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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
【挿話:冒険者街の記憶】

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あるマグ研究家の記録と、使者の気苦労・二

「垂れ(たれそう)ですか……そ、それはどうかと」


 あの力強くも儚く美しい草花が、判別出来れば良しとばかりに、いい加減な名を授けられてしまったことに愕然とする。そのように呼ばれて良いものかと異議を唱えるべきか戸惑うアローインだったが、しかし重要な任務がある。

 そんなアローインの気も知らず、アゥトブは満足気に続けた。


「これほど体を表す相応しい響きはなかろう」


 確かに、見たままである。

 過信してはならぬが、アローインは己の感性の方が一般的なのではないかと自問する。しかし、なにより研究院へと送られる報告書に記される名が、本当にそれでいいのかと思わないでもない。


 アローインは武人であり、研究院がアゥトブから受け取った報告書を手にはしたものの、直接内容を精査したわけではなかった。研究員から、どのような研究でどのように素晴らしく、どのように今回の国の調査に役立つかを、噛み砕いて説明させただけだ。

 武人ではあるが、ザダック中爵家に生まれ育ったアローインは、最低限の教養は身に着けている。そして、ならばこの男にどう約束を取り付けるかと調査の範囲など協議し、ようやく訪れたのだ。


 その研究報告もこんな風だったのか、それでよくここまでの評価が得られたものだと唖然と感心の気持ちが同時に沸き起こる。


 研究員らが重視するのは、事実。確かに、それさえあれば足る。無暗に否定するものではないとアローインは己に言い聞かせ、どうにか口をつぐむことにした。


 もしや、このように動揺を誘うためだったのではないかと至り、アローインはアゥトブの顔色を窺う。

 が、すでにアゥトブは、書きつけたばかりの紙を、似たような書類と紐で束ねて脇へ追いやっているところだった。


「この件は済んだ。話を戻そう」


 この男は本気なのかわざとやっているのかと、アローインは判断に困った。それだけ容易い相手ではないのだと気を引き締めなおし、協力を得るべく少し押してみることにする。一つ咳払いをして切り出した。


「調査に必要な費用は全てこちらが出します。調査中に私的な調査対象があれば、そちらへも取り組んでいただいて結構です」


 懐事情についても調べてあるし、魅力的な条件ではあるはずだ。ただし、先ほどまでの態度ではっきりしたのは、金銭的援助よりも研究の自由が優先されるだろうということだ。


 しかし勝手な行動をされたとて、無駄にはなるまい。そもそもが、これまでの研究を元に訪れているのだから、より研究が進む可能性の方が大きく、国が求めるものにも反しないだろう。

 案の定、不満げに口を開きかけたアゥトブに、アローインは言葉を被せる。


「また費用だけでなく付添人を手配します。研究院との繋ぎなど、面倒な雑務は多く負担も大きいはず。調査へも随行者をつけますが、身の安全を確保する以外に行動に口出しはさせません」


 アゥトブは細面の顔を歪めて、唸りながら俯くと両手で頭を掻きむしる。肩にかかる、森葉族特有の色褪せたような金の髪が方々へはねた。


「研究院の報告会なんぞに参加する気はないぞ」

「伝えましょう」

「金を出そうなんて輩は、無理な期日を迫ろうとするものだ」

「それは期日を、どう捉えるかによるかと。どのようにお考えですか、魔脈の変動を」


 静かながら強い意志を込めたアローインの声に、アゥトブは頭を掻き毟る手を止めた。

 アローインが言葉に含ませたことを読んだのだろう。邪竜などと呼ぶようになった、マグや魔脈を司るらしい存在のことだ。


 そもそも魔脈の存在を人々が明確に意識したのも、その邪竜が現れたためだ。邪竜の能力によるものなのかは定かではないが、魔脈の活性化で地面を盛り上げ山を作り、その際に魔震が発生する。

