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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
低ランク冒険者編

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192/295

192:パッシブスキル

 やや腰を落として前傾気味に、でこぼこした壁と向かい合う。

 足の裏で起伏を確かめるようにしつつ横に移動しながら、ばりばりと苔草をむしりちらしていくが、滑り止め加工のおかげで苦労はない。


「上半身だけで右に左にと腕を伸ばして摘み取るか、器用なもんだな」

「おお、今度はつま先立ちで両腕を伸ばしたぞ! しかし天井の隅にある敵には届かないぜ。どうするつもりだ?」

「なんということだ……勢いをつけて跳ねたと思えば、岩の窪みに指だけでぶら下がっただと!?」


 いつも実況している側だが、される方というのは落ち着かない。

 けど気にしている場合ではない。急がないと。


 これまでも地面が湿っている場所はあったが、そこまで滑ったりすることはなかった。ここが特に滑りやすいんだろう。

 そもそも地面もがたがたしているし、よく見れば苔草だけでなく普通の苔っぽいものも見られる。

 魔物のレベルも上がって危険度が高い場所だ。

 よく今まで死人が出なかったな……俺が知らないだけだったらどうしよう。

 そっち方面のことは考えまい。


 だから、なんで俺が、そんな危険度が高いところにいるんだよ!


 そりゃ、最後の方が場所の難易度は上がると言われたとはいえ、ここは酷すぎないか?

 今までもずっとひーひー言っていたけどさぁ、俺が大騒ぎしていただけな感じもあった。

 ナガミミズクとか、あんな大物が出るなんて聞いてない。


 意地でも今日中に終わらせるつもりだが、あんな魔物に度々中断されてはたまらない。

 あ、戻りなら魔物に時間は取られないはずだな。

 暇そうにぶらぶら歩いているウィズーらに話しかけた。


「この辺の魔物は、どのくらいで戻るんだ?」


 魔物数の戻りが遅いなら逆側からの作業は楽になるし、終わる目処が立つ。

 特に、ナガミミズクとかでかいやつは戻るのか遅いとか、そういったことを期待したのだが。


「すぐ戻るから気にするな」

「は? すぐ戻る?」


 ウィズーは軽く言ったが、だから気にするなってどういうことだよ。

 デープが続ける。


「戻るっつーか、魔泉が近いだろ? 定期的に湧き続けてっからよ。そこから、どっちに行くかは、あいつらの気分次第だ」

「まあ、この辺の山にある魔泉は小さめでな、さして数は増えない。これまでと変わらん。だから任せとけってことだ!」

「ぐぶっ」

「うおっ、すまん」


 ダンマが任せろと俺の肩を叩いた。だから、お前らはでかいんだから加減しろ。


 それよりも、魔泉が小さい? だから少ない?

 えぇ、しれっと重要なことを知ってしまった気がする。

 数は増えないって……これでかよ。

 それに。


「魔泉から生まれる魔物に、違いがあるなんて思わなかったよ」


 今回の依頼で一番奥と決めた場所が、二つの入り口から続く合流地点だが、合流した洞窟の奥は、さらに地下深くへと続くのだそうだ。

 その意味するところは、魔泉があるということで、さらに強い魔物が居るということ。

 魔泉は、こういった空になった魔脈の奥深くにある場合もあれば、空にならず持ち上げた山の上から噴き出す場所もあるらしい。


 魔泉の大小は、単純に口径の話のようだが、より強い魔物が生まれるのは、中身の詰まった魔泉からのようだ。

 てっきり一番強い奴は決まってて、それから分裂するのだと思っていた。

 多少の違い程度なら、一定以上の強さからといった法則はありそうだ。


「そうだな、俺たちが見たので一番弱い奴ってえと……ペリカノンか?」


 ウィズーの言葉に、二人も頷いていた。

 適当にふった話題のつもりだったが、三人が口々に話すことに驚いてしまった。

 なるほど……魔物のことは考えないでおこう。

 それよりも、依頼の時間短縮するアイデアはないかだよ!


「そうだ。こいつらは外に埋めていいのか?」

「ああ、それでいい」


 良かった。

 持ち帰らなきゃならないとなれば、諦めるしかなかった。

 それでも、カゴがいっぱいになったからと戻る時間も惜しい。

 それだ!


 俺は採集用の袋を取り出す。

 そこからは無言でむしり続けた。

 カゴが一杯になれば袋につめ、袋が一杯になればカゴの上に積んだ。


 三人が俺の作業を見てひそひそ話すと、ウィズーが恐る恐る尋ねてきた。


「それ、えー、俺たちも、運ぼうか……?」

「持てるだけしか運ばないから大丈夫だ。あ、予備の袋があれば貸してくれると助かる」


 さっと差し出された袋を確認したが、特徴は特にない。

 自分のものと混ざらないように、肩に吊るして持ち運んだ。




 外に出ると、穴を掘ってカゴや袋の中身をぶちまけた。


「おいおい……まさか、昼までに終えるとは思わなかったぜ」


 俺もだウィズー。これなら、もう一件もいけそうだ。

 隙間の奥まで確かめる手間は省いたから取り残しがありそうだけど、暗くて手を突っ込むしかなかったし、そこはどうか許してほしい。


「人族が、ここまで苔草に強いとは知らなかったよな」

「ふふ、デープよ、人族特有などと思っているとは笑止」

「なんだと?」

「間違えるなよ、これは俺だけに生えた能力だぜ?」

「すげえ、極めてんな!」


 パッシブスキル、草キラー!


