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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
【挿話:冒険者街の記憶】

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あるマグ研究家の記録と、使者の気苦労・一

 狭い天幕の中には男が一人、むき出しの地面に這いつくばっていた。

 そこへ通された者が、面会を希望していたにも関わらず入り口で幕を開いた途端に足を止めたのは、目にした異様な体勢のせいだけではない。


 そこそこ空気の冷える時節だが、入口へと体を横に向けて獣が獲物を狙うように上体を伏せている男が身に着けているのは、薄手のシャツとズボンだけだ。いつからそうしているのか汗染みさえ浮かんでいる。それもそのはずで、天幕の内部は訪問者が踏み込んだ途端に汗ばむほどの熱気に満ちていた。


 顔さえこちらに向けない相手は、手のひらだけ伸ばすと左右に振る。訪問者は意図を察して幕を閉じた。

 濃い色合いの厚手の生地で仕立てられた軍服を、きっちりと着込んだ訪問者だが、すぐに汗ばむのを感じて息苦しくともその場に留まる。なんとしても約束を取り付けなければならない使命があるのだ。

 声をかけるにも間の悪いところに来たようであり、探るように部屋へと視線を向ける。


 なんの変哲もない、分厚い布が四角い部屋を形作る天幕だが、その三面は無造作に切り揃えた板であつらえた木製の棚が天井まで埋めている。棚の足元には、同じく板で囲われた細長い箱の中に、黒く見た目にもしっとりとした土が敷き詰められていた。


 その花壇を見て訪問者は眉を顰める。かなりの間隔を開いて植えられているのは同じ品種のようだが、どれも貧相に縮れていたのだ。見たこともない植物で、枝分かれせず一本の茎が膝辺りまで伸びている草らしきものなのだが、先端のみを彩る葉先は、茶色く萎びて垂れ下がっている。

 唯一つ、男の視線の先にあるものを除いて。


 随分と蒸し暑いと思えば、端に幾つもの壺が置いてあり、その正体に戸惑う。


「火鉢?」


 この狭い天幕内ならば、一つで十分に暖を取れるだろうものが四つはあるのだ。

 それに加えて水を湛えた桶が幾つも並べてあるため、それが息苦しいほどの蒸し暑さの原因だろうと得心した。


「専用に家屋を建てるほどの予算がなくてね」


 ようやく口を開いた男は、そう答えたが、なんのためなのか訪問者には理解できない。

 発言を許されたのだろうかと、訪問者は辺りから視線を戻して男へ声を掛ける。


「貴方がマグ研究の第一人者、アゥトブ・レーク殿ですね」


 異様な光景に戸惑いながらも、真実会いたかった当人なのかと確かめるように、訪問者は相手に問うた。

 もちろん屋敷の使用人に旦那様はここだと案内されたのだから、本人に間違いないのであろうが、話に聞いていた変人の域を逸脱した光景が眼前にあるのだ。この天幕は庭に用意されたものであるし、剥きだしの地面で男が手を地に付いたまま草を一心に睨み続けているのである。


 訪問者は万が一にも庭師の可能性を希望したが、男がその姿勢のまま頷くのを見てやや気が重くなる。

 相手を確かめた以上は名乗らねばならない。


「私は城からの使いで、アローイン・ザダックと申します」


 城からと聞いたとて、やはりアゥトブは関心を示さなかった。少なくとも、表向きには一切の変化を認められない。


「炎天族の暮らす暑い地に生息する植物だ。室温を高く保つ必要がある」


 それどころかアゥトブは初対面の相手を前にして、自己紹介にも取り合わずに視線を花壇へと落とし、その説明らしきものを始めた。


「なるほど」


 理解の範疇を超えた相手に、ひとまずアローインは、アゥトブの調子に合わせることにした。


 炎天族の国パイロ王国とは、幾つかの山脈や、ジェッテブルク山と呼ばれる高峰を越えた隣国である。国交があるとはいえ、このレリアス王国の都マイセロまでは、山や大森林を迂回せねばならぬこともあり馬車で何ヵ月とかかる距離だ。そこから植物を持ち込むなど大変な労力だろう。しかも向こうは温暖な気候で、こちらは寒冷な土地である。


