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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
聖獣のおまけ冒険者編

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244:疑似の存在

 今朝も日が昇る前の白む空の下、足に伝わる地響きに気を削がれないように街道へと走った。


 昨晩のケダマの森は、一昨日よりもケダマ度合いが悪化していた。

 もうどうやって言い訳して山に入ろうかなどと言ってられるか。これ以上増えたら、そもそも手が出せなくなってしまう。

 いざとなればヴリトラソードを使うしかないが、幾ら溢れるほどだろうとケダマでは消費分を取り戻せない。夜目の利かない俺では、街道沿いからでも奥の魔物相手は難しい。使った後に、本当のいざというときが来たらと考えると、無暗に消費できるはずもない。


「またレベルが上がったし、マグはギリギリまで使ってみてくれ」

「クアァ!」


 ぐったりしたままスケイルの背中に張り付き運んでもらう。

 沼の魔物を枯らしてから、迷わず山へ向かった。




「はぁ……魔物退治、頑張るぞぉ……」

《なにゆえ、そのように腑抜けた掛け声なのだ》


 だって敵が六脚ケダマだし……。

 そうは言っても、今はこいつが適正レベルらしいとくれば避けるわけにもいかない。なんといっても動きが遅く群れでいてお得なんだから。

 渋々と右手を掲げる。


「……封呪を解いた。この手に宿る破魔の力が放たれるとき、貴様の命はない。その脚とふわふわな動きこそが罪。あの世で永劫に贖い続けるがいい。召喚――パラライズサンドストーム!」

《おお、なかなか耳に心地よい文句であるな。何かが喚ばれた気配はせぬが》


 嫌々ではあるが虫よけの行使に躊躇はない。思い切り振りかぶってばら撒いた。


「ゲケキュケキューッ!」


 地面で痙攣する巨大ケダマたちに、スケイルは嬉しそうにびょんびょん跳び付き踏み抜いていく。

 気が抜けきっていた俺は強化されたスケイルの羽ベルトさえ擦り抜け、ケダマに尻餅をついて地面に着地していた。

 そういえば昨日、飛び跳ねて倒してもらってから、止め直してなかったっけ。レベル上がってちょっと余裕出てきたから、もう禁止事項は無くなったと思ってるのか?

 いや、ここに来るまで走ってないから、こいつはこうして倒すとなったんだな。


《主よ、どうだ躍動する我が鱗羽の輝きは!》


 しっかり掴んでなかった俺が悪い。気合い入れろ。立ち上がるんだ。


「どっこいしょ」


 スケイルは嬉しそうに戻ってきた。

 こんな敵相手に、つやつやできて羨ましいよ。


《主も喜ばぬか、再びマグの力強さが増したではないか!》

「お、ほんとだ」


 またレベルが上がってる。尻の打ち身も消えてくれたらしい。


「それにしても早いな」

《沼底の分だろう》

「ああ、なるほ……え、生き物じゃなくても変換されるの? 魔物は生物を模してることに意味があると思ってたんだが」


 他の生き物に含まれるものと同様だから、人体も騙されてというか取り込む理屈だったはずだ。疑似生命体というかなんというか。そんなものを作ってしまえるほどだから邪竜が驚異でもあるわけで。


《邪竜の魔脈から、直に漏れ出た魔素だったということであろうな》

「魔素の癖は、邪竜にも当てはまるのか……体外のはずなのに」

《だから赤きもののヌシなのだ》


 簡単に言うが、とんでもないことだぞ。

 民を自ら作り出して、魔物だけの世界に作り替えるつもりなのか?