 響きが殺虫剤のようだ。

 そんなスキルいらねー。

 平和な世の中ならありがたいだろうけどさ。


「煽てたって誤魔化されないからな。休んでないで次の穴倉へ向かうぞ」

「くっ、見破られていたか……!」


 後半は歩いていただけだったじゃないか。

 横道もないから戻りに魔物は現れなかったため、三人は欠伸交じりだった。


 当然、外に出れば山の上から降りて来たらしい魔物はいる。

 西へと移動しながら三人は敵を薙ぎ倒し、俺はみんなの陰から見守るぜ!


 もう一つの入り口から洞窟へ入れば、やはりコイモリはいた。

 でもそれだけで、奥の三叉路に気色の悪いナガミミズクは現れなかった。

 俺を脅したのかと睨めば、ウィズーは澄まして言う。


「言ったろ? 今日は高ランクの当番だって」


 ああ、それでどこか気楽な感じだったわけですね。

 それでも、あんなのが出るのか……。


「ナガミミズク一匹で済んだなんて、楽勝な日なんだぜ?」

「楽勝って……なら、いつもなら何が出るんだよ?」

「そうだな。一番面倒なのは、イモタルだろう」


 それって鉱山面での中ボス的な魔物だったろ!

 ああ、でもこっちの世界だと、結局は魔脈に沿った場所になるのか。

 ゲームの都合とは違い、洞窟ならどこも同じなんだろう。


 見る機会がなかったと思うと、途端に惜しい気がしてきたが気のせいだ。

 今日のところはラッキーと思っておこう。






「戦いの勝利とは、いつも虚しいものだな」

「ああ、全くだ。今日は勝てた。だが、明日は分からない」


 思わず漏れ出た俺の呟きに、ウィズーが同調する。

 心身共にぼろぼろの俺たちは、気の滅入る穴倉から出て暮れ行く空を見上げると、ふと足を止めていた。


「でもよ、この美しい夕日を再び拝めた。この一時が、美酒に勝る最高の褒美だろう。俺たちゃ、そんな道を選んだんだ」


 ダンマが炎天族のでかい体に似合わぬ繊細な感想をぶつ。

 そして、デープが身も蓋もなく言った。


「どうせまた生えてくると思うと、面倒くせぇよなぁ……あ? なんだよ、みんなして睨むなよ」


 まあ、その徒労感をどうにか大義を果たした風に言おうとしていたわけだが。

 いまいちすっきりとはいかないが、どうにか憎き苔草を退治できたんだから良しとしたい。

 デープの言う通り、あの環境じゃ、すぐに元通りになるんだろうけど。


「おっと、まだ森を抜けなきゃな。もうひと頑張り行くぞ!」

「おー……」


 ウィズーの号令に、俺も含めたその他は、かったるそうに応じた。






 すっかり薄暗くなったころ、街の南側入り口へと着いた。


「今晩はどうする?」

「早めに戻るぞ。疲労回復が第一だ」

「ああ、明日は遠出するんだったか?」


 ウィズーたちは予定を話しながら、一杯くらい飲もうぜとか飯食って帰るぞと言い合っている。

 大通りを歩いていると、何処か賑やかな空気に満ちているのに気づいた。

 以前にも、こういったことあったな。


「あっ、行商団?」

「なに!」


 いそいそと足を早めると、やっぱり物売りが並んでいる。


「そうみたいだな」

「見ていこうぜ!」

「久々に変わったもんが食えるな!」


 急に元気になった俺たちは、あれこれ物色する。

 さっそくダンマが肉の塊を掴んでいたが、マンガで見た原始時代の肉みたいに骨が生えてる……一体、なんの肉なんだか。


 興味はあったが値段を見て気が滅入り、そそくさと隣のゴザに近付いた。

 傍らにある車輪付き木箱の上には、野菜だか果物のようなものが並んでいる。

 心置きなく俺に買えるのは、ここだけだろう。


「お、例の木の実があるな」

「兄ちゃん、お目が高いね。この一袋で」

「千マグ、高っ!」

「ええっ!?」


 あれ?


「前も同じような会話をしたような?」


 などとこのおじさんが、俺の心を読んだように首を傾げた。

 最近来たばかりじゃないか。神出鬼没か?


「ああ、ごほん。それではなく、そう、そっちの梨をもらおう!」

「ナシ? これは白身だよ」


 またそんな名前!

 しかし、ザル一杯500マグで買ってしまう俺だった。

 赤身って300マグじゃなかったっけ。赤身より高級じゃないか!


「タロウは白身か。確かに美味いが、そんなもんで腹膨れるのか?」

「おやつだ」


 袋から取り出し、一つずつウィズーらに投げた。


「やったぜ!」


 そんなもんと言いつつ、めちゃくちゃ良い笑顔しやがって。


「しまったな。報告前に色々買って、荷物が増えちまった」

「いや、そろそろ撤収するだろうし、ちょうど良かっただろ」

「急ぐか」


 ギルドに駆け込んで報告を終える。


「本当に、あの場所を二件終えられるなんて思いませんでしタ……」


 ウロのように目と口を開けた、驚き顔の大枝嬢の前にも白身をお供えした。




 ギルドの前で、ウィズーが足を止める。


「タロウ。色々と、見直す機会を得られた。感謝するぜ」


 それって滑り止め加工を入れろというのを、無しでも動けるようにする云々のやつか?

 考え直せと言いたいところだが、やけにさっぱりした顔つきだし、余計なことは言わないでおこう。


「また、一緒にでかけるときはよろしくな!」

「じゃあな!」


 再会はともかく、危険地域に出かける機会はないことを祈りたい。


「タロウも、よく休めよ!」


 またなーと手を振って、ギルド前で別れた。


 暗くなって花畑は無理だし荷物もあるし、いつも通り洗濯に戻るか。


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