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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
低ランク冒険者編

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181/295

181:コイモリ盛り

 本日の依頼も、前回に続き放牧地方面の森だ。

 結界柵の外側に連なる狭い畑の北端に、ちっこい物置小屋がある。その待ち合わせ場所へ向かおうと宿の側の路地を抜けると、ぼんやりと明るい朝の陽ざしに照らされた放牧地が視界に広がった。


 見渡すとウギの群れが小屋から草地を移動していたり、南の崖側では小屋の間で蠢いているものがいたりだ。なんだあれ、気になる。時間に余裕はあるし寄り道だ。


「うわ、なんだこいつら。ぷくぷくしてんな」


 小屋の狭間に立てつけられた柵内に居たのは、鶏もどきだった。飼われてるのはウギだけじゃなかったんだな。


 柴犬サイズの鶏もどきは、足と嘴が短くて丸っこいためか鶏ほど凶悪そうには見えない。とはいえ柵で囲われた中にいるくらいだから、ウギほど秩序だった行動は取れないのかも。鳥頭なんて、ここでも通じるんだろうか。


 柵の高さは俺の腰辺りだが、羽ばたきはしても飛ばないし、たまに跳ねるが脚力もないのか抜け出せないようだ。

 中央に山盛りの巨大な大豆のようなものを、ついばんで喉を鳴らしている。朝食なんだろう。初めて食堂で食ったのは鳥のもも肉っぽかったよな。


「あれ、お前ら?」

「ケキョーッ!」


 呟きに答えるように鶏もどきは羽を広げて飛び上がり、俺もビクッとして体を反らす。仇めと威嚇されたのかと思ったら違った。

 鶏もどきが反転した先に迫る、見覚えのある姿は――。


「げっ、カピボー!」


 こんな柵など魔物には無意味だ。カピボーがよじ登ったり隙間から入り込んで飛びかかる。


「貴重な肉になんてことしやがる!」


 走り出そうとしてつんのめった。

 鶏もどきが一つ羽ばたくとカピボーは叩き落され、周囲から嘴攻撃を受けて瞬く間に突き殺されたのだ。


「くっ……このケダモノめ」


 俺はあんなに苦労したのに……。

 いや人間なんて裸でサバイバルできる動物に素で勝てるはずがないんだよ。

 はい寄り道は終わり!


 待ち合わせ場所まで来ると、珍しく森近くまで来たウギの群れが目に入った。心配になるが、この辺に出てくる魔物といえば、カピボーとケダマくらいのものだ。

 案の定、何かが跳んでくるが、ウギはもっしゃもっしゃと草を食みながら頭を振って弾き飛ばした。鶏もどきがあれだけ強いなら、ウギは当然か。


 そんな光景を見てしまい少しへこみつつ、開け放されている小屋の戸口へと声を掛けた。




 ジェッテブルク山から東へ向けて、放牧地をぐるっと囲むように、なだらかな丘が連なっている。山は魔物の難易度が跳ね上がる危険地帯といった印象だが、魔物はほとんど放牧地側まで出てこない。それは魔脈が押し上げてできた山で、洞穴が巡っていることが関係すると聞いてはいた。


「手間がかかんなくていいだろ?」


 そう言ったのは、落ち着いた感じのスウィ・トホム。炎天族にしてはかなり小柄で、岩腕族を見上げるのと変わらない。うん、俺が見上げることに変わりはない。


 スウィは俺と並んで歩きながら、ウギに被害がないのはいいがほとんど魔物が出ないのは不思議だと、つい漏らしてしまったことに真面目に説明してくれていた。

 やや前方を歩く、がっしりと横幅のある岩腕族のドラッケ・エンは、寡黙なようで一言も口を挟まずにこくこくと頷くだけだ。


「その分、地下にもりもりでブッ殺すのも全力だぜー!」


 ひょうっ! とか叫んでいる森葉族のハゥス・ザデッドは、テンションがおかしくて目を合わせたくない。合わせたくはないが、後ろから物騒な声が上がるのも神経が磨り減るから落ち着いて欲しいというか、お前ら足して割れ。


