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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
低ランク冒険者編

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136/295

136:待ち合わせの朝

 甲高い鳴き声でさえずる鳥に起こされ、まだ暗い中、ベッドからもそもそと這い出す。


「夜明け前から鳴くって鶏かよ……」


 どこで朝日を感知してるのやら。森葉族と遠い親戚なのかもしれない。体内時計だろと答えたのは、空腹を訴える俺の腹だった。


 起き抜けから空腹感があるとは、よっぽど昨日は疲れていたに違いない。

 疲れているから早よ帰ろと思いながらも結局、この一匹、あと一匹と未練たらしく粘ってしまった。何万も突っ込んでガチャを回してしまう心理ってこんななのかな。


「まさか……これが中毒ってやつ? ギャンブル中毒とかの。カピボーだから、カピボー中毒。略してカピ中」


 語呂がいいな。

 下らない事を呟きながら出かける準備を終える。シャツは室内着兼パジャマとして買ったものを着たままだ。昨晩、椅子の背に掛けた方のシャツを手に取って広げた。


「ぺろーん」


 重ね着していたから、二枚ともが破れて切れ目が垂れ下がっている。

 買いたてだったのにと再び項垂れる気持ちに活を入れ直す。


「まだ、貴様にも役目はある。くたびれ切るまで扱き使ってやるからな」


 端切れは幾らあってもいいと実感した。

 今晩まとめて洗濯しようと、また椅子にかけ直す。

 今日は仕事を終えたらシャツを買いに行くとして、それと洗濯籠もあっていいかもな。前に見かけた竹籠みたいなやつなら種類も色々あった。

 どのくらいのサイズにすっかなあと考えながら部屋を出た。

 やたらと静かな廊下を歩くと、板目の軋む微かな音が大きく感じる。


「おはようさん。飯はもうすぐできるから、顔洗って来い」


 すかさず顔を出したおっさんが、階段を下りきる前の俺を見上げるようにして声をかけてきた。いつものごとく俺の返事を聞く前に裏に引っ込んでいく。

 俺の起床時間も安定してきて、気が付けばおっさんは当たり前のように食事の用意をしてくれるようになっていた。ありがたくカウンター脇を通り過ぎ、裏手への扉へ手をかける。


 冷たい井戸水で顔を洗うと重い目蓋もしっかり開く。道具袋から歯ブラシを取り出し、視線が止まった。木の枝を解して毛羽立たせたようなものだが、気が付けば徐々に抜け落ちている。自分でほぐしつつ使っていたが、だいぶ短くなっていた。

 これも買い物リストに加えよう。


 誰も居ない食堂に入って、辺りが静かに感じる原因に思い至った。

 初の泊り客が去ったからだ。食堂も、やけに広く感じる。


「狭いって感想は変わらないのに」


 不思議なもんだ。

 ……ぼっちは寂しいよな。また、客来ないかな。

 飯を待つ間、壁板の隙間から、うっすらと紫色に変わりつつある空を見上げていた。




 飯を食って弁当を受け取り、シャリテイルとの待ち合わせ場所へ向かいつつ、昨晩の検証を思い返した。

 結果は、思い通りに進んだどころかプラスの成果を得られたと思う。


 思いきり切りつけられなかったのは残念だったが、無暗に森林破壊せずに済んだから良しとしよう。

 次回は壊してもよさそうな静的目標物を準備すればいいだろう。ツタンカメンの甲羅がちょうどいいかな。


 そんな予定を考えていたが、木の幹に残された跡が気になってきた。

 もう一度あの跡は確かめておくか。暗い中ではよく見えなかったし、昼間に見たら正体不明な跡に見えるかもしれないよな。


 ちょうど待ち合わせ場所へ向かう途中だ。森を通り抜けながら畑の西へと向かうつもりだったが、予定変更。外側を回り込んで現場へと急いだ。


 ほぼ移動ルートは決まっているから目星はついていたが、意外と奥の森寄りでびびる。ケムシダマも見なかったが、夜はもう少し街側での活動を心がけないとな。


「あったあった、ここだ」


 茶色い幹の一部が、おろし金で削ったように傷つき、うっすらと白い内側を覗かせていた。

 これを見れば、剣をかたどっていても、はっきりと異質なものだと分かる。傑作SF映画で見たライトなセーバーみたいだ。火花が散ったり焼けたりしないことにホッとする。


 当たったかどうかすら感触としては得られなかったのに、傷がつくとは思わなかった。一応、この辺の皮、剥いでおくか?

