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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
低ランク冒険者編

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164/295

164:国のこと種族のこと

 遠い遠い昔、ジェッテブルク山一帯は大きな水の地だった。

 国の歴史は、この大地の変化に伴い起こった。


 手にした本は、そんな出だしで始まった。

 こういった時代の国の成り立ち云々なら、神話みたいなもんでも書かれてあるんだろうと思ったら、意外と現実味のある内容のようだ。

 それでも国以前から始まるとは壮大だな。


「海だったってこと?」


 北西の、寒く乾いた隆起の激しい地には岩腕族。

 南東の、暑く湿地の多い平らな大地には炎天族。

 その両者の間を、踏破不可能と言われていた大樹海と水の地が隔てていた。


 大樹海には、外縁の山間に隠れ住むようにして首羽族が、広大な森のほとんどには森葉族が栄え、中心部に閉じこもるように樹人族が暮らしていた。

 そして水の地沿岸には鱗鰭(うろこひれ)族がいた。

 我らはそれぞれの地に住まい、互いに干渉できる環境にはなかった。


「お、変な種族でてきた」


 我ら別々の種族が今日を共に歩むことになった原因は、自然の気まぐれによるものだ。

 ある日、激しい揺れが各地を襲うと、大地を割り多くを飲み込んだ。かと思えば、隆起した。

 そうして、長くはない期間で水の地は消え、山が聳え立った。

 それがジェッテブルク山である。


「おぅスペクタクル」


 そのとき、周辺の鱗鰭族は絶滅したと伝えられている。


「滅んだのかよ!」


 えぇ……いずれは他の種族に会えるかもって、密かな楽しみだったのになぁ。残念すぎる。

 いきなりやる気が削がれたが次だ。


 ジェッテブルク山ほど高く峻険な山を我々は知らない。当然ながら祖先の気を引いた。周囲も含めて陸続きとなったのだから、引き寄せられるように訪れたのだ。


 ちょっと待った。あれが、この世界で最高峰なの?

 えぇ、小学生の遠足コースレベルなんですけど。

 ハッ! 山登りなら俺でも俺ツエーでき……遠足競技などないな。

 で、それから?


 まずは岩腕族と炎天族が、突如現れた山を目指した。

 興味本位もあったのだろうが、どちらの暮らす地も穏やかとは言い難かったこともあり、新たな住みよい地を求めたのだろうと言われている。


 そうして山の麓で二者は出会い、争いとなった。

 初のジェッテブルクの戦いである。


「逃れられない運命!」


 人の業ってやつですか。そこは仲良く分け合っておこうよ。

 こんな平和に見えるのに、そんな過去もあるとは……平和?

 魔物は、ひとまず別問題で。


 ぺらっとめくったら、数頁が第何次ジェッテブルクの戦いだとか、奪回戦だ攻防戦だと続いている。流し読みすると、後半には遅れて合流した森葉族がヒャッハーしていた。とんだ暗黒時代のようだ。

 そんな時代に飛ばされなくて本当に良かった。微塵も生きていける気がしない。


 最後の大きな戦いで、時の長らは山の周囲を三つに分け、それぞれを岩腕族、炎天族、森葉族が治めることとなった。

 そのように境を決めはしたが、なるべく争いを避けるように、山に居住区は置かないなどの条項が設けられる。


「やっぱ森葉族はちゃっかりしてるわ」


 そのときに定めた境を元に、他者から種族を守護する概念が生まれたのが国の始まりである。それぞれの種族が住んでいた地に国を興した。

 大小の部族は多くあったが、それらを包括する初の試みであった。


 そして内乱がしばらく続くと。ええい、もう最後らへんを見よう。


 そのようにして山の周囲に国が興こり、外へと広がっていったのだ。

 我が岩腕族率いるレリアス王国は、間違いなく世界を率いる中心の一つである。


「めでたしめでたし」


 なるほど、レリアス国民が書いたものだから贔屓目な内容のようだ。岩腕族の功績あたりは話半分で覚えておこう。

 確かに、レリアス王国の王様は岩腕族だったな。

 と言っても、俺が見たのはゲームのプロローグでちらっと流れた絵だ。邪竜のことで苦悩し項垂れている絵面だった。顔は見えなかったが、代わりに頭を抱える腕の特徴は目に付いた。


