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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
低ランク冒険者編

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167:宙を舞う

 思わず冒険者たちが不憫になって、山道の整備どうしようとか真面目に考えてしまったが、シティボーイだった俺にそんな知識は微塵もない。

 どうせ作業するときは護衛をお願いすることになるから、時間かけて好き勝手にやるわけにもいかないしな。


 実際に作業するときのことを考え、改めて目の前のヤブリンもどき草を見ると、なんて約束を気軽にしてしまったんだと思う。

 あれもうほとんど木だろ。刈ると言うより伐るだ。

 外からは分かり辛いが茎というか、幹は太そうなんだよな。川半分埋まってるわけだし。

 時間がかかりすぎるだろうし、本当の力任せな仕事になるなら、炎天族や岩腕族の方が早そうだ。わざわざ俺がやることでもない気がするんだが……。

 不思議というか懐疑的になっていると、真面目な顔つきでオトギルは巨大ヤブリンを睨みつつ言った。


「あの流れ草(ながれそう)は難物だぜ」


 やっぱりそんないい加減な名前なのか……コメントは拒否だ。

 岩陰からジロジロ見ながら三人の解説は続く。隠れてる意味なんかなく、こうしていても這い寄る魔物を、三人は切り殺しながらだったりするが、そこは見えてないことにしよう。


「本来は川辺に生えてる無害な草だ。ほら、そこらに見えるだろ。人の頭より育ったら、ぶちっと千切れて流れていくんだよ。その場にも種だか株だか残して、また生えるし、さらにはどっかで引っかかって、そこでも育つらしい」


 気持ち悪いところは他の敵性植物と変わりない。まさに討伐対象に相応しい生態を持つようだ。

 なるほど、あれも草ではなく魔物の眷属だ。そうに違いない。


「それがどうしたことでしょう。こいつは、ここで根っこが川底に嵌っちまったんだろうな。普通は水ん中で腐るんだろうが、幸運に恵まれたか、不屈の闘志を持っていたのか、うまいこと育っちまってよ」

「根に持つ性格だったんだろう、なんてなガッハッハ!」

「変わり種なのは確かだなハッハッハ!」


 殴りてえ……。

 こいつらは、どこまで本気なのか分からん。

 どう算段を付けよう、つか無理じゃね、どう断ろうかと考えが傾きはじめると、オトギルに真剣な顔を向けられた。ビクッとして身構える。


「タロウ。奴はな……強いぞ?」


 あのぅ、ただの草、なんすよね? どう見ても変異体だけどさ。

 一応、小遣いを出そうというくらいは、困ることがあるんだろう。


「とにかく、少し観察させてくれ」


 いつも思うが、言われたことを鵜呑みにしていたら痛い目に遭うからな。

 じっと見るだけで何が分かる物でもないと思うが、三人は黙った。期待に満ちた様子に胸が痛い。


 草に集中。

 葉っぱの奥に見える茎らしきシルエットは、真っ直ぐに伸びている。その幹回りは、両腕で囲んでも届かないくらい太そうだ。幹から枝分かれせず葉が生えてるとハタキかなにかかよ。水底は視認できるくらいだし深さはないが、幹の半ばから、ほとんど川に漬かっている。しっかり川底に埋まっているだろう。


 一見、切るのも引っこ抜くのも無理そうだ。川に入るには魔物が多すぎるし、ただでさえ遅い俺が川の中でまともに動けるわけないから却下。


 全員で協力して引っこ抜くしかないのか?

 ゴストたち筋肉変異体三人なら、やれそうな気はするが、縄をうまいこと引っ掛けられても縄の方が千切れそう。


 ミステリーの犯人なら、遺体はバラバラにして隠すか捨てるところだろう。

 ぬ、それしかない。


「分割だな」

「なんだと!? タロウお前……いや、何か手があるんだな?」


 思わず呟いたことに対する反応は大げさだった。そんな風に返されると、なにか恐ろしいものを感じるな。

 まあ最後まで聞きたまえ。分割する以前に、最大の問題があるのだよ諸君。


「ただ、俺だとアレに近付けないからどうしようかと」


 こっちの岸に繋がって見えるのは広がった葉っぱだが、幹の上部辺りなら広さもあり乗れそうな気がするんだが、近付いて上る方法が思いつかない。


「ああ、それなら上に乗りゃいいだろ。ほらよ!」


 俺の苦悩を嘲笑うようにオトギルは言うや飛び出していた。

 だから聞く前に動くなよと、叫ぶ声は止まる。


 と、飛び乗りやがった……お前、岩腕族の癖に、基礎スペックがおかしいじゃないか。体が重い分、敏捷値は下がるんじゃなかったのかよ!


 落ち着くんだ。地団太を踏みたいくらい悔しい気持ちが、つまらない文句に表れてしまうなんて子供じゃないんだから。きっと岩腕族にしては、ちょっと細身だからだよな。そうに違いない!


「んじゃ、敵の情報も状況も確認してバッチリだな。行くぞ!」

「おう腕が鳴るぜ!」


 カマィタとマチの掛け声に俺も気合いを入れる。


「分かった、やってやろうじゃないか!」


 あ? 見学じゃなかったか……?








 ぎゃあああああああふあしぬしぬううううふううぅ――!


 内心では、そんな耳をつんざくような叫びが上がっているが、体が竦んで声にはならない。


「ふひっ」


 少し漏れ出たな。

 だって、この状況だし……。


「なんで、宙吊りに、されなひゃ、ならないんだ、よ!」


 下からぴょいぴょいと飛びあがっては、跳躍力が足りずに川へと落ちていくミズスマッシュを見下ろす。


「ふんぬ!」


 時に掠りそうになり、両足で思い切り、力の限り、蹴り飛ばす!