「無論、譲り受けたのは種子だよ。まあ鉢でも頼んだのだが、ダメになった」


 アゥトブはアローインの疑問に先回りするように答える。

 ならばアゥトブの視線の先にあるものが最後の株であろうかと、アローインも未だ柔らかな緑色を保つ植物を見た。

 たった一本が、力強く育っていた。茎が太く、張りを保つ分厚い額に包まれた芽が、瑞々しく膨らんでいる。


 アゥトブは顔を近付けてはいるものの、決して触れまいとするうに、じっと囲いの内にある蕾を眺めている。

 まるで、葉脈を流れる命の雫を見落とすまいとでもするように、真剣に。


 特殊な植物なのだろう。

 だが所詮は植物だ。眺めていたところで、遅々とした成長を目で捉えられるはずもなかろうと首を傾げる。

 まさか、その植物が枯れるまで動かないつもりなのかとアローインは危ぶんだ。


「貴重な時間を邪魔しているのは承知しておりますが、できれば……」


 焦りを隠すように用件を告げようとするアローインを、またしてもアゥトブは振り向きもせず、静かにするよう手で示した。だが、今度はアゥトブの表情は緊張しているようだ。

 何が起こるのかとアローインは仕方なく口を閉じる。


 その時かすかに、湿りを帯びた肉が剥がれるような音が耳に届いた。


 信じられない光景であった。少なくともアローインにとってはだ。

 蕾が割れたかと思えば、肉厚な緑の花びらが見る間に開いていくのだ。内側は滑らかな白で、開き切った大輪の花は、穢れを知らぬ無垢な乙女の如く清楚可憐であった。水滴が滑らかな白磁を滑り落ちていく。


「ほぅ」


 アローインは、その見事さに思わず息をのむ。だが驚きは、まだ続く。

 花がその身を精一杯に開いたのは、わずかな時間だった。伸びきった花びらの先が細まり、今度は外へと湾曲しだしたと思った時には、溶けるように垂れ下がっていたのだ。雨の雫が伝い落ちるような速さで変化した非現実的な光景に、アローインは瞬きを繰り返した。


 そこでアローインは花壇に並ぶ萎びたものが、うまく育たたなかったのではなく、育った成れの果てだということに、ようよう気が付いた。


「ふむ」


 アゥトブは小さく頷くと、安堵したように、ふうと息を胸より押し出す。ゆっくりと立ち上がると、額に玉を作っていた汗が顎を伝って地面に吸い込まれた。


 ようやく振り向いたアゥトブは、無表情にアローインを見やる。理知的な目は切れ長で、鋭い視線は冷ややかだ。煩わしいでも、不安でも、好奇や魂胆を見極めてやろうといった穿つ視線を向けるでもない。こちらの軍服を目に留めてさえ、表向きの歓迎の振りさえもない。

 ただ、用件を聞こうと無言で待っていた。まるで部下の報告を待つ上官のようである。


 だがアローインの、アゥトブに対する心証は上方へと修正された。この環境の違う国で、見るからに気難しそうな植物の生育に成功しているのだ。アローインは、彼がレリアス王立研究院へと提出した研究報告書からだけでなく、目の当たりにした研究家の優秀さに期待が高まっていた。




 数少ないアゥトブを知る者から集めた情報によれば人嫌いという話だが、少なくとも相手の言葉を待ってから判断するだけの忍耐は持ち合わせているようだと、まずアローインは訪問の理由を切り出した。


「レリアス王国より、貴方の知識をお借りしたく参ったのです」


 その言葉が聞こえたのかどうか、アゥトブは黙したまま頷くと、意外にもしっかりとした足取りで天幕を出て行った。元々、手足の長い森葉族の足取りは軽やかだが、アローインが意外に思ったのは研究者とやらに対する印象によるものだ。机と書物に張り付いて、身体能力に期待はしていなかった。


 だがアローインを避けつつ天幕を出て行った、その身のこなしから垣間見えたのは熟練した動きだ。

 アローインは己の記憶の合間から、大森林を治めるディプフ王国に関する記述を探る。領土全のほとんどが木々に覆われており、狩猟も盛んであるというし、道も少ないと聞けば歩くだけでも相当な体力が必要に思える。かの国に生まれ育った者ならば、当たり前の身のこなしなのだろうか。


 しかしアゥトブは、一般的な知識として表情豊かであるといった森葉族の印象とはかけ離れていた。これは相当な風変りであろう。それで岩腕族の国へと落ちのびてきたのだろうかとも考える。


 無言で置き去りにされて困惑したアローインは、どうすれぱこの男の気を引けるかと思考を巡らせつつ、屋敷内へと戻ったアゥトブの後を追った。招き入れるような言葉はなかったが、アゥトブは扉を開け放したままだ。入って閉めろということであろうと足早に移動する。そうでなくとも、ここで引くわけにはいかない。


 短い廊下の先に、同じく開け放たれた私室らしき部屋へと入るなり、アローインは先ほどよりも用件を強調して繰り返す。恐らく、やや強引にでもなければ伝わらない類の者であるように思えたのだ。