 ただの地震との違いは、揺れを利用して膨大なマグを、大地に溢れさせるらしいことだ。


 植物どころか人々の立つ大地の内に流れるマグであり、まさしくアゥトブが心血を注いで調査しているもののはずだ。

 だが、あまりにも規模が違いすぎた。たかが研究家一人にどうにかなるものではない。だから手に余ると言ったのだろう。

 そこでアローインは、すでにアゥトブ自身が己の研究との繋がりを考えていたようだと気が付いていた。


 乱れた髪を気にするでなく、アゥトブは顔を上げると、さも不愉快だと言わんばかりの視線をアローインによこした。


「……いいだろう」

「おお、引き受けていただけますか!」

「約束しろ。俺の行く先を決めようと思うな」

「我が立場にかけて、その約束は守りましょう。予定は都度聞かせていただくが、計画はお任せしますよ。では報告へ戻り、後日改めてお伺いします」


 アローインは、うまく相手を乗せられたようだと安堵した。

 だから手で追い払うような仕草をしたアゥトブの声が、気が変わらない内にと部屋を出ようとするアローインの足を強張らせた。


「希望があるなら、このようにうまく誘導することだ」

「……成果に、期待していますよ」


 苦笑を浮かべたアローインは、ようやく肩の荷が下りたような気持ちで足早に立ち去った。



 ◇



 アゥトブはアローインが去ると、さっそく最低限の必要な荷物をまとめていた。

 いつ開始かは分からず、大がかりな作戦ならば実際に旅立てるまでには時間を要するだろう。だが、アローインの様子から間もないことを感じ取っていた。


 他に立てていた予定は破棄することになるが、決めたとなれば特に後を引くことはない。

 新たな計画を頭に思い描きつつ、部屋を片付けながら、アローインとやらのもたらした事柄について吟味する。


 なぜ、わざわざ一時滞在者にすぎないアゥトブへ大仰な使者をよこしたのか。

 アローインの身なりや振る舞いから、特権階級の地位にあることは窺えた。

 王から直々に指示を受けるほどならば当然ではあろうが、森葉族のディプフ王国には、そういったものはない。社会へ向けて明示されるものはという意味でだが。


 ともかく、各地を巡って腹が膨れるでもない研究や調査を進めている変わり者など、己一人だろうといったことはアゥトブも理解していた。

 まずいことにアゥトブは、国の調査に必要な、最先端の知識を持ち合わせているようだ。

 しかし、大したことをしてきたわけではない。恐らく研究員らも、アゥトブが時間をかけてきただけのことだと分かっているはず。国が多くの人間を動かすというならば、すぐにもアゥトブ以上の成果を出すに違いなかった。


 無論、その時間が問題なのだろう。

 期日があるとするなら、人の世が邪竜に飲み込まれる日だろうか。

 今はまだ眠りについている邪竜だが、その目覚めが近いとでもいうのだろうか。


 調査が始まれば、そういった情報も開示されるのかもしれないが期待は薄い。しかし、国が外部の人間の手を借りてまで大々的に行動を起こすのだ。それが答えのようなものだろう。

 最悪の事態が起きる前に何かしらの端緒を掴み、手を打たなくてはならない。

 邪竜を退けるだけの対策を講じねばならないのは、間違いないのだ。




 アゥトブはアローインの言ったことについて思いを馳せた。

 大自然に広がりつつある恐ろしい事象が、この研究と繋がるだろうと言ったことだ。

 アローインは断るのが難しい状況であると分かっていながら、あえて研究での交渉にこだわっていたようだった。アゥトブは、それを評価し引き受けたのだ。

 どうにも捻くれた、自分自身の頭を納得させるために。


 このまま魔脈が広がっていくならば、遠からずアゥトブの行く手も阻むだろう。

 単純な事実であり、それを言われれば断りようもなかったのだが、アローインは単純な強要と脅しを選ばなかった。

 アゥトブの研究にとっても有用だという可能性を示しただけだ。



 祖国でもない国の意図がどうのと知ったことではなかったが、人類全体へ圧し掛かる問題ならば、いつまでも無関係を貫くのは無理だ。いずれは関わらねばならぬなら、この依頼に乗れば幾分かはましな状況の内に携わることができる。

 人が滅ぶか否か。

 実のところ、どう未来が転ぼうとさして気にしていない。どちらにしろアゥトブは、終わりの日まで研究対象と向き合っているだろう。


 しかし生への執着は薄くとも、アゥトブとて人間だ。人生をかけた研究が、少しでも未来を引き延ばす道に続くというのならば、無理に避ける理由はない。


 早い段階から関わる方が、行動もしやすいだろう。

 依頼を持ち込んだアローインからは、ただのはったりでなく、少しは研究の中身を理解しての言葉であることも伝わった。そして身分を考えれば、取り決めたことを、その面子にかけて反故にすることはないはずだ。