 そういや、ここは中心地だから、とかなんとかは……ああシャリテイルが言っていたな。こういった出来事も関係するんだろう。

 これが現在の人間が知り得る歴史だよな、多分。知っていて当然、前提の知識の気がする。


 結局、分かったのは争いのことばっかりだが。というより、その結果が国という形なのか。どこだろうと人間がいれば大して違いはないのかもな。

 本を閉じてから気が付いた。


「おい、俺はどこだよ?」


 いや人族だ。人族どこいった。


「まさか、同じ人間と数えられてなかったとか……」


 できれば暗黒面は知りたくないが……仕方ないか弱っちぃんだもん。

 ちらと隣に並んでいた本を見ると、今読んだものと同じくらい分厚い。他の数冊は、この二冊の半分ほどの薄さだ。

 厚い方を先に片づけよう。




 重いもう一冊を取り出すと、魔素の関わりと書かれていた。


「あるじゃん。こういうのだよ」


 これなら仕事にも役立ちそうだ。

 しかし開いて目に入った見出しは、思いもよらない言葉だった。


『人族の成り立ちから話そう』


 出てきたよ人族。

 その下には、大地が繋がる前からのことについて簡単に書いてある。先に国の成り立ちを読んでおいて良かった。それにしても、こっちもまた壮大そうだな。

 期待に頁をめくり、目に飛び込んできた言葉に衝撃を受けた。


『全ての種族は始祖種の人族から枝分かれした』


「えっ嘘!?」


 人類の元が一つの種だったってことは、俺は、他種族の良いところを取り除いた残りカスみたいなもんなのか。いや、進化できなかったのか?

 恐ろしいことが書かれてないだろうな。ちょっとドキドキしてきた……。


「ん、まてよ」


 魔素の話だよな。

 一度、表紙に書かれた文字を読み直してから内容に戻る。

 なんで人類学になってんの。魔素はどこだよ。

 まあいいか。これはこれで気になるし。次頁だ。


 始祖種人族は、全身に満遍なく魔素を巡らせていた。

 それが原始的な様々な環境下にも耐えて順応できるだけの、頑丈さと柔軟さを備えていた。

 細々とだろうと生きていけるがゆえに、環境の改善を試みようとは思わなかったのかもしれない。時を経て、人は遠く方々へと散っていった。

 より過酷な環境に辿り着いてしまった者達は、体を適応させるべく体内の魔素を変異させた。その結果が現在の種族差である。


「おぉ、魔素はそう繋がるのか」


 灼熱の地に炎天、雪と岩山の地に岩腕、空の遠い大森林に森葉、外縁部に首羽、奥樹海に樹人族、水辺に鱗鰭。


「さっきの本と内容ダブってね。手抜きかよ……違った」


 岩腕族は凍える山中で、凍傷から末端を守るために自らの四肢を硬化させた。


「余計に血が詰まりそうなんですが」


 炎天族は獣を狩るために、一時的な身体能力の強化を成し得た。瞬発的なマグの強度増加を支えるべく大型化した。


「やっぱりチーター系肉食獣だったか」


 大樹海の種族は、三種とも同様の進化を遂げる。

 森葉族は、空が遠く視界の悪い森林を難なく歩き回れるように、察知能力を発達させる。その変化が、葉のように大きくなった耳だ。


「自前のアンテナか。羨ましいような、自力で音? 遮れないのはうるさそうな」


 首羽族は樹上に隠れ住む内に体が細くなり、耳よりも音を聞き、髪よりも風を感じることのできる羽を発達させた。


「一体なんの器官が発達したんだいや知りたくない」


 樹人族は、うねった巨木が大地から空まで覆う奥地に暮らす内に、自らを木々の一部のように変化させた。奥地は魔素に満ちており、それらを活かすべくマグを多く取り込みやすい肉体へと変質した。しかし、あまりに大きな変化のため、運動能力は著しく衰えた。


「そこまでしてわざわざ擬態する?」


 このようにして人種の表に出ている特徴は、体内の魔素を変異させて表面化されたものである。

 しかし、全身を巡っていた魔素を一部へと集中させたことにより、弱点も作られることとなった。


「へえ、それが動きの制限に繋がるのか。だったら元の人族は完璧超人じゃん。で、現在の人族は?」


 頁をめくったが、その項目は終わっていた。人族って人類についてかよ。

 肝心の現在の人族は、書かれてねえ!

 腹立たしく次の項目に移ったら書かれていた。別枠でした。


 後の人族だけが、他の種族と違い、体内の魔素を抑える方に発展させた。隠れ住む忍耐力を引き継いだのだ。

 その変化のありようから、すでに世界は魔脈の危険にさらされていたことが窺える。


「退化してんじゃねーよ!」


 いかん叩きつけてはダメだ。俺の本じゃない。

 しかし、マグか。

 ふとシャリテイルが言っていた、宴会での爺さんの戯言を思い出した。

 樹人族と森葉族が遠い親戚ってのは、こういう話だったんだろう。


 疲れたしと本を閉じかけて止める。

 ざっと最後だけ確認しておこうか。何かしらの結論だか、重要なことが書かれているかも。

 そうして飛ばした最終頁にあったのは一文だけだ。


『十分に聞き取り調査をし、各地へも足を延ばした。これらは未だ定かではないが、我らは確信を得たものであると、ここに記しておく』


「推測かよ!」


 俺の感心と久々に勉強しようと湧いた意欲をどうしてくれる。しかも魔素の関わりって、魔素と人類の関わりってだけじゃないか。

 複雑な気分だが、これがここの住人の共通認識なんだろうし、無駄なことはなにもない。ないはずだ。

 途中から人族の事が気になって飛ばして読んでしまったし、また気が向いたら読みに来ようか。


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