 はぁ、手足の短い魔物で良かった。

 じゃねえよ。


「おっと悪ぃ悪ぃ、今始末してやっから、ちぃっと待ってな。心配すんな、すぐに楽になるからよ……」


 嫌な言い方はやめろ。俺が始末されるみたいじゃないか!


 俺が、お前らみたいに飛び移れないよと言ったら、なぜか縄を取り出されて、巨大ヤブリン草の上に、使えと言わんばかりに対岸から伸ばされた逞しい枝から吊るされてしまったのだ。

 これぞ正しく吊し上げ。くそっ!


 なんで縄なんか持ってるんだと文句をつけたら、森ん中歩くのに、ナイフと縄は必須だろうなどと言われたが、今まで誰からもそんな話は聞いたことがない。

 シャリテイルは身軽過ぎて参考にならないが、他の奴らにとっては当たり前すぎて話題にするまでもないだけだったのか?

 俺も縄とか()ってみようかな……材料だけはたくさん手に入るし……。




 それにしても、こいつら特徴ないしモブっぽいとか思ってたら、やることとんでもないな。

 川の魔物が居ないか睨んだまま、頭上で縄を持って立っているはずのオトギルに小さく文句をつける。


「このっ、モブ顔のくせに……!」

「あ? ボブって誰だぁ?」


 わーお、すごいわボブ。誰だよ。俺が知りたいわ。

 同じくモブ顔勢として、わずかながらも親近感を抱いた俺がバカだった。

 見た目は人間同士で似てるかもしれないけど、いつだって基本能力が違いすぎるのを忘れてはダメよタロウ。


 いかん、テンパってすっかり忘れていたが、胴を縛られているだけで両手はオープンワールドだ。

 やっぱりテンパっているが、考えるな、受け入れろ。

 胴といっても、両足の付け根から縄を通して腰に回して縛られている。

 レスキュー隊員とかロッククライミングでやってそうな感じ?

 便利なハーネスだとかないから食い込んで痛い。鬱血しそうだし早く下ろしてほしいんですが。


 他の二人が周囲から魔物を片付けているから減ってきてはいる。今の内だと頭上に目を向け、頑丈な枝の上に巻いた縄の端を握っている男を見た。

 届け、俺の祈りと恨みを込めた視線ビーム!


「お、しょんべんか?」

「まったくかすりもしていない!」


 目で射殺せるほどの威圧を、一瞬でもいいから身に着けてみたいものだ。

 危ないから下を見てよう。

 一人が対岸のヤドカラやらミズスマッシュを倒して、一人が少し離れた場所の水の底に長い棒を突っ込んでいた。水中の岩陰に潜んだ魔物を炙り出しているのだ。

 川周辺の討伐は、意外と地味な作業も多いようだ。


 そうだ、俺も両手が開いてるのに気が付いたところだよ。

 足で蹴るだけでは心もとないし、ナイフを取り出す。殻の剣の方が長くていいのだが、ミズスマッシュ相手だと間違いなく割れる。

 足の辺りギリギリに飛んでくるんだから、ナイフだと届くかないけど気分だ。ふっ、戦士にとって武器はお守りさ。


 そんな風に、遠い目をして必死に平静を保とうとしていたところに、ちょうど良い感じにミズスマッシュが飛んできた。

 視線のやや下にある、黒々とした甲虫の顎辺りを狙い、ぐわっと目を見開く。


「タロウ式ブッシュカッター!」


 相手は虫だけど!

 両手で掴んでいたナイフを、渾身の力を込めて上から突き下ろす。

 二の腕に衝撃がびりりと走った。


「ぶキャキキッ!」

「うっわ、硬っ……!」


 不気味な鳴き声を発したミズスマッシュは、ありがたいことに口らしき辺りからマグを噴き上げ落ちていった。背中から水面に落ちて水を跳ね上げ、細い六本の足をわしゃわしゃと蠢かしながら川をどんぶらこと流れていく。そのままぐにゃりと姿を歪め、川面のさざ波にマグの煙を散らしながら掻き消えて行った。


 体に、魔物を倒したのとは別の高揚感が、来た!


「ま、まじで、俺がミズスマッシュを倒した……?」

「ほぅ、すげえじゃん。ハリスンを倒したって聞いた時は、さすがに耳を疑ったんだよ。でも、ゴストの話だからな、大げさでも嘘じゃあないとは思ってたぜ……おっおいおい、そう睨むなよ信じてたんだって!」


 俺は今なら、こいつを睨み殺せる気がした。実際目が据わっているようで、狼狽させられただけでも僥倖。

 考えてもみたまえ。ナイフだとリーチが足りねえなと考えていたところに、ちょうど良い位置に来たミズスマッシュの頭を。

 なんと、ちょうど良い位置に彼が導いてくれていたのです。


「い、いやその……そう、ほら、これ武器! やばそうだったら、俺が殺ってたから!」


 たった今手に取ったのを俺は見た。いや、すぐに動けるよう常に準備しているのだろう。さすがは中ランク冒険者だ。その動きは自然だ。自然過ぎて、つい普段通りに手に取ってしまったのだというのが良く分かったよ。


 そこからの視界は、やけにゆっくりと動くようだった。俺は奴を共に引き摺り落とすかの如く手を伸ばして掴みかからんとする。虚しくも、指は空を掻いただけだった。

 だから、俺とヤツとの距離は離れていく。そう、映画で悪役がビルから落ち行くようにね、ハハハ。


 地獄に落ちろおおおぉ――!


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