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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
低ランク冒険者編

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180:謎の大枝嬢と魔技石の夢

 つい好奇心を優先してしまい、シムシに署名をもらった依頼書を渡すことも忘れていた。

 うっかりギルドを通り過ぎて、慌てて駆け戻ると大枝嬢はまだ勤務中だった。

 そういや、いつも朝から居るよな。本当に根を張ってしまわないか心配になる……ご苦労様です。


 依頼書二枚とタグを渡して精算してもらう。内容を確認した大枝嬢の微笑みは、さらにぐにゃった。


「さっそく花畑へも出向いてくださったのですネ」

「今日は下調べですけど。次は青っ花も拾えると思います……多分」

「無理はなさらずに、ドリムの依頼もまだ残ってますカラ」


 もう窓口で堂々とギルド長の依頼とか名指しになってる。茶番臭いもんな。国に改善しろと迫られたにしても、制限だらけのようだし。絶対やけっぱちの思い付きだったと思う。


 でもあんなオッサンでも、一応お貴族様領主様らしいしなぁ。直接文句言うのは気が引ける。

 よし、長い物には巻かれておこう。


「それで明日の予定ですが、タロウさん? 何か気がかりが?」

「あぁ、いえ、ギルドについて大変なことに気が付いたようなどうでもいいような……」


 ギルド長のギルドでの立場とかは、ビオが王都へ帰った日に大枝嬢から聞かされたことを思い出した。

 こうしていつも丁寧な態度だというのに、いくら慣れた相手とはいえ仮にも身分が上のギルド長相手に、平民と変わらないから気にするななんて第三者の俺に言うだろうか。形骸化してるのか?


 この街に居る限りは知らなくてもいいだろうと思いはしたが、本当にそんな後回しにしちゃって大丈夫なんだろうか。

 聖者が来るようなことは滅多にないだろうが、国からの行商団自体は定期的に訪れるらしい。別口では国からの補助物資とやらも送られてくるなら、他にも偉い人の視察なんかあるかもしれない。


 例えば、宿のおっさんや大通り商店店主会の皆さん方が気にしていた、王都のギルドから来る偉い人とか?