 そんな、まるで神か何かみたいな存在にしては、やることのスケールが小さいというか……地上の争いに留まるのは変だな。

 この星ごと破壊しそうだと思える影響を感じたばかりだから特に。


 あ、地上に出てくる度に力をつけてるんだったな。

 もし過去の人間が退けてなかったら、とっくにこんな力は取り戻していたのかもしれない。

 それはそれで疑問もあるが、とても無視しきれない雑音が思考を遮る……。


《……封印を解いた。この主の本来の力が解放されれば、我は貴様を蹂躙する。赤きものよ、その存在そのものが罪!》

「やめろぉ!」




 森や毛の塊を掻き分け、山を駈けずり殲滅してまわる。スケイルを応援するお仕事なので、ついついぼやきが漏れていた。


「……ほんと、変なことばかり覚えるよな」

《なにを怒る。心から痺れる文句だったから、我もあやかろうとしたのだ》

「ああいうのは自分で考えるもんなの! えぇと、人によって鼓舞できるものも違うだろ」

《ふむ。言われてみれば、いまいちな部分もあった》


 真面目に批評すんな。それはそれで胸を抉る。


「いいから自分で考えてくれよ?」

《そうだな。あの世でというところが気に食わん。そこは聖なる世と言うべきところだ》


 こいつは聖なる世とやらからの御使いと見做されてたんだったな。


「聖獣はさ、聖魔素側の魔物のようなものと聞いたが、邪竜のような存在はいないよな?」

《そのようなもの、居るわけなかろう》


 スケイルは気が付けば体を持って漂っていたと言った。

 なら聖獣は、一つ一つが邪竜同様の存在なんじゃないのか? 小規模だけど。

 そのまま聞くと怒りそうだから聞き方が難しいな。


「でも聖獣は魔物と違って学ぶだろ……邪竜と同様に。それに自己が在る」

《本来ならば、ただ聖魔素の一部でしかない。形になれどもマグとしてだ、結界石のような。それが、なぜこうなったのかは我にも分からぬ》


 邪竜と同様と言ったところでじろりと見られたが、スケイルはスルー技術を取得したようだ。

 スケイルにも分からないとなると、他に手がかりはなさそうだな。


《ただ、何かが引っかかってはいるのだ……遠くから呼び声が届いたような、そんな気がしてな》

「呼び声」


 言葉通りではないか、邪竜の叫びに驚いてとかじゃないだろうな。

 記憶といっても空気の一部みたいなもんだったなら、どこまでがそうか膨大過ぎて判然としなさそうだ。このスケイルという個体となってからしか、はっきりとは認識できないのかもな。


「聞きたかったのは、邪竜が自分の魔脈を持つなら、聖獣の親玉がいれば対抗できる魔脈があんのかなと。親玉がいないなら、スケイルたち聖獣が該当する存在で、それぞれが魔物のようなもんを生み出したり出来ないかと思ったんだよ」


 答えは渋いものだった。


《残念ながら、そのような力はない。拮抗さえできない現在の量ではな》


 この世に存在する魔素の量が、そのまま全体の力ということなのか……。

 それもあって人間と手を組もうと考えたのかもな。

 なら、量が戻れば邪竜並みの力をつけたりすんのかね。


 邪竜も聖獣も、人知を超えた存在には違いない。

 聖魔素の化身か。

 この街では今のところ、言葉で意志疎通できるのはスケイルだけだ。

 他の聖獣に協力を呼び掛けたいと考えていたが、冒険者たちに伝えるには、神のお告げだなどと言えば都合が良さそうだが。

 まずは普通に伝えよう。


「前に少し話したと思うが、聖獣はスケイルのように契約主のマグを調整できることを、他の冒険者たちに伝えたい」


 スケイルは自分が最も高い能力を持つから、他の聖獣たちにも基本で備わってるささやかなものが役立つとは思えないようだった。

 けど人間側にとって、その微かな調整はかなり違うはずなんだ。特に魔技使いなんかはさ。

 そういったことを説明すると、なんとか理解してくれて、どのように伝えるか相談した。


「協力ありがとう。全員に役立つかは分からないが、知り得ることは伝えておきたいからな」

「クァ!」


 天幕に伝えにいくと頭にメモし、再び暗黒ケダマとの悲壮な戦いに身を投じた。




 疑似の存在といえば、思い浮かんだものは、もう一つある。

 前回の英雄だ。それを考えると、自然と高台での光景に意識が向く。

 話してくれたシャリテイルは、また山ん中を走り回ってるんだろう。あれから見かけてさえいない。

 今は、そっちはいい。頭を切り替える。


 正確に言えば、前の英雄とゲームでの英雄の扱い。


「封印で、命を落としたんだよな」

「クァ?」


 英雄とされていた人族。話だけ聞けば実際に聖人のようだ。

 信じ難くて、どこか用意されたような存在だが、そこはゲームでは感じられなかったことだ。もちろん最終的に英雄になるというストーリーだからと言えるが、それにしてはシステムが暢気過ぎた。

