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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
据え置き低ランク冒険者編

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214:聖魔素の眷属

 薄ぼんやりと水晶の中に浮かんだシルエットが、ゆらいで見える。

 それでいて陰影は明確になってくる。黒い影を縁取る光が強さを増しているためだ。

 それが脈打つように光るのと合わせて、水晶壁に走る亀裂の網は広がり、灯りの届かない視界の端へと消えた。


 一際甲高い音が狭い空間に反響し――砕けた水晶片が溢れる。


 どうにか後ずさりながら腕を顔の前に翳したが、幾つかの破片が体を打った重さは、革鎧の上からでも鈍く痛みを訴える。


 そんな痛みも、どこか非現実な感覚だ。

 パニック映画や、ゲームなんかでもたまに見た、巨大な試験管の中で謎の生命体が育てられるシーンをぼんやりと思い出していた。

 背後で動く気配がした。


「シャリテイル……?」

「出口はこっちよ!」


 声に振り返ると、シャリテイルは通路から頭を出し小声で呼びかけた。強張っていた体に気合いを入れ直して歩き始めたが、徐々に暗くなる。

 ランタンがない。

 振り返れば先ほどいた場所にランタンは立っている。破片の間に挟まったおかげで倒れず、幸いにも火は消えなかったようだ。一面を埋めるように散らばった水晶のおかげか、より広範囲を照らしている。

 そのランタンに手を延ばしかけて、声に遮られた。


「タロウ、急いで!」


 はっとして顔を上げると、崩れて折り重なっていた水晶のつららが動いた。それらが持ち上がり投げ飛ばされ、辺りの破片をさらに崩していく。


「さっきのやつ、だよな? こんなすぐに目覚めるもんなのか?」

「分からない……こんな風に現れたのなんて、見たことないもの」


 黒い影は、のっそりと起き上がったように見えた。急いでランタンを掴んで出口まで走ろうとした横を、シャリテイルがすり抜けた。


「え……?」


 咄嗟に端へ飛び退き振り返る。


「ふあ……!」


 重いものが落ちて来たような振動とシャリテイルの悲鳴が重なった。奥にいたはずの黒い影が、俺が居た場所に立っている。動きを止めようとしたのかシャリテイルが構えた杖を、容易く弾き飛ばしていた。


「シャリテイル!」


 そいつが、やや長い首を一振りしただけで、シャリテイルは体ごと吹っ飛んだ。

 俺を、かばってくれたんだ……!

 ランタンを地面に置いて、ナイフを両手で握り直すとシャリテイルの前に走る。


「待って、この子の存在感……ランチ君にも劣らない」

「らんち? って、ランチコア!?」


 ゲーム終盤のフィールドボスだ。

 いや、そいつにも劣らないということは別のものなんだ。ランタンから少し離れただけで、俺にはほとんどが薄暗く霞んでしまう。動く影を視界に捉えるようにして、シャリテイルの側まで後ずさる。横目で確認したシャリテイルは、横倒しになった水晶柱に背を預けたままだ。


「大丈夫かシャリテイル、立てるか」

「う、うん、平気」


 そう言うが、立とうとして地面についた杖を握る手は震えていた。俺と違って恐怖からではないよな。背中をぶつけたようだった。痺れて足に力が入らないのか。

 動き出す気配を感じ、ナイフを構えて腰を落とし前方に集中する。


「た、タロウ、だめ。お願いだから、下がって」


 こんな、切迫したシャリテイルの声を聞いたことがない。


 またか。

 またなのかよ。

 幸運値、仕事しろ!

 こんなのから、どうやって逃げりゃいいんだよ!


