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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
低ランク冒険者編

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154/295

154:ワープアの心得

 独自の必殺技に変えられないと知った俺は、打ちひしがれながら、暗い夜道を宿へと戻っていた。

 ぽつぽつと窓から明かりは見えるが、ぼんやりとしたランプの灯りだ。

 道まで照らす明かりが洩れるのは、酒場らしい店からだけだ。ざわつく声も一緒に漏れ出ているから、今日は早めに引き上げてきたようだ。

 隣近所が近いためか、酒場すら閉店は随分と早いのだ。


 融通の利かないコントローラーを胸中で罵りながら宿の戸をくぐると、薄暗い室内にギィと板が軋む音が響き、おっさんの顔が浮かび上がった。


「今日は早いな」

「ひぃ……!」

「なんでい、変な声出して」


 分かっていても怖いから!


「ベドロク装備店から連絡だ。防具が出来てるとよ」


 ストンリからの伝言か。

 大ざっぱな内容だが、革装備は時間がかかると言っていたから、防具は防具でも肩当ての方だな。

 明日の朝に受け取ろうかと思ったが、早めなら今からでも大丈夫かな。

 ランタンの火を消す前だったのもあり、おっさんに礼を言って、また宿を出た。




 煤通りに並ぶ家は全体を板で覆ったようで、昼間は窓がどこにあるのか外からは分からない。

 しかし夜には、板屋根と壁の隙間から明かりが漏れているのが分かる。

 金具を打ち付けるような音も、あちらこちから聞こえてくる。


「なんで、どこの家からも漏れてるんでしょうね……」


 悲報、ブラックな職場はストンリの店だけではなかった。


 既に路上の看板は引き上げられていたが、明かりがついているのを見て、戸を小さく叩いてみた。

 間を置かず扉は開かれたが、そこで待ち構える様子はない。

 店に入ると、すでにストンリは俺を待たずに背を向けて、さっさとカウンター脇の箱へと手を伸ばしていた。


「よお。まだ働いてんのか」

「その時間に顔を出すタロウはなんなんだ」


 ストンリよ、好きで職人仕事しているお前とは違うんだよ。

 ワーキングプアなめんな。


「伝言聞いたからさ、遅くに悪かった」

「いや、早く来てくれる分には助かる。遠出してる奴なんかは、すぐに来れないから、置き場にも困るんだ」

「狭いもんな」


 ごちゃっと物が置かれた店内を見て頷いたが、公平じゃないな。

 フラフィエの魔窟店が頭を過った。あれは見事な汚部屋メーカー故の結果だったが、ここは物が多くとも上手く遣り繰りしている工夫が垣間見える。

 日々、品の受け渡しも多いようだし、必要なものがすぐに取り出せないと回らないだろう。

 うん、フラフィエはストンリに弟子入りするべきだな。


「何を納得してるんだ? ほら、これ」


 新しい樹皮甲羅の肩当てや殻の肘当てと膝当てだ。


「あれ? 殻装備の方は、明日じゃなかったか」

「一つ早く片付いて、中途半端に時間が余ったんだ。まとめて渡せて良かったろ」


 隙間時間で片付く装備ですよね。知ってる。


 新たな肩当てを手に取って、今身に着けているものとの違いに驚いた。

 コルクのような硬さと弾力があるものだが、しっかりと圧着されているのが分かる。万力のような道具で整えるそうだ。

 カウンターの向こうの作業場には大小の工具らしきものが見えるが、何が何やら分からないな。


 装備している肩当てなどを取り外す。

 よく肩をぶつけていたからな。見るからに緩んでいるというか、へこみから傷み始めている。


「へえ、違うもんだな」


 こんな低ランクの装備でもと言いかけたが、空しくなるのでやめた。

 ストンリは満足そうに口の端を上げた。


 予備として注文したわけだが、明日は交換しよう。

 元の方は修繕を頼むことにして預けた。

 こんな捨てられてるような素材の装備だ。修繕より作り直した方がいいんじゃないかなどと思ったが、空しく以下略。


 タグを外し、カウンターに置かれた読み取り機に表示された額面を確認すると、代金を支払った。


「じゃ、ほどほどにな」


