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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
据え置き低ランク冒険者編

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203:繁殖期に挑む

 薄暗い部屋の中、天井近くにある明り取りの窓から差し込む日差しの下で、俺は本を手にしている。

 いつものように目覚めたが、すぐには森に出かける気も起きずギルド書庫に来ていた。


 前回はスルーした薄い本の中から、一冊を適当に棚から引き抜き、ぱらぱらとめくる。

 薄い本といっても変態紳士的に興味が湧く内容ではないため、なんとなくしか頭に入ってこない。朝っぱらからそんな本見るのもなんだけど。


 たまたま取り出したのが、前に知りたかったマグに関する調査についてのようなんだが、やる気がいまいちなため流し読みだ。


 どうにか文字を追うも、魔物がマグの塊であり邪竜の生み出したものである関連が証明されただとか、それらが聖魔素に反発するため影響を下げようと分裂していくだとか、今では当たり前に知っているようなことばかりに思えるせいでもある。


 そりゃ何も手がかりがないときに、これだけのことを発見したってのはすごいことだとは思う。だとしても、半ば自ら体験して知った事実と特に違いも感じられず、まるで答え合わせをしているようで、すぐに飽きてしまった。


 無意識に奥付でも確認しようと最後の頁を開いたところで、出版社名だのといったものはないが、他の本と違い調査人らの名が一面に記されていた。

 一行目には筆頭調査隊だとかいう三人の名が並んでいる。


「おー役職付きだ。あろーいんざだっく低爵、聖者さいれん、研究家あぅとぶれーく? こういうのも、本格的に調べた奴らがいるんだな」


 意外に思うのも変か。

 地球だって何千年と昔からあれこれ考える人間がいたんだ。この世界にだって、天才と変人紙一重の奴らがいても不思議ではない。


「うむ。有意義な時間であった」


 欠伸をこらえつつ、ぱたんと本を閉じて棚にしまう。体勢的に読み辛くて一冊で限界だ。身が入らないといった理由の方が主だけどな。


 ようは、またしても現実逃避なのだ。


 妙な依頼も片付いたはいいが、その後の話は保留のまま。

 しかもギルド長の口ぶりだと、お試しはお試しでも別件の試験的なものだったように思う。そのまま立ち消えになってもおかしくないときた。

 言いたいことはあれど魔震と繁殖期で時期も悪いから、今から押し掛けるわけにもいかない。他のみんなに迷惑がかかるだろうし。


「……なえるよな」


 その後の人族冒険者のためになるんならと、あれこれ意気込んでいたのはなんだったのかと思うと、気が抜けてしまった。

 俺自身で思うよりも、ずっと本気で期待していたらしい。

 だって、そうなるとなぁ。これからも、ぼっち決定かと思うと心折れそうだ。


 問題はそれだけではない。

 お試しで俺を置いてくれたんだとして、今後はどうなるんだろう。

 どうにもならないことを、ぐちぐち言っても仕方がないとはいえ。この街に留まるつもりなら、また仕事の心配しなけりゃならなくなるのか……気が重くなる。

 はぁ……こんなところで溜息ついてばかりでは、それこそ何も変わらないな。


「休憩終わり!」


 重い気分を振り払うようにギルドを飛び出すと、そのまま南の森へと走った。


 昨日は、これからも草刈り依頼が続くのだと思っていた。

 昨晩は、コントローラーに機能が増えた。


 いつもと変わらないと思っていたら、何も変わらないなんてことはなかった。

 自分の望む通りだろうが不本意だろうが、良くも悪くも世の中全体が動いてるんだ。


 なにかが自分の身に起きたとき、望む方向に持って行けるかどうかは、それまで俺がどれだけ動いてきたかにかかってるだろ?

