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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
聖獣のおまけ冒険者編

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246:冒険者街の変貌

 沼に来たが魔素を枯らすと通り過ぎる。

 ここ数日のケダマ大増殖事件を憂慮し、近付いていなかった低ランク向けの場所を見ることにした。草原側だ。

 砦兵も懸念を漏らしていたほどのケムシダマの群れなんぞ、想像するだけで不安だったし、真っ先に片づけてるというのも知ってるしな。


 その理由は、他の魔物は潜む場所を選ぶのに、ヤツだけが広範囲を移動するからだ。あいつの場合、草原に擬態しているつもりらしいせいかな。魔物が増えるにしろ種類により数に偏りがあるのは、環境に応じた姿らしいというのがある。疑わしい姿のやつもいるけどな。ケムシダマにはケダマ同様に縛りが少ないが、森のように明らかな遮蔽物に隠れるといった特性も薄れる。それで最も簡単に増えやすく溢れやすいんだろう。


 いよいよ森を抜けようとするが、木々の狭間から見える向こう側は空の代わりに緑色だ。

 気のせい……じゃねえだろ。


「ちょっと様子を見た方が良くないか」

《なんの危険も臭わぬが。六脚ケダマと比べるほどもない、上っ面だけの巨塊に過ぎぬ》

「あんなのと比べんな」


 いつも丸まってるが巨大な塊というほどではない。

 言葉を交わす間にも木々を抜け、なんの変哲もない草原と花畑のある丘が広がったが……花畑のある丘にもう一つ丘が連なっている。この超初級間違い探しゲームをクリアしたところでなんの解決にもならない。

 そのふさふさとした丘が動いたのだ。


「塊だあああ! んだよあれ! 丘が増えてんじゃねーか!」

《大げさな。あれで六脚ケダマの群れほどの力も持たぬぞ》

「粘液が問題なんだよ!」


 スケイルには効かないが、あんなん俺は窒息する!


 やむなくスケイルから飛び降り、魔技石を取り出した。


「蹴散らせスケイル!」

《距離がありすぎる。お弁当を上乗せしてくれぬと》

「了解! だから急いで!」


 スケイルが大きく跳躍し、敵との中ほどで一度着地すると弾丸のように跳び瞬時にケムシ山を穿つ。穴の周囲を構成するケムシがばらばらと飛び散った。

 スケイルは返す勢いで跳弾のように突き抜けるが、着地するとチラッとこっちを見る。


 あれで一お弁当出力か。かなり動けるようになってると感動したいところだが、今は検証して悦にいってる場合ではない。すぐに魔技石を割って次を握りしめ、木陰に周り応援体勢は整った。

 しかし、ここらまでケムシダマは寄ってきてるから一休みとはならない。

 ナイフを取り出して、近付いたケムシ野郎は、お椀口の下から切り上げる。すぱっと一気に首を断てば粘液を吐き出す前に消滅する。ありがたいが粘液袋内で生成済みの粘液もほとんど消えるのは不思議だ。

 そうしてスケイルの活躍を傍目に蹴散らしてると、呼び声が聞こえる。


「ぅおーい、タロォゥ!」


 彼岸からのお迎えではなく、街から冒険者の誰かが走ってくる。


「すぐ戻れとギルド長からのお達しなんだありゃああ!」


 そこに気付くとはさすが冒険者。気付くよな。つーか、なんで今まで片づいてないの?

 連絡係冒険者は俺の頭越しにケムシ山に叫ぶと、武器を手に取り動きを止めた。


「ん? 何か戦ってるな」

「スケイル、戻れ!」

「クルアァ!」

「おおぉ、こいつがお前さんの聖獣か。ちょっくら待ってろ」


 スケイルと入れ違いに前に出た連絡係は、腰を落とすと地面から響く踏み込む。珍しくクロガネではない、分厚く幅広の湾刀を横薙ぎに振り抜いた。剣先だけにギザギザがついてるのはなんのためだか分からんが、赤いマグのカミソリが飛んで行くのがはっきりと認識できた。それだけでケムシ山はぼろぼろと崩れ去る。

 ぼうけんしゃつよい。


《我の獲物があのような三下に……》


 その形容が最も似合うのは俺だからな?

