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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
低ランク冒険者編

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189/295

189:頭部オプション入手

 ランタンを掲げて南の森沿いを駆け抜け、草原へ出た。

 しかし、昼とはまるで違う様相を呈している草原では、そこそこ大きな敵の影すら、見当をつけるのは難しい。

 膝あたりの高さで、そよそよと揺れる草の狭間へと視線を懸命にさまよわせる。


 俺も敵の見分け方くらい、少しは慣れた。己の力を信じるのだ。


「その名も――タロウ・アイズ! 不自然に似通った黒っぽい岩陰を、もしかしてケムシダマ? と判断できるていどの能力だっ」


 タロウよ、貴様はどこまで愚かなんだ。こんな闇属性の場に支配されし、魔草原へと繰り出すとは……血迷ったか。

 分かってるさ。だがな、こんなチョロイ仕事は早く片付けるに限るんだよ。


「ケムシダマの粘液団子ごときに、昼間の貴重なやる気を奪わせてなるものか」


 腰を落とし、腕を精一杯伸ばして殻の剣の先で草むらを端からつつく。

 どうだ、この見事な及び腰。さあ俺を脅かしてみろ。すぐに森へと逃げ込んでやる。

 その時、視界の端に暗い塊が引っかかった。


「そこか!」


 タロウの先制攻撃!

 殻の剣を振った!


「くっ……しかし相手は、ただの草の塊だった……」


 さすがに、結界柵に近すぎたようだ。

 渋々と、少しずつ遠くへと進む。

 ぽつぽつと草のないところがあるから、そこを渡り歩こう。


 もにゅっ――そっと足を延ばした先にある地面は、幻だった。


「ケムュ」

「うわわ」


 いつもならば、バランスを崩して尻餅をつくところだ。しかし、こうなるだろうことは予想済み。

 そのまま不安定な爪先に力を込め、ケムシダマを押さえる。


「お、お前が現れるのは分かっていたー……」


 どきどきする胸を押さえてケムシダマの首根っこを掴むと、森沿いまで慌てて駆け戻った。

 ケダマと違って長いから、ぐねぐね動かれると体に当たって鬱陶しい。


 さて、どうやってうまいこと吐かせるか。


 ストンリから、容器は青っ花用の木皿でいいと聞いている。

 木皿の内側に塗ってある固める効果は、ケムシダマの粘液にも作用するようだ。


 採取量は手のひらサイズの一皿分でいいとはいえ、適当に踏んだら、そこらにぶちまけて広がる。

 前に確かめたとき、お椀のような口の下らへんを押したんだったっけ?

 ゆっくり手で握ってみようか。


 地面に皿を置くと、ケムシダマの体がそれに当たらないように脇で挟み込み、そばに屈みこむ。


 いざ……むにむに。


「ゲビョゲビョ」

「うわあ……」


 思った通りに吐き出してくれたが、口の端から漏れ出る。

 皿は外してしまった。

 はい、やり直し。


 二匹目を拾ってきて、今度は一皿分を集めた。

 集めたはいいが、周囲もべたべたする。


 ナイフで剥ぎ取りたいが、マグ強化で溶ける効果は影響しないだろうな。

 皿の中身は……蓋をしておけば、大丈夫かな?

 ダメだったら、また来よう。あまり長時間、こんな場所をうろつきたくない。


 念のため二皿目も採取して、街に戻ることにした。

 そもそも今晩は休もうかどうしようか悩んでいたくらいだ、修行は十分だろう。

 カピボー退治はまたにしよっと。




 ベドロク装備店の雑然とした店内に、こつんと乾いた音が響く。音の原因である男の他に客の姿はない。

 作業場にいたストンリが、こちらに鋭い視線を向けた。

 その客こと俺が、装備店内のカウンターにブツを置いたのだ。


「待たせたなストンリ。こいつが……お前の仇だ」

「依頼書を出せ」


 呆れた声が、俺の真剣味を台無しにする。


「キングケムシダマとの熱い騙し合いと戦いを繰り広げて来たというのに……」

「そんなものが居るとは初耳だ。なんで二つある」

「はみ出た分をナイフで剥いだから、中身に影響ないか心配になって」

「それなら大丈夫だろう。素材は……問題ない」


 ストンリが皿の中身を確かめて別の容器に移すと、塊はやや膨らんで、ぽよんと揺れた。なるほど粘液の玉だ。蜜とは固まり方が違うらしい。

 不安だったが、問題なかったようで良かった。


「こっちも買い取らせてくれ」


 そう言われるだろうと思ったこともあり、ここは素直に二つ分の報酬、千マグをいただく。


「まさか、あのまま出て行くとは思わなかった。ついでで良かったんだ。そりゃ助かるけど」

「ああ、気にしなくていい。毎晩の南の森での修行を、草原にしただけだから」

「修行ね……」


 さっそく、ストンリは奥の作業場へと戻る。


「これで、滑り止め用の材料も十分だな。できたら伝言する」


 きびきびと作業を始めるストンリに、挨拶をして宿へ戻った。



 ◇



 新しい朝がキタコレ!