 要するに北から東辺りの洞窟は魔脈からマグが抜けた後だし、魔物も底の方にマグの残っている魔泉から生まれて姿を変えつつ上ってくるため、外に出るのも時間がかかる。だから巡回して倒すので間に合うようだ。


 シャリテイルの話や、他の出来事からあれこれと推測はしていたが、改めて納得できた。 

 まあ、魔物が少ないんじゃなくて、外には出てこないように見えるだけってことだから、繁殖期や魔震などが起これば真っ先に確認に向かうようだ。

 魔泉も初めは、山のてっぺんとか側面とか地表に穴があって、そこから湧くと思っていたな。


「魔泉って、場所が決まってるわけじゃないんだな」


 スウィは焦ったような顔を向ける。カイエンに尋ねたとき言い淀んだことを思い出した。まずいことを口走ったか?


「おっと言い方がまずかったな。そうじゃなくてよ」


 たんに俺が不安になったと思ったらしい。魔物がすぐ足元まで吹き溜まっているわけでもないと、慌てて付け足してくれる。


「随分と昔、前の戦いんときに、あの主が使い切ったって話だ。マグを操るらしいからなあ」


 あのぬしと言って顎で示されたのはジェッテブルク山だ。ここでは最も高い山は、木々の狭間からでも見ることか出来る。

 邪竜は、直接マグを操る能力を持つ。それは本体を封印された現在も、魔物に脅かされているんだから確かだろう。

 でも、それなら地下の魔物はどこから来てるのかという疑問に答えが返る。


「使い切ったってのは浅い部分だけとの話だが、浅いってのも邪竜にとってはで、俺たち人間にとっちゃ随分と深くまで空洞なんだ」


 魔泉に当たる最深部までの巡回は、さすがに高ランクと中ランク上位の奴らが担っているらしい。ただし全ての魔泉に当たる出現ポイントを毎日のように回り切れるわけでもないから、残った場所に現れた最高ランクの魔物を倒し損ねるだけで、そこらに溢れてしまうということのようだ。上位陣の仕事って、大変なんてもんじゃないな。


 と、そんな話が出ている時点で、行き先はお分かりだろう。

 また洞穴だよ。

 依頼書の『森』って、大ざっぱすぎんだろ。現代日本だったら詐欺契約になるんじゃないか。


 まあ、あっちこっち警戒してないといけない森の中よりは、幾分かマシかもしれない。俺以外の皆さんにとってはね。問題は、どこの洞穴かってことだが、伝えられた行き先は余計に気が重くなるものだった。


「もう少しだ、そこの山を越えたとこに入り口がある」


 北側の山並みを越えると聞いた時は、あやうく絶望に闇落ちするところだった。

 昨日の場所より難易度上がるだろうと思ってはいたが、もう岩場方面と比べてどの程度変わるってんだよ。今後は、これより危険な場所しか残ってないのか?

 気が重くなった心情はダダ漏れだったようで、スウィはすぐさま補足した。


「一応言っておくが、あっち側に行かなきゃ大丈夫だぜ」


 スウィが指さしたのは北東方面だ。あー、そんな話も聞いたな。

 ゲームではマップに洞穴アイコンがあって中盤以降に行けるようになる面で、シャリテイルもちょっと危険だから近寄るなと言った場所だ。

 シャリテイルの不満げな口ぶりによると、カイエンなら楽勝そうな感じだったから、中ランクでも高難度地帯ってところだろうか。誰が近寄るか。


「クェキャクゥャッ!」

「ひゃっひゃー!」


 敵が現れる度に背後から聞こえる可笑しな声を無視して進み、間もなく目的の洞穴にたどり着いた。

 以前シャリテイルに連れられてきた場所に近く、天井の所々に開いた穴から光が差し込んでいるのも似ている。念のためランタンに火はつけておこう。

 俺の仕事は何も変わらない。

 ランタンを掲げ、薄暗い奥地を睨み据える。


「苔草討伐だよな」

「ああ苔草も頼む」


 気合いを入れて踏み込んだ足は、止まった。

 苔草、も?