 ナイフで軽く削り落としてから、これはこれで胡散臭いと思ったが後の祭りだ。


「そ、そう。これを標的にして、密かに俺は剣術の訓練を重ねていたんだよ!」


 よし、これで職質もばっちりだ!

 念のために鉛筆でバツ印と円を書き込んで的らしく工作していると、傷の浅さが気にかかった。


 当たったのなら、この結果はおかしくない?

 キツッキは、一瞬で崩壊した。当たりどころとは無関係に、触れたら即消滅の勢いだったよな。


 コントローラーを取り出し、昨晩回収したマグを確認する。

 二千足らず。試そうにも、起動すらできない量でした。


「うわ、そんな場合か」


 そろそろ小屋に行かないと遅れる。

 森を出て草原を突っ切り走った。




 空の明るさが増していく中、畑の端にある、こじんまりとした小屋に着いた。小屋と呼ぶにも小さいような気がする。高さもないし炎天族は頭を打ちそうだ。

 室内はこたつを置いて四人で囲んだら一杯だろう。部屋が見えたのは、扉が開いていたからだ。


 こたつではなく置かれてあるのは、ただのテーブルだ。そこには金色の波が広がっている。シャリテイルが、突っ伏していた。

 肩の上下具合からして、寝てる?

 なんて不用心な……一応、ここは結界柵の外だぞ。


 恐る恐る、戸口に近付く。

 手が届きそうな奥の壁には、簡易だがこの辺の地図らしきものが貼ってあるが、ぼろぼろで辛うじて使い物になるくらいのものだ。一面の壁際には、箱が天井まで積んである。

 フラフィエの恐怖を思い出させ目を逸らしたが、他にあるのは竹ぼうきだとかの道具くらいのものだった。


 まとめ役たちも小屋で待ち合わせがどうのと言ってたな。もしものために、ちょっとした備蓄を置いてあるのかもしれない。


「おーい、シャリテイル。寝てるところ悪いが、朝だ」

「ぷぐっ」


 跳ね起きたシャリテイルの鼻は赤い。

 筋の通った綺麗な鼻なのに……シャリテイルはもっと鼻を大事にしてあげた方がいいと思う。


「おはよう。鼻に何かついてる?」

「鼻がついて、いやなんでもないです」


 シャリテイルは大口を開けて伸びをした。

 その時、机とシャリテイルの体の間で潰れていたものが解放される。それは今、のびのびと揺れて自由を得た喜びをあらわにしているが、感動の光景は俺の視界から奪われた。シャリテイルが椅子の背にかけてあったケープを羽織ったからだ。

 残念なことだ。生まれ変わったらまた会おう。


「なによ、また変な目つきして」


 ぶんぶんと首を振り無実を訴える。毒は吐かれなかったが視線が痛い。


「いや、遅れたなら悪かったなと」

「あ、寝てたのは良い機会だなって昨晩から詰めていただけよ。お空の方は……ちょうどいい時間みたいね」


 シャリテイルは杖を掴んで外へ飛び出すと、まだ薄暗い空をやや眩し気に見上げた。俺は驚きにたじろぐ。


「こんなところに泊まってんのか」


 人手不足の深刻さを垣間見てしまった気分だ。


「屋根があるだけいいじゃない?」


 嫌な説得力だな。


「さ、西の森にいきましょう!」


 元気に笑うが、目のふちが赤い。


「なあ、シャリテイル。寝方で疲れの取れ具合は違うらしいし、街にいるときくらい部屋で休んだほうがいいぞ」

「護衛は心配しないで。起き抜けはいつもこうなの。でも、ありがとう」


 あら意外といった風に微笑まれると、落ち着かない気分になるじゃないか。


「べ、別に、護衛の方は心配してないし……」


 つい照れ隠しに俯いて頬を掻いたが、しゃっきりしろと顔を上げると、シャリテイルはすでに歩き出していた。

 ……周囲に誰もいなくて良かった。




 西の森沿いには、座り込んで飯を食っている連中が見えた。

 シャリテイルが挨拶しつつ状況を聞いたが、明け方の当番が戻り次第に交代するとかで、朝飯を持ってきて待機中だそうだ。

 そいつらを通り過ぎて、まだ森沿いを北へと歩く。


「森の中じゃないのか」

「依頼者と時間が合うかもしれないって、連絡があったから確認よ」


 なんと俺がカピボーと戯れている間にも、そんな仕事が。

 すぐに別のグループが見えてきた。


「あ、来てるわよ。おっはよー!」

「っうーす!」


 シャリテイルの嬉しそうな声とは裏腹に、俺は微妙な気持ちで手を振った。


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