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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
低ランク冒険者編

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197:大砲鳥と弾倉

 出かける準備を終えて森を振り返ると、鳥の姿が大きくなっていた。

 結構、近くまで来るんだな。当たり前か。というか、これからその危険区域に向かわなきゃならないのかよ……。


 近付いていた三羽は、旋回し何かを追って戻っていく。無論、ウィズーたちだろう。

 そう思ったら、地上から鳥に向かって赤い棒状の何かが飛んでいき、貫いた。デープの魔技だ、よな?

 あっさりと一羽は落ちたが、もう二羽いる。


 鳥は魔技らしきものが放たれた地点の上空へスピードを上げ、高度を下げつつ飛んでくると、頭から黒い物体を次々と落としていく。直後に、ズズンといった振動が俺の足元まで伝わった。


「ひぇ! だ、大丈夫なのかよ」

「平気だろ。見ろ」


 カイエンに示されて空を見上げる。


 あいつら、マジかよ。


 小さな影が木々の間から飛び出した。誰かは分からないが体格からしてダンマ?

 ダンマは鳥を直撃し赤い煙が弾ける。ぶつかった勢いで二羽目の背へと飛び乗ったように見えるが、そのまま落ちていく。

 すぐ後をもう一人が飛び出して二羽目の首を落とした、ように見えた。多分、ウィズー?

 二人と鳥のマグ煙が森に突っ込んだとたん、激しく木々が揺れる音も、ここまで届いた。


 う、うわぁ……なにあれ。本当に人類?

 昨日のあいつらは本気出してなかったってこと?

 思わず、ちらっと横を見た。


「おぉ、あいつら強くなってるなあ!」


 カイエンは、わくわくしながら眺めている。

 お前は高ランクだろ!

 思わず全力チョップでツッコミを入れたくなったが、軽く反撃喰らっただけでも俺が塵になるだろうからやめておいてやる。


 こいつは、あれ以上ってことか。

 いったいどれだけ強いんだ……いや知りたくない。俺とは別世界別世界。

 しかし無慈悲な森の女王が宣言する。


「さっ、私たちも進むわよ!」


 俺は最大の盾を構えることにした。

 思考放棄という名のな。




 森の中へ進むと、外から見たほどは鬱蒼としていない。そこそこ整えられているのか、進んでいる道のりは見通しがきく。

 山頂に向かっているように見えて恐ろしいが、今のところ上り坂は緩やかで助かる。


 ウィズーらが進んだ先へと、のんびり歩いているはずなのだが、たまにドカンドカンと激しい音が響いてきて体が硬直してしまう。

 突然に、どこからともなく空爆されるのに怯えながらの移動ってのは、地上で物陰に怯えて歩く何倍も神経が磨り減るんだが……。まだペリカノンいるのかよ。ウィズーは、あいつら少ないって言ってたよね?

 あああ考えたくない。


 離れていても分かるほどの黒い塊が、頭上から降ってくることを考えると肝が冷える。


「ちょうどいい位置だ」

「そうね、ここで待ちましょう」


 カイエンとシャリテイルが慣れた会話を交わす。

 目的地が近くて良かったと喜ぶには、おかしな発言ですね?