 のっそりと歩き出していた影が、ようやく灯りの範囲に入った姿は――。


「なんだこれ……」


 なんだ、こいつは。なんの塊だ。

 こんなやつ、知らない。


 最近ケルベルスを目の当たりにしたばかりだが、似たような体格の獣だった。馬よりは小さいくらいだろう。それでも、こんな獣に飛びかかられるだけでも無事に済むはずない。

 ケルベルスだって、なめらかな肌の表面に浮かぶ四肢の動きには、秘めた力強さが目に見えるようで恐ろしかった。


 さらにこいつを不気味に見せたのは、頭部が蜥蜴だったからだ。

 巨大な口からはぎざぎざと連なった歯が覗き、隙間から二股に分かれた舌がだらりと伸びる。灯かりに照らし出された体の半分も、鱗に覆われてギラついて見えたが、それが蠢いているように見える。いかにも爬虫類といった縦長の瞳孔が青く光っていなければ、俺には聖獣だと分からないだろう。


「うそ、まさか……最上級の聖獣、タウロス」

「こいつが?」


 どこに牛要素あるよ!


「まだ、こんな場所に残っていたなんて」

「聖獣が、なんで襲うんだよ」

「誰かと契約していなければ、魔物と同じだもの」


 そういえば、前にそんなこと聞いたな……。だからシャリテイルは、攻撃をためらいつつも警戒していたのか。

 シャリテイルは座り直すと杖だけを立てる。しっかりと掲げた杖の先端の石が、赤く輝いていた。


 魔技を使うつもりか?

 でも、それで駄目だったら……焦りが募って、頭が熱くなり何も考えられなくなっていく。

 こいつは圧倒的だ。

 どこがどうとは言えないが、周囲とは隔絶された存在感がある。


 ここには今、カイエンはいない。

 シャリテイルは、体勢を変えたから足が折れてるわけじゃないだろうが、まだ動けるまで時間がかかりそうだ。


 俺が、逃げてたまるか。

 かといって、こんなナイフで何ができる。


 つい腰のでかい道具袋に手を伸ばした。未だに躊躇いが手を止めかけるが、迷いを振り切って紐を解く。安易に頼りたくないなんて思ってはみても、命の危機を前にしては別だ。これは多分どうみても、その時だ。というより、他に俺にできることがあるか?

 ここで使わなくて、いつ使うんだよ!


「クアアアァァッ――!」


 (くう)に向かって一声鳴くと、そいつはこちらを向いた。

 俺と、蜥蜴の出っぱった目が合う。

 袋を破る勢いでコントローラーを引っ張り出すと、色々な道具も引っかかって辺りへ撒き散らす。手さぐりでスライドスイッチを高出力モードへ切り替え、前方へ構えた。強い相手なら衝撃もかなりのものかもしれない。


「シャリテイル、姿勢を低くしてくれ!」

「え?」


 疑問に思いつつも即座に杖を倒し身を低くしてくれた。


「ヴリトラソード!」


 俺が前に飛び出しながら叫ぶのと、やつが前足を落とし今にも駆け出そうと身構えたのは同時だった。

 マットブラックのコントローラーが、瞬時に透明な青い光を揺らめかせる。

 こちらへ向けて一直線に跳ぼうと体を伸ばしたそいつへと、青い刃が重なり、水が蒸発するような空気音が走った。

 高出力モードの長さなら余裕で届く。当たれ!


 まるで焦ったかのように、そいつは目を見開いたように見えた。即座に刃を避けるように空中で体を傾け、胴の側面で地面を滑り、跳んできた勢いのまま俺の脇を通り過ぎる。

 なんて反応速度だよ!

 俺も体を捻り土煙を払うようにして刃先で追う。

 今度こそ青い刃が――――重なる!


 そいつは飛び起きて、そして、動かなかった。

 何でもないように、ヴリトラソードを受けて平然と立っている。

 呆然とした。


「なん、で……なんでだ。鎧を来てるわけでもない。魔物なら、即死するんじゃねえのかよ!」


 頭に青い光を刺したまま、そいつは大口を開けて、ただ鬱陶しそうに唸り声を喉から響かせるだけだ。

 そして、無慈悲にも刃は細くなって掻き消えた。

 燃料切れ。

 歯を食いしばり、コントローラーを握る手を降ろす。

 これで駄目なら、俺にはもう、本当になにもできないじゃないか……。


 だとしても、守られてばっかでいられるか。シャリテイルが逃げられるだけの時間くらい、稼いでやんなきゃ。これまで世話になったことに、なんにも返せないままで終わってたまるか!


