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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
低ランク冒険者編

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145/295

145:小用

 空がうっすらと明るくなるのを眺めながら、俺は南街道に出ていた。

 シャリテイルからの連絡を待つのに、街の周辺にいるとしか伝えていない。街の周辺の意味は、大まかに結界柵からそう離れていない辺りを指すようだ。


 祠側の南の森へ行くのは、伝えた範囲からは外れるかもしれないが、遠くはないしな。すぐに戻ればいいだろう。どのみち連絡は、ギルドへ寄ったときに伝言されるくらい、のんびりしてる気がするし。

 好きにしていて構わないというお言葉に甘えて、昨晩の思い付きを試すべく向かうことにした。


 目的地は聖なる祠近くの洞穴。

 中に入るには無謀な場所だろうが、外から中の魔物をおびき寄せる分には、良い立地のはずなんだ。

 ゲームでも序盤のフィールドだったのだから、ここでも難易度はそう高くないはず。

 少し覗くだけなら時間はかからないし、もとより粘るつもりもない。


「すぐに戻るつもりだし。平気平気。戻れよ?」


 調子良くいったとしても、目的を果たしたら引き返すと決めて森へ向かった。


 念のため街道で小石を拾いつつ来た。十ほどの塊を確認し、森へ分け入る。

 祠に到着すると速度を落として崖沿いを慎重に進む。

 洞穴前の森までくると、四脚ケダマが現れる区域。西の奥の森相当の難度だ。

 前もって森側の掃除を済ませておこうかと、祠周辺の白樺のような木々との境目辺りまで引き返した。


 腰に括りつけてある小さな道具袋から先ほど集めた小石を手に取り、下生えに目を凝らす。

 あの辺が怪しいなと勘が告げるままに、投げた。

 すかさず左手の剣を右手に持ち替える。


 ざわざわと木の葉が揺れているのは、風によるものだ。

 どうだ俺の勘は。


「分かってる、もうちょい奥だよな。慎重に手前で試しただけだから……」


 白樺もどきを背にする位置まで移動し、同じことを繰り返した。


 不審な動き……今度こそ!


「シェケェッ!」


 思った通り、真正面から飛び出した大ケダマを切り伏せる。

 準備さえできていれば、四脚ケダマごときは殻の剣の錆に……錆にはならないな骨っぽい素材だし。

 とにかく、こんなもんよ!


 この調子でさらに石を投げようと手を腰に伸ばしたとき、右手から葉をゆらす音が聞こえた。


「ぶふっ!」


 とっさ振り向いてしまったせいで敵を顔面で受け止めてしまった。

 頭に飛びつかれる寸前、腕で顔を庇ったのはこれまでの経験ゆえだろうか。

 しかし相手は、重さもある四脚ケダマ。ぶつかった衝撃により、自分の腕で鼻を打つことになり悶える。

 しかもケダマの細い鉤爪が、衣類の襟元と頭に巻いていた布を掴んだ。


「も、もがが!」


 ケダマの体毛が口を覆い、必死に腕を外へ押し返す。

 また服が傷むだろうが!

 ケダマの足を折ると力が緩み、その隙に引き剥がした。


「ぷはっ! くっ……殺す!」

「キキェーッ!」


 左手に握っていた剣を横からぶっ刺すと、あっけなくケダマは消えた。

 四脚ケダマの方だというのに、心なしかまた手応えが軽くなった気がする。


「おぇ……」


 ケダマの体毛もマグに戻って消えるはずとはいえ、唾を吐き出した。

 普段から、その辺の藪に得体の知れない虫にまみれて潜んでいるんだと思うと気持ちが悪い。

 他に気配がないってことは、運よく二匹組だったようだ。


「ふぅ。落ち着いて、もう一度」


 再び石を取っては投げて、斬り捨て、時に祠まで逃げてと繰り返し、ようやく静寂が訪れた。




 少しずつの討伐とはいえ、四脚ケダマのスピードに対応するため慌てながら動いた。そのせいで乱れた息を整えつつ、暗い穴倉の前に立った。


「はぁ……手間ぁかけさせやがって。だがな、お楽しみはこれからだぜ」


 何か小悪党っぽく聞こえるな。

 しかし今度の相手はカラセオイハエだ。

 レベルだけなら四脚ケダマより上なんだから、なぶられるのは俺の方だろう。

 なんか緊張してきた。


 いったん比較的安全な祠周辺へ戻り藪をつつく。この辺は魔物も少ないため、何も出てこない。安心して陰で用を足す。

 そんな時に限って、少し離れた位置にある下生えが揺れた。


「来るなよ。絶対来るなよ」


 無駄と知りつつ唱えてみるが、股間丸出しで剣を構えて待つ姿を考えると、気もそぞろになる。

 なんで紐を一々解いてズボンを下ろさなきゃならないんだよ。

 もしどこかに俺以外の転移や転生主人公が存在するなら、さっさとジッパーを開発してくれ!


