219:命名
俺は草原を横切るように、歩き出していた。
体調不良の原因も対処法も分かったなら、無難に過ごす必要はない。もうケダマ草毟りはいいだろう。それに、もっと危険に挑んでみたい気分だ。
また急な気分低下もあるんだろうが、タウロスがマグの使用率を制御できるというなら、倒れるまではないといった安心もできた。
念のためポーチを覗いてマグ回復石の残りを確認する。
小、中とも四個ずつあるな。ストンリ達と出かける際に、中サイズを買い足しておいて本当に良かった。
花畑の脇を歩いていると、スリバッチを見てタウロスは少し首を伸ばした。
《主よ、あのような小物では血塗れの祭りも楽しめまい》
そんな祭りは開催しない。
目をキラキラさせて言っても説得力がないぞ。
《ぬ、遠ざかっているではないか》
巨大花地帯を横目に通り過ぎると、タウロスのアホ羽がしょんぼりと項垂れた。
南の森に到着したときはカピボーを見て、我に見合う獲物を持ってこいだとか騒いでいたくせに、スリバッチ程度でいいのかよ。
それとも抜け出して活動できないから、格下で我慢する気になったとか?
お前の獲物は後で、と言いかけて止めた。
いい加減、お前だけだと不便だな。
「なあ、タウロスってのは種族名みたいなもんだったよな? いや通称か。本来は、えぇと……なんたらウロコなんたらギュウドンだか、そんな感じだっけ」
《ギュウドンとはなにか。七色鱗羽牛である》
「そいつだ。それは分類的なもんだと分かるが、なんで通称がタウロスなんだ」
森の雫だって見たままだが、通称のようなものは他に聞いた覚えがない。
《ふむ、由来か……あれは我がまだ言葉を覚えかけの頃だったか。朧げではあるが、諍いを見た》
「え、そんなことで、争い?」
つうか、そんなもんに複雑な事情があるなど誰が考えようか。
タウロスの記憶によれば、前の主である岩腕族の研究者が聖獣調査を終えたときのことだった。
「素晴らしい発見だった。半ばには邪竜の復活という非常時にありながらも、戦いに駆けつけたい気持ちをこらえて調査に従ってくれた、我が班の皆には改めて感謝を伝えたい」
調査隊を率いた主は、班の者らに労いの声を掛ける。
そこには人だけでなく、大小さまざまな異形の姿もあった。
旅のなかで発見し集めた聖獣たちだ。
邪竜の力で魔脈が地中深くから急に地上へ持ち上げられたために、周囲に集っていた聖獣たちが発見された。それを初めに発見した主の調査隊が、引き続き聖獣調査を受け持つことになった。
ほぼ全ての姿形のものを発見したと考え一区切りつけたのは、別の報告書によるものだった。とある流しの研究家が、特にマグを取り込む動植物についてまとめたものがあり、これに特徴が合致したのだ。
それに気づいた主は俄然やる気を見せて、報告書をまとめるべく各種の特徴を書き連ねていく。
「マグを強固にする湯気が立ち昇る如き姿。似た形状のものが幾つかあるな。風陽炎種としてまとめよう。こちらは水の如き体がマグを伝導し易いもの。森の雫種としようか」
「はーん、見たまんまだな」
「真の簡潔さとは美しいものだろう? そして最後は、最上の聖なる存在……」
彼は片手を胸に当て厳かな表情で、傍らに佇む獣に恭しく頭を垂れた。
