余るようになってしまった。

 まだ真昼まで二、三時間はありそうだが、ケダマを探す時間も必要だし出るか。

 俺は倉庫管理人に報告を終えると南街道へと出た。


 街の南側の森一帯は、聖なる祠がある辺りで名称と共にランクが変わる。

 周囲の森全体は魔の森と呼ばれていたようだが、祠から街側は『南の森』で、境目を越えると『奥の森』だ。

 マップ上のアイコンサイズの問題かもしれないが、もうちっと格好いい名称でも良かったと思うんだ。分かり易いからだろうけどさ。


 で、レベル5の魔物であるモグーは、本来は奥の森に居るはずのモンスターだ。

 そして、レベル1のはずのケダマは、現在カピボーが出てくる辺りにいた。

 祠周辺には、何もなかった。

 ……これって、シャリテイルの話とも合致するな。


 ゲームのように、厳密には魔物毎の発生場所が決まってることはないだろう。

 だけどシャリテイルは、ケダマが祠まで近付くことはなかったと言っていたから、ある程度の範囲は同じなんだろうとは思う。

 そうでなければ狩場のランク分けも出来ないだろうし。


 レベルの上がり方といい、ここでのケダマはレベル3相当か?

 だったらモグーは、8から10……?

 知らないというのは、ある意味幸せなことだと実感する出来事だったな!


 祠へと向かう森の道の手前で、立ち止まった。

 初めてケダマを見たのが祠前だったから、無意識に向かっていたが、別にその必要はないよな。

 祠とは逆の、街道を挟んで西側の森へと目を向ける。

 カピボーが出てくる森だけど、街より離れているこの辺なら、ケダマもいるんじゃないか?


 モグーのことも浮かんだが、あいつで危険なのは葉っぱブーメランだ。森の中ならば木が邪魔で使い勝手は悪いだろう。

 そう考えながらも、すでに森に入り込んでいた。




 思い立ったが吉日!


「って、うわ、やめろっ……いてえっ!」

「キェ!」

「キェシェー!」


 考えなしのドアホウは誰だ。

 俺だよ。


 この辺は街の側より木の密度も上がって、藪も切り払われていない。

 魔物は暗い藪に潜んでるんじゃないかなーって、自分で答えを出してたよな。


 見事に、藪に分け入った瞬間に踏み抜いていた。

 なのにだ、あろうことか俺は、街道ではなく森の中へと走り出していた。

 咄嗟に下がれないって猫かよ!


 木々を迂回するように小走りで進むと、少しばかり開けた場所に出た。開けたといっても三畳ほどだ。


 振り返った背後には、三匹のケダマが迫っていた。開けた場所に到達すると、幹で三角跳びをかましてきやがる。

 いや鳥の足で爪が鋭いから、幹をよじ登って、そこから飛び掛っているだけだ。

 素早く動けない俺には、そんくらい速い動きに思えるってことだよ!


 背から乗りかかられないように、幹に背を預けて動向を見る。

 突っ込んできたケダマを、サイドに身体の重心を移動し躱した。


「ぷキ!」


 俺が背にしていた木にぶつかった勢いで、平べったくなり転げ落ちるが、その隙を狙う暇はない。

 他の二匹も待ち構えている。


 俺に回避しながら攻撃するなんて選択肢はない。転げ落ちたやつが、よろめきながらも近くの木に登りだした。

 まとめて飛び掛かられる前にと、二匹の内の近いほうへと突進した。


 慌てて飛び掛ってくるが、踏み切りが甘かったようだな。勢いが弱い。

 がしっと両手で掴むと、その勢いのまま幹に叩きつけた。


「おりゃああっ!」

「ぐキェキェッ!」


 ぶつけることは出来たが、意外と体に弾力があり掴みづらい体だ。

 衝撃で手から転げていった。


「くそっモコモコしやがって!」


 迂闊だった。


「いてええええっ!」


 もう一匹が、頭に飛びついていた。

 鋭い爪が頭に食い込む。


 顔を伝うのは、汗じゃない。

 刺すような痛みと、流れ落ちる生温い感覚に、混乱状態が突き抜けたようだった。


 ナイフを取り出すのは危険だ。

 絶対自分の頭を刺す。

 俺、うっかりさんだし。

 うっかりで、死んで、たまるかよ!


 必死にケダマの毛を掴むが、毟ってもひるむことはない。

 細い鳥のような脚を掴むと、片方が折れる感触がした。


「はな、せよ……毛根が、死ぬだろうがよ! おらあっ!」


 木へと頭突きをかました。


「ひゅキュ」


 肺が潰れたような、か細い息を吐き出し頭のケダマは掻き消えた。

 内蔵は無いぞ……おっと次のケダマだ。


 初めに転がっていたケダマは既に幹に登っている。

 そいつが跳ぼうと足を離す前に、体当たりが間に合う。


 残り、一匹。

 そいつはヨロヨロと地面に立っている。


 地面に体当たりは無理だ。蹴るのも間に合わない。

 ナイフを抜いたところで、ケダマが跳んだ。

 ものすごい跳躍力だ。飛び掛ってきたケダマの爪が俺の顔へと伸びる。

 俺は左手でケダマを掴むようにして、右側面から刺した。


 マグの煙がタグへと吸い込まれていく。

 活力がみなぎる。

 レベル7になっただと?

 レベル3ほどでも低い見積もりだったのか、モグーとカピボー十六匹分の底上げがあったからなのか。


 荒ぐ息が早く治まるようにと深呼吸する。


「また、体当たり、しちまった……」


 本当に特技にしてどうする。

 目にかかる汗を拭うと、赤い。

 頭の掴まれた辺りを触ったら、レベルアップのお陰で傷は塞がってるようだ。

 今までもそうだったとはいえ、安心する。 


 ひどい有様とはいえ、目標達成でいいよな?


 とりあえず街道まで出た。

 このまま街に入るのもなんだし、水で拭いてから帰ろうか。


 念願のケダマ対決だ。

 三匹に勝ったしレベルも上がった。

 それでも、しょぼんと沈んだ気持ちで、水筒から手拭いに水を染みこませる俺だった。


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