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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
低ランク冒険者編

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138/295

138:道草

 俺と中ランク冒険者四人一行は、西の森をさらに西の奥へ続く道を進んでいる。

 シャリテイルたちは道と呼んだが、木々の間を縫うような隙間は、北側の山で見た獣道のようなものだ。

 ただでさえ足元を気にせず歩くのは大変だが、最悪なことに上空を、四脚ケダマやハリスンが縦横無尽に駆け巡っている。


 俺も口から何か出そうな緊張をこらえて敵を見据え、腰を落としナイフを持つ手に力を込めた。


「ふんっ!」

「キェぶラッ!」


 気合いを入れて、何度も挫けることなくナイフを振り下ろす。


「うぉら!」

「クゥキャッ!」


 周囲から響き渡る魔物の断末魔が、俺の掛け声と共に、叩き折られる枝葉に重なった。もちろん俺が戦っているのは、強情な草どもだ。

 魔物を悉く屠っているのは、頼れる中ランク冒険者の先輩方です!


「……ケダマ野郎は、どんだけ居るんだっつの」


 俺は恐怖心と周囲から目を逸らし、無心に藪を払い続ける。細い癖にやけに硬い蜘蛛の巣草や、木々から垂れ下がって視界を邪魔する触手草らが、ただでさえ狭い通り道を邪魔している。相手に不足はない。


 それにしても、たまには討伐の合間を縫って、手入れをしているとか言ってなかったか?

 広いし魔物は多いし首が回らないのは分かるが……。

 それで、どの程度から片づけているのか、他の奴らの感覚を聞いてみようと思い立って顔を上げて、質問はやめた。


 そのとき俺が見たのは、避けもせず硬い腕で押しのけていくヤミドゥリの姿だった。シャリテイルはいつものように軽い足取りで、ささっと避けていく。タンサックとキューメイは、たまに幹を蹴って跳んでいた。

 どんだけ横着だよ……。


 唖然としているとケダマらの悲鳴が途切れる。一段落ついたようだ。

 トワィラ兄弟は、ひょいひょいと細い木々の狭間を抜けながら戻り、俺と並んでいた。道は一人が通れる程度だから仕方ないが、両側は木々が立ち並んでいるというのに器用な。不機嫌そうな顔つきから、話があるらしい。


「タロウ、お前な、誰がこの辺の草を刈れと言ったよ?」

「目的地は湖だと話しただろうが。聞いてたのか?」


 両隣から似たような難癖がつく。


「ああいう、ちょっとしたもんが積み重なって、どうしようもなくなったから依頼したんじゃないのか?」

「ぐぬ。ああ、そうだとも! ただ俺らが言いたいのはそうじゃなくてさぁ。気が利きすぎるぜってことだよ」

「目的外の仕事だろ。目的地に着く前に疲れたらどうするよ。それに俺たち、そこまで報酬用意してないしよぉ」


 この依頼も、あんたらのお小遣いですか。


「疲れないように配分してる。それとこの依頼も、たしか別件であったはずだから、ギルドから聞かれたら答えてくれればいいと思う。その辺はシャリテイルが把握してたっけな」

「おっ、そうか? ちょい待ってな!」


 恐らく兄のタンサックがすっ飛んで行った。

 だいぶ先にいるシャリテイルが、頷いているのが見える。振り向いたタンサックが手を振り、隣のキューメイが笑い声をあげた。


「よっしゃ、いいってよ! いやぁ、やっぱり歩きやすい方が助かるもんな」


 お前らまともに歩いてないじゃないか。


「次、来るぜ」


 木を蹴りつつ戻ってきたタンサックが、側で武器を構えた。再び毛獣混成軍のお出迎えらしい。もう考えることをやめて、俺も即座に草を掴んだ。




 しばらく進む内に、暴風が吹き荒れたような葉擦れの音は静まっていった。


「少しは減ったみたいね。タロぉ! 四脚ちゃんいるぅ?」

「いらない!」

「ああっ」


 シャリテイルは俺に声を掛けながらも、目を回しているケダマを宙に投げて、杖をラケット代わりにサーブを打っていた。

 聞く前に行動するなよ!

 とっさにナイフを突き出す。

 ケダマは声をあげることなく眉間から串刺しになり消えた。


「ごめんなさい。手が滑っちゃったわー」

「あからさますぎる」


 まだ俺に魔物を見つけるのを諦めてなかったのか。


「本来の依頼があるし、気を回さなくていいよ」

「ああ、そっちのことじゃないわよ?」


 他にも企みがあるだと……?