 だったら、考えあぐねて立ち止まるよりも、これまで続けてきたことをやってる方がいいさ。


 例えば、対戦ゲームで苦手なキャラやプレイヤーとマッチングしたときに勝てるかどうか、せめて接戦できるかは、それまでにどれだけ対策練って練習したかによるように。

 えー……そのために、どれだけ金を突っ込んだかは考えてはいけない。




 南の森へ到着。ホルダー位置を見ることなく、自然に手を伸ばしてナイフを握っていた。もう来た頃のように、指を切りそうだといった不安はない。

 よく慣れた頃に怪我をするとも聞くから、俺などは気を付けるべきだけどな。


 森に入る前に気合いを入れる。

 眼前にあるのは、いつもの最弱の森とはいえない。

 今日は繁殖期本番だ。


「キェシェ!」


 踏み込もうとする前にカピボーに跳び付かれた。

 早速、増殖してるな。

 カピボーを毟りながら、出張してきたケダマの波を蹴散らすと、鳴き声が混ざって消えていく。


「ケッキャピーッ!」


 俺も前回とは違う。

 二度と頭皮を削らせはしない。

 劇的な成長を遂げた、ケダマスレイヤーの力を見るがいい!


「喰らえ! いつもと変わらないが気持ちばかり気合いがこもってる? マチェットナイフ!」

「キャビーッ!」

「フッ、他愛もな……頭に柔らかな重みがあるような」

「ホカムゥ? ……ゲャッ!」


 フッ、ホカムリにだって巣にはさせない。鉢金もどきのおかげでな。

 藪から溢れ出たケダマどもを蹴散らすと、ゆっくり奥へと進む。


 多少は余裕もできたし、昨晩のことでも考え直してみようかな。

 レベルが30とキリのいい数になり、マグも十万に達していたことで、コントローラーを確認してみたところ新機能が現れた。


 しかし、いつものようにろくな変化ではない。

 高出力とかいう無駄遣いモードだ。ほんと、ただのガラクタだよ。

 なんだったんだよ高出力って。いやわかるけどさあ。

 長くなっても、ますます燃料くって、まるで良いところがないじゃねえか。

 いや、他種族にならマグ集めも容易いんだから、宝の持ち腐れか……。


 ふぅ……その愚痴は脇へ置いておくとして。

 結局、レベルとマグのどちらがトリガーだったのか分からん。

 で、その条件なんだが。これまでの変化した時期と比べて、順当に考えるなら、やっぱレベルだよな。


 初めの頃、なにも起こらないからと放置していたせいで、ようやく訪れた変化に気が付いたのは、レベル15、6と中途半端な数字になっていたはずだ。

 ただ数値が表示されるようになっただけだが、よく時期を覚えていないのが歯痒い。


 とにかく、次の変化であるヴリトラソードに気が付いたのは、レベル20を過ぎたあたりだっけ。

 あれも、なんとなく呟いたという偶然だったけど……おい、もし口にしてなかったら永久に気が付かないままかよ。

 こいつ本当にひどいな。


 とにかく三度目となれば、10レベル上がる毎に変化するのは確定だろう。そうであってほしい。


 レベルが機能の解放に関係するとして、次はマグの方だ。

 高出力の消費速度からして、マグの方の使用可能下限も通常モードより上がっているんだろうな。


 ヴリトラソードが、三千から五千くらいだったっけ?

 高出力は、一万じゃ足りない気がするんだよな……。


 生活にしろ、なにかを試すにしても、マグ、まぐ、MAG!


「ああーいやになる!」


 くそっ、こうなったら……南側の森殲滅作戦だ。通常モードを起動できる程度のマグは回収しておきたいし。まあ嫌でも今から回るんだけど。

 はいはい次行こう!


 俺は捕らぬケダマの皮算用を目論み、慣れてしまった森の奥へと突き進む。

 しまった、ケダマには皮がない。儲けようがないじゃないか。


「捕らぬケダマのマグ算用、も変か?」

「ケシャー!」

「ホッケムー!」

「おっと来たか。よっしゃ入れ食いや!」


 標の石がある辺りに来ると、わらわらと最弱魔物総出で歓待された。

 しかし周囲が騒然としたかと思えば、俺の八つ当たりアタックによって、みるみる内に静けさを取り戻していく。

 通常モードなら起動できるマグは、あっけなく貯まっていた。


「助かったけど、なにか多かったような……こいつら、こんな奥から溢れてくるのかよ」


 集まってくれた方が一気に潰し易くて助かるが、気持ち悪さも増す。

 なんとなく、これに慣れてしまったのは、つい別の事を考えてしまって現状に気が回らないせいか。意地で進むのは、良くないだろうか?


 近頃はハリスンやらと上級者たちの戦いを見過ぎたせいか、最弱ケダマごときのスピードに後れを取ることはない。

 しかも繁殖期のケダマだ。ほんの少し興奮気味のケダマだぞ?