「ほら、ここは穴だらけだろ? 外からの空気が多いせいか、絡み草と巻き込み草も縄張り争いしてんだよ」


 隅の暗がりに目を凝らせば、ごわごわとした何かが絡まり合っていた。

 蜘蛛の巣のように広がった網が岩と岩の隙間を隠すように張り付いているのが、絡み草(からみそう)。丸めた有刺鉄線のようなヤツは棘の先が釣り針のようになっている、巻き込み草(まきこみそう)とのことだ。


 もうね、この駄洒落翻訳がどうなっているのかとか考えると気が狂いそうになるから無視したいんだけどさ。


「いい加減にしろよ!」


 思わずナイフを手に襲い掛かってしまうのは、仕方がないと思うんだ。


「おお、やるじゃねえか。こりゃ依頼に同行したやつらが騒ぐはずだぜ。この気合いと熱意は本物だな!」

「へっ、俺たちも負けてらんねぇ! 暴れるぜーッ!」


 気が削がれるから斜め上のポジティブシンキングはやめろぉ! ハゥスは、そのテンションですぐバテたりしないのか。ドラッケは、こくこくと激しく頷いていて、それも無駄に疲れそうだ。


 率先して奥へ駆け出すハゥスへと、岩陰やら暗がりに潜んでいたコイモリがわらわらと襲い掛かってくる。


「チェキキキッ!」

「おらおらァ!」


 げっ、何も考えずに草に突撃してた。あいつら天井からぶら下がってるだけじゃなかったんだな。


 ハゥスは、長めの杖をぶんまわしてコイモリを塵にしていく。杖にしては太くトゲ付きだし一応は魔技石もついてるが、もうそれ棍棒だよな?


「見ての通り、あらかたハゥスが片づけっから安心してくれ。長時間は持たないけどな。ドラッケ、交代できるように控えていてくれ」


 ドラッケを見ていると、民芸品の首振り人形を思い出す。スウィと俺が話すたびに、緩急自在に頷くのだ。ヘドバンかましてるのかと思うほど頷くくらいなら話好きなんだろう。喋ろうよ。


 ともかくドラッケは、頷きながらも変わった武器を手に先へ進む。普通の長剣程度の長さに見えるそれは、巨大な矢のような棒だ。短い槍じゃねえかと思うが、鏃のような先端とは逆の端には、しっかり矢羽のような部分もある。似た形なだけで硬そうだから、ただの持ち手なのかもしれないけどと思ったら、やっぱり持ち手だった。


 ドラッケはハゥスの横からこぼれてきたコイモリを、普通に突いたと思えば、やや距離のある奴には矢羽部分を掴んで突きを入れていた。普通の槍ではダメだったんだろうか。


 人の世話を焼いている場合ではない。俺には新しい敵が現れた。少し時間がかかるかもしれないし急ごう。

 この洞窟内では特別問題となる一か所があるのではなく、全体的に気になるらしい。見るからに絡まりやすそうな草が、二種類もはびこっているなら当前だな。

 ごわごわして絡むし面倒な敵だが、ひとまず目に付くものだけ刈って隅に置き、先へと進む。嵩張るから後で回収だ。まずは、どこまでやるか全体を確かめて見積もるためだ。奥から片づけた方がいいだろうし。


 奥へ進むごとに、やや下り坂になっていき、気が付けば天井の穴もなく真っ暗になっていた。


「ブヒャブヒャ!」


 ハゥスが率先して進むためか、スウィが戦うことはあまりないようだ。一応、やや幅広の直剣を手にしている。短めに見えるが、人族には普通のロングソードといった長さだろうか。


「お陰で、タロウの護衛に専念できるだろ」


 にこにこと、この引率依頼に向いてるから立候補したとか話している。そんなに張り合って奪うような仕事ではないと思うんです俺は。それどころか、こいつらは依頼側だから仕事でもない。


 のんびり話す余裕は見えるが、スウィもずっと控えてるわけにはいかない。さらに進むと、例の天井トラップが現れた。


「来いや、ど畜生がアァァッ!」

「おい、待てよ!」


 よりによって、天井からコイモリの尻尾攻撃が降り注ぐ中に突っ込んでいきやがった!