「シャリテイルは、人を呼びに行ってくれ!」


 腹を括ろうと、自ら退路を断つつもりで叫んでいた。

 後は、コントローラーが壊れないことを信じて、あいつの口の中にでも突っ込んでみるしかない。そう思って、一歩を踏み出す。


「何を言ってるのよ、タロウ!」


 シャリテイルの止める声は聞こえたが、蜥蜴頭に向かって一歩、二歩と近付いていく。不意に、別の音が俺の足を止めた。


「……クルアァ!」


 喉に痰の絡んだ鶏のようで、耳障りな鳴き声だ。



《……それで攻撃のつもりか!》



 鳥だか蜥蜴のような醜い鳴き声が、何か意味があるものに聞こえた。


「気のせいだな」


 絶望のせいで、とうとう俺もおかしくなったんだろうか。


「グルル。ゲルグゲゲェ!」


《我はそれと同じもの。赤きものどもと同じに扱うとは、失礼千万!》


 今度は、意味があるような声はクリアに響いた。


「いや、気のせいだから……」


 こんなにはっきりした幻聴が聞こえるとは、やはり恐怖のあまり常軌を逸してしまったに違いない。いや惑わされるな。こんな強個体なら特殊攻撃ということもありうる。

 あと少しというところで、蜥蜴の口が大きく開かれた。口だけでなく、ただの表皮だと思っていた首回りの鱗も膨らむ。よく見れば、羽だ。先端に丸い模様のある、まるで孔雀のようだった。


 俺が弱いと分かってるんだろう、避ける素振りすら見せない。

 ならば文字通り喰らえ!

 コントローラーを持つ手を捻じ込んだ――つもりだった。


「キシャエエェェェー!」

「ぐへ……ッ!」


 空気を裂くような振動音波というか、そんな叫びが全身に響いた。かと思えば俺の体は弾かれて、背中からその場に倒れていた。頭上で赤い塊が散った気がする。

 どうにか頭を動かし振り返ると、立ち上がったシャリテイルが杖を掲げていた。

 魔技を撃ってくれたんだ。

 なのに、咆哮だけで弾き飛ばすのかよ……俺ごと。


 だめだ。

 絶対、勝てない。


 ま……まだだ、まだ意識は刈り取られてないじゃないか。コントローラーも手にしたままだ。い、いける、いけ、る……。

 体を起こすと這いずるようにして蜥蜴へと手を伸ばす。眼前で動かない太い前足を掴む。縋りついたといった方が正しいか。グローブごしでも硬い鱗の下にある強靭さが伝わる。


「ゲルゥ……クェルキョィエクゥェ」


《ほう、立つか……ふむ。人族と相まみえるなど随分と久しいが、変わらぬ虚弱ぶり。よもや我に抗うつもりとは、見上げた根性だ》


「うるせえ、お前みたいなやつに、バカにされるいわれはないんだよ……もう、強いとか弱いとか、どうでもいいんだ……」


 今ここに居て動けるのは、強い誰かじゃなくて、俺だ。時間を稼ぐ間に、こいつから逃げ切れるとすれば、シャリテイルの方だろ。立ち上がれたなら、歩けるだろう。もう少しだけ、余裕をかましてろよ。

 掴んだ足を支えに体を起こし、歯を食いしばって顔を上げ、蜥蜴頭を睨んだ。


「クゥルケゥ――」


《もう人族からは、無謀な者など現れぬと思っていた。しかも、聖なる小道具を持つとはな――面白い》


「黙れよ。どっから声出してんだって……」


 突如、鳥蜥蜴から揺らぐ空気が俺にまとわりついた。

 青いマグ?

 消えろ。

 手で払うが、なんの手応えもない。


《目覚めてしまったものは仕方がない――受け取れ、我が力を》


「は?」

「グムモオォォ!」


 簡単に俺の手は振り切られた。飛び上がった蜥蜴もどきの速さに、避けようと反応することさえできなかった。できたのは真っ逆さまに突進するそいつが、ぶつかる瞬間に目を閉じることだけだ。激しい風に体を押されて尻餅をついた。

 閉じたまぶたの裏が白くなり、それから微かに青く光ったようだった。


 そして、静かになった。




 あれ……衝撃がこない。頭でも打って意識が飛んだ?

