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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
低ランク冒険者編

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166:寄り道

 いやあ、あちこち出かけてみるもんだな。本を見せてくれるギルドに感謝だ。

 それにしても開発秘話とか読んだ気分。かなり面白い裏設定を知ってしまった。

 トキメが来てくれたのも運が良かった。ユウさんやリンダさんだともっと良かったが……いや、あの人たちは、ここまで教えてくれない気がする。


 それはともかく、知ってないとまずいことが多そうだとは常々感じていたが、ありすぎだ。少しは一般常識を学べたと思うと、嬉しいというかホッとする。

 来てから既に一月くらい経つけど、幸か不幸か人と接する機会は少ないため、まだ世間知らずで済んでいる気がする。


 たまに見に来よう。

 紙やカバーが分厚いから見た目ほど頁数は多くないが、ファイルケースを含めれば一気に読める量ではない。魔物に関してはあれを調べりゃいいらしいと分かったし、何か気になれば。と思ったが、あのファイルケースに印とかあったっけ……ま、まあいい。まだその時ではない。


 そうだ、これ覚えてる内にメモっておいたほうがいいな。まだ紙束ブロックは残ってるが、魔物帳とは別にしよう。


 大枝嬢に挨拶すると、ギルドを出た足で雑貨屋に飛び込んだ。


「いらっしゃい、タロウ君!」


 住民もなのか。プライバシー情報の保護を申請したい。

 スルーすることにして、紙と書くものの在庫はあるか尋ねた途端、横幅のある首羽族の店員は丸い顔を輝かせた。


 無言で指で示された棚の一角に目を向けると、紙束ブロックがあった。

 胸の高さほどある陳列棚に乗せられているだけだが、何束分積んで並べてあるんだよ……。


「最近、草がよく入るからねぇ、張り切って作り過ぎちゃったのよ!」

「へ、へえ、草がそんなに……」


 ただの店員かと思ったら商品は作ってるらしい。

 なんでも街の中で賄ってるんだよな。改めて考えると、人口の割にやること多すぎ。自宅で寛いでいるだけの、引退したような住人なんて存在できなさそう。


「あぁ他にも使い道はあるから、気にしないで仕事しとくれ」


 貴様、いつ俺の仕業だと気付いた。他にいないよな。そんなことで有名になりたくなかったよ。

 ついでに歯ブラシ枝とかロウソクだとか消耗品も補充して、いったん宿に戻り、メモしながら時間をつぶした。




 ほどよく時間が経つと、早めにと午後の待ち合わせ場所である畑北端の小屋へ向かったが、すでに来ていた三人の中ランク冒険者が出迎えた。


「タロウ、よく来てくれた。今回の引率を任されたオトギルだ」

「移動中の補佐を受け持つカマィタだ。よろしくな」

「同じくマチだ。魔物を見たら遠慮なく声をかけろよ」


 声を掛けてきた順に岩腕族、炎天族、森葉族だ。


「あ、タロウです」


 しがない草刈り人です。げへへ。

 びびった。今まで濃いヤツばかりだったから、極々普通に見える人達だ。というか、各種族を平均的に捉えたらこんな感じだろう。

 おかけで特徴が掴めず覚えづらいというか……失礼なことを考えてしまった。


「んじゃあ、出発すっぞー」

「おっしゃ、やるかー」

「おいーす」


 基本的にお気楽なところは変わりないようだ。


 俺に課せられた仕事は、西の森内ナガラー川沿いの道草刈り。湖方面へ向けた川沿いだけでなく、時間一杯は周辺の通り道付近を剪定する予定だ。

 昼食後の時間帯だし、魔物の数はそれほどでもない。といっても、丘のように地面が盛り上がった場所の影なんかには、吹き溜まる頃合いらしい。


