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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
低ランク冒険者編

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155/295

155:洞穴攻略

 ナイフを持ち替えたのは、ハエの外殻で刃こぼれしたら嫌だなと思ったからだ。

 かといって、薄暗い中で数匹が一度に寄ってきたら、殴るのに間に合うか分からない。

 というより、殴り倒してたときに感触が気持ち悪かったのもある。


 それに、勢いが乗ってないまま殴りつければ普通に齧られそうだからな。

 どうせ攻撃が当たりそうとなれば、反射的に殻に閉じこもる奴だ。

 出会い頭に躊躇せず殴り掛かることを胸に刻む。


 正面の敵が殻を閉じても、横から来た奴が腕を齧ろうとするだろうが、ナイフの刃が多少は邪魔になるはずだ。

 そんなことを考えて、柄で殴りかかってみようかと思ったわけだ。

 いつも無駄なシミュレーションに終わるけどさ!


 そろそろと、狭い洞穴の入り口をくぐる。

 外から見れば黒く見えたが、穴倉に入り込んでしまえば目が慣れるのか、薄っすらと明るい。それは背の入り口から光が入り込んでるせいもあるだろう。


 洞穴の奥は、すぐそこに見えていた。

 近すぎ。

 だが気は抜けない。どうやら、右手に曲がるようだ。

 ゆっくりと近付いて曲がり道をさっと見る。


 その光景に力が抜けた。


 右手の奥地には、壁沿いから白い明かりが漏れているのが見えている。

 大枝嬢の言葉通りだった。


「まじで、短い、通路……」


 呆然と呟いた途端、視界の壁から、出っ張った岩の塊が崩れ落ちた。


「うわっ」

「ブブー」


 カラセオイハエ、お前そんなところに留まっていたのかよ!




「あ、危なかった。驚かせやがって」


 三匹で助かった。

 残った外殻を端に寄せるために拾い集める。

 一応、反対側の出口も確認しておきたいし、どうせなら奥の入り口脇に放置しておこう。


 光が差し込んだところで、地面に置こうと殻を見ると、表面が石で削り取られたような跡に気が付いた。瑕は新しい。

 これ、昨日俺が壁に叩きつけたときのじゃないか?


「やっぱ、使い回してんのな」


 そのくせマグは400で固定なのか。

 初めから、マグで生成する分のマグを取り分けて生まれるんだろうな。

 腑に落ちない。



 殻とランタンを置いて、武器を持ちなおして外を覗いた。

 視界悪すぎ。


 出口の前を塞ぐように細めの木々が迫り、枝から垂れ下がるツタやら藪が木々の隙間を塞ぐ。

 そっとナイフで枝葉を掻き分けると、急な斜面がすぐそこにあった。

 放牧地側から山へ登る道と似た感じだ。この上に大枝嬢の言っていた本物の洞穴があるんだろう。


 まだ巡回前だろうと思う。人を見たことはないが、南側は結構後回しっぽいし。

 四脚ケダマが大量に飛び出てくると大変だと、その辺をつついたが、なんの反応もない。

 さらに小石をやや遠くへと投げてみたが、何もいないらしい。


 それから頭を出して左右をさっと確認した。

 崖沿いに沿って、草が倒れたように生えているのが見えた。

 他の奴らはここを移動してるんだろうか。

 力任せに枝葉を押しのけて歩いているのが目に浮かぶようだ。


「脳筋どもが。力におぼれてると、いずれ痛い目見るぞ」


 まったく羨ましいことだ。


「少し、片付けておくか」


 草を持ち帰ろうと思ったわけではない。

 妬みをやる気に変換し、辺りの藪に斬りかかった。




 木の根元を片付け、釣り下がった蔦を引きちぎって、十分な視界と足場を確保できたと人心地ついたところだ。


 ん?

 なにか、がさごそと聞こえたような。


 慌ててナイフを持ちなおして前方を睨んだまま、背後の穴まで後退する。

 足元の邪魔ものを始末しておいて良かった。

 と思った矢先だった。


「うわっ」


 位置が悪くて、壁に肘をぶつけてしまった。

 同時に、魔物が開けた視界を横切った。

 斜面に曲がって生えている木の陰から、別の幹へと飛び移る。

 滑空するように飛んだ次には、たった今俺が蔦を払った木にそいつはいた。


「げっ!」


 カワセミだ。

 いきなり中ランク中難度の魔物が出るのかよ。

 いや北側の山と同じような場所なら当たり前なんだけどさ。

 各難度の場所が近すぎない!?