 俺は根を詰めて頑張ってるらしいストンリに、聞くとは思わないがそう声をかけた。

 思った通り、ストンリは言葉の代わりに肩をすくめると、ただ手を振った。


 宿に戻りながら考える。

 三点で1500マグだって、安い買い物だよな。

 そう思えるようになったことが嬉しかった。



 ◇



 まだ日が昇り切らず薄暗い大通りを、南街道側へ進む。

 本日も早朝の洞穴に挑むことに決めていた。


 おっかなびっくりながら、カラセオイハエのグループを相手にできたんだ。

 それも二度だから、まぐれとはいえないだろう。

 これを安定して倒せるように、慣れていく。


「どっちかっつーと、キモケダマの方が厄介なんだよなぁ」


 挟み撃ちに会わないよう、周囲の森を掃除するのが先だからな。

 レベルはハエの方が高いはずだから、四脚の方を先に片付けているわけだが、どっちが苦労してるか冷静に考えると溜息が出るな。


 そりゃ四脚ケダマの方が耐久度は低いが、素早いし数が多い。

 こっちと戦う方が、よっぽど実際の訓練になってる気がする。

 素早い相手なんて、人族の特性と噛み合わないというのもある……噛み合う敵なんかいませんでしたね。


 ともかく、それでいてハエは素材分のマグが削られるらしく、四脚と同じマグしか手に入らない。

 比べても仕方ないが、どっちも割に合わない気がする。


 あ。


 なんで俺が、次の標的としてハエに目を付けたかっていえば、ゲームのレベルを元に考えていたからだ。

 ぎりぎり倒せる程度の敵を相手に戦っていけば、経験値も早く貯まって、レベルが上がり易くなるんじゃないかと、そう考えた。


 だけど、そもそもレベルらしきものが何を元にしているのか明確じゃない。

 ゲームであれば、設定された経験値を参照するが、ここだと本当にそうなんだろうか。


 コントローラーの表示にはマグの総獲得量の数字があるだけ。

 ってことは、純粋な獲得マグのみを経験値として参照している可能性が高いんじゃないか?


 もし、そうだったら……ハエの野郎、割に合わないどころじゃねえな。


「ま、まあ、いいさ。いいんだよ。実戦の経験が足りないんだから。選べる敵もいないんだし」


 そんな気が重くなることを考えながら、祠を通り過ぎ、洞穴の前へ到着。

 昨日の失敗に学び、少し離れた場所から石を投げて、四脚ケダマを少数ずつ引き寄せて片づけていった。




 やや離れた周囲まで、念入りに掃除を終えると、洞穴へと戻った。

 暗い穴の奥を、縁から睨む。


 昨晩、俺は今日の予定を変更した。

 この洞穴のハエもどきを相手にするだけではない。


 本日のお題は?

 なんと、この最弱洞穴の踏破です! えぇー!?


 他の冒険者に気にもかけられない、職員すらすぐには思い出せない短い通路らしいですから、俺にはちょうどいいようです。


 とはいえ抜け穴みたいなもんだって話も、大枝嬢らの感覚だ。


 こういった場所の移動が今後もあるなら、慣れておくに越したことはない。

 実際に夜の森で暗がりでの行動に慣れていたおかげで、洞穴でパニックに陥ることはなかった。

 慌てるのは初めての場所なら仕方がないから数えない。

 それでも足場が良いとは言い切れない薄暗い場所で、不意にハエをけしかけられても対処できたのは、深夜の徘徊が無駄でなかったってことなんだよきっと!

 少なくとも、気を取り直すのは早くなったと思うし。


 ただし、これまでは引率者がいたから、警戒を人任せにして動いていた感は否めない。

 今後も機会があるなら役立つだろうし、忘れないように度々言い聞かせているようなもんだが、自分自身でも感覚を掴んでおくのは大事なことに思える。

 あちこちに出かけられたことで、より強くそう思う。


「少し、安全に慣れ過ぎた。時には無茶も必要だからな」


 特に、俺には。

 少しでも上のランクの魔物を倒せるような強さを求めるなら、レベルを上げるのが近道だ。

 そのために得なければならないのが、経験値だろうとマグだろうと、格上の敵を相手にするのが早い。


 ランタンに火を点し左手で掲げ、右手はナイフを逆手に握り込む。

 息を詰めると、穴に踏み込んだ。


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