 二人の暢気な視線の先を追えば、ものすごい勢いで飛んでくる鳥がいた。


「なっ、なんでこっちから!?」


 あろうことかウィズーたちではなく、俺たちへと別方向から飛んできた。一羽を先頭に二羽が続く編隊を組んでいる。

 先に片づけるとはなんだったのか。


 頭上に広がる枝葉の間を見上げれば、白い十字が横切った。羽を広げたペリカノンだ。低空飛行で木々のすれすれを掠り、しなる枝から葉屑が散ってくるのを呆然と眺めた。

 でけえ……空港の近くで見た飛行機の離着陸場面のような圧迫感を思い出す。


「タロウ、そこの岩の向こう側へ行ってろ。次は攻撃が来るぞ」


 カイエンの指示に辺りを見回すと、木が密集した間に黒っぽい岩が見えた。あわあわしながら、その膝の高さほどある岩を乗り越え、悲鳴をあげた。


「ひぁっ!」


 裏手は段差で、しかも低くなってやがった。


「いたた……なんだこの塹壕」


 転げて起き上がってみれば、木と岩に隠れるような狭い溝だ。底は柔らかな土だったおかげで、手足を振るが怪我はないようだ。危うく捻るところだったけどな。


 よじ登って岩陰から空を見上げれば、ペリカノンは旋回したところだ。かと思えば急降下を始める。そんな状態から、真っ直ぐに伸びていた首を一瞬引き、筒のような嘴を勢いよく突き出した。それぞれから吐き出された三つの黒い塊が、ばきばきと木々を割って落ち、重い地響きが周囲から響く。


「ひいぃ!」


 驚きの余り手を離してしまい、また転げ落ちた。頭を庇うように丸まったまま、見たものについての記憶を探る。


 ああこれがペリカノンの特殊攻撃で、大砲鳥とかいう名前の急降下爆撃かぁ。一ターンの間は画面外に消えてしまい、戻ってくるのを待ってるのが面倒だったよなぁ。奴より敏捷値が上がってからは、飛ばれる前に真っ先に倒す雑魚だった。ゲーム画面だと、ただの間抜けた面したアホ毛が特徴の鳥だったのに、こんなに怖いもんだとはなぁ。


「げ、現実逃避している場合では、ない……」


 MPを使用する特殊攻撃なら、何度も続けては無理だ。というか、あの落ちた黒い塊が金属素材のクロガネだよな? だとすれば弾数に制限がありそうだけど。


 恐る恐る頭を出してみると、再びペリカノンが急降下してくるところだった。首は伸ばしたままだ。もう弾切れかと思ったが、その下にはカイエンが立っている。


「な! なにやってんだよ、カィ……ひいぃ!」


 カイエンは突っ立ったまま空に向けて剣で弧を描く。一瞬で振り切られた剣の後には、うっすらと扇状の赤い面が残され、それが上空に飛んだように見えた。ごくわずかな時間に消えてしまったが、目を見開いていたから見間違いではないはず。

 ほぼ同時に頭上の三羽は分割され、空気を裂く音と共に周囲の木々を激しく揺らした。

 今度は転げ落ちないように岩にすがりつく。そのまま赤い煙がカイエンに降り注ぐのを凝視していた。


「……さ、さんびきが、いぃ、いちげき」

「あ、タロっち呼んだ? 風が強くて聞こえなかった。もう出てきてもいいぜ!」


 なにもなかったかのように、カイエンは手を振っている。その背後で、シャリテイルは口を押えて笑いを隠しつつ俺を見ていた。

 くそぅ、俺が驚くのを分かっていたのかよ。


 塹壕から這いだしながら、前にも見たようだと思った。あのカイエンの特殊攻撃は、繁殖期のケムシダマの大群を消したときに見せてもらったのと同じだよな?

 あの時は周囲を見回していて気が付けなかったが、前も赤い軌跡はあったんだろうか。

 そういえば他の奴らも、度々似たような技を使っていたと思うが、気が付いたことはないな。まあ洞窟のように暗いだとか、大量の敵に囲まれたりで、よく見ていたとは言えないが。目で追って感じる以上に、すごい速さだろうし。


 ゲームでは別の扱いにされていたが、マグを利用する技なら、結局のところ魔技の応用なんだろう。たしかに威力が違いすぎて別物に思えるほどだけど。草原で見たときも、かなりショックを受けたが、こっちのインパクトの方がでかすぎる。あれこれ忙しく考えているのは、未だバクバクとうるさい心臓を落ち着けるためだ。