「我が神より使わされたに違いない、この力強さ……七色鱗羽牛だな」
「なんでだよ」
ツッコミを入れたのは、パイロ王国から来た炎天族の男だ。
彼は研究者ではないが護衛のための戦力として雇われており、今は暇を持て余していたため隣で覗き見ていた。
彼は言った。
「分かり易い方がいいんだろ? あいつの体な、故郷の荒れ野にいる牛のタウロッスそっくりなんだ。だから、うーん、タウロスでどうだ。短くていいし」
「確かに特徴にはタウロッスの一部も含まれる。が、あくまでも一部だ。しかも野をさすらう牛などと、聖なる存在を同一視するものではない」
それに炎天族の男は不満を漏らした。
「おいおい、うちでも儀式に不可欠な存在なんだぜ!?」
「なんと、そうであったか。それは早とちりをした。しかし粗野な男と考えていたが、祈りを捧げる先があったのだな」
「げへへ、繊細なとこもあんだって。そんな褒めんなよ。うちじゃ成人の儀に男はみな、そいつらを倒してな、その場で掻っ捌いて取り出した心の臓を夕日に捧げるんだ! どうよ威厳ある力の象徴だろ!」
「やはり気のせいであったか……」
その後しばらく押し問答が繰り広げられ、報告書は主の仕事であるから七色鱗羽牛でまとめられたが、張り合ってか炎天族の男はタウロスと呼び続けたという。
「がくー」
《その所作はどのような意味だ?》
思いっきり肩を落としてみたら、タウロスも真似して項垂れた。
「聞いて良かったのか悪かったのか……ツッコミどころしかない」
そもそも、そんな深いところまで聞きたかったわけじゃないんだよ。
「とにかく、お前さ、名前は?」
タウロスは、じっと俺を見上げる。
感情豊かなトカゲってのもシュールだが、無表情だとそれはそれで怖い。
わずかな無言の後、ふいとタウロスは視線を外した。
《我は人間の慣習など持ち合わせておらぬ》
なんの間だったんだ。
「そうかよ、でも他にタウロスが現れたら俺が不便なんだ。なにか名乗りたい名前とか、好きな言葉はないか?」
《主の好きに呼ぶが良い》
「えー……」
《なにを嫌がることがある。栄誉に思わぬか》
うっわー。俺、名前つけるの苦手なんだよな。
ゲームでも、一々仲間の名前まで決めるやつとか一日時間が止まるもん。
また、この苦しみを味わう日がこようとは……。
犬に名づけると思えばいいか?
代表的なポチとか、柴犬ならシバとか、セントバーナードならセントクンとか、土佐犬ならアウレリウス・アウグストサイヌスとか、そんなセンスしかない。最後のは嘘だが。
「本当に好きに呼ぶぞ。俺の都合だし……ジロウはどうだ」
《そんな主の下位存在の如き分類で呼ばれるのは癪に障る。気高い我に見合う、威厳のある言霊を与えよ》
「ダメなのかよ! ちゃんとした名前なんだぞ……文句言われると思ったけど。じゃあ、そうだな」
ま、七色なんたらも見た目からつけたようだし、これをもじろう。
有無は言わさない。
《そうだな、たとえば前の主は我をセイクリッドスケイルと呼んでいた》
「名前あるんじゃねえか!」
セイクリッドスケイルだ? 神聖な鱗……だよな、たぶん。
そのままウロコって、俺と大差ないセンスだ。前の主に悪意はなかったのか問い詰めたい。
しかし外国語的な響きということはパイロの言葉じゃないのか?