「私は国王陛下より、直々に任を賜り赴いた」


 王と聞いてもアゥトブは眉一つ動かしもしない。それどころか返ってきた言葉は辛辣なものだった。


「岩腕族の王が、かつての敵である森葉族で、しかもふらりと立ち寄り滞在しているにすぎない一介の研究家ごときに何の用がある」

「争いも、すでに遠い昔のこと。この国に敵だのと考える者はおりません。ジェッテブルク協定の元、我らが新たな時代を歩み始めたのはご存じのはず」


 アローインも腹を括って切り返す。

 実のところ簡単な道ではなかった。国が意識改革から指導し他種族を受け入れ始めてから、三代を経て、ようやく馴染み始めたといったところだ。それも、未だ大きな街のみである。




 岩腕族、炎天族、森葉族が治める三つの国が、ジェッテブルク山を挟んで隣り合い、山周囲の広大で肥沃な平原を巡って長いこと争っていた。長すぎたのだ。

 それに山の御魂は辟易したのだろうか、ある日、恐ろしい存在が産声を上げた。


 邪竜と呼ぶ、超自然的な存在だ。


 実のところ、その頃の我らの先祖は、半ば惰性で争っていた節がある。当時のレリアスの長が上げた停戦の一声で、森葉族と炎天族もあっさり肯いたと伝わっていた。

 そして目下の敵は謎の存在となり、一致団結して戦うこととなる。不幸中の幸いといって良いのか、三国が局地に戦力を集中させていたため、死傷者などの被害は大きくも、邪竜はほどなくしてジェッテブルク山の、自らが産声を上げて開いた大穴へと沈んでいったということだ。


 しかし誰も、それで終わりとは考えなかった。

 邪竜が沈んだ穴からは膨大なマグが吹き上げ、多くの人間を飲み込んで押し流すと、固まって穴に蓋をしたのだ。


 あれは邪質の魔素を司るもの。

 必ず再び現れる。


 長の言葉に人々は畏れ、力を蓄えるべく対抗するための組織作りへと奔走する。




 百年の時を経て未だ人類に影を落とす存在に対する手立てを、なんとしても探らねばならないと、アローインは襟を正してアゥトブを見た。

 本気で煽ったつもりではなかったようで、アゥトブは煩わしそうに手で遮る。前置きはいいということだ。

 アローインも、率直にと頭を切り替える。


「無駄話のつもりはない。王立研究院に、他種族を迎え入れるまでになったのだ。面会の話は、貴方とは旧知の仲であるサイ・レン女史より通じているはず。今や彼女も、我が国で研究員の一人となった森葉族です」


 アゥトブは昨日の内に手紙が届いたのを思い出したのか、視線を大きな書き物机に積まれた紙の束へと向ける。


「彼女が研究院などに属すとはな。物好きなものだ」

「現に貴方も大森林を出て、このレリアスへおられる」

「環境がいいからな」


 アゥトブが調べ続けているのは植物だ。先ほど目にしたような計り知れないものだけでなく、親しんだ身近なものさえ再分類して回るなどの調査研究に身を捧げている。

 森葉族の故郷である大森林は、天まで覆う木々のお陰で日中でも薄暗いほどだし、開けた場所が少ないため、このように各地の植物を集めて観察するには不向きなのだとアローインに短く話して聞かせた。


 岩腕族の住まう地は寒冷ではあるが、山脈方面から外れた平原は、やや過ごしやすい気候である。そこへ作られたこの王都マイセロなどは、土地にも余裕がある。

 こうして、日の良く当たる広い庭付きの屋敷を借りることも可能だったというわけだ。


「一つ言っておく。俺は確かにマグを研究しているし、植物専門ではないが、だからといって積極的にあれこれと手を出す気もない」


 何をもって国が手を借りたいなどと考えたのかと訝しんだのだろうか、アゥトブは研究内容について誤解していると追記した。


 アゥトブが正しく興味を持っているのは、マグの働きについてである。

 全ての生物に共通して内在しうる得体のしれないものとして、昔の岩腕族の誰かが魔素と名付けたものだが、体外へと現出する際に別の形へと変化する。それを炎天族の誰かが、やはり得体のしれないものとしてマグと名付けたものだ。


 全ての生物に存在するといわれているのだから、アゥトブも別段植物に興味があったわけではない。ただ大森林で育ったため身近であったし、なにより対象が動かないから調べやすいといった単純な理由である。


「マグの研究というが、やることは観察だ。ありのまま、もしくはその中に人の目線では見落としていたものの再発見が、あるかないかと文字に起こしているに過ぎん。しかも未だ成し遂げたわけでもない。国の助けになることなどないだろう」


 アゥトブは、まさか己の研究が誰かの役に立つなどとは考えもしなかったようで、意図の見えぬ使者の希望に、明らかに面倒くさそうな表情を浮かべる。

 片やアローインによると、国は、そのマグに関する知識が欲しいのだと言った。


「研究院へ提出された成果を拝見した上で、研究院は貴方が最適であると判断し、こうして訪ねているのです。それは国が、そして志を同じくする研究院が、貴方の研究結果を認め、重視しているということに他なりません」

