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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
ランク外の冒険者

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25 :ベドロク装備店と休日

 適当に見てくれと許可をもらったため、防具をまとめた棚の前に立ち、丁度良さそうなものはないかと見回す。

 うむ、分からん。


 ゲームでは、商品リストから数値を見比べながら選択するだけだ。

 小さなアイコンサイズの絵はついていたけど、着たところなんて購入後にステータス画面で装備してからしか確認できなかった。


 俺は初期装備で地道にレベル上げし、二段階ほどすっとばした強さの装備に一斉交換が好きだった。

 始めにあれこれ考えるのが面倒で、そこで止まる時間があるなら、さっさとクエストをこなした方が金も経験値も貯まるしというのもあった。

 したがって、初期装備からすぐ交換できる程度の装備はよく覚えていない……。


 それに、ただ数値を信じれば良い世界でもない。

 現実に急所は存在するだろうし、そういった場所を保護することを目的にした上で、自分の動き方に合った物を選ぶべきなんだろう。


 そうなると、何を選べばいいかなんて分かるはずもない。

 防刃ベストとか、ポリカーボネート製だっけ機動隊の盾だとか、そんなものしか浮かばんな。

 そんなものあるわけないが、あってもいやだ。



 ちらと店内を見ながらも、若い臨時店主のことが気になった。

 ゲームでは、こいつが装備の強化だけでなく、作ってくれていたと思ったが。


 さっきは、費用については聞けなかった。

 体に合わせて作製するとか、部分を変えることもあるだろうから、はっきりと言えないんだろう。

 それは分かるのだが、どう作るか決めるのが親父さんにしろ、目安は聞けないだろうか。


「作製費用を聞くのもまずいかな。参考にしたいだけなんだけど」

「まあ、それなら」


 安そうな防具で俺も買えそうなものと、とっさに思いついたのは革の胸当てだ。

 返答に耳を疑う。


「え、もういちど、おねがいします」

「千マグ」

「せん」

「あんたの体型に必要な素材と、形を整えただけって代金」

「そ、そうか。ありがとう……」


 甘すぎたと言わざるを得ない。


「言っておくけど、ぼったくりじゃないからな。気になるなら他の店も見ておくといい」

「いや、そんなことはミジンコも思ってない」

「みじん……?」


 確かに、安いんだろう。

 大抵のRPGで革の鎧といえば、初期の安そうな装備のイメージがある。

 だけど英雄軌跡では素材のランクがあり、それで言えば中級だ。


「ええと、やっぱりまずは木か殻防具にするよ」



 うーん。

 用途もだが、足りないものから考えてみようか。

 まずは急所……っていったら全部さらけ出してるじゃねえか!

 全部買えるはずはないし、優先順位を決めるにしてもな。


「うぐぬぬぬ……」


 唸っていると、背後から大きな溜息が聞こえた。

 いかん店先で放心してしまっていた。


「あのさ、今の装備はなに。何かを追加したいの、それとも一式?」


 ぐ。

 まさに、それを今悩んでいるんだ。


「現状の装備は、これだけだ。予算も少ない」


 シャリテイルにしょぼい格好と言わしめた姿だが、堂々と宣言してやるぜ。

 恥ずかしさが現れてませんように。


「……把握した。悩んでいるなら、最も遮られて困ることだとか、そういったところから優先して考えてみればどうだ」


 あからさまに、気の毒そうな表情になったのは見逃さないが、意見はありがたく頂戴する。


「俺にとって困る……」


 まだ、草刈りで独壇場の活躍をするつもりでいる。

 ケダマと戦いたい気持ちもあるが、しばらくは主に戦うのはカピボーだろう。


 俺にとって困ること。

 それは鈍足!