 ここは点の戦いよりも面の戦い方が必要な場面だったのだ……面? とにかく、むくれるスケイルの抗議に揺れるアホ毛を宥めた。


 しかし自前の技って便利でいいよな。こいつも一人で走り回ってるなら、上位陣の一人なんだろう。

 それにしては、やけにマグが濃かったが……高ランクのカイエンだって、薄っすらとしか見えなかったよな?


「人の技がはっきり見えたんだけど。スケイル、何かしたか?」

《主のマグが力強さを増したからだろう。これまでは他種族の幼生以下だったのだからな》

「幼生ってなんだよ子供だろ。やっぱ子供以下だったのかよ……」


 連絡係が戻ってくると護衛してくれようとするのを断って、スケイルを街に走らせた。




「タロウ、こちらだ」


 ギルドに着くとすぐに声がかかった。お目付け役職員のデイア・ブロウさん。心でもさん付けしてしまうのは、偉い人の雰囲気があるせい。いや、心証悪くするとあることないこと伝えられそうだという不安からだ。


 てっきりギルド長室と思ったら、二階ではなく裏手に向かう。狭い会議室に入ると、壁際に例の兵士たちが立ち並んでいた。一斉に強面に注目され腰が引ける。

 部屋を間違えました。

 そっと逃げようとした横から、お目付け役職員に視線で促され渋々と室内に入った。

 兵達の鋭い視線は、スケイルに向けられたようだ。前もって聞いていたんだろう、好意的でも好奇心でもなく観察といった雰囲気がある。スケイルが鼻の上に皺を作るのを叩いてやって宥めた。


 ギルド長は兵らと向かい合って座っていて、その側に誘導され黙って立つ。

 お目付け役職員が引き合わせる役どころらしく、まずはギルド長と俺を紹介すると、兵からは一人が代表として前に出た。

 一応はギルド長の立場に敬意を示したが、引けを取らないでかい態度だ。


「久しぶりだな、ウル低爵」


 ギルド長は気にせず切り出して、向こうの家族がどうのと一言挨拶を交わす。ギルド長と同じく低爵位だった。

 あー、やっぱ領主の周囲に仕えるとなれば貴族階級になるのか。どうりでいけ好かないと思った。


 隊を率いるのはウル・テイマ低爵。彼らはジェネレション領領主の直属部隊だと、お目付け役が言い、限界を追求する隊だと隊長が付け加えた。

 これ、俺の為だけの紹介だよな?

 お目付け役の言葉を受けた隊長は、狼煙と伝令を受けて状況把握のため派遣されたと簡単に述べた。

 やっぱり援軍ではないらしい。


「猶予はあると聞いた。そこで我らも滞在し調査したい」


 言いながら隊長の視線がこちらを向く。聖獣の警告となれば無視できないんだろうか。ギルド長に促され、スケイルからの情報を大げさにならないように淡々と伝える。どういうわけか、それが不興を買ったらしい。


「内容を理解しているにしては、やけに落ち着いている」


 皮肉を込めた感想は、無表情に抑揚もなく言われたが、警告とも取れた。もし良からぬ考えで下手なことを言おうものなら容赦しない、といった冷えた視線を向けられる。

 俺のことを知らないんだから、全てが疑わしくても仕方ない。

 というか大衆の不安を煽るとか、こんな時代がかった場所でやったらマジで首が飛ぶだろ。

 そういったこともあって慎重になっていたつもりだった。


 小さな笑い声があがる。ギルド長だ。思わず漏れたといった感じだから、また失礼なことを考えたな?


「貴族めいた考えを持つと伝えた所以だ」

「わざわざ人族の隠れ里から出てきた者が、そのような教育を受けたとなれば……かつての英雄か」


 げっ。

 ほんと筒抜けっつうか、なんというか……事情は呑み込めた。


「残念なことに、このように感情を隠せない。そこは引いてもらおう」


 誰が残念な子だ。その通りだから事前に忠告くらいしろよ。


「山は目にした。気を回すべきがどこかは明白。早速、回りたい」

「案内しよう」


 そうしてギルド長自ら隊長と並んで出て行った。

 まあ人手不足だしな。いや階級の問題?