まあ日本でも、外来語に元の意味はなくなって日本語独自の意味合いのものも多いらしいけど。
それはともかく。
「ならそれでいいだろ」
《しかし前の主との契約により定めた名であるぞ?》
「契約により? 毎回変える必要あんのか」
《ないが?》
むしるぞ。
「じゃあ無理に変えなくていいよ。思い入れとかあるだろうし」
なんで、またジッと見るんだ。
《思い入れか……言われてみればなくもない。呼ばれる内に馴染むものなのだな》
ああ、そうか……。
今こいつがここにいるってことは、ただの人間だった前の主はこの世に居ない。
どんな経緯でかは知らなくても、別れがあったのは確かだ。
そうなるのは考えるまでもないことだから、こいつが気にしてるとは思わなかった。
人にはずっと昔のことだろうと、こいつがどう思ってるかは分かりようもない。
そう考えたら、中途半端に人間らしい感性を持ってしまったのは、良いことだったんだろうか……それも、余計なお世話かな。
「えぇと、お前も言っていただろ、言葉が意味づけるって。なんとなく名前の意味的にも、神聖とかあるしさ、前の主の思い入れみたいなのが込められてると感じるし。個々の名前は大切にした方がいいと思う……嫌じゃなければ」
《ふむ、主がそれで良いならば、我も再びそう名乗りたい》
「あ、ああ、もちろんだ! 格好いいと思うぞ」
ふぅー、危うく徹夜するのを回避できたぜ。
「セイクリッドスケイルか、長いから短くしてスケさんな」
《どこをどうしたらそうなる。それでは違う名になるのではないか?》
「愛称といって、名前の一部をもじったりするんだ。聞いたことないか?」
《耳にしたことはある。人間とは単純化するために何事も小難しくする生き物だったな。しかしスケ=サンのサンとは、どこから湧いて出たのだ?》
「それは敬称を愛称に含めたというか語呂がいいだけで意味はないというか……」
あ、毛羽立ってる。
「グルエェ!」
《大層なことを言って、無意味というか!》
「暴れるな舌でぺちぺち叩くな! 分かった、スケイル! 普通に名前っぽいしスケイルなら短くかつそのままだろ!」
《ほほう。あえて短くするほどの労力が必要なほどの変化は感じぬが》
「いや十分あるから。そ、そう、とっさに敵が現れて呼び出すのにも時間短縮になる、とかな!」
《なるほど得心した!》
真に受けやがった。
ようやく名前が分かったというか決まったところで、西の森際に到着していた。
即座に眼前で蠢く憎き存在に顔を顰め、ナイフを抜く。
《おお、主の腑抜け顔に真剣みが灯ったではないか》
「腑抜けは余計だ。あいつだよ、俺の敵は」
行く先々で立ちはだかる巨大な存在。
悪の組織といって差し支えない。
「戦闘員を匿い、敵が来れば自らは手を下さず見ているだけ……悪辣な奴らよ。てめえの血は何色だ!」
《緑、ではないのか……?》
俺は青々と茂る軍団に躍りかかっていた。
「クアァ……」
《休憩は終わりと言ったではないか……》
「人生の休息など、いつ取れるともしれない果てしない戦いなんだ、よ!」
俺が狩っているのは背高草。
匿ったヒソカニを俺にけしかけた悪いやつだ。
街の周囲と違い、森沿いと背高草帯の間にスペースがない。こんな場所まで、わざわざ手入れする意味もないからだろう。
現在は草の間にも木々の間にも黒い動きはない。
ヒソカニらが湧きだす前にと、全力で草の山を築いていく。
だが必死な俺の動きを阻害するものがあった。
「クゥクゥ」
狩る手は止めずに、左下に目を向けると、タウロス改めスケイルはポンチョを口の先で引っ張っていた。
「なんだ」
《この布きれが視界に踊って邪魔なのだ》
「あーそれもそうだな」
なんてことだ。
既に手元を見ずとも、草を刈り束ねる動作を自動で行っているではないか。
ますますキモイ動きが洗練されていく……。
手にしていた束を置いて、ポンチョの布をスケイルの頭を避けて、ベルトに繋いだ道具袋の下に挟んでみるが座りが悪い。
動いたら元通りだろうな。
「さっきまでどうしてたんだ」
《このように》
実演しなくていい。
窓の外をちょっと覗くのにカーテンを指で摘まむような自然さで、舌で捲っていた。ずっとそれでいいんじゃないかと思うが、面倒になったな?