 結局のところアゥトブは、単純にアローインの人柄に賭けたということだった。




 とある早朝、アゥトブは庭の天幕に居た。

 手にした水を湛えた桶を、火鉢へと注ぎ込む。蒸した空気が出入り口へと流れ、そこに居た者が咳き込んだ。

 ちらと視線を向けると、アローインが口を押さえつつ入り口の垂れ幕を開いていた。

 そんなアローインの様子に取り合うでなく、アゥトブは火の後始末を続ける。


「枯れるわね」


 別の声がかけられ、アゥトブは淡々と答える。


「いつものことだ。留守の間に世話する人間を雇うほどの余裕はない」


 腕を組んで気だるげに立つのは、もう一人の訪問客。アゥトブよりも明るい金の髪を肩口で切りそろえた森葉族の女性だ。

 アゥトブと同じく研究家、いや、現在は王立研究院に属する研究員の一人であるサイ・レンだった。アローインが、アゥトブへの繋ぎを頼んだ人物だ。


 喉を撫でながらも気を取り直したアローインは、アゥトブへと申し出た。


「レーク殿、報告していただければ、そういったことも手配しますよ」

「これから、ますます厳しくなる状況で、他にしわ寄せがいくというのにか。その費用は誰から出てきた。こんな道楽に使うなどもってのほかだ」


 やや不機嫌に言い放ったアゥトブに、アローインは面食らって言葉を失う。

 己の身を捧げたというほどの研究に関することのはずだし、しかも、その費用を注ぎ込んだ調査に参加する男の言葉である。


「くっ……ふふ」

「レン殿、笑うところですか?」

「ごめんなさいアロー。アゥトブは、こういう人なのよ」

「ええ、いつも驚かされています」


 アゥトブに関する人嫌いで偏屈といった噂は、実のところ彼女によるものが大きいのだが、人の集う場所へ出かけることのない当人の知るところではない。実際に、同郷のよしみもあろうが、アゥトブともそれなりの交流があるのは彼女だけだ。

 この時勢に研究家などと嘯く穀潰しなど、故郷では彼ら以外に存在しなかったのだ。




 アローインが依頼をもたらした日からほどなくして、国の調査隊は方々へと旅立っていた。

 アゥトブは、その報を耳にしたときに知ったのだが、この調査はパイロ王国とディプフ王国とも協力した大がかりなものだったようだ。


 本当に俺の手が必要だったのだろうかと、アゥトブは眉間に皺を寄せる。

 当然ながら幾度かアローインと会談し、マグの調査に際するコツのようなものを聞かせはしたし、邪竜と関連することと目的も明確なのだから、これを調べてはどうかと注目すべき点も話し合った。


 それでも後の詳細は、それらをアローインが研究院へ持ち帰って協議した結果によって、行動は決められたはずである。

 実のところ、どれだけアゥトブの言及したことが反映されているかなど知る由もないが、目が見え頭が働くのならば、何も得られないということはない。些細な事柄でも、多数が目的を一にして持ち寄れば、何かしらは掴めるだろう。


 不思議ではあったが、知識だけ借りて後は大人しくしてろと言われなかったことは、喜ぶべきなのだろうか。

 そんなことを考えつつもアゥトブが荷を担ぐと、アローインとサイも準備を終えて並んだ。


「まずは東門だ。こうも広いと街を出るだけで一苦労だな」


 アゥトブの号令らしき言葉に、三人は歩き出した。アゥトブ自身が出かける意味を疑問に思ったのも当然だ。たった三人の隊である。


「人が多いのは好かんと言いはしたが、まさか君らが参加するとは」

「私が居て心強いでしょ?」

「確かに、俺にはない特技を持っているな」

「もう、からかってるだけよ。さ、もう少し急ぎましょ」

「無理のない速度で頼む」

「ありがと」


 最も体力がないのはサイだろうと、彼女の歩みに合わせる意図を込めてアゥトブは告げた。それからアローインを振り向く。


「意外といえば、アローイン、君もだ。身分立場を考えれば、王都を離れられないものと考えていた」

「他の者を寄越しても良かったんですがね」

「面倒くさいな」

「そう言うだろうと思いましたよ。大所帯は苦手だろうと私一人となりましたが、ご安心を。腕には自信がある」


 思惑を探るようアゥトブは目を眇めてアローインを見た。

 知らない者と行動するというのは煩わしいものだ。幾ら邪魔しないと約束したとて共に行動する以上は協力しなければならないし、そういった気風なのか岩腕族はアゥトブにとって、いささか頭の固い人々であった。


 その意味では、アローインは意外と柔軟な対応をする。しばしばアゥトブが何かを言うたびに面食らっては動きが固まるのだが、例え胸中でどう思おうとも、そのまま飲み込んでいるようである。


 ご苦労なことだとアゥトブは呆れていた。煩わしいことは苦手だと言いはしたが、それはアゥトブ自身の主張にすぎない。なにも完全に受け入れろと強要したつもりではなかったし、相手の主張を阻む意志もなかった。


「アローイン、どうも誤解しているようだが。誰にも遠慮する必要はない。君は、君らしい行動をとりたまえ」


 やはりアローインは衝撃を受けたように、あんぐりと口を開く。だが、足取りから、これまでの硬さが抜けたようだった。

 アローインは肩をすくめて率直に言った。


「ご存じのように現在は人手が足りません。貴方の護衛、監視、連絡係をこなせる者を探す手間を考えれば、私自身で動く方が手っ取り早かっただけのことです。それに、この目で真実を確かめたい気持ちも、当然あります」