「ちょっと数がいるな。片づけてくっからここにいろよ」


 と、三人が飛んでいくが、ぞろぞろと湧き出る四脚ケダマやハリスンに、飲み込まれていくようにしか見えない。あれでちょっととか、怖い。

 そんな雄姿から目を逸らして仕事に励むことにした。


「今朝の怠け分を取り戻す……行け、タロウセイバーああぁぁっ!」


 今日も俺の愛刀は一瞬で草の束を刈り取っていく。その正確さと、なめらかな切り口は他の追随を許さない。多分。


「やたら元気がいいな。いや安心したぞ。低ランク中の低ランク依頼に命をかけるなんてありえねえと思っていたが、噂通りだったな」

「馬鹿野郎! ただの低ランク依頼じゃないぞ。中ランクの魔物がわんさかいる森の中でのガキの仕事だ!」

「ハッ、そうだな俺としたことが……! 俺らも冒険者の心意気を思い出さなきゃならねえようだ」

「あいつの、ケダマに齧られながらも草を離さない意地、大したもんだぜ」


 うるせえよ! 人の現実逃避を眺めている場合か、お前らも仕事しろって、終わったのかよ早すぎだろ!


 まさか一瞬で魔物の塊を殲滅して戻ってくるとは……無駄な気合いを聞かれてしまって、ちょっと居た堪れなくなった。

 思わず気合いが入ったのは、雑貨屋の光景が影響していた。

 たかが紙の束だけど、自分の仕事の成果が初めて目に見える形になったんじゃないかと思う。俺の行動が影響を与えた結果なんだよなって、自覚させられた。嬉しいような微妙なような複雑な気分だけど。単純ながら、やる気が出てきたんだよ。


「うおお、すげえ」

「あの流れる川の如き動き草捌き」

「隠された魔技でもあるんじゃないか?」


 観客を背に、素早く完璧に草どもをパッキングし積んでいく。くくく、これもわずか数秒で縛り上げる動作を身に着けたんだぜ。

 すげえキモイ動きしてるよなこれ。ぜったいに、はたから見たくない。


「終わった」


 ひとまず皆が魔物討伐する待機時間でできるだけだから、まとめた草束はその場に放置していく。


「よし行くぞー」

「お、アラグマだ」

「てめえに用はねぇ!」

「ぶキュルゥッ!」


 何事もなく平和に進む。のどかで良い日だなあ。


 今日は連絡路方面は関係ないんだが、川沿いを歩いていると思い出したことがあった。


「なあ、あっちの崖下辺りに、でっかいヤブリンみたいな草あるだろ」


 ただなんとなく思い出したから、あれはなにかと聞こうと思っただけだ。


「ああ、あれね。あれは別にいいんだ」


 だから、なんで刈る前提になるんだよ。

 だけどやっぱり、ゴストと反応は変わんねえな。ゴストたちは言うことが怪しいから、何か誤魔化されたのかと思ったんだが。


「いや、あまりの存在感に気になっただけで……」


 続けようとしたら、三人が移動を止めて愕然と俺を見ている。

 はいはい、タロウは逃げられないと。


「おまえ、まさかっ」

「あいつを討ちたいのか」

「そうなんだな!?」

「いいよもう、それで」


 なんか、こいつらハイタッチしだした。


「任せろ。俺達がしっかり段取りつけてやる」

「ああ、あれには諦めていたから確か依頼は出してないが、どうにかお小遣いをかき集めてやるぞ」


 おい諦めていたってどういうことだよ。


「安心しろ、反対意見はこいつで黙らせてやっから!」


 オトギルは握りしめた拳を掲げて真剣な表情を作ろうとしたが、笑いが隠れてないぞ。もう少し頑張れ。つか、ここらの人間はなんでも腕自慢かよ。冒険者のイメージ通りの気もするが。


「分かった引き受けるから、物騒な方法で小遣いむしるのはやめよう」

「物騒だなんて照れるじゃないか。ま、そこそこ負け知らずだけどな、アームレスリング」


 腕相撲かよ! 暴力で解決じゃなくて安心だよ!