仕方なく布の端に垂れている紐をベルトの背中側に結んでみた。
微妙に膨らんで邪魔だ。
「半端だが我慢してくれよ。これがあるとないとで背後の安心感が違うんだ」
《そんなことが気掛かりだったか。背後の警戒は我に任せればよいのだ。あちこち監視しようではないか!》
不安しかない。
「ああ任せた」
布がなくなり、鼻を伸ばして周囲をきょろきょろとし始める。
うきうきとして、索敵というより完全にお上りさんだ。
静かになったため、敵の殲滅に精を出すことができた。
「こうして冒険者タロウは、巨大組織の牙城を一部崩したのであった」
《我はつまらんのである》
タウ……じゃなかったスケイルは不満げに鼻を膨らます。
「愚かな、所詮は獣か。陣地構築の重要性も分からぬとは」
《プン、我は強大な力を持つ故、工作活動などする必要はないゆえに》
「お前は力に溺れて早々に脱落する噛ませ役かよ」
なんと言われようと、木々の間が見通せるようになって気分はスッキリだ。
これでヒソカニの潜み場所を調整できて、戦い易くなっただろう。
戦うのは俺じゃないが。
「あっと、しまったな……」
我を忘れて刈ってしまったはいいが、街から離れているんだった。
積んだピラミッドは、自力で運ばなきゃならない。
そもそも街の周辺だからこそ、刈ることに意味があり報酬が出るような……。
「完全にボランティアかよ!」
《敵とやらを打ち滅ぼしたのだろう? なにを急にあらぶるのだ》
ここで焼くわけにはいかないし、埋めるにも多すぎるし、このまま乾燥させるにも場所が悪い。
「ま、いいか。誰か使うだろ」
使ってくれるといいなあ。
縄で縛って繋げるだけ繋ぐと背に担いだ。
《おお、主よ、てっぺんに乗っても良いか!》
「やめろ。そんなことでケムシダマ草原のど真ん中に倒れたくない」
《どこへ行くのだ。街へ戻っているように見えるが》
「戻ってるんだよ。こいつを置いたらまた出かける」
《クゥ……そのようなものでも、主の戦利品なら仕方あるまい》
失礼な。極めて重要な物資だろうが。
結界柵に近い干し草倉庫のそばに荷を下ろして、めくっていた紐を解き、道具袋を隠した。街の中を移動中は外に出るなというのを覚えていてくれたらしく、スケイルは引っ込む。
倉庫を訪れ管理人に事情を話すと、案の定証明書をよこそうとするのを押し返し、代わりに少し質問に答えてもらうことで、どうにか報酬なしで草を受け取ってもらった。
さすがに余ってるんじゃないかと心配だったから、今後もこうして持ち込んでいいのか、他にどうしたらいいかと聞いてみたかったんだ。
燃やすとか畑に埋めるとか、何か手伝えることはないかと尋ねたが、どちらにしろ一度乾燥させたいらしい。
「気にせずどんと持ってこい!」
しかしいつもと変わらず力強い言葉を頂いた。
しばらくは討伐に集中したいから、頻度は減らすつもりだけどな。
南の森側へ戻ると、結界柵を背もたれに胡坐をかいて弁当を広げた。
スケイルを出さないとうるさいから、腰かけて食うとバランスを崩しそうだと思ったためだ。
「クェアァー」
シャリテイルは午後かな、だとすると沼地は遠いよな。
どこかに行こうとしていたような。ああ、鞄を買おうとしてたんだった。
じゃ食ったら店に行くとして……。
上の空で行き先をどうしようかと考える。
「ぶぐッ!」
突如、攻撃を頬に喰らっていた。
どうやらスケイルの舌攻撃だ。
「な、なにすんだよ」
《そこまで豪快に噴き出すとは。布を引っ張っても反応がないからだ……すまぬ》
無意識にスルーしていたぜ。
《我も食べたい》
「え、人間の食い物食えるの?」
《違う!》
毟ったパンを鼻先に出したら押しのけられた。
《我のための弁当とやらを持っていたではないか》
「お前のための弁当?」
ああ、マグ回復石か。
「それも食うのは俺だろ」
《そこは気分の問題だ、ハガーッ!》
スケイルが喋ろうと口を開けたところに回復石を放り込んだ。お返しだ。
バクッと反射的に閉じられた口の隙間と鼻の穴から、ぷしゅーと赤い空気が漏れだし、スケイルは目を剥いて固まっている。
あ?
煙はスケイルに飲み込まれたのか?