 ゲームのキャラクターや世界との違和感は、シャリテイルの話で気付けたこともある。


 単純に、ゲームならではの面白さを邪魔してまで、完璧に再現しようとはしていなかったというだけなのかもしれないが、どこか中途半端なんだ。

 人族の種族特徴を隠していたことを除けば、俺の状況はメインシナリオと同じと言えなくはない。


 俺の恰好はゲームと同じ、レギュラーキャラの恰好もほぼ同じ。

 ただしビオはこの街にいないし、その背景、研究院などの話さえ出てこない。そんな、隠されていたとしか思えない様々なことがあり、それらが人族に関することと聖魔素に関することのようだというのが見えてきた。

 それは意図的な排除に思える。


 何故そんなことをと考えると、いくつかの思い付きの中から、前回のシャソラシュバルの人物像が重なったんだ。

 まあ意図せずに感覚がズレていると思える事も多々あった。そこは明確な理由よりも、ふわっとしたものに思えた。

 多分、聞いたことがあるだけとか、実体験ではないからじゃないかと思う。

 それも含めて、意図ありなしにしろ他のバッドエンドにしか思えないルートにしろ……どこか主観に満ちている。

 誰かの目を通した情感なのだと、今ここで自分の目で見ている俺には思えるんだ。


 俺、というかゲーム主人公を排除して考えるなら。

 シャリテイルたちがいる時代。これが鍵なんじゃないかと思った。


 例えばレギュラーキャラはこの街に実在する人物だが、口調にしろ性格にしろ、かなり違った。通ずる部分はある。まるで友達の家族を見たときのような。

 もしかするとシャリテイルの母親の性格がこうだったんではないか……そんな風に想像する違い方だ。

 シャリテイルの母親が、英雄の仲間だったと聞いたからこその連想だ。


 それにシャソラシュバルと呼ばれる所以の騎兵であること。

 前の英雄は聖獣をパートナーにしたわけではない。英雄は聖獣を知らないか、他の奴らの態度を見る限りでは、なんの期待もなかったというところかもな。

 とにかく頑強な馬を王様から貰ったらしい。

 ゲームでも、移動は馬だった。


「そうだ馬だよ……」

「グギョエー!」

《血迷ったか主よ、馬ごときと契約などさせぬぞ!》


 こんなのを崇めている奴らがいるくらいだぞ……聖獣なんてゲーム的に美味しそうな要素だろうに出てないのはおかしいもんな。

 主人公が顔を隠されていたことも、前の英雄と共通すると考えれば……企画者が、この世界に居た。

 なら企画者が前の英雄だったと、そう考えるのが自然に思えるんだ。


 どうやって日本に渡ったのか、それとも戻ったのかは分からないが。

 もし企画者が過去の英雄だったなら――そいつは失敗したと思ったんだろうか。

 世界を完全には救えなかったと、考えたのかもしれない。


 それで日本で後悔したか、気持ちに区切りをつけるためか。たんに何か形を残したくなっただけかもしれない。

 いや、思い出や無念を形に残すなら、どうしてありのままではないんだ。


 この時代でなければならなかったということだろ?

 ゲームのパーティーメンバーは街で雇う必要がある、いわゆる傭兵システムだったから、モブキャラが多数いた。

 それなのに共通するキャラの存在は、レギュラーキャラのみ。


 この街にもウィズーのように頼もしい……だけでなく特徴ある奴らは幾らでも居た。

 重要な人物といえば、街の中ではギルド長もそうだし、聖者と呼ばれるビオなどはゲームの世界に居ても良かった。それどころか居ないのがおかしい。

 関係だとか共通する点、しない点はなんだ。

 見えてるもので単純に考えれば、ここに住んでるかどうかだが……。


 とにかく、なぜシャリテイルたちレギュラーキャラだけが同じだったのかは、仲間の子供たちだから。

 それが、前の英雄がゲームを作ったという証拠のような気がする。

 フラフィエとストンリの両親は関係しないようだが、家業で考えれば、贔屓にしていた職人だった可能性は高い。ストンリの話では危険地域にも出向いているようだったし、親父さんが実際そうだな。


