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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
低ランク冒険者編

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198/295

198:寝苦しい野営

 すっかり日の落ちた暗い拠点を、篝火が赤々と照らす。

 岩を積んで高めに作られた台座は、さらに岩で囲まれ、中には四角く組まれた丸太があるが、その中心には円錐状に組まれた丸太があって、隙間からは丸焦げのラーメンもどきが覗いている。乾燥した金たわし草は優秀な燃料のようだ。


 俺は昼に貰った残りの肉を大事に齧り終えると、火の側の岩に背を丸めて座り、貼り草の種子を投げ入れていた。

 菱形の角をナイフで切り取ってから焼けば弾けることはなく、もともと乾燥気味なことに加えて油分が多いのかほどよく燃えてくれる。


 この成功も当然、初めに投げ入れて失敗した教訓によるものだ。そのままだと案の定、弾けて物凄い音が響いて、魔物が反応するし肝が冷えた。これぞ失敗は成功の元!


 ハァ……げっそりする一日だった。

 他のみなさんは晩飯を済ませて寛いでいたが、ウィズー組は物置きの鞄から大きな敷き布を取り出し、地面に広げたり肩から掛けたりし始めた。場所が場所だけにか、じっとしてると冷えてくる。


「番はどうする」

「そうね、いつものように二人ずつは難しいから、ちょっと大変だけど半々にしちゃいましょうか。先にウィズーたちお願いできる?」


 ウィズーの言葉に、シャリテイルが答えていく。

 やっぱり、今回のキャンプはシャリテイルの立案なんだろうか。俺の件は偶然重なったのだとしても、元々ギルド側の仕事なんだろう。


「じゃあ、私たちは先に寝るわよ」


 シャリテイルが俺を見て言ったため詳細を確認する。


「深夜に交代だな?」

「タロウは眠ってていいだろ。助っ人なんだし」


 余計な気をつかってくれたのはウィズーだ。


「む。俺も起こしてくれ」


 そりゃ番をしたところで防衛できないから、本当にただ見てるだけになるだろうし意味ないかもしれないけど、さすがに気が引ける。なにより、それだと研修にならないだろ。


「タロウも頑固だものね。時間が来たら起こすから、寝ちゃいましょ」


 なんだか適当にあしらわれた感じだが、無駄に言い合うよりも、さっさと寝て疲労回復した方がいい。ウィズーも肩をすくめて持ち場に下がったため、俺もそれ以上は何も言わず鞄を漁る。ちらとシャリテイルが移動するのを見た。

 いつもと変わらない格好だし、大した荷物も見当たらないしで寝床をどうするのかと気になった。

 あのケープに仕掛けがあった。

 首の辺りで結んでいる紐をほどいて広げると、なんと裾まで届く長さになったのだ。折りたたんでたのかよ。


 それと、なんだその寝方は!


 シャリテイルは頭からケープをかぶり、全身を覆って空気をはらませながら勢いよく地面に転がると一瞬で丸まっていた。ムササビ?

 丸くなった頭のあたりから杖の先端だけが生えている。

 あれ枕にしてんのかよ。器用な。


 カイエンの方は岩の隙間に挟まって、頭のそばにある岩に鞄を置いて枕にしただけだった。寝違えそう。


 ものすごく疲れたし俺もぐっすり眠れるだろう。疲れは精神的な方だけど。

 俺もポンチョの袖口の紐をほどいて大判の布にする。持ってきた布の方は畳んだまま枕にした。無意味なようだが、硬い場所で寝た翌日の頭の痛さは嫌な物があるから、ちょうど良かったと思おう。