俺も回復したような気はするが、微妙に感覚が違う。
お、動き出した。
《ふ、ふむ。不思議な混ざりものはあるが、マグは増えた》
顎を俺の膝に置いてぐったりしている。脅かして悪かった。
こいつらも、喉に物が詰まることがあるんだろうか。
回復石を使うタイミングも考えた方がいいよな。
朝起きたときは、寝てる間に回復した分があるはずだ。それから、今朝の場合は夜が明けきったころには倒れかけていたから中サイズを使った。
そこから一仕事して、今は昼を回ったくらいか。そこそこ疲労感があり、小サイズにしてみたんだが。
どうも疲労感がおかしいな。
病は気からというし理由が分かれば、辛さにも少しは対処可能なのはおかしくない。朝からずっとふらついていたのに、気付いてから現在までは、それなりだ。
こいつが調整した分もあるだろう……あー、完全未調整だったわ。起き抜けからうぜえなーと思った瞬間は、こいつが外に出たからだな。一晩の回復分、ほぼ持って行っただろあれ。
「朝の使命はナシな」
《なんの話だ?》
「俺の装備を持ってくるとか話してたやつ」
《うむ、他の使命があるのだろう?》
「あー、別のことを頼むとか、言ってしまったな……」
《言ってしまった? 我も日々の使命が必要だ。前の主は聖なる世とやらに祈りを捧げていたぞ。最弱主にも何かあろう》
誰が最弱だ。その通りだが、もっと他に呼び分け方あるだろ。
それより、どこか不審なものを感じる。
「……最弱だから朝から何もしない。二度寝しないよう飛び起きるくらいだ」
《心得た! では暁光に煽られし刻限に、主の意識を深き闇より現世へ喚び戻すこととしよう》
「死んでねえから。それと、小道具から出てくるなよ?」
《なっ、なぜだ! 朝の一時しか出来ぬことではないか!》
裏が取れたな。やっぱりまだ抜け出そうと考えていたか。
「なら、マグ回復の中を朝に一度使うか、小を朝昼夕と三つ使うか選べ」
「グッ……グルアアァ!」
苦悩しているらしい。まさか気に入ったのか。味とかあるのかねぇ。
晩飯後に出かける前にも一つ使っておきたい気はするが、それは今晩の疲労具合を確かめてからにしよう。中サイズ一つ千マグだから、250マグの小は四つまでなら同じ額だが、少しでも節約できるに越したことはない。
《いくら我の力でも、一度のマグ使用で夜までもたせるのは厳しい。ならば今は日に三度の弁当を所望する》
「弁当じゃねえよ。今はってどういうことだ?」
《とぼけおって……主を鍛えると話したではないか。成功した暁には再び交渉の場を設けてもらうぞ!》
「そういや、そんな話だったな」
《見ておれ、必ずや我が意地で主の維持力を鍛えてみせよう!》
「はいはい期待してる」
なら明日には買いに行かないとな。
しまった、小サイズなんて需要が少ないのに在庫もあまりないだろう。かといって買い占めるのは気が引ける。子供たちが使わないとも限らないし、子供なんて怪我するもんだしな。
別口で特別に注文した方がいいか。でも、そうなると手間賃払わないと割に合わないよな。こういうのは指名依頼とかでギルドを通すもんだっけ? いやフラフィエは冒険者じゃなかったな。まあ決まりがあれば教えてくれるだろう。
そうだった、ちょうど遠征前の大量受注が入ったところだ……まずい。俺が提案しておいてなんだが、中サイズも混ぜないと間に合わないんじゃ。さっそく、相談に行った方が良さそうだ。
野菜の酢漬けを掻き込んで荷物をしまい立ち上がる。
「月に120個、日に千マグ。そのくらいなら大したことな……え?」
毎日となると、毎月三万マグの出費……?
普通に部屋が借りれるじゃねえか!
い、いや、怪しいスケイルの検証に付き合うだけだから一月のお試しだ。
それでダメだったら、すっぱりやめるからな!
俺は全ての予定を忘れて道具屋へ走っていた。