 ただでさえ鈍い動きが止まると困る。

 暑苦しいからと、つい袖をまくって作業していたが、肘や膝を防護しておいたほうがいいだろう。

 モグーとの戦いで転げていたときも結構な衝撃を感じて痛かったし。

 今は地面が草や土と柔らかめだから、そこまで悲惨なことにはなってないけど。


 おお……徐々に揃えていくなら、手始めには良さそうな気がしてきた。


 にかっと笑って振り向き、そういった希望を伝えると気味が悪そうに見られた。

 失礼な。

 だが職人気質なようで、すぐに内容に耳を傾けだした。


「それなら殻製がいい。合わせて三百マグってところかな」


 いいね、それだよ!


「それで頼む!」


 嬉しすぎて、さっそくタグを首から引っ張り出した。


「なるほど。人族の冒険者ね」


 少し目を開いたが、大して驚いているようには見えない。

 まさか、ここまで噂は届いているのかよ。


 渡そうとしたタグを手で遮られた。


「在庫はあるが、大きさの調整もある。引き渡す時でいい」


 俺が逃げたら作り損にならないかと思ったが、安物だから前金はいらんと説明がついた。


「他に手のかかるものがあってね。明日になるがかまわないか」

「ああ、それでいい」


 問題などあろうはずもない!


「どこに伝えればいい」

「低ランク冒険者用の宿に泊まってる。通りの外れにあるボロい宿だ。俺はタロウ・スミノ」

「あそこね。俺はストンリ・ベドロク。冒険者か、なら何か良い素材が手に入ったら知らせてくれ。強化を割引する」


 あそこねっと微妙な顔をされたが、評判が悪いとかではなく、見た目のやばさのせいだろう。

 そうあってほしい。


 俺はどうにか予算内に収まったことや、ゲームで見た他のキャラに会えたことが嬉しく、足も気分も軽いまま店を出た。

 少しずつでもマシにしなくちゃな!




 俺にも見合う防具が見つかったことで、うきうきと装備屋を後にした。

 しかし革装備の金額を聞いた衝撃を思い出し、少しばかり喜びがしぼむ。


 いやあ千マグときたか。

 しかも素材料だけって感じだったし、実際にはもっと増えるんだろう。

 高いだろうなと思ってはいた。いたけどさ……。


 まあ、また一つ、ゲームに馴染みの深い場所に行けたことで良しとしよう。

 まずは手に入れられる身近なものからコツコツだよな。

 だから俺は次の目的地を目指す。


 それは――食堂!


 いきなり朝から普通の食事を摂りまくりで、腹が大丈夫か心配ではある。

 でも、ずっと謎の木の実食生活だったんだぞ?

 今日だけは我慢しない。


 表通りに戻ると、目に付いた食堂に乗り込んだ。

 テーブルは六卓ほどで広くはない。似たような民家の一階を、改造したらしい作りだから、どこもこんな感じだ。

 食事時も終わりかけのようで、予想通り店内には数組が残っているだけだが、食べ終えてお喋りに興じている。


 期待と不安に後押しされつつ、入り口そばのテーブルに着いた。

 うん、作法が分からない。

 一応店員らしき女性と目が合ったから会釈したし、大丈夫だ。多分。


 メニューらしき木の札が、奥の壁に掛けられているのに目を凝らす。

 カマボコの板みたいだ。それに文字が彫られて色をつけてるのか、文字は茶色いが、焼きつけてるのかな?

 ここもそれほど明るくないから、よく見えない。常連ばかりだろうし、あまり使われてないのかもな。


 注文内容をどうしようかと悩んでいると、何事もなくウェイトレス、というか女将さんという感じの人が近付いてくるが笑顔だ。

 俺の行動は、少なくとも追いだされるほど無作法ではなかったらしい。


「待たせたね。なんにする?」


 金の混じる暗い茶色の髪を、頭の後ろでまとめている人族だ。そういえば、街で見かける人族は暗い髪色が多い。宿のおっさんも黒髪だし、だから俺も浮かないんだろう。ただ、西洋人的な明るい黒髪という感じだけど。


 店員さんは足元まであるワンピースを、前掛けをベルト代わりに腰で縛っている素朴な格好だ。俺が来ているシャツなどと同じく硬く目が粗い生地で、この世界の住人の一般的な恰好なんだろうと思う。