 王都の冒険者ギルドなんて、どう考えても本部だ。こんな辺鄙な冒険者街のギルド長すら貴族なら、本部は幹部まで固めてそう。


「直接ギルドに関係ないことでも気兼ねなくお尋ねください。タロウさんの雑学者スキルを磨く手伝いをさせていただくと、お約束しましたしネ」


 そんなスキルはないし約束もしてないはずだ。


「ではありがたく。他の街のギルド職員のことなんかが気になってですね。あ、ここのギルド長はどうでもいいんですけど……」


 正直に、しかし婉曲した表現で、大枝嬢の言うように偉い人への対応はあんな風でいいのかと尋ねてしまった。


「あら、そうでしタ。国の外れからいらしたとはいえ、レリアスの民でいらっしゃるタロウさんの前では、不作法だったかもしれませんネ」


 大枝嬢には珍しく小枝のような指を頬に当て、困ったように失敗したかしらと呟いた。

 ぜんぜん隠れてないらしい隠れ里だが、やっぱ山ん中とか不便なところにある前提のようだ。さも分かってる風に言っておこう。


「いえいえ、そんなことはありませんよ」

「私は大森林の奥地にある、樹人族の国から出てきましたもので、気安過ぎたかもしれませン」

「えぇ! そうだったんですか」


 てっきりここで芽吹いたものと思い込んでいたが、他に見ないもんな。シャリテイルも樹人族は珍しいと言ってたし、あまり森から出てこないのか。

 まあ、大枝嬢を見ていたら、遠出も大変そうな気はする。


「その、国交があるんですね」


 あ、失礼な言い方だったかな。


「ええ、かなり奥地ですから知られてませんが。ほとんど森葉族の国に頼ることになり、なかなか他国と直接のやりとりは難しいのでス……お陰で父も苦労しておりましタ」


 大枝嬢はいかに僻地で取引も大変かと、苦笑しつつ話してくれた。

 なるほどな。聞けば昔ながらの森を保ちつつでは碌な道がないこともあり、こっちから訪れる者も少ないということだ。


 書庫で見つけた本には、現在の国の関係については書いてなかった。森葉族が大森林で国を維持してるんだろうってのは、なんとなく思っていただけだ。

 それはゲームのオープニングのせいだったっけ。

 昔の邪竜封印後に、近隣諸国はジェッテブルク山の管理を放棄してレリアス王国に押し付けたとかいう話。

 あんなに戦争しまくって分割したのに、あっさりと手を引くなんて……今は炎天族と森葉族なら、ありそうだよなと思ってしまう。

 その辺りの事情などは、ギルド長から聞いた話の中にも齟齬はないようだったし事実なんだろう。

 そこにはなかった樹人族の話は興味深い。


「それで、樹人族側も人を出して各国に存在をよく知っていだたこうと、私も奮起して出てきまして……あら、関係ないことまで失礼しましタ」

「コエダさんも苦労したんですね……って、だから出てきた? 父?」


 誰だ父。


「ええ、父が首長より外務を任されておりまして」

「首長からって……」

「あら? シャリテイルさんから樹人族のことも話したと聞いたので、すでにご存じかと思っておりましタ」

「そ、そこまで踏み込んだことは、何も聞いてません」


 首長って国の一番偉い人だよな。

 え、外務大臣の娘ってこと……?

 大枝嬢もお貴族様じゃねえかよ!


「それもあって、私では感覚が多少ズレているのかもしれませン」


 いや大前提が崩れましたから……もう気にしないでおこう。

 というか、小国ながら大臣らしき地位の娘と、近隣ではそこそこ大きな国らしいレリアスの下っ端貴族だというギルド長なら、同等くらいなんじゃないの?

 平々凡々な生まれの俺には、その辺さっぱり分からん。


「話を戻しますと、ドリムは爵位をお持ちといえど低爵ですから、市民と変わりない立場だそうですヨ」

「へえ……てい、しゃく?」


 大枝嬢の出現場所にも驚いたが、ギルド長の方も聞き覚えのない階級だ。元々詳しくはないし興味もなかったけど。


「やはり里の者には馴染みないのですネ」


 抜け忍みたいな気がしてくる言い方はやめてください。


「詳しくは、ないですが……ええと、どんなでしたっけ?」


 ちょっと、ど忘れしちゃっただけでぇ、聞いたこともないなんてことはないんですよぉと、いつもの知ったかぶりを発動しておこう。

 隠れ里の人族とやらは、一番近くの国に組み込んでもらうことにしたらしいから詳しくないのも納得なんだろうけど、さすがに自国のことすら知らな過ぎるのはどうかと思うしな。

 大枝嬢は、ぐんにゃり微笑んで短い言葉を紡ぐ。


「低爵、中爵、高爵の三階級だそうですヨ」

「よくわかりました」


 なんなんだ、そのいい加減な爵位は!


 思わずカウンターを叩きそうになったのをこらえて、質問など何もしなかったかのように明日の予定について話を進めた。


「明日もお願いしますネ」

「はい、こっちこそ変なこと聞いて。ありがとうございました」


 挨拶を交わしつつ立ち上がる俺につられてか、大枝嬢も立ち上がった。


「それでは、今日もお疲れさまでしタ」


 大枝嬢はミシミシと会釈すると、そのまま裏手の扉へと向かう。

 聞いたこと以外にも結構話してくれると思ったら、ちょうど上がるところだったらしい。妙なことに時間を取ってしまって、本当に申し訳ないです。




 宿で晩飯を済ませてから南の森へやってくると、いつものようにその辺の暗がりをさらう。


「なんなんだよ、低爵って……ん?」


 でもギルド長は元のジェネレションを名乗ってたよな。とりあえずでもこの街の領主なら、ガーズじゃないんだろうか。いやガーズは街の名前か。領主は土地の名前になるんだっけ……この辺の、土地?