 眼前の木、その側面に留まった巨大なセミもどきは、まな板サイズの羽を震わせる。

 皮で出来た羽でどうやって飛ぶんだよ。謎生物が。いや生物じゃないか。


「ピゥ!」

「ぉわぁ!」


 幹を蹴って、びょんと飛んだカワセミの突撃を、とっさにしゃがんで避けた。


「ぷピャ」


 頭上から鈍い音と潰れるような声がして、カワセミは頭を庇ってしゃがんでいる俺の腕に当たり、目の前に落ちた。背後の壁にぶつかってくれたらしい。

 腹を上にして落ちたため、羽を震わせて地面をぐるぐると滑っている。


「……あのさぁ」


 羽の一枚をガシッと掴み、もう一枚を膝で固定するとナイフを押し当てる。

 ゲーム中レベル20と、ハエもどきより8も上だ。

 その分だろうか、押し返すような弾力はそこそこ感じたが、刃が滑るようなこともなく致命傷を与えカワセミは消えた。


 煙が絡むと、体に活力が沸き上がる。


「お、おぉ? レベルアップか」


 こんなのでレベルアップしちゃうのかよ。

 文句言ってる場合じゃない。どう考えても運が良かっただけだ。


 残された羽を拾うと、洞穴に退避した。


 レベル26か。

 こんなに早く次が来るとは思わなかった。

 カワセミのレベルも高いだろうが、四脚やらハエやらを倒したのも理由だよな。

 カピボーなどと比べれば、それなりにレベルが上なだけのことはある。


「まずまずの成果だし、こんくらいにしておくか」


 よし、撤退!




 爽やかな朝の空気を吸いながら、南街道を大通り目指して歩く。

 木々の狭間を眺めていると、小さな藪では定員オーバーだったのだろう。尻を出していたケダマが目に入り、思わず微笑みかける。


「お早うケダマ君、今日も気持ち悪い毛並みだね!」


 早朝の短時間の狩りで、この収穫。

 そうだ、狩りだよ。刈りじゃなくてね、ふふ。

 予想外だったが、やっぱり嬉しいもんだ。


 おっと、にやけている場合じゃない。

 早くギルドに行かないとな。

 魔震関連の仕事が一区切りついたということは、今日こそ依頼続行の指示があるはずだ。

 シャリテイルからの伝言があるかもしれない。


 あ……でも、そうか。

 人の配置も元に戻るなら、もうシャリテイルが付き添う必要もないんだ。

 ギルド長の口ぶりからして臨時で仕方なくって感じだったよな。

 人手が割けない分、強い奴にお守りを頼んだんだ。

 なんでシャリテイルがってのも、ギルド直属の立場だと知ったところだ。


 今後は本来のように、依頼者が直接引率するんだろう。

 少し残念な気もするが、まあ仕方がない。

 俺は、低ランクの中でも下からナンバーワン冒険者なんだ。

 さっきまで、少しばかりいい気になってた気持ちがしぼんだ。


「また、一緒に働く機会もあるさ」


 他の奴らとの探索も、俺にとっては代えがたい機会だ。

 なんでも勉強になる。知識になるだけだが。




 ともかく、まずは大枝嬢に確認だ。

 ギルドへ着くと、まだ人がそこそこ居た。

 かけられる挨拶の声に応えつつも、話しかけられて止められないように足早に移動する。

 下手に話し込むと何かに巻き込まれそうになるからな。

 今はそんな心の余裕がないんです。


「コエダさん、伝言はありますか」

「おはようございまス、タロウさん。依頼ですネ」


 大枝嬢はメモ紙を取り出して、さっと目を通した。

 赤い魔技石のような目玉がギョロりと動いた。樹人族の生態も不思議だ。


「午後一杯で片付きそうな場所がありまス。西の森の連絡路周辺ですネ」


 それって、前に連れていかれた場所じゃないか?


「あまり延びるのも困りますからネ。少しでも予定を消化できるよう調整しまス。お待たせして申し訳ないでス」

「いえ、とんでもないです」


 悪いのはギルド長だ。そういうことにして、偉い人になすりつけよう。


「明日はお休み頂いて、明後日は早朝から一日入って頂けそうですヨ」

「予定はお任せします」


 大枝嬢は、ほっとしたように微笑んだ。


「では、よろしければ昼までに、畑の北西にある小屋に待機をお願いしまス」

「了解っす」


 午後で済むし、知らない道じゃないだけマシだな。

 へこみ気味だったが、依頼があると思うと気が引き締まった。

 日々の飯を得るために働かなくちゃな!


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