「だからさ、あのでかい草は、なんなんだって」

「おっと、そうだったな。ちょっくら見に行こうか」




 というわけで道草狩りのついでに、寄り道をして崖下まで視察です。


「ここに隠れてろ」


 小声で言われた大きな岩陰から、こっそり川を覗く。全員の頭が上から横から生えてるから、潜めているのか疑わしいけどな。

 目の先にある川幅の半分を占めた緑の塊。上から見たら毬藻みたいだったが隙間は多い。

 上から見たときの印象の通りで、巨大な背高草の長細い葉が四方に垂れたらこんな感じというのは変わらないが、すだれ状に垂れつつ絡まって天然の檻のようになっているというか。


「お、動いた」


 葉っぱに水の流れとは別の動きがあり、そこから岩の塊がすいーっと滑るように出てきた。そいつが川面に浮き、蟹の足のような前足が水面から出てきた。前足といっていいか知らないが、あの岩には尻に覚えがある。


「ヤドカラの巣? ってわけでもないのか」


 ヤドカラの背後、すだれ葉っぱの奥には黒光りする丸い背中も見えた。あっちはミズスマッシュだな。


「川でも、カピボーたちのように潜むんだな」

「さすがは草博士タロウ。その通り、魔物の巣になっててな」


 魔物が住んでんのかと聞いたのに、なぜ草博士になる。


「まあ、魔物が集まってくれるから倒すのに便利っちゃあ便利なんだ」

「ただな、たまにだが増水したときなんかに流木とか引っかかってさ。取り除くのが結構大変なんだよ」

「へぇ、そうなんだ」


 俺はさ、最初からそういったことだけ聞きたかったんだよ。なんで討伐の約束させられたんだ。情報料かよ。

 汚い、冒険者さすが汚い。


 依頼といえば、お小遣いで思い出した。こいつらにも確認しておこう。


「なんで小遣いで賄ってるんだ。ギルドが出しても良さそうなもんだけど」


 三人は本気で不思議そうな顔をしている。現状を何も疑問に思わないのかよ。


「タロウ……お前、なに言ってやがる」

「何年もこれでやってきたんだぞ?」

「別に今さら片づける必要なんかないじゃないか」


 こいつら……だったらなんで片付くのがそんなに嬉しそうなんですかね。


「だからよ、別に普段困ってないから必要ないといえばないというかぁ、分かんだろ?」

「ちょっと楽したいなってだけだし、てめえで金出すのは当然っていうか?」

「だよな。言わせんなよ、はーっはっは!」


 照れながら笑い出したが、やっぱりそんな程度なの。そうですか。

 こんな環境だし、山道の整備だとかは結構基本のことだと思うのは、地球産な考え方なんだろうか。人族以外の感覚なんて理解できる日はないだろうから、感覚の修正も難しい。

 これで本当に元は同じ種族だったのか、泣きたいくらい疑わしいよ。


 まあいい。俺は危ないことは対策した方がいいと思うからやる。

 こいつらが、ちょろっと川の魔物を退治してるのを見た限りでは、すごく心臓に悪かった。苔に覆われて湿った、見るからに滑りそうな川原へ無造作に飛び出し、川面に倒れ掛かるように生えた藪などの障害物を器用にも避けたり、避けるどころか押しのけながら戦っていた。

 危なっかしすぎる。俺だと攻略に何人必要になるやら。


 ギルドも安全対策には、俺と同じような考えだと思ったんだけどな。どうも、この辺だけ雑な気がする。まあこればっかりは、冒険者当人の考えが大雑把だと仕方ないのかもしれないが。それとも、最低限すべきことと優先する仕事というか、これだけやっときゃ後はいいとしてるとか、色々あんのかね。


「あちこち引っ掛けて、怪我とかしそうなもんだけど」


 だから、ついそう呟いたんだけど。


「そりゃ怪我くらいするだろ」


 ごく当たり前に、さらっと返された。

 大らかで済まないぞ。そんなところまで無頓着だとは……これは、人族がいない弊害なのか?

 なんだか俺が頑張らなきゃいけないんじゃないかとか、湧かなくていい使命感が湧いてきてしまった。


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