 バキキキキ――そんな音と共に、振り回した杖によって尻尾は叩き折られていった。激しい鳴き声がうるさいほどに反響し、そこにスウィの声も重なる。


「今だ!」


 ハゥスの攻撃で弾けるように散ったコイモリが、瞬く間に壁を流れてくる。波打つような壁面に、腹がひょーと浮く気分だ。

 コイモリの範囲攻撃くらいじゃ、並の中ランク勢にとっては問題じゃないのかよ。

 それでもシムシたちが立ち止まったのは、安全な方を取ってくれたんだろうと思った。


 ドラッケやスウィが、ばらけたコイモリを豪快に片付けていくが、数が多く素早いし、どうしても取りこぼしがでてくる。

 俺も腰を落としナイフを構え、果敢につっつく。つっついてるところで、それも横から片づけられていくが。


 どうにか倒せないか?


 天井からの尻尾攻撃は特殊攻撃のようだし、次に使えるまで間がある。

 尻尾自体は見た目通りに柔らかくて普段はそこまで脅威でもないのではないか、なんて推測をしてみる。


 だったら俺の場合、こんな狭い場所でナイフを振り回すよりは、まだ素手の方が倒しやすい。念のためスウィに確認だ。


「こいつらの尻尾、結構柔らかい?」

「そうだなぁ、ただ数が多いからな。集まってぴしぱしやられると結構痛いぜ?」


 痛いで済むのかよ。

 ドラッケも思い切り頷いているが、お前、二の腕は剥きだしじゃねえか。岩のような肌のお蔭で平気なんだろうか。硬さはあっても、触覚とか痛覚はあるような感じと聞いたはずなんだが。そういえば大抵の岩腕族の奴らは、腕の防具といえばグローブ程度だ。


 だからなんだ。

 今は俺だって、岩腕族の素肌程度の防御力はあるだろう。

 ヒソカニ殻のおかげでな!


「くそ、負けるか!」


 最弱人族だろうと頑張ろうといった殊勝な気持ちではない。すぐに怯む、己の心の弱さに負けまいと声を上げただけだ。壁を這ってきたコイモリの塊に腕を突っ込んでいた。


 適当に掴んだコイモリを引っこ抜くや距離をとる。掴んでいたのは羽だった。身を捩って逃れようとするコイモリの首を逆の手で掴む。

 肌の表面にはぬめりがあり、以前の装備なら逃がしていただろう。だが滑り止め加工はここでも効いた。


 逃れられないと諦めたのか、コイモリは掴んだ腕に尻尾を絡めるように伸ばす。技は関係なく元から伸縮自在かよ。


「チケキッ!」

「ふっ、他愛もない」


 反撃を受ける前に羽をむしり取っていた。さらに首を掴んだ手に力を込める。


「ぐぬ……」


 ナイフを取り出し、弱ったコイモリに止めを刺した。


「ほぅ、やはりコイモリ程度は軽いようだな!」

「ま、まぁな……」


 ハリスンほど早くないし、レベルも下のレベル17だ。倒せるだろと思ったけどさ、本当は首をねじ切ろうとしたんだ……細く見えるのに、意外と硬くて無理だとか詐欺だろ。さすがにケムシダマと同じとはいかないか。


 まあ、そうと分かれば、掴んでは刺しと繰り返すだけだ。もちろん、うっかりでハゥスの野郎に殴り殺されたくないし、周囲の邪魔にならないように近い奴だけを倒す。


「チキキケケッ」

「ひあっ」


 もたもたと倒している内に、背に取り付かれて飛び上がっていた。


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