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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
低ランク冒険者編

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168:自由落下

 あのでかい草はなんなのかと気軽に聞いてしまったばかりに、気が付けば俺は木に吊るされていた。

 枝に括りつけず、巻いただけの縄の端をオトギルが持っていただけなのは、すぐ真下にある流れ草に俺を下ろすためだ。


 そのはずが、先に周囲の魔物を徹底して片付けようぜと、カマィタとマチが言い出した。すぐに済むと思いきや、どうも数が多かったらしい。朝の見回りが手を抜きやがったとか、上流から流れて来ただとか、ぶつくさ文句を言っていたが、吊るされる前に思いついて欲しかったよ。

 その間、無防備に待つことになってしまったというわけだった。


 オトギルが俺の恨み視線にびびって、うっかり手を離し絶体絶命の危機に瀕することになるとは、。

 地獄で会おうぜオトギルうぅ――ッ!

 人生最後に浮かべるのが、そんな恨み言なのかと思うと悲しすぎ……べぶっ!




 はい、草の上に尻餅ついて跳ねて転がっただけです。

 柳のように頼りない葉っぱに見えたから川に落ちると思ったが、意外と弾力がすごかった。跳ね返りすぎて川に落ちそうになったものの、川に頭からドボン寸前で縄が引っ張られて助かっただけでなく、その勢いでさらに跳ねて転がった。懐かしいなあトランポリン。


 ようやく引き上げられて、だらんと力なくぶら下がり、俺はゆっくりとクルクル回る。

 その側をオトギルの奴は、縄の反対側の端を持って優雅に下りてきた。ヘリから縄梯子にぶら下がるどこぞのエージェントみたいに格好良く。俺を重りにしてんじゃねえよ。


「いやあ、すまんすまん! ごめんな! しかし見た目は何処にでもいる普通の人族って感じだが、結構暴れん坊だな!」


 お前には言われたくねえよ!


「もう魔物も見えないし下ろしてくれ」

「おっ、本当だ」


 こんな時でも周囲を把握できるようになるとは、俺も成長したではないか。

 ようやく草に足がついた。安定した足場を確かめるついでに、軽く踵で足元を蹴る。感触は想像以上に硬い。

 オトギルが飛び乗っても、俺が跳ねても揺れた感じはなかった。これ、刃が通るか?


 屈んで中心らしき場所の葉っぱを掻き分ける。もう普通の巨木と言って良いほどの茶黒い幹から、みっちりと細長い葉っぱだけがワッサワッサと伸び放題だ。

 真ん中だけやや盛り上がっているが、なんとなく木に葉っぱを刺してるような観葉植物を思い出す。

 中心のでっぱりを手で探ると、薄皮が何枚も重なったようでタケノコみたい。そのせいか、弾力があるような……。


「どうだ、難敵だろ?」


 俺と同じく暢気に足元の感触を蹴って確かめているオトギルにむかつくが、こいつが命綱だ。思い出せタロウ、お前が成すべきことを。そうだ俺の前には、巨大な敵がいる。すべての怒りを叩きつける相手は、この流れ草だ。

 渾身の力を込めて、ナイフをタケノコ頭を狙って振り下ろせ!


「でりゃあ!」


 サクッ――硬そうな外観とは裏腹に、意外にも手触りふわっふわな新触感だよ?


「あれ?」


 一突きで、中心から外側に向けてヒビすら入ってるぞ。


「おいおい、タロウ……まじで、お前何もんだよ。俺らだってちぃっとばかり殴るけるの暴行に加えて、ありとあらゆる武器での応戦に魔技をぶち込むなど、うっかり本気出して殲滅しようとして返り討ちにあった相手だぜ?」

「……さらっと聞き捨てならない事実が入ってなかったか」

「こりゃ大事件だ! おぅい集まれぇ!」


 失言へのツッコミを無視したオトギルは、肘から直角に曲げた両手を頭上に上げて、腕をブンブンと交差させる。手振り信号というやつなんだろうが、普通にすぐ戻ると声が返ってきた。


 その間に切れ目を調べてみよう。

 うわぁ、ざっくり、いってますねえ。いやいや、こいつらが全力で討ち取ろうして失敗した相手なんだろ?