 つい地球でいうところの西洋式で考えていたけど、そもそも色々と違いそうだよな。

 まあ、いいかもう。中爵以上が、なんか偉いと思っておけば良さそうだ。


 場の安全を確保すると本日の遊び、ではなく検証の準備完了だ。

 ケダマの数匹程度を見逃していたところで問題はないと思うが、念のために背高草区域側に出る。俺が刈り尽して開けているしな。

 ちょびちょび生えかけているが、それなりに地面も見える。


「十分だ」


 月明かりもあるが、木の低い位置から伸びている枝にランタンをかけてみれば、地面に置くよりも視界は確保できている気がする。

 おもむろにポーチから目的のものを手に取った。

 手のひらには、赤味を帯びた歪な形の細長い石。


「魔技石か……くくく」


 これが笑わずにいられようか。

 とうとう俺にも、遠距離攻撃の手段が手に入ったのだからな。

 だったらいいなあ。

 それを見下ろし、浮かべていた不敵な笑みは固まった。


「……使い方を聞き忘れてた」




 しばらくうんうんと唸りながら、これまで目にした誰かが魔技を使った場面を必死に思い返す。

 シャリテイルが洞窟でカラセオイハエ相手に見せてくれたとき、杖を掲げてなにやらむにゃむにゃ言って全体攻撃を行った。溜めの間があったように思う。

 でも、初めて見たのはデメントだったが、そんな間はなかったはずだ。叫ぶと同時に、すぐに効果を発揮した。

 そこは単純に威力の度合いによって、集中のしかたが違うってことなんだろう。


 どっちにしろ、それは通常の魔技だ。

 それらの技らしきものを定型化したものが、こんなちっぽけな石の中に閉じ込められているはずだ。

 フラフィエは、意図なく割れば効果は出ないと言ったんだから、割って使うもんなんだろう。


「でも、意図ってなんのことだ?」


 これまでの話を聞いたり、怪我したときの体験から、マグは血の中に多く含まれてそうな感じだ。

 考えたら、そんな体内のもんを意図的に絞り出すって……気持ち悪いな。

 っていうか、どうやればいいんだ。屁ぇこくようなもんか?


「まぁ、やってみるしかないよな」


 指でつまんだ石を顔の前に掲げ、念を送る。イメージ的に指の先から得体の知れないものを出す感じだ。いやマグだけど。

 変化はないかと、石の表面を睨むが何も起こらない。


「むむむ……ぐぬぬぬぬ」


 いやいや、よく考えたらおかしくないか。

 マグなんて普段は、怪我でもしない限りは外に出て行かないもののはずだろ?

 それにどのタイミングで割りゃいいんだよ。

 もう一度、みんながどう使っていたかよく思い出すんだ。


「みんな杖、持ってるよな。杖じゃなくても剣の柄にくっつけてたり……あ?」


 実は石だけあっても、意味ないんじゃないか?

 この魔技石は、すでに各効果とマグを込めたもののはずだが、杖に埋まってるのはマグだけを詰めている。

 魔物を倒して相手のマグが流れてくるのは、攻撃者のマグ成分に書き換えられるような感じとか思ったよな。

 あの杖部分に、持ち主のマグを石まで伝導させるような効果がある?


 意図せず割ってもマグが垂れるだけってのは、使用者のマグに触れないためではないだろうか。

 で、魔技石は杖を持つほどでもない奴らが、念のためとかで持つとする。


「腕そのものが、杖代わりになるんじゃ……」


 単純なことに気が付いた。

 要するに、持ったまま割りゃあいいんだってことに。


「あーごほん。ではやってみようか!」


 割ろうとしてまた止まる。

 手触りは硬い。かといって、叩きつけたら手から離れてしまう。

 握りつぶしたら、銃が暴発したみたいに腕が酷いことになるんじゃないのか。映画で見ただけで知らんけど。


 そ、そうだ卵のように割ってみよう。

 ターゲットを狙うどころじゃないけど、まずはどのくらいの力で割れるかの感覚を掴むのだ。

 よし、そういうことにしておこう。無駄遣いと思うと胸が痛むし。


「いざ……つ、土属性のなにかー」


 練習とはいえ、呼びかけには慣れておきたい。言葉はまた考えよう。

 石の両端を摘み親指は真ん中を押さえるようにして、中身が地面に向くよう意識する。それで地面に向くかは、これから知るところだ。ぐぬっと力を入れて、どうにかピキッとヒビが入った。

 これ他種族にも厳しそうなんだけど、本当に使えるのか?