 はい深呼吸深呼吸すーはー。


「ちょうどいい位置ってのは、戦い易いとかじゃなくて、そこの溝のことだったんだな」

「その通りよ……ぷふっ」


 珍しく俺が隠れていられるように配慮してくれたのはありがたいよ。でもそこで笑ったら台無しだ。


「シャリテイル、泥団子食いたいか」

「わーごめんなさい、投げないで!」


 ポンチョから土を払うついでに、シャリテイルに向けてやった。


「なんだよ、楽しそうじゃないか。オレも……」

「まざらなくていい。もう済んだ」


 残念そうなカイエンから、シャリテイルに質問すべく目を向ける。

 よくよく見れば、この辺はかなり手入れされているのは分かった。拠点からの視界の確保や、塹壕の用意にしろ、この辺の敵が敵だからか他の場所よりも真面目にやってるんだろう。


「俺の手が必要そうな場所なんてあるのか?」


 意外なことにシャリテイルは、良い質問だな小僧というようにニッと笑う。


「そりゃもう、とっておきの草がタロウを待っているわよ?」


 カイエンが何かを思い出したように手を打った。


「ああ、あれか。確かに俺たちには面倒だが、タロウにとっては他愛もないだろうな」


 さして危険だとも邪魔くさいだとも思えない反応なんだが。元々こいつらに、その辺りの危機感を求めるのは無意味だったな……。

 諦観の溜息を吐きつつ、ぼちぼち歩き出すと、ウィズーたちが戻って来た。


「そっちにも、行っちまったな」

「先に気を引いてくれたおかげで一組で済んだわ。ありがと」

「んじゃ、俺たちは拠点で待機してる」

「おう、頼むぜ」


 なんて会話をして通り過ぎて行った。


「え、あいつら戻るの?」

「火を見ていてもらわないと困るからね」

「なるほど」

「それに、オレたちが戻る時に拠点周りが魔物まみれだったら困るだろ?」


 ああ、なるほど。考えたらそうだ。

 いや、なるほどじゃねえよ。こんな人数で平気なのかよ。

 実質、カイエンとシャリテイルの二人組じゃねえか……。




 その後、俺たちはペリカノンに襲われることなく目的の場所に到着した。

 ウィズーが言ったとおり数が少ないか、元から出現頻度が低いんだろう。南の森でさえ、種類別の数に偏りがあることだしな。

 ここらでは、キツッキやホカムリ枠がペリカノンで、カピボーにケダマ枠は、六脚ケダマ?