「くそっ来るならさっさとしろ!」

「キェぷッ!」


 俺の苛立ちに応えるように、普通のケダマが転がり出たところを串刺しにした。

 ふぅ、手の届く範囲で助かった。




 小用を済ませて、洞穴前へと戻る。

 投げた石の内、回収できた大き目のやつを取り出した。

 洞穴の入り口は狭く暗いが、かすかに見える天井は低い。どこまで奥まっているかも、よく分からない。

 思い切り投げてみて、カラセオイハエが出てくるなら良し。

 出てこないなら、大人しく戻ろう。


 まずは全力だ!


「ふんっ!」


 助走をつけ思い切り投げた。

 洞穴の端へ移動し耳を澄ます。

 空気が通る音が響く中に、聞きなれてきた振動音が混じった。


「随分と遅いお目覚めじゃないか」


 穴から祠側へと下がりつつ、出てくるのを待つ。

 羽音が大きくなり、一匹が姿を現したところで、すかさず石をぶつけ誘導する。

 首尾よく、こちらを向いて動き始めたカラセオイハエの背後に、別の個体が現れた。


「げ」


 そう都合のいいことは起こらないか。

 じりじりと後退しつつ様子を伺うと、五匹が姿を現した。


「ちっ!」


 近付くのをギリギリまで待ったが、それ以上の魔物は出てこない。

 微妙な数だ。

 最後に倒したときの手応えを思い出せば、捕まえられさえすれば、対処できなくはないだろうと思う。

 邪魔が入らないようにケダマは片づけたんだし、純粋にどこまでやれるか。


 四方を囲まれたらやばそうだが、左手は崖。背後は結界。

 さあ、どこまで近付いてこれるかな?


「ほらどうした。足が鈍ってるぞ」


 結界様々だな!




 少し考え、右手の剣を左手に持ち替えた。

 カラセオイハエの外殻と同素材である殻の剣だが、多少は強化されて打ち負けないと聞いた。

 でも今は、一対一での戦いではない。

 適当に振り回し変な風に当てて割ってしまいそうだった。


 そこで初心を思い出し、体当たりだ!

 だがな、馬鹿の一つ覚えじゃないぜ。

 勢いをつけて踏み出した。


 小走りでも、俺並みの鈍足カラセオイハエからすれば、素早い動きだろう。

 ぶつかりにいった先頭のハエが羽を閉じる。

 落ちる前にキャッチだ!


「おら!」


 俺はそいつを掴んで振り回し、後に続いていたハエどもを殴りつけていった。

 カコンカコンと良い音を鳴らし、ハエどもが地に墜ちていく。


「どうだ、裏切りの味は」


 裏切りっていうか、お仲間で殴りつけただけだけどさ。


「うわっ」


 掴んでいたハエの外殻が開いた。決死の覚悟を決めたのか、細く短い六本の足と薄羽をバタバタと震わせる。


「くっ……」


 それが結構な力で、俺の腕を振り解こうとする。

 左手の剣で、外殻に阻まれないよう苦労して突き刺した。

 中身もケダマの倍は硬く感じる。

 それを念頭に置きながら、転がっていた他のハエが次々と飛び上がるのを捕まえると、力を込めて順に止めを刺していった。





 地面に重なる外殻の山を前に、へたり込んだ。


「ど、どうにか、うまくいった」


 怪我もなく生きてるんだから、うまくいったということにしていいだろう。

 そうしよう。


「うーん、しかし巡回先に入れられるか?」


 前もって周囲の掃除も必要だし、あまりに時間がかかりすぎるようなら数時間おきに南の森を回した方が効率は良さそうだ。

 ただ、慣れれば、もうちょい時間短縮できそうにも思う。

 問題は、五匹以上湧いてしまったときか?


 まあ、もう何度か試してみてから考えてもいいかな。


 立ち上がって、殻を洞穴まで移動した。

 放置してもいいかな。

 さすがに、こんなに持ち帰ったってストンリも困るだろう。

 というか変なものを作られると俺が困る気がする。


「あ、でも予備を作ってもらうのはありか」


 殻の肘当てと樹皮甲羅の肩当て。

 これらは新調した革鎧と組み合わせて使うため、まだまだ当分は現役だ。

 殻は磨り減ったり、樹皮の方はへこみも目立つようになってきた。

 ある時突然に割れたりしそうな気もするし、壊れてすぐ替えがあるのは心強いもんだ。


 素材を持ち込めば出費も抑えられるし……あ、でもあれってストンリの趣味で素材を集めるためにまけてくれてるんじゃ。

 ま、まあ、いいか。

 今はお世話になるが、少しずつしっかりまともな装備も買えるようになるさ。


 そうと決めたら一つずつ作ってもらおう。

 無駄遣いはしないといった誓いはなんだったのか。

 よし、明日から守る!


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