 それで俺も解放されてギルドを出た。

 短い会合だった。呼ばれた理由も分かったが、それでもなんでわざわざしっかりした面会の機会を設けたかという疑問は消えない。


「タロウ、何をしている。こっちだ」


 解放ならず。

 疑問解消はこれからかよ。


 ギルド長とウル隊長の後ろに俺とお目付け役が並び、後には隊員が五人ほど続いている。狭い街に周囲は山だらけだから、彼らも徒歩で移動するしかない。通りを北へ移動しながら話を聞いていると、他の隊員は空いた家を臨時拠点に改装しつつ待機中らしい。

 他の援軍が来たときの受け入れ場所の件もあって、住人を避難させる必要があったんだ。守り易くはあるんだろうが、狭いとそこは不便だな。


 砦前に差し掛かると、砦長が砦兵からの報告を受けているのが見えた。こちらに気付くと目を剥いて睨んでくる。めっちゃ威嚇してるよ。

 ギルド長も変に笑って煽るな。

 まあ忙しいからね。すぐに隊は北西の道をとり、北東の砦には背を向ける。


 おい、どこに連れて行く気だ。


 冷たい風が、血の気の引いた顔をさらに冷やす。だだっ広い枯れたような地面に張り付く緑の絨毯が、ときにずるっと動く。

 やはり岩場方面か。

 分かってた。


 それはまだしも、さらに西に向けて移動している。こんな奥地の森なんて、六脚どころか湖の拠点以降の難度になるんじゃ……?

 いつの間にか隊長はクロガネ製らしき長剣を握っており、跳んでくるハリスンを片手で軽々とまとめて叩ききっていく。冒険者たちの動きが大雑把に思えるほど、無駄がないというか正確な動きというのを感じた。しかも話しながら、周囲に警戒の目を向けながらだ。他の隊員からも背後から金属音に魔物の叫びが重なり、それが続くというのに移動にも乱れはない。

 ほんしょくさんつよい。




 なんということでしょう。もしやと思っていたが、本気でこっちの森の奥にまで入っていくとは。だから少しくらい忠告してくれって。

 俺はスケイルの首を鞄ごと抱えて着いていく。周囲を見回すだけで精神は限界だった。


《我は枕ではない》

「誰がこんなもん抱き枕にするか。盾代わりだ」

《ほう……我を捨て駒とな》

「違うから。盾があれば心強いからな」

《確かに。死に行くカピボーが如く我が背後で震えているがよい》

「そこまで怯えてねえよ」


 ちらちらと周りから視線を感じるのも落ち着かない要因だ。こうして喋るから余計に気を引くんだろうね。咳払いして口を閉じるが、顎の下にスケイルの頭があり、アホ毛を伸ばして鼻をくすぐろうとしてくる。しばらく攻防していたが、スケイルが鳴いた。


「クァ」

「この先に群れだ」


 俺の警告に、ギルド長が杖を一点に向ける。


「あちらだな」


 この隊は岩腕族のみで構成されていて森葉族がいない。そうなるとギルド長のように同種族内で役割分担するんだろう。

 限界に挑む隊という、その意味が多少は理解できた。種族補正の弱点を補うように鍛えるのが、どれだけ大変かは身に染みている。

 わざわざ隊長が付け足したのは、縁故採用の見栄ばかりの隊ではないということを強調したかったんだろうな。


 ここら辺で群れと言ったら六脚だよなぁ……。

 俺はどうしてようかと思いつつ、ひとまずは兵の強さを信じて黙って着いていく。


「この辺でどうだ」

「足場には十分だろう」


 沼周辺よりも陰気で薄暗い森の中、少し開けた場所に出る。さらに奥には、ごわごわとした暗がりが蠢いていた。それらが押し出されるように這い出てくると思えば、よく見れば、ケダマで木の間が埋まっていた。

 不気味なトコロテン作ってんじゃねーぞ!


 俺も震えてぼやいているだけではない。観察し動きに異常を感じていた。

 ごわごわ? いつものふわふわじゃない?