「おっと、もう一山来るぜ!」


 前方に崖というか土が盛り上がっている場所があり、その影から大量の魔物が這い出してきた。俺が問い詰める間もなく、シャリテイルは駆け出して行った。




「ケキェッ!」

「この子たちがケダマ草になったら、どれだけいいかって、いつも思うのよね」


 四脚ケダマを倒しながら、シャリテイルは自由気ままに森の中を飛び回り、そんなことをときに呟く。随分と余裕があるな……。

 そういう俺も放心しきったのか、皆が戦う様子を眺める余裕が出ていた。


 トワィラ兄弟は、兄は細身の剣で、弟は剣サイズの杖を振り回している。こいつらの武器は興味深い。

 兄の剣は、柄に魔技石を埋め込んでいるようで、たまに魔技を使用している。埋め込める石が小さいからサブウェポン扱いか。

 弟は杖だが、魔物を殴ると重々しい音が響く。二人とも武器本体は黒いし、金属素材、間違いなくクロガネを使ってるだろうな。金持ちめ。


 剣と杖。違いはあれど、同タイプなのはよく分かった。

 シャリテイルを見るまで、杖は魔法使いのイメージがあったし、ぶん殴るのがメインなどとは考えなかった。

 こっちも剣を持つ兄より、弟の杖の方が刺したり殴ったりしてるじゃねえかと色々とツッコミを入れたくなったが我慢だ。


 ヤミドゥリは、変わったポーズで戦っていた。

 全体の状況を随時把握するためか、あちこちに目を向けてはいるようだが、大きな挙動には見えない。

 ボクシングをするような基本体勢で、やや屈むようにして左腕をぴたりと体につけ、頭から脇を庇うように構えている。それはいい。

 右手に持つやや幅広の両手剣は、先を地面に向け、斜め上から前方を庇うようにして構えていた。シールド代わり? 今度試しに真似してみるのはやめような。


 そんな体勢からでも、魔物が来る位置を読んで移動し的確に薙ぎ払う。ピンポイントでは、剣の軌道を左手や膝で打って変えたりと、動きに無駄がない。

 勢いがないからパッと見で率直に強えといった感想はないが、正確な動きは、この中の誰よりも恐ろしい相手の気がした。


「色んな奴らがいるもんだ」


 種族の特徴にばかり目がいって、個々人の差を理解できるかといえば、まだまだ自信はない。それでも徐々に目が慣れてきているのを感じた。




「森ん中はこんくらいでいいか?」

「ちと、道沿いは片付け過ぎたんじゃねぇ?」


 ウザ兄弟が戻ってきてヤミドゥリに報告する。


「いや、これだけ雑魚を片付けりゃ低ランクの奴らも、手が出にくい奥にいる難度の高い魔物に挑戦しやすいだろう。あいつらにゃ良い稼ぎだ。やる気も出るだろうし、訓練にもなる」 


 ほ、ほう、低ランクの訓練にね。なんて責任感に溢れた人だろう。ヤミドゥリさん、俺も一応低ランク冒険者らしいのですが、何か助言をいただけませんか。はい、これが答えですよね。

 賞で言えば、残念賞とか審査員のツボに入った賞とか、本来の意味では競えない別枠だってよく分かってるんです。ちょっと思ってみただけです。

 ああ、たかが低ランク、されど低ランク……なぜこうも俺とは次元の違う話に聞こえるのか。などと自虐妄想に浸ろうとするのを違和感が連れ戻した。


 目を伏せて考える素振りで顎を撫でるヤミドゥリだが、その口元は笑いをこらえているようにしか見えない。不審に思って見れば、わくわくと目が輝いている。


 もしかしてさ、以前アラグマが不自然に一匹だけ残っていたのは、そういうことだったわけ?


「ぷふっ……おっと、じゃあ休憩がてら、少しのんびり行こうか。水を飲んだり、出したりするなら今だぞ」


 今の笑いだろ。問い詰めようとしたが、不意にヤミドゥリが道を逸れた。これまで真っ直ぐ来ていたが、なんと横道に入ると川沿いではないですか。

 間違いない。アラグマを残した犯人は、お前だ。なんてサプライズしてくれてんだよ!


 問い詰めようにも、あの時は俺のような奴が入り込んでるとは思わなかっただろうし、今さらだろう。というより、全員が仕事をやり遂げた額の汗を木漏れ日に光らせ、清々しい笑顔で歓談している。入りづらい……。

 俺だけが、まったく疲れていない。

 ここのところ、やけに疎外感とか孤独感が増している気が……いやいや気のせいだから。


 人との触れ合いは嬉しくも、機会が増すごとに独り身の寂しさを運んでくる。逃げようにも逃げられない場所と空気の中を、みんなの狭間で一人いじけながら歩いた。

 拗ねながら道草を刈っていると、前を歩くヤミドゥリから声があがる。


「もうすぐ湖だ!」


 意外と近い。ゲームのマップ画面の比率が色々とおかしいから、湖も奥地になると考えていた。


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