「ではおやすみなさい」


 誰にともなく呟いてポンチョにくるまり目を閉じる。


 ギキィー……ジ、ジジ……カタタ……ンゴォ。


 気が滅入る虫の音は南の森と同じ種類のようだ。最後は誰のイビキだ。


 眠れねえ……心なしか寒い気もしてくる。さっきまで何も感じなかったのにさ。

 こんな場所で眠れるようになれば一人前なんだろうか。

 目を閉じているだけでもマシというし、余計なことを考えず無心になるのだ。


 そう思ったところで、どうにも落ち着かず、ごろごろと寝返りを打つたびに体が痛む気がする。そもそも嵩張る装備を身に着けたままってのも初めてだ。寝苦しくてしょうがない。

 別に周囲に人がいるからと寝れない性質じゃない。学校の合宿なんかでも真っ先に眠ってしまい、顔に落書きされる方だった。


 そういえば、南の森でうたた寝しそうになったこともあった。

 あの時との違いといえば……やっぱり、場所の難易度のせいだよな。寝てるときに急襲されたらと思うと怖い。


 冒険者たちも夜の間は活動を控えているから、朝には魔物が吹き溜まっているんだ。森葉族なら夜でも動けるんだろうだけど、彼らにばかり押し付けるわけにもいかないだろう。そもそも休みがてらであれば、交代要員も足りないか。

 こうして考えると、無理に押し込まれたバカげた俺の依頼も、意味があるような気がしてくる。心身共に負担のかかる余計な仕事を俺が片づければ、それだけ休憩時間を取れるかもしれないもんな。


 つらつらと、そんなことを考えるが寝付けない。

 睡眠の敵は他にもあった。

 ようやく眠気が襲い、うつらうつらとする度に、誰かが森へと入り何かと戦う音が届く。


「ケキュウ……」


 そんな低い声が聞こえた気がして悪寒が走る。

 聞こえない。俺は何も聞いてないぞ。

 どうしても周囲が気になったが、ぱちぱちと火の爆ぜる音に集中していると、次第に気持ちは落ち着いていった。



 ◆



 お、なんだ、このもこもこしたやつ。うおーすげえ弾力ある。

 ほんのり温かいし、毛布タイプのシーツかな。

 外に、こんな上等なベッドがあるとは……そう、外に。毛布じゃない!?


「ケキュウ?」


 ゆっくりと振り返る、ゴマ粒のような目がなければ前後も分からない毛の塊は……ろっ、ろろ六脚ケダマ!?

 しかもなんで機銃がついてるんだ。弾帯に並ぶ弾は、貼り草の種じゃねえか!

 く、来るな……来るなああぁぁ!

 ペペペペペぺぺぺ――いてててててててて!




「ひあぁぁ……キモイ、いたい!」

「おい、タロウ。タロタロー、大丈夫か?」


 ハッ!

 見下ろすのはケダマではない。

 ウィズーとかいう、ただのむさい人間だ。


「夢だったか……ふぅ、もうひと眠り」

「無視すんな。起きろ、朝だ」

「なんだと!」


 辺りは暗いが、飛び起きて遠くの空を見れば薄っすらと明るい。これぞ悪夢。


「うう、寝た気がしない……」

「ハハハ、野宿は初めてか? すぐ慣れるって」


 こんなの慣れたくないよ。

 でも、こうして街の住人は守られてるんだった。感謝しないと。


 それにしても、なんでウィズーが起こすんだ?

 辺りを見渡せば、デープやダンマが敷き布を片付けている。

 こいつらが起き抜けってことは、あれ?


「俺の交代は?」

「今だ」

「話した予定と違うじゃないか」

「普段はもっと寝てる。いつもよりかなり早いんだぜ。ほら顔洗ってこい」


 ウィズーたちは、しっかり出かける準備を始めている。

 くそぅ、騙されたのか?