「どこかおかしくないか」

《うむ、濃度が高い》


 強化ケダマかよ。


「通常の六脚より頑丈のようです」


 ギルド長は分かっていたようで頷いただけだが、隊長は物言いたげに俺を見た。


「便利なものだな」


 含みのある言葉はそれだけで、すぐに片手で背後に指示を出す。兵達が展開する。


「グォ?」

「どうした」

《濃度が、じわりと高まる気配がある》

「なにか異常が起こりそうってことか」


 ギルド長も油断なく杖を構える。


「この先に大穴が開いた。そこから漏れ出てくるのだろう」


 隠してたな!

 ここは冷静に対処だ。数は多いが所詮は毛の球。転がるだけでイモタルほどの脅威はない。


「すすスケイル、戦闘準備」

《やれやれ》

「あ、聖獣使いますよ」


 魔技と似たようなもんなら声掛けが必要かと、一応伝えてから出てもらう。


「ほう」


 一瞬だけ注目を浴びたが、それだけだ。

 ウニケダマの侵攻が始まった。

 牽制の魔技がギルド長から放たれる。


「三割増し、といったところか」


 隊長も身を低くして鋭く切り込んだ。技を使ってもいないのに、二匹を切り落としていた。敏捷値特化か?


「そのようだな」


 その間に俺はスケイルの背に跨った。逃走体勢は万端だ。

 背後からも重い打撃音が響く。振り向けば囲まれつつあった。

 残念、逃走路は奪われてしまった。


 闇落ちしても良かったが、二人の兵が果敢に背後の一点に攻撃を続け、なんとか退路は確保されている。絶望にはまだ早い。というか、皆さんには全く動揺が見られない。


《我らの獲物はどれにする》

「今は大人しくしてような」


 選ばせてなるか。

 ぼそぼそと話していると、ギルド長が下がれと指示する。

 兵の輪が狭まり警戒した木々の先から、ごぼっと吐き出されるようにケダマの塊が零れ落ちた。

 その、ぐにょごわの塊が、そのまま体を持ち上げるのを茫然と見上げた。


 現状の様々な憶測の中で最悪の一つは、ビチャーチャ同様の存在が現れることだった。

 それが、こんな形になるとは思いもよらなかった。

 ほとんど黒に見える灰色のケダマは、ゆっくりと脚を広げる。


 悪夢だ。


「ゲギュウゥ」


 低く腹に響くノイズ。

 巨体を支える脚は、八本……。


「……八脚、ケダマ」


 失禁してはいけない。いけないと言い聞かせるが問題はそこじゃない。

 その前に失神したら終わりだ。

 殺意を滲ませた暗い赤色の目が開く。四対の視線が、こちらを射抜いた。

 ダメかも……。


《主よあれぞ! あれこそが我らの獲物!》


 やややめろおぉ!

 叫ぶ気力はなく首に縋りつく。必死に食い止めたためか気力喪失は免れたが、冷や汗も震えも止まらない。

 あれは、無理だ。今の俺たちには無理。

 絶対にケルベルス並みの強固体だ。

 泥に覆われずとも、高ランクでないと攻撃を受け付けないだろう気配がある。


 だとすると、ここにいる面子で大丈夫なのか――?

 そんな不安が過る。

 下手に冷静になれるって辛い。


 ギルド長の魔技はケダマの一部を抉り毛を散らしたが、どう見ても掠り傷だ。

 太い脚はその辺の木ほどあり、針のような毛に覆われている。相当に硬いのは想像がつく。隊長は二人を呼び寄せ、脚を避けて三人がかりで斬りつける。

 舌打ちが聞こえ、三人がそれぞれ距離を取る。

 あんな巨体の癖に思ったより動きが早いのか。いや、脚から糸が出て阻んだ?


 今度はケダマが動いた。

 げえっ、糸じゃねえ!

 脚を覆う毛が伸びて、体をガードしていた。

 様子見か隊長ら三人が休みなく突きにかかるのを、しばらく見れば、どの毛も伸びるのではない。関節の先端からのみ?