 前にカイエンの後をついていったときは、零れてくるやつの対処だけでも精一杯だった。

 今回はそのケダマの束さえ、容易く片付けてしまったではないか。


 やはり俺の野生化が進んでいる気がする……きっと、少しは冒険者っぽい図太さが身についたに違いない。


 そういえば前回は奥の森まで来てないと思ったが、自分のごく周辺しか視界に入らないくらい必死だった。

 幾らカイエンが歩きで休憩も多いとはいえ、討伐に結構な時間をかけた。今の俺がせいぜい二、三時間で回れるんだから変だな。

 まさか、俺が気付いてなかっただけで、奥の森周辺まで回ってたんじゃねえか、あいつ。


 あ、カイエンで思い出した。

 また、あいつ来ないだろうな?

 さすがに今回は手一杯かもしれないが。


 他の奴が来る可能性も……と思ったが、今朝はギルドに寄ったのに何も言われなかったし、最弱冒険者などに構っている暇はないだろう。

 逆に、好き勝手できるチャンス?


 そうだな、今日だけは何も考えまい。

 生活かかってるし、魔物掃除に集中して行こう。

 不幸中の幸いと思って、稼げるだけ稼いでおこうじゃないか。

 気を取り直して進むぞ!




 辺りを見回してみたが、いつも通り人気などない。


 ヤブリンやツタンカメンらは蹴飛ばしながら半ば無視する。

 甲羅の準備に時間がかかるせいなのか、繁殖期でもあまり増えた感じはない。

 通り道だけ掃除すると、そのまま奥の森付近へと走る。


 木々の上が騒めき、四脚ケダマが姿を現した。


「来たな」


 すかさず飛びかかって来た一匹を捕まえて四本の脚をまとめて掴み、バット代わりにして別のやつを打ち返す。


「ケキャキャーッ!」


 打ち返したやつが、さらに後ろから来ていたケダマにぶつかって落ちたところを踏みつぶし、そいつらを避けて飛びかかって来た奴を掴んでは木に叩きつける。

 バット代わりのケダマは用済みだ。思い切り指に力を込めれば、そのまま食い込んで潰れて消えた。


 一組倒すのに、一分とかかっていないだろう。

 ケダマなど、しょせんは毛の玉よ。いや毛じゃないな。偽毛。ヅラかよ。


「キャシャーッ!」


 一息つく暇もないな。

 さすがは繁殖期。さらに一組、二組と近付いてくる。風が吹き荒れたように葉を揺らして騒々しい。

 おかげで、気が付いた奴らが一気に集まってくれるだろう。


 連携をとって両サイドから同時に飛び降りてくる二匹のケダマを、両腕を広げてなんなく鷲掴みにする。

 お前らの突進攻撃など、我が草薙の腕には無力。


「ケダマ二刀流――」


 二ケダマ流?

 とにかく鷲掴みにしたケダマをグローブ代わりに、顔の前で構えて待ち受け、到着した端から潰していく。


 シュッシュッ、ベヨン!

 ケャッケャッ、ぶキャッ!


 風を切って、という気分でジャブを打つが、弾力がある四脚ケダマからは微妙な音が。

 ええい、気が抜ける!


 何匹かが並んで跳んでくるのに向けて、腰を捻って大きく腕を振りぬく。

 グローブケダマも、まとめて辺りに転がって行った。


「キャキキー……」

「くっ……そこは空気読んで貫かれてろよ」


 渋々と一匹一匹を受け止めては盾にし、投げつけたり殴ったりと潰していった。

 一組倒しては、さらに奥地へと進む。


「見ろ。パワーアップして得た力で千の腕を持つがごとく攻撃し、ケダマウェーブを打ち破った――そうさ千手タロウとは、俺の妄想だぜ!」


 ひたすら懸命に、ちぎっては投げと繰り返していく。


「目指すは、泥沼だ」


 そろそろナイフも使うか。

 左から来たケダマを腕で遮り、右横から来たやつへナイフを突き出す。

 自ら凶器へと飛び込んだケダマが消え、ケダマのとりついた腕で別のヤツを肘打ちし、地面で気を取り直したケダマを蹴りとばし、起き上がろうとしたもう一匹に、返す足で踏みつけ止めを刺した。