 どうも納得いかないが、気が付けなかった俺が悪い。


 川岸には、シャリテイルとカイエンがいた。


「おはびょろっ……んごー!」

「おはようシャリテイル、カイエン」

「おう、おはタロウ」


 シャリテイルは、うがいをしていたようだ。口に水を含んだまま挨拶しようとして、鼻から水を噴き出し目を白黒させている。

 俺は足を滑らせないように、そっと屈んで流れに手を伸ばした。


「冷たっ!」


 急流が関係あるのかしらないが、井戸の水と比べてかなり冷たい。おかげで顔を洗えば一気に目は覚めた。


「冬は大変そうだな」

「まあな。そんときゃ、寝るときは温まる壺を用意するから少しはマシになる。昼間は動いてりゃ温まるしな」


 火鉢?

 七輪みたいなやつなら、おっさんとこの倉庫から借りたことがあった。あんなのだろうけど、それ抱えて寝るのか?

 マシになるって程度なら、やっぱり寒いんだろうな。


「それでも期間は短いし、雪が降るのも数日くらいで、マイセロと比べりゃ恵まれてる方だぜ」

「王都にも居たのか」

「ああ、オレはマイセロで冒険者初めたからな」


 なんとなくカイエンは炎天族の国パイロ王国から来たのだと思っていたが、マイセロで始めたならレリアスの人間なのか?

 聞いてみようかと思ったが、鼻をかんで気を取り直したシャリテイルが戻ろうとしていて呼び止めた。


「なんで起こさなかったんだ」


 こんな言い方できる立場じゃないのに、つい文句めいてしまう。


「なんでって、私たちが交代するときに、ようやく寝入ったって聞いたわよ?」


 えっ、俺そんなに寝付けなかったのかよ。


「いくら人族が疲れにくいっていっても、回復は睡眠と食事でしょ?」

「それはそうだけど、不公平じゃないか」

「お? それを学んだだけでも、次からは違うんじゃない?」


 なにか今、適当にいいこと思いついたーといった表情だったが、内容には何も言い返せない。


「タロウの働きが悪くなれば、私たちも困るもの。ね、カイエン?」

「ああ、得意なことで頑張ればいいんじゃん?」

「そうそう。じゃあごはん食べましょー」


 うきうきと戻っていく二人の背を複雑な気分で見た。別に甘いわけじゃなくて、現実を知ってるからなんだよな。

 何よりも大事なのは、戦力を落とさないよう万全な体調で動けること。少しでも多く魔物を倒すことなんだ。




 食事のため篝火まで戻れば、激しい剣戟の音が響き渡っていた。ウィズーたちが森際で恐ろしい魔物を食い止めている。

 よく見れば、木々の狭間はふわふわ地獄だ。こんなに増えるもんなのか……。


「おら、こっち来いにゃあ!」


 ウィズーは攪乱するように動きつつ、ケダマたちを引きつけている。


「んぐっ、一匹も逃がさぬぇ!」


 はみ出てくる奴は、ダンマが巨大肉切り包丁で捌いていく。続いてウィズーが魔物の前から大きく飛び退くと、デープの声。


「もぎ、いちれちゅ!」

「ゲキュキューッ!」


 杖から一列に並んだ数本の赤い槍が撃ち出され、隙間に並んでいた六脚ケダマは、まとめて弾け飛んだ。素晴らしい連携だ。


 なんでお前らパン食いながら片手で戦ってんだ器用すぎだろ!


「ふぅ、今日はお野菜だけにしておこうかしら」

「シャリテイルはさぁ、肉の量が少ないから力が出ないんじゃないのか?」

「たくさんお肉食べても、普通はカイエンみたいなバカ力は出ないの!」


 俺の背後には、まるで意に介していない二人が居た。


 なんだろう、この不条理な感覚。一人でハラハラしているのがバカみたいに思えてくるが、この気持ちを受け入れてはならない。

 あくまでも、この緩さは、こいつら強者の特権であって、俺が作り出せるものではないんだからな。


「なにしてぅのタリョ? はやく食べなたい」


 シャリテイルは、ニンジン色でカブ型の塊を、そのままもぐもぐ頬張っている。

 俺は何を考える気力も尽き果て、座り込むと無言で木の実をぽりぽりと齧った。


 そうだ、今日の予定を考えよう。

 日暮れまでに街へ戻るなら、昼にはここを離れなければならないよな。そうなると、あと一カ所は片づけられるかどうかだと思う。


 目的地までの距離にもよるし、まずは増えた魔物を片付けながらの移動になるだろうから……あれ?