 ひび割れから、もわっとした煙が噴き出し始めると緊張してきた。

 ま、巻き込まれたらどうしよう。でも手を離したら台無しのはず。

 手を思い切り伸ばして、体を離しつつ様子を見る。マグ由来らしく赤味を帯びた煙だが、魔物のものとは違って濁っていた。それが見る間に何かを形作る。


「うお!」


 わずかな衝撃と共に石の欠片が飛び散り、つい手を引いてしまった。そして伸ばしていた手の真下に出現したものに目を瞠る。

 地面を割るようにして、銅色の塊が刺さっていた。


 突き刺さる直前に確認できた感じでは、二つの円錐の底部分をくっつけたような、細長い菱形だ。

 その二の腕ほども長さのありそうな棘は、地面に中ほどまで刺さっている。


 これで小効果?

 四脚ケダマくらいなら何匹かまとめて串刺しに出来るくらい威力あるだろ。


「そうか。これ、成功だ」


 お、おお! 俺にも使える、使えるんだ……!


 腕を振り上げ、喜びに顔を輝かせていたはずの俺の目に映る景色は傾いていき、横を向く。


「ぐぶぇ」


 地面に鼻から張り付く寸前で、せめてもと顔を反らし頬を打ちつけて呻いた。


 わ、忘れてた。

 魔技石任せだろうと、MPは吸われるんだってことを……不覚。




 正直、人族にまったく使えないというのは、おかしな話だと思っていた。

 だってさ、マグ量が少ないという炎天族だって、魔技を使えないなんて話はなく「使わない」だ。場合によっては使うこともあるってことだ。

 それに他の種族だってメインで使ってる奴を見ないんだぞ。俺が見た限りではあるが、補助としても積極的に使っていたのは低ランク時のデメントくらい。それも魔技を一度放ったら魔技石でマグを補充していた。シャリテイルら中ランク以上は数回程度での補充はなかったが、元々よっぽど魔技の方が有利な場面でないと魔技を使うことはない。


 体内マグが底をつくと生命力を削るし、その前に体内マグ量が低下しすぎると下手すれば昏倒だ。そうでなくとも、急激な低下で気分が悪くなったりする。

 ということは、レベルの低かっただろうデメントさえ半分も消費してないと思うんだ。それどころか杖側のマグを利用するとしても、一割も使ってるかどうか。人間の感覚って意外と鋭くて、些細なことも気になるもんだし。


 だったら使わない理由は、あいつらを見てると、ただ気分悪くなるから嫌とか、そんなもんじゃねえのと疑っていた。


 だから、使えないと思うけどという話を聞いたところで、少しは期待してしまってたんだ。

 ものすごく気分が悪くなるのと引き換えなら、人族でも使えるんだろうってさ。


 なんで人族が使えないとされているかって?

 それを身をもって体験したところだよ。

 意識がなくなることはなかったが、しばらく無気力に倒れていた。


 たまたま倒れた先には、目の前にその原因があった。地面に生えた赤いタケノコを、俺は死んだ目で眺めていたことだろう。

 念のために森の外で試して本当に良かった。


 ぼーっとする頭をどうにかフル回転させ、タケノコ棘に知る限りの呪詛を吐き続けた。

 それも疲れ果てた後になって、どうにか手を動かす。腰の道具袋を漁り、マグ回復小の魔技石を割った。

 腹立たしいことに、それだけで気分が軽くなったから、怪我をしたときほどのマグ流出ではなさそうだ。


 こりゃ素で魔技なんか使おうもんなら一発で昏倒するな。

 いや、そもそもMPの総量が足りなくて使いようもないという意味だったんだろう。


「ふっ……いい夢、見せてもらったぜ」


 ごろんと仰向けになる。

 お星さまは綺麗だなあ!

 その晩は現実逃避で過ぎていった。


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