 おっさんからストンリの伝言を受け取り、装備店へ駆け込む。


「ストンリ! いつ寝てるのか疑問だけど、とにかく俺の装備!」

「タロウはいつも落ち着きがないが、本当に人族なのか?」


 すでにストンリは、商品を取り出していた。

 差し出されたものを両手で受け取る。


「お、おお……なんだこれ」


 俺の知ってる鉢金と違う。


 どうせハチマキの真ん中に、ヒソカニ殻の板でも張りつけたようなものになると思っていた。

 それが、そこそこ重みもあるしでかいし、なんというか、見た目的にいうとチャンピオンベルトみたいなゴツさがある。


「布製になると思っていたんだが、これ革製だよな?」

「形状は、この紙に書かれた通りだろ?」


 ストンリが掲げた紙切れには、昨晩、俺が説明を試みた落書きがある。

 俺の図がいまいちなのはともかく、うまく伝わっていると思っていたのに。全体的にサイズが一回り大きいぞ?


「端を長めにしてあるのは、調整用だ」


 なるほど、ハチマキのように結ぶ変わりにベルトになっているのか。

 頭の後ろで長さを調整できるから、現在装備中であるクロースヘルムと呼んでいる、ただの手拭いの上からも装着しやすいだろう。


「いや端だけじゃなくて、随分と幅が広いし、ついでに言えば分厚い」

「それは、おまけだ」


 なんでおまけをつけたがるんだよ!?


「どうせ改造元の素材が無駄になるから、利用できるだけした方がいいし」


 想像の倍は幅があるおかげで、綺麗に額が隠れそうな大きさだ。

 さらには革製というだけでなく、二重にしてあるらしい厚みのおかげで、けっこうな衝撃も吸収してくれそうだぞ。

 そして土台の革ハチマキの真ん中、ここだけは予想通りにヒソカニ殻の板がはめ込まれている。

 額部分だけじゃなくて、留め具もしっかりしてるな。


 どうにか防御力を増そうと、工夫してくれたのが分かる。ただの意地かもしれないが。

 でも、やりすぎだろう。


「色々と無理言ったのが、申し訳ない気分だ……」

「面白い試みだったから、別に」


 そんなことで納得して、いいのか?

 もう少し商売っけを出そうよ。しかもフラフィエのところと違って、ここは一応親父さんの店だったよな。


「そういえば、革製の装備を作るのは、親父さんから許可が出るまでダメだって言ってたろ? お隣さんに頼んだなら、その分の手間賃とかどうなってるんだ?」

「作ってない。カワセミ革製の胸当てが余ってたから、それを調整しただけだ」


 思いっきり、加工が必要なんじゃ。それを作るっていわないか?


「そうか。黙っておくよ」

「だから、在庫処分だって」


 ストンリは気まずそうに顔を反らした。

 そういうことにしておいてやろう。


「ああ、でも、元はしっかり作られたもので、品質に問題はないから」

「そこは心配してない」


 妙なことを言ってるのは、いつも俺の方だし。親父さんが帰ってきてストンリが怒られることがあったら、俺も一緒に怒られてやるよ。なんせ、俺には今、どうしても必要なものなんだ。

 恩に着るぜ!


 さっそく約束通り五千マグを支払う。

 ただのハチマキにしては高値にできたと勝った気でいたけど、現物を見た後じゃ安すぎるな。

 もしかして折れてくれたと思ったのは、こうして俺を見返すためだったのか?


「ストンリめ……次は負けないからな!」

「なんに張り合ってるんだよ」


 そうだ、あまり時間もないし、早速装備して出かけたい。

 鏡を借りて、装着させてもらう。


 着けた姿に、もうハチマキの名残りはない。

 前からなら、額から頭の上までしっかり隠れているように見える。


 しかし、違えようもない、この感覚。

 ひゅぅと風が通るような、解放感。


「どこか問題があったか?」

「頭頂部がさみしい……」

「意味が分かるように言ってくれ」


 俺は上からの攻撃が不安だったはずだ。特に後ろ側。

 自分で頼んでおいてあれだが、求めていたものとは、少しばかり意図が違うような気がしてきた。


「頭の上はカバーしきれてないし、はたして俺にとって意味があるのだろうか?」

「俺に聞くな」


 だから言っただろ、とストンリの小言が始まる中を懸命に考えた。


 これだけ丈夫で広範囲なら、平気な気もするが。

 少しずつずらしながら位置を調整する。 

 お?

 こいつ意外と滑らないな。ああ、粘液素材の滑り止め効果か……。重みはあるが、その分は幅を広くしたおかげで、ずれにくくなっているようだ。俺が考えるよりもずっと、ストンリはあれこれ考えてくれたんだろう。


 よし。ずれにくいんだったら、どうにかなるんじゃないか?

 布を巻いた上から、こいつを装着するとして……こうすれば、完璧じゃないか!


「ストンリ、これならどうだ?」


 返事はない。

 俺は、自ら答えを出すべく鏡と向かい合った。



 すばらしくダサい。



 ハチマキのように後頭部で縛るのではなく、ヒソカニ殻部分を頭頂部に来るようにして、顎の下で縛ってみたのだ。


「うむ」


 一人頷くと、心なしか冷たい目のストンリに感謝を伝え、新たな戦地へと赴くべく意気揚々と装備店を後にしたのだった。


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