 もしかして、俺のターン終わり?


「なあ、シャリテイル。今日の俺の仕事は?」

「え? 昨日、あれだけ片づけたじゃない?」

「ものすごく働いたじゃないか?」


 二人はきょとんとしている。

 マジであれだけ?


「わざわざ、こんな危険な場所に苦労して足手まといの俺などを連れて来てまで片付けたかったのが、邪魔度合いも微妙な貼り草掃除……だけ?」


 何故か二人はあわあわしだした。


「う、うわあ、まずいぞシャリテイル。あんな草では食い足りなかったらしい!」

「うそー! あんなに大変なやつなのに? いつの間にかタロウったら成長しすぎじゃない?」


 なんだよ、その反応。もっと計画性があるものと信じていればこれだよ。

 がっくりと溜息を吐き出す。


「いや、早く戻った方がいいよな」


 俺の滞在が長引くだけ、シャリテイルたちへの負担も増すんだ。ものすごく気合いを掻き集めていたから肩透かしな気分なだけで。大したことがなくて良かったと思わないと。


「おーい、準備はできたか?」


 ウィズーたちが一仕事を終えて戻り、声を掛けてくる。

 俺たちが話している間も、すごい音が聞こえていたようだったが、すっかりスルーしていた。こんな慣れは良くないな。


 ざっと拠点を見回すが忘れ物はない。

 火は小さくなっているが、簡単に消えることはないらしい。それに、今日は早めに交代要員が来るという話だ。


「もう少し魔物が片付く頃には、交代組がやってくる。そうすりゃ戻りも楽だ」


 ウィズーの話になるほどと頷く。

 それは非常に助かる話だ。六脚ケダマ道など死滅するがいい。

 そう思ったが、ここらの周辺を後の奴のためにも片づけなくてはならないから、結局は嫌でも遭遇するようだ。悲しい。


「それじゃ、出発ね」


 シャリテイルの号令で俺たちは森の中へと踏み出した。

 昨日は西に進んだんだっけ。今日は南に進んでいるようだ。こっちも、そこそこ見晴らしは良い。通り道があるだけでなく、ときおりペリカノンとの戦いの跡らしき折れた木々も目に入るから、そのせいだろう。


「あれを片付けるのも、面倒なのよね」

「まったくだな……」


 シャリテイルが遠い目をして呟き、他の奴らもため息交じりに同意する。

 そういう仕事こそ俺がやるといいんじゃないかと思うが。さすがに人族一組は必要だけど。それに滞在期間が長くなるほど問題なんだよな……。


「おっと、次の奴らが来るぜ!」


 先頭のデープが声を上げた。

 それを合図にウィズーとダンマは、前に見えるケダマたちへと急ぐが、別の声にかき消された。


「ゲゴーッ!」


 ペリカノンまで!

 いきなり、かなり近くに現れて驚いたが、すぐそばに丘がある。その影から飛んで来たようだった。


「シャリテイル、俺たちはあっちを片付ける」

「待った! もう一組来るぜ!」


 ウィズーの声にデープが重ねた言葉に青褪めた。まだ小さいが、後からも飛んでくるペリカノンが目に入る。しかも、五羽!


「ウィズー、私も行くわ! ペリちゃんの対処をお願い。道の方は任せて!」


 すでに走りながらシャリテイルは指示する。最後に、枝に飛び乗りながら片手を振って叫んだ。


「あ、カイエン、ふわふわ君はお願い。私たちは南西に進むわ。タロウのこと頼んだわよー!」


 わよーわよー……よー。


「マジかよ……」 


 俺とカイエンだけが、森の中にぽつんと取り残されていた。


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