 可愛げも何もあったもんじゃない。


 それはともかく、どうして俺が山頂近くまで来なければならなかったのか、はなはだ不本意である。

 しかし目的地の塹壕もどきにて、それを見た瞬間に、俺は全てを理解した。


 なんだこのエイリアン。

 どこの宇宙からやってきた繭なんだよ。


「この大変さが分かってくれたみたいね?」


 シャリテイルは嬉しそうに、杖でそいつを指し示した。こくこくと無言で頷く。


「この、貼り草(はりそう)の討伐をお願いしたいの」

「……ああ、うん」


 全体的に灰色に薄汚れた生成りの布といった見た目のそいつは、菱形で人の胴体くらいの大きさだ。木の幹やら岩やらに貼りついているものもある。

 ただし菱形に見えるのは大部分の密集して絡んだ繊維質の部分で、端からほつれたような糸部分は、さらに伸びて壁を這っている。

 しかも壁を這う糸は他の繭の糸と絡まっており、辺りを見渡せば、菱形の模様が点々とあるではないか。


 なによりも、こいつが滅殺されるべきものだと主張するのは、膨らんだ菱形の中心が、まるで呼吸をするように、ゆっくりと脈動しているからだ。

 俺は無言で、ナイフを握る手に力を込める。


「ぬっ、これがタロウの本気か……恐ろしいほどの殺意だ!」

「うん、やっぱりタロウを連れてきて正解だったわね!」


 どこまで恐ろしい魔草が生息してるんだ、この界隈。マニアックすぎんだよ。


「一応聞くけど、この中身って動物だったりしないよな?」

「いやね、ただの草なのよ? 動いて見えるだけで動物じゃないわ」


 いや動いてるだろ、どう見ても……。


「ええと、じゃあ中は?」

「種子だったかしら。それを飛ばして増えちゃうみたい」


 俺は身震いした。

 なんておぞましい魔草だ。

 そういえば、地球にも実が弾けて飛ぶような植物があったような。

 だからって無駄に巨大化したり蠢く必要はないだろうが。


「よし、オレたちは下がって見てようぜ」

「あっ、そうよね」


 などと言って二人は、こそこそと下がっていく。

 あの様子だと、他にも何かあるだろ絶対。

 念のため布で鼻と口も覆っておこう。


 布っぽい部分の隙間にナイフをいれ、思い切って剥いだ。

 結果的に言えば、口の布は意味なかった。



「いててててて、ててっ、いてっ!」



 なんだよ、こいつはああぁ!


 布を剥いだ場所には、蓮根状の板が貼りついていたのだが、その穴から順次何かが撃ち出されてきた。とっさにキャッチした一つ以外は被弾。攻撃はすぐに終わり、手の中のそいつを確かめる。緑の菱形っぽい物体でイチジクほどのサイズだ。


 これが種子かよでかすぎ!

 これを毎回、八発も喰らわなきゃならないのかよ。

 さっと背後に首を回せば、同じくさっと二つの頭が岩陰に隠れた。半分見えてっからな。その頭めがけて種子を軽く投げたが、どこからともなく生えた杖がカコンと弾いた。高性能種族め。


 道具袋を広げて、跳ね返ってきた種子や初めに落ちたやつを拾う。

 改めて、つついても動かなくなった貼り草を、まじまじと眺めた。蓮板の縁から布っぽい糸が覆っているらしい。線状の花びらなんだろうか。貼りつくための線は、蓮板の裏から伸びているように見える。こっちは根っこなんだろう。

 ……どこに蠢く要素があったよ。


「ええい、気持ち悪い魔草ばかり育ってんじゃねえぞ!」


 やけだ。

 こいつらを死滅させて自然のバランスが崩れたとしても構うか。俺の目についたことを後悔しろ。一つの種子さえ逃しはしないからな!


 次からは撃たせはせんぞ。

 大きめの道具袋の口を開いて被せるようにして、貼り草の横から布部分を剥ぎ取っていく。

 結構な勢いがあって初めは袋ごとふっ飛ばされたが、慣れると全弾をキャッチできるようになった。

 袋が重くなると被せるのが難しくなったから、空袋で受け止めて中身を移していく。


「おぉー、器用に拾うわね!」

「ほほぅ、色んなこと考えるな」


 お前らは、これまでどんな工夫をしてきたのかと聞いてみたくなったが、多分、力任せに剥ぐだけなんだろう。

 ……そりゃ、皆の身体能力なら避けられるだろうし、避けられるなら力任せの方が速いだろう。その場合は、拾うのが面倒だったのかもな。


 種子は、篝火で焼くのかな。いや、さらに弾けて危険じゃないか?

 まあ、それも試せばいいか。


 幾つか落ちてしまった種子を拾いながら、ふと思った。

 こいつら、剥がなきゃ攻撃してこないなら、何が邪魔なんだ?


「なあ、シャリテイル。こいつらを放置したって、討伐に関係ない気がするんだけど」

「なにを言うのよ! ペリちゃんの攻撃を見たでしょう? もしドッカン攻撃がそこに落ちて掠ったりしたら、上から横から痛いじゃないの」


 痛いで済むのかそれ。


「そうでなくても、時期が来れば勝手に弾けるんだ。運悪くかち合ったら、すんげえビビるんだぜ?」


 カイエンの指摘には納得。そりゃ種まきの前に、取り除いておきたいよな。


「なら、ひとまずは、こういった場所を中心に片付ければいいんだな?」

「うん、頼むわね!」

「背後は任せておけ!」


 と、シャリテイルとカイエンは岩陰から俺を応援した。

 俺は無意味と知りつつ恨みを込めた目で威嚇しながら、黙々と貼り草殲滅に励むのだった。


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