 目を開けると、驚いている様子のシャリテイルが覗き込んでいた。

 動けるなら、逃げてくれよ。

 そう言おうとして周囲を見回す。暗いが、あんな大きな蜥蜴もどきの影はない。


「あいつ、どこに……うおぉ!」


 立ち上がろうとして体が左にガクンと傾いた。左手に持ったままだったコントローラーが急に重りを括りつけられたように引っ張られている。

 地面についた手を見下ろして戦慄した。


「ふひぃ!」

《頭のすぐ上で騒ぐな》


 こ、ここコントローラーから、頭! 蜥蜴頭が生えてる!


「な、んんで、あ、ああ頭だけ!」

《何故かと問われれば、先ほど宣言した通りである》

「宣言だ? 勝手なことしてんじゃねえ! 離れろ!」


 気色悪い!


「うっ、嘘……気難しいタウロスが、誰かと契約しちゃうの?」

「これが契約?」


 俺は何もしてないだろ……いったい、なんなんだ?


「クルル、クァクァクァ!」

《ククク、ひ弱き戦士もどきよ、まさに我が力を貸すに相応しい依代ぞ!》

「癪に障るんだが……」

《クカカ、つまらぬ自尊心も気に入った! 虚弱であろうと諦めず上を向く心がけ、契約するに足る資質だな。我が目に狂いはない》

「クーリングオフできますかね」

《それは呪文か?》


 改めて蜥蜴頭を凝視し、今度は別の意味で何も考えられなくなる。


「まるで会話に反応してるみたいじゃないか……」


 おいおい、まさか、本当に喋ってる?


「え? だって、蜥蜴だぞ? いや……鳥?」

「グアァア!? グァギョエー!」


《我が蜥蜴だと!? 邪竜などといった赤きものどもと一緒にするな!》


 赤いものと同じにするなと怒るのか。

 さっきは、コントローラーと同じものだと言ったような。面白コントローラーを調べた時もあったが、こんなのが発売されたなど聞いたことがない。そうじゃなくて……。


「聖獣だから……」

「クルゥ」


《分かったか》


 こいつは、コントローラーが何か分かるのか?


「この青い光が、聖質の魔素に見えるんだな?」

「ルァルァ」


《やれやれ、とんだうつけものだな。それ以外に何がある》


 むかつく鳥は蜥蜴頭を振りつつ俺を馬鹿にしている。コントローラーの偽物に見えるマグが、本物と変わらない質を持つと、証明されたのか?

 そりゃ魔物で試して、そうだろうと思ってはみたけど、予想にすぎなかった。大抵の邪質のマグを持つ生物なら、聖魔素によって傷を負うと聞いたからそうだと仮定しただけだ。実際に、こいつは傷一つ負わなかったんだから、聖魔素汁100%なはずで……。

 俺はコントローラーを手にしたまま崩れ落ちていた。

 とことん役に立たねぇな、こいつ……。


 でも、当たり前だ……当たり前なのか?

 おかしいだろ。

 今更だけど、武器のマグ加工って、赤い石使ってたよな。魔物と同じ邪質のマグだろ。それで、なんで殺傷力が上がるんだよ?

 それで上がるなら、この聖質のマグだって、聖獣に効果があっても良さそうじゃないか。同じ聖魔素でも、勢いもあるし、どこか変質したもののようだし、少しくらいダメージは与えられるものと思っていたのに。


 同じ魔素だとかマグだとか呼ばれるんだし、ただの色違いだと思い込んでいた。

 俺が思うより、違いは色々とあるんだろう。




「……あのう、タロウ君? もしかして、その子と話せるの?」

「普通に喋ってる……というか、なにか聞こえ方は違うな」


 こんな場所なのに、つい気が抜けて考え込んでいた。

 気味の悪い蜥蜴頭は、まん丸の目をぱちくりと瞬かせ、不思議そうに俺を見上げている。もう攻撃する気配は全く感じられなかった。


 話が通じるらしいのは助かるが……まさか、俺が別世界からきて得た翻訳能力の一つ? 今さら?