 別に俺のナイフが特別だとかストンリから聞いたことはないし、なんでだ?


 拳で幹の外側を小突けばゴンゴンと重い反応を返すが、ひび割れの方を触ると、ぺろっとめくれた。

 柔らかいじゃねえか!

 真ん中から、かき分けるように広げていくと、内側は白っぽい。どうもスポンジの拡大図のようだ。


 試しに中心からナイフで軽くつつきながら、徐々に外側へとずらしていく。ほぼ縁まで行くと、全く刃が通らない。

 なんと流れ草は外骨格植物だった!?

 そんなわけないな。


「外側だけ硬化してるようだな」

「マジでか。俺達のこれまでの苦労はなんだったんだよ……」


 無理矢理飛び乗ってきたカマィタとマチも唸る。


「このガワが硬いんだな。わっ本当だ」

「うおお、こっちは柔いな!」


 狭苦しい……。

 頭上で唸るな。試しに殴ろうとするな。


「とりあえず二人は、下から這い上がろうとしてる魔物を片付けてくれないか。外からな」

「俺らに囮になれと言うのか……いいだろう、やってやろうじゃないか!」

「来いよミズスマッシュ、てめぇの仇は俺達だぜ!」


 お前ら、普通に処理できないのか。

 いや、どうも気が付けなくて悔しかったらしい。


 まあいい、俺は俺の仕事だ。これなら分割しようという案も、実行できそう。

 割ろうと考えたのは、別に撤去するためだけではない。取り除くのが駄目そうでも、どうにか割れたら、その内腐るんじゃないかなとか思ったんだ。

 でもこれって、薄皮部分が剥がれかけていたのは、盛り上がってたし芽が出るところだったんじゃないか?