 そんな姿に、手の平サイズのメモ紙のようなものを持っているのが意外だった。

 無駄にできるほど紙を作れるんだなあ、とか失礼な感想を抱きながら、無難な注文を試みる。


「お勧めの定食ってどんなのですかね。一番安いやつ」


 定食で通じるのか戸惑いつつ言ってみた。会話が翻訳されてるのだとしたら、該当する単語に置き換えられると思うんだが。

 店員はポケットから小型マグ読み取り器を取り出しながら、本物の笑顔になる。


「お客さん初顔だもんね。うちは低ランク冒険者だって満足の量と安さだよ。その代わり、他所ほど小洒落たもんはないけどね!」


 俺の戸惑いを違う方向でとらえてくれたようだ。


「100マグね。前払いだよ」

「あ、はい。じゃあタグ」

「あら、ほんとに冒険者だったのかい」


 店員の、やや失礼な驚きは吹き飛んだ。


 はああぁぁ? 100マグううううぅぅ!?


 呆然とする目の前に読み取り器が掲げられ、機械的に払ってしまっていた。




 トレーのような四角い一皿に、料理はまとめて乗せられ運ばれてきた。

 中心にはジュウジュウと音を立てている鶏の腿肉をまるっと焼いたものと、スライスされたパンが四枚ほど積まれている。

 その脇にナスやニンジンに見える焼き野菜などがゴソッと盛ってあるが、マーブルなチョコ菓子のようにカラフル色なのが微妙だ。

 木の湯のみは色と匂いからして紅茶だろう。


 宿の黒パンと違い、適度にスライスされてあるのはありがたい。

 こっちは中までカボチャのように黄色いパンだが、良く焼けていて香ばしく腹が鳴る。

 そこに店員さんが前掛けのポケットから取り出した瓶を手に傾け、円を描くように中身を振りかけた。

 てろっと垂れた液体は、薄い緑色で、茶殻のように枯れた葉っぱの屑が含まれている。

 匂いからするとオリーブオイルのようだ。オリーブかは知らないが。


 食パンほど綺麗な四角ではないが、その角丸パンの縁はフランスパンのような固さがある。トーストしてあるからか中はサクサクだ。

 オイルの風味と絶妙な味わいで、野菜を乗せても、鶏肉を乗せてみてもいける。


 鶏肉は表面に焦げ目はあるが、煮込んでから焼いたのか、パリッとしてそうな見た目とは違い身が骨からすぐ離れる柔らかさだ。わずかに添えられていた、粒々とした香辛料はマスタードっぽい風味だった。肉の味も鶏だが、俺の知ってる鶏より一回りは太いサイズなのは気にしないでおこう。


 黙々と貪り、どこか現実感のないまま食事を終えると店を後にした。




 悔しいが、高いだけはあった。

 腹と気持ちの満足度とは裏腹に、今後を思うと胸には空しさが広がっていく。


「しばしのお別れか、もしくはこれが食べ納めか……」


 もし今目の前に公園があり、そこにブランコがあったなら、俺は間違いなく身を委ねていたことだろう。

 大金を手にしたと思っていたら、俺の価値観は一桁違ったぜ。下方にな。




 その後は他の店を見る元気も無く、ギルドで午前中の報告をすると宿へ戻ることにした。

 が、洗濯しようとして着替えのことを思い出し、服屋を探しに飛び出す。


 ここでもしっかりしたズボンなどは高めで、またうなだれる。

 下着はゴムの入ってない海水パンツのようなものだ。かわりに紐が通してあるが融通が利かなくて不便すぎる。初期パンツだってそうだし、ズボンもジップなどなくベルトで留めてるんだから当たり前か。

 ゴム製ほしい。


 替えがないよりはましか。

 予算と鞄の収納スペースの問題もあるが、下着とシャツを二点ずつ購入する予算が残っていたことに安堵した。


 こうして俺の初の休日はオワタ。


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