 アローインにしては、ずけずけと言い切った方だろう。アゥトブは納得したようで、ふいと視線を前に戻した。


「理由はどうでもいいが、ありがたいことだ。人が多いと動きが鈍る。君も俺の後をついて回る気ならば、どんな時でも動けるようにしておきたまえ」

「承知しました」


 それでアゥトブからの会話は途切れたが、アローインはサイへと小声で続ける。


「なるほど、人嫌いというよりは、効率が下がることを極端に嫌った結果のようですね」

「あら、ようやく気付いたの? ちょっと不愛想なだけなのよね」


 アローインとサイが勝手に納得しあって頷いているのを背後に聞きながらアゥトブは、そういった話は本人の居ないところでやってくれと、また呆れていた。




 街の門を出たアゥトブ隊は、地面の草を剥いだだけといった街道に乗っていた。


「本当に、馬車でなくて良かったのですか?」

「大地の隅々まで、直に目に収めなければならない。脳裏に刻み込むようにな。そうでなければ、魔素が引き起こす微細な変化など、どうして人に捉えられようか」


 アローインは口をつぐんだが、視線はサイに向けられた。


「私の体力を心配してくれたの? 研究家なんて、あちこち飛び回ってるんだから、このくらい慣れてるわよ。アローの方が心配よねアゥトブ?」

「そうだな」

「心外だ。私も軍役に就く身。見くびられては困ります」


 そのような会話を背後に聞きながら、アゥトブは周囲の穏やかな景色を眺めていた。

 なんの変哲もない、そこらの草木や周囲を飛ぶ羽虫などが、風に揺れている。

 あれらにも魔素が内在しているのだ。しかし、それらが遠からず奪われることを、他の生き物はどう思うのだろうか。実のところアゥトブは、これから己のすべきことに、まだ明確な形が見えないでいた。


 漠然とした予定は立ててある。

 今回の旅は、まずジェッテブルク山に隣するジェネレション領の街へと向かうことに決めていた。


 魔脈の経路を探るならば、山を基点に外へ向かう方が良いだろうと話し合った。

 無難な選択だが他に手立てがあるわけでもない。幾ら残された時間が幾ばくかも定かでないといえど、まずは見えていることから見分していくのがいいだろう。

 まず始めることとしては、間違いではないと言いきれる。アゥトブとて長年培ってきた勘を疎かにする気はない。


 しかし先に旅立った他の隊も同様に山へ向かい、各々が割り当てられた方向を辿っているのだ。

 ならば、このままでいいのだろうか、あえて俺がやるべきことなのかと、アゥトブは思いあぐねていた。




 そう考えていたところに、行動を決めることになる知らせが届いた。


 経路上の街に滞在中、アローインが領主の元へ挨拶をしたいとのことで立ち寄った。アゥトブは宿に泊まると言い張ったが、必要な物資を供出させる取り決めだと言われれば仕方がなくついていった。

 結果、それは正解だった。


 領主と面会を果たした場に兵が駆け込んできた。

 アゥトブらと離れた領主に、小声で報告されたのだが、青褪めて呟いた領主の声が耳に届いてしまった。


「復活だと!」


 邪竜が、復活した。

 そう、聞こえたのだ。


「そんな……早すぎる!」


 アローインも青褪めて立ち上がった。

 アゥトブは、彼が邪竜の復活の時期に関して、想像より早いことを伏せているのではと考えていたのだが、どうやら違ったようだ。逆だ。もっと後だと考えていたことになる。それは何故かと考え込んだ。


 領主は兵に指示を出すとアローインへと向き直る。


「ザダック低爵、せっかくお越しいただいたところ申し訳ないが……」

「いえ、これ以上ない理由です」


 物資の受け取りは使用人に指示すると、領主は軍を指揮するために出て行った。




「ここで足止めか。どうするレーク殿」


 アローインは苛立ちを隠すことなく何事か考えると、頭を振ってアゥトブの意見を仰いだ。

 本来なら、こういった事態が生じれば王都へ戻るように指示を受けているのかもしれない。

 だが、アローインはアゥトブの意志を尊重するようだ。


 それは、ただアゥトブの力量を認めてのことではないだろう。アゥトブの研究に、藁にもすがる思いでいるのだろうか。

 それだけ、国にも打つ手はないのだろうか。


「二度、撃退した。緊急時に動けるように、各地の領主も準備しているのだろう。だというのに、不安か」


 アローインは、顔を強張らせた。岩に覆われたような拳を握りしめると、削れるような耳障りな音を発する。


「不安しかない」


 食いしばった歯の隙間から、アローインは声を絞り出した。


「次こそ、勝てないかもしれないのだ」


 アゥトブは、アローインの言葉と込められた感情を吟味し、しばし黙考する。

 やがて行動を決めた。 


「そうか。では、ジェッテブルク山へ行こう」


 アローインは死角から殴られたように、驚きの顔で固まっていた。



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