「というか、話せるなら、初めから声かけてくれれば良かったろ」


《おお、そうであった。我が意志で、主のマグに働きかけているのだ。あいにくと一人相手が限界でな。調子を合わせるのに手間が必要で、簡単なことではない》


 はい予想通り。俺の能力ではなかった。そうだと思ってた。


「なんか、一人にだけ伝えることができるらしい。力を貸すとか言ってるから、攻撃する気はないと思う」

「ほっ、そうなんだ。良かった……」


 ようやくシャリテイルの肩からも力が抜けた。


「そうだった、足は!」


 慌ててシャリテイルを見て、言葉を失った。

 白いワンピースの裾が、黒く汚れている。結構な範囲だ。その下から、傷口を縛っているだろう布の切れ端が覗いていた。それも、黒く滲んでいる。

 そこでようやく怪我をしていたのだと知った。


「ごめ、ん……ほんとうに」


 処置する手伝いすらできなかった……役立たずは俺だ。


「大げさに血がぶしゃーってしちゃったけど、傷は大したことないわよ?」

「そうか……そうだ、マグ回復石は足りるか?」

「ええ、今は大きいのを使ったから、しばらくは平気」


 気が利かなすぎる。


「クァークァクァ」

《変わらず人間とは軟弱なのだな》

「お前のせいだろうが!」

「クォァーッ!」

《何を言うか、そこな者が先に攻撃体勢をとったのではないか!》

「いつ俺たちが! ん……?」

「クァ」

《どうだ、気が付いたようだな》


 俺は動くところを見たわけではないが、こいつが物凄い勢いで突っ込んできた。

 だからシャリテイルは杖を構えた。


「いや、やっぱりお前が突然すっ飛んできたんだ。あんな速度で飛んでこられたら、攻撃されたと思うだろ」

「クァッケケー、クァココ!」

《こちらは長き眠りから覚めたばかりの、夢うつつの中だというのに、武装した人間が我を狙っている姿が見えたら倒しておこうと思うだろう!》

「おい、まさか……寝ぼけて攻撃したとか言うなよ?」


 ちょっと目を逸らしやがった。


「クゥン。グレルゥ……グルルァ!」

《そんな怖い顔されても知らんもんね……。人間の中には、我らをそこらの道具のように手荒に扱う者もいた。欲しいものでないと分かると、打ち捨てていく輩もいたのだからな!》


 そんな酷い奴が……人間だもんな。さもありなん。


《我も起き抜けで驚いていたのだぞ》


 鱗模様の冠羽を逆立て、ぷんぷんと怒りを露わにしている。盗掘野郎と思われたなら仕方ないのかな。


「驚いたのは、こっちもだ。とにかく、事情は分かった。誤解だったようだな。でも怪我した事実は変わらない」


 俺の眼光など届きはしないだろうが、思いっきりじろりと睨む。


「クケェー!」

《仕方ない! 主の仲間なのだろう。そこの者には謝ろうではないか。怪我を負わせてしまったが、こちらも命の危機と考えたのだ、許せよ。そう伝えるがよいぞ》


 意図は届いたらしい。偉そうだが、言葉遣いによる印象のせいかもしれないし、今はそんなところをつついてる場合ではない。


「シャリテイル、さっきはゴメンってさ。殺されると思って、ビビッてたんだと」

《誰がそのような者に殺されるか! びびって、とはなんだ?》

「そっか、私が脅かしちゃったのね……ごめんなさい。でも、怪我させなくて良かったわ」

《分かってくれたなら良い》

「なんで偉そうなんだよ」

「コキュエー!」

《なんと不本意な。我は聖獣の頂点に立つものなり。真実、偉いのだ。その我が誠心誠意、心を込めた言葉である!》


 話してると頭が痛くなってきた。


「一度、出よう。傷も見てもらったほうがいいし」

「そうね。でも、もう歩けるから心配しないで」


 感覚的には別として、それほど時間は経ってないだろうとは思うが、魔物が現れる前に出た方がいい。

 俺はランタンを取りに立ち上がった。


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