「国が重視するもの、ね」


 アゥトブは皮肉を滲ませ口の端を上げた。


「失礼。レリアスに思うところがあるのではない。たんに俺は、一カ所に留まる性質ではないのだ」


 アローインは研究内容について、深く理解できるわけではないが、アゥトブの言いたい事に大よその予想はついていた。

 なぜなら研究院へ提出されたものは、ただレリアス各地に生息する植物を観測し、なるべく客観的事実を書き綴ったものに過ぎないと研究員は語ったのだ。


 恐らくアゥトブもそう考えており、それが普通に暮らす人々の役に立つはずがないことも認識しているのだ。ましてや社会を守り上に立つ王などが、現実的な利用価値がないものに興味を示すなど信じ難いことだろう。

 そういった反応があることも考えていたアローインは、詳細へと触れる。


「伺っております。だからこそ、貴方にも得のある話なのです」


 アゥトブは、ここで初めて訝しげにアローインを見た。今こそ本題に入ろうとアローインが口を開いたとき、アゥトブは弾かれたように目を見開くと机へ飛びつき、その勢いで積まれていた紙束を床に撒き散らす。


 アローインはぎょっとして腰の得物へと手を添えたが、アゥトブが狂ったように紙屑を払って手にしたのはペンだった。さらに、その辺の紙片を掴んで引き寄せると、空白部分へ何事かを書き連ねていく。


 優秀な男だと聞き調べもしたはずが、訪ねる先を誤ったのだろうかとアローインが疑念を抱いていると、アゥトブは紙面に視線を落としたまま書き連ねる手の速度を落として言った。


「先ほどの成果を書き留めておこうと思ってね。多くの事柄を同時に扱っていると、ついまとめたつもりになってしまうんだ。後回しにすると、同じものが二枚出来て困ることになる」

「そう、でしたか」


 アローインは緊張を解き、詰めた息を静かに吐きだす。

 やり辛い相手であることは、この短時間でも十分に把握できた。いつ意識が別へと跳ぶか分からないとなれば順を追っての説明や説得は諦めるしかないと、アローインは結論から申し出た。


「我らの調査に手をお貸し願いたい」

「無理だ」


 取り付くしまもない。アゥトブは考えるそぶりも見せず拒否した。報奨に関して聞くこともなくだ。ますます難しい相手である。


「悪いが、今予定しているものだけでも調べ尽くすには、すでに寿命が足りないと判明している。無理強いをしようと無駄だ。自制できるものなら故郷を出てはいないよ」


 アゥトブはレリアスの街外れに家屋を借りて居住を許されてはいるものの、国民ではない。アローインもそれを理解し、命令ではなく城への客人へ対するものと変わりない態度で願い出ているつもりだ。しかしアゥトブは、それを逆手にとって追い返そうとしているわけだ。


 なるほど、自ずと興味の湧くものにしか動くつもりはないということのようだ。

 そのような資質は、環境によっては善とも悪ともなりうる。それはそれで対策の取りようもあると、アローインはわずかに逡巡しアゥトブを見据える。


「恐らく、貴方の研究と繋がりますよ」


 アゥトブは手を止めて、見上げた目を細める。


「大自然の調査です、ひいては貴方の研究へも繋がるのは必然ではないですか? 魔脈より魔泉が開き、マグが沸き立つようになった。不穏な地形の変化もあり、ますます環境へも影響を与え続けている、ですから」

「だからこそだ。俺の手には余る」


 変わらず即座に拒否するアゥトブだが、アローインは先ほどよりも聞く耳を持っているようだと気付いた。さらに踏み込む。


「一人の手には余るでしょう。だからこその国を挙げた調査です。多くの者が携わることになります。彼らと組んで行動しろとは言いません。ですが報告を共有していただくことになりますから、貴方にも利は少なからずあるはずです」

「報告ね……それも、厄介なことだ」


 アゥトブが机に落とした視線の先にある書類を見て、アローインは納得した。糸くずでも絡まり合っているような文字で、他人には到底読めそうにない。

 だが、書きつけた文の横に走らせたペンは、見事に先ほどの花を描いていた。


「たれそう」

「は?」

「君が訪れたとき、咲いた花だよ」


 アゥトブは指先で、とんとんと花の図を叩く。


「いや、先ほどの花であることは分かる。素描の腕も見事なものだ」


 文字と違ってと言いたいのを、どうにかアローインは押し留める。


「こいつの名は、垂れ草(たれそう)に決まりだ」


 あの麗しい花が、そんな名に!


 思わず異議を唱えかけたアローインだったが、口を開いたものの立場とのせめぎ合いに何も言えず、しばし固まっていた。



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