 なんで重要なことを取り除いたかは、内容から離れて考えるなら、それが重要だからという点だろうな。

 重要な事柄を除く意味は、別の重要なことにフォーカスしてほしいからだ。

 それを裏付けるような、あのエンドの違和感。


 違和感は――封印。


 再び封印する。

 それは、いずれは結界が緩んで復活するってことだろ。


 繰り返すことが分かっていて、倒して憂いがなくなるトゥルーエンドを、なんで用意しなかったんだ。前はシリーズ企画で続編を出す余地を残したのかと思っていた。

 実はまさにトゥルーエンドというか、実際に体験した終わりが、あの封印エンドだからじゃないかと思う。


 思い出か記念として残すだけなら、ゲームである必要はない。

 映像作品で良かったじゃないか。


 世界設定や地図や戦い方や種族やアイテムなど、自然に多くの情報を示すにはゲームが最適だろうとは思うが……情報を、自然と身に着けてしまう。


「まさか、学習ソフト……」


 企画者は、諦めてない?

 もう一度この世界を救うことを、誰かに託そうとした。

 ……考えすぎだろうか。


 だから、なんだっていうんだ今さら。いやいや大有りだ!

 そうだとしたら、俺はそいつに送られたってことになるだろ。どうやってだよ。

 しかも戦いには役に立たない人族として、たった俺一人が?

 なんで自分で来ない?

 歳食ったのが原因かもしれないが、ここまでやるのにそれくらいで諦めるか?

 身動き取れない程の怪我をしたとか病気なら、そもそもゲームなんか作れないだろうし。あ、本体で来れるわけじゃなかったな。

 俺も顔は同じでも、どう考えたって体は地球人とは違う。


「くそっ……なんで、真実に近付いたような気がするほど、頭が痛くなる謎が生まれるんだよ」

《主よ、妄想もほどほどにな。ケダマが降ってくるぞ》


 足りない情報はあるし、なにか腑に落ちないが……。


「爆ぜろケダマ!」

「ゲキュゥーッ!」




 しかしそうなると余計に、ゲームは前時代の知識を元に作られたとしか思えない。


「日が傾いてきた。一度戻ろう」

「クルァ」


 その仮説の問題点は、死んだはずの英雄がどういうわけか『現在』を知っていることだ。当然の予想として、様子を確認する術がある――そういうことになる。

 ぞっとして辺りを見回してしまった。

 前にカメラでもあるんじゃないかなんて冗談で思ったが、マジかもしれないのかよ。変なところ見られてたらと思うと気が気じゃない……忘れよう忘れよう。これはただの想像だから。


 既に別世界から紛れてきてるんじゃないかとも思ったんだが、こっちに居るとおかしな話になる。恰好が同じという目印までありながら、これまで接触がないのはおかしいし。

 色々考えすぎて、結界石になっちまった英雄と魂が入れ替わったなんてことを想像してしまった……俺の代わりに日本に戻ってないだろうな? 野郎に体取られるとか嫌すぎる。さすがに時代が合わないか。

 これまでの推測から時間が戻ってるとは思い難い。

 未来、でもないだろう。

 時の流れだけは同じように進んでるとしても、世界が違うのだから全く同期してるとは言いきれないが。

 不可逆なら不可逆で、やっぱり死ぬときゃ死ぬんだろうなぁってことだ。


「ふぅ……俺に奇跡は起きないのでしょうか」

《今日は溜息ばかりだな》






 ケダマ山が現れる経過を見たいこともあり、日暮れ前から夜の討伐を開始しようと早めに切り上げると、天幕へ報告し宿に戻ってきた。


「なに考えてんだ!」


 扉越しに言い争う声が聞こえた。そっと扉を開きつつ急いで踏み込む。

 声の主はシェファだ。

 いつものように腕を組んでどんと構えて立つおっさんに、シェファは頭をつきつけるようにして詰め寄っていた。


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