 蹴ったケダマが木に跳ね返ってきたところに距離をつめ、ナイフを突き立てる。


 こいつの素早さにも、目と気分だけじゃなくて体も慣れてきたようだ。

 それと無暗に動き回ろうとしない動き方のコツが、掴めてきたのかもしれない。

 たんにレベルが上がったからかもな。


 周囲が静かになったのを確認し、コントローラーを確認する。

 どちらにしろ、おかげで今欲しいだけのマグが貯まっていた。




 実戦でヴリトラソードを試すにも、それなりにマグを持つ相手がいい。

 当てるのに手間取るだろうから、体が大きく、それでいてそこまで素早くない。

 しかも、一度に現れる数が少なく、俺でも倒せるレベル帯。

 だから沼地だ。


 できればフナッチではなく当てやすそうなノマズがいいんだが、見て選べないのが難点だな。

 さらに念入りに周囲を回って四脚ケダマを排除。


 時期的にまずいから、今までよりも離れた場所から、石を投げる。

 ぼこっと泥が弾けて頭を出したのは、フナッチが、ひーふーみー……何匹いやがるんだよ!


 地面が湿った感じのないところまで後ずさって様子を窺う。

 結界側ではなく、街に対して平行に移動したから襲ってきてくれるだろうか?

 おっと、この辺でも足元は見ていないと、モグーの件もあるからな。

 常に一方向は木を盾にしていよう。


「準備はいいぞ。さあ、来い!」


 フナッチをどうにか挑発することで、地中で移動できる範囲を確認できた。

 モグラが元らしきモグーと比べて、沼の魔物は硬い地面を掘り進むのは無理らしい。


 土を掻き分けながら進んできたフナッチどもは、すぐに地上へ飛び出した。

 ちょうど地面が乾燥してきた辺りだ。


 のたのたと這って移動するから遅い。

 だったら一匹ずつ潰せて楽勝だな!




「て……手間取らせやがって」


 ふっ、奇襲さえ防げば、打ちあがった魚など敵ではない。

 ぷすぷすと刺して終了だ。

 一度、柔らかな地面に足を取られてドキッとする場面もあったが、別のフナッチに尻餅をついて体勢を立て直せたからセーフ。


 心配だったのはノマズも一緒に出てくることだった。あいつは跳ねるからな。

 が、強さに関係なく地中を移動できる範囲はほぼ同じようで、距離を取ってから待ち受けて各個撃破だ。


 そうそう、今回、タヌシを初めて見た。

 黒く丸っこい貝殻からタヌキの顔が生えた見た目は、やはりグロいものだった。

 前足だけで土を掻き出すように移動して遅い上に、力もゲーム中レベル11とノマズ以下だから、特に何事もなく頭を刺して終わり。


 因みにヤドカラと同じく見かけ倒しで、貝殻は素材にならない。

 こいつらの基準が分からん。


 ま、これだけ確認できたならいいだろう。




 前回の繁殖期から難度は体感で一段階アップしたが、攻略できたと言えるんじゃないか?

 他の奴から見れば大差なかろうと、進歩してるのが自分で分かるだけでもいいさ。

 自己満でも、満足したし一旦戻るか。


「……待てよ?」


 なにか、おかしくないか。

 思わず鬱蒼とした奥の森を見渡す。

 もう四脚ケダマさえいないし、辺りは静かだ。


「いやいやいや、急すぎない?」


 そりゃ前回よりは強くなってるだろうが、昨日までと比べて随分と動きが良すぎる。


「おかしい……あ、なんか前もこういうことあったろ」


 ここまでじゃなくとも、似た感覚があった。


「うーん、どこで……というか、いつだっけ」


 まあレベルが上がった時だよな。

 たまにという感覚なら、コントローラーの機能が開示されたとき?

 そんな気がする。

 レベル10毎に上乗せがありそうだな。



 ふと泥沼を振り返る。

 魔物の移動跡で地面がぼこぼこだ。


 気持ち悪っ!

 何匹倒したっつーか、どんだけ地中に潜んでんだよ。

 さっぱり片付いて良かった。


 そこで、はたと気付く。

 ノマズでヴリトラソードを試そうとしてたんだった……。


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