 それなら、あいつらが悔しがるのも仕方ない。多分、以前は本当に頑丈だったんだろう。こんな変化があったから、たまたま俺でも切れたんだろうな。

 芽が生えるところじゃなかったらナイフが欠けてたかもと思うと、そっちの方が冷や汗もんだよ。

 今も手荒に扱ってはいるけど。なんだかんだで、手放せないし新しい武器なんて手が出ないし……思考が逸れた。

 よく考えたら、それだけ頑丈だと初めに教えてくれれば良かったじゃないか。


「な、なんでまた、怖い目で見るんだよ!?」


 そうだった。人の話を鵜呑みにしてはいけないと言いながら、情報収集を怠ったのは俺だよな。


「ここまで連れてきてくれて助かったなあと思っていたんだ」

「目が笑ってないぜ」


 さてオトギルが怯えてくれたし満足だ。作業に戻ろう。

 裂けたところから、さらにスポンジ面を割るように縦にナイフを刺した。そのまま腕が届く限界まで体重をかけてみたら、面白いほどサクサクと切れていく。

 このままだと、真ん中からパカッと割れてセルフ股裂きの刑になりそう。


 ナイフを戻して切れ目に手を突っ込む。掻き分けながら感じる手触りは、やっぱり、下の方が硬くなっていくようだ。


「ここまで来たら、オトギルの剣の方がいいんじゃないか」

「おう、やってみるぜ」


 石の楔みたいなのを打ち込んで、ハンマーで叩いたら完全に割れそうだけど、ちょっとでかすぎる。

 オトギルには、たんに頑丈そうな剣持ってるから、より下まで裂けるんじゃねと思っただけだった。ナイフより長いし、俺より力はあるし。


「タロウは少し下がってろ」

「下がる? 分かったふああああああっ!」


 もう場所ないんだけどと思ったら飛んでいた。

 縄、くっついたままだったよ……。


 オトギルが縄を引いて俺を吊り上げると同時に、特殊攻撃っぽいものを放った。

 眼下で大きな音と水飛沫があがり、流れ草はパカッと綺麗に割れて、四方に倒れていく。

 愉快な薪割り大会があったら間違いなく優勝だろう。


「ひゃっっっほう!?」

「ぅおっしゃあああああっ!」


 川原から喜びの雄叫びも聞こえる。

 激しい音に釣られて、狩り損ねていた魔物も炙り出せたようだ。雄叫びに魔物の断末魔も加わる。


「さっすが、タロウ。お前は狩場の救世主だな!」


 攻撃の反動で戻ったのか、気が付けばオトギルは頭上の枝に屈んでいた。

 因みに俺は今、枝のすぐ下に吊られているが、水飛沫をもろにかぶって項垂れ気味で、ゆらゆらと揺れている。

 外から見たらヤバイ絵面だと思う。


「……俺の仕事は済んだ。戻ろうぜ、皆のところへ」

「ああ、そうだな。でかい仕事だったぜ」


 だからさっさと岸に戻してくれよ!




「いやぁ疲れたな」

「これだけで一日分は確実に働いただろ」

「心地よい疲労ってやつだな。実に清々しい気分だ」


 奴らが座って水を飲んでいる横で、俺は服の水を絞る。

 もう勘弁だ。こいつら……というか、ここの冒険者に迂闊なことを言ってはならないと学んだ。


「まだ、仕事は終わってないからな?」


 ちょっとした意地悪のつもり、というか本来の依頼を放って来たから思い出させてやったんだが。


「泣きそうな顔すんな!」

「いやだって、タロウは疲れてないか? 慣れない大物を刈っただろ?」


 俺は吊られていただけだ。疲れる要素ないだろ。


「もうちょっと休憩させてくれよお。頼む!」

「分かったから」


 他の種族の疲労具合が分からないのは、結構困るかも。個人差だってあるだろうし。こうして色んな奴に連れられていれば、なんとなく分かるようになるんだろうか。

 他の奴らは、なんとなく人族のことも把握してるみたいだし、単純に経験なんだろうか。


 そんなことを考えながら休憩終了を待ち、改めて道草刈りの続きに出かけた。

 ほとんど午後も半ばを過ぎてたから、キモかろうと全力で刈りまくってやった。

 終わらなかったら、ただでさえない面目が立たない。


 日が暮れるころには、久々に腕がだるくなっていた。なぜか三人も、ぐったりとして森を出る。そんなに予定外の力使ったんだろうか。


 余計な仕事をしたため、依頼書の訂正というか新規に作成しなければならない。

 四人はへろへろとギルドに戻った。


 目を丸くした大枝嬢に依頼の修正と精算をしていただき、誤魔化し笑いを浮かべた俺達は顔を見合わせる。全員が、いつ逃げ出そうかと考えているようだ。

 させん、貴様だけを逃がしはするものか。

 そんな牽制が仇となり、大枝嬢のぐんにゃり笑顔が消え、ただのウロのように変わる。


「では、よろしいですカ」

「は、はぅい!」


 ちらと横目に見た三人も表情を消していた。俺達は背筋を伸ばして整列する。


「ところで、私も依頼内容についての注意を怠ってしまっていたようで……もう一度、説明にお時間をいただきまス」

「はい、ごめんなさい」


 この後めちゃくちゃ怒られた。


 などということはなくて、依頼内容と達成可能な内容をよくよく吟味しましょう等々、いつも通り大枝嬢は根気強く懇切丁寧に、俺達のような愚か者にも理解できるように噛み砕いて解説してくれたのだった。

 俺は心の中で正座しながら聞いていた。

 そんな文化はなさそうだけど、多分オトギルたち三人も同じ気分だろう。しゅんと俯いて聞いていたし。


「今後は気を付けます」


 何度目かの誓いを胸に、ぐったりとしてギルドを出たのだった。


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