 何かできないか、混乱した頭をどうにか働かせようと闇雲に辺りを見回す。

 お目付け役はギルド長を守り、他の三人が隊長らの攻撃を邪魔されないように周囲から来るケダマを排除している。それがついでに俺たちも守ってはいるが、これ以上押し寄せられればどうなるか……。

 そうだった。

 あいつは無理だが、三割増し六脚くらいならどうにかできる。


「スケイル、獲物はこっちだ!」

《主がそう言うなら仕方あるまい……》


 隊長らや、その支援を邪魔しない仕事。

 先ほど退路を確保していた者が抜けた穴を埋める!

 パニックを飲み込んで、スケイルから降り震える足に力を込める。


「全部退治したらお弁当十個だ!」

「クアオオォ!」


 スケイルは目の色変えて獲物に跳んで行った。

 先にケムシ山でタイミング見ておいて助かったな。




「これは、いよいよ間違いない」


 共に行動し現場を見たことで、隊長らは本格的に邪竜復活に向けて進行していると悟ったようだ。

 俺も初めて知ったんだが。

 なんだあの恐ろしい変化は。


 それより恐ろしいのは、こいつだ。

 様子見していたのは少しの間で、隊長が特殊攻撃を繰り出すと、溶けるように八脚ケダマは崩れ落ちたんだ。かなり透明度は高いのに、雪崩のようなマグ量は視界を消すほどだった。


 ギルドの狭い会議室に戻ると、もたらされた資料を広げ他の職員から情報を補足する。ギルド長と隊長らは幾つか意見を交わして情報をまとめた。隊の一人に、待機組から伝令を二人出すよう指示する。走り去る背を見て尋ねた。


「こんな中、二人で大丈夫なんですか」

「我らは、そういった任にある」


 隊長の顔付きが不穏に翳った。

 バカにしたように聞こえたよな……いやぁ能力に疑いを持つなどとんでもない!

 あんな化け物倒せる奴らが、そうそういてたまるか。

 泡食っていたらギルド長が話を逸らした。


「ジェネレション領の周囲も騒々しいのではないか」


 隊長は頷く。


「我らは肌で感ずる。他の場所ではそうもいかん」


 そこでようやく援軍の話が出た。ここでは探りようもない他領の情勢でもある。

 隊長は端的に言った。


「派兵は厳しい。王都への招集がかけられている」


 は?

 援軍がいつどれだけ送られるか気を揉んでいたら、それどころではなく王都に集めている?

 呆気にとられている間にも続く内容だけは聞くと、それはジェネレション領も例外ではないという。

 てっきり各領ごとの利権問題とでも思っていたら、王が積極的に促してる?

 一体、何でそうなる!

 次はもっとやばいから?

 それで逃げたら、もっとまずいだろうが!

 そんなことくらい、分からないはずないだろうに。


 目が合った隊長は鼻で笑った。ギルド長によく似た癪に障る笑い方だ。


「本気で、あれに抗うつもりでいるのだな」

「そう伝えたろう」


 人族が直接ここで防衛に回りたいというのが、そんなにおかしいかよ。

 なけなしの気合いを掻き集めて睨むが、隊長は口の端を上げた。

 そして片手を胸に当て、ギルド長へ頭を下げる。他の隊員も倣った。


「なんの真似だ」

「我が主、スクリムゾンデ様よりの命だ」


 それは領主さんのことだよな?


「我らは、ただの調査隊。だが滞在中は、戦力として活用を」

「余計な気を回しおって」


 文句を言いつつ、ギルド長の口元は緩んだ。

 現場の状況を見極めて決めろ、というのが本来の件だったらしい。

 立場はあれども、家族の身を案じて理由を作ってくれたのか。ジェネレション領の領主さんだけは間違いなく信頼できそうだ。


「というわけだ。ご同輩」


 隊長はにやりと笑みをよこした。

 からかわれてたというか、試されてたんだろうな。

 直属の部隊と聞いたが領軍の中でも特に領主個人に仕えているということなら、これ以上の精鋭はいないだろう。真実、腕は確かだった。

 他の職員の顔を見れば、俺と同じく希望が湧いたように安堵の笑顔を浮かべていた。


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