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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
低ランク冒険者編

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134/295

134:日が暮れて

 シャリテイルから目を逸らした先には、えぐい苔草のゴミ山がそびえていた。


「ひどいなこれ」

「そう? 乗り越えられるし、邪魔にはならないと思うわよ」


 そっちの話じゃねえ。

 捨て置くがいいと言われたが、このままでは明日から異臭騒ぎを起こしそうだ。


「ぱぱっと掘るよ」


 土をかぶせる程度でも、むき出しよりマシだろう。

 道具に少し悩んで、殻の剣を地面に突き立てた。いけそうだ。こんな使い方して悪いと思いつつザクザクと掻き出していった。

 次はスコップでも買おうかな……。




「そのくらいで切り上げましょう。山の中なのよ。タロウは日が暮れると大変でしょ?」


 見上げれば、辺りはもう薄暗かった。

 土ブロックを掘りだすのに夢中で、すっかり時間を忘れていた。魔物が活発に動き出す時間でもある。移動しないとまずい。

 まだらな地面は綺麗に片付いたとは言い切れないが、どうにか隠れてるし良しとしよう。

 それからようやく森を出て、緩やかな道を急ぎ街へと戻った。


 ギルドへ戻ると、真っ先にシャリテイルが大枝嬢へと報告した。


「このシャリテイルさんが、しっかり立ち合い、作業の終了を確認したわよ。通りすがりの冒険者たちも喜んでいたわ!」

「それはみなさん楽になるでしょウ。私もいつ駆り出されるかと不安でしたが安心し……いえ、タロウさんありがとうございまス」


 コエダさん……本音は聞こえました。

 あんなところも職員が行ってたのか。


「はい、こちらが報酬となりまス」


 一万マグ。

 本日二度目のでかい収入だというに、俺はただ黙って頷き、タグを受け取る。驚き器官が麻痺してしまったようだ。


「目がまん丸で怖いわよ?」


 心情より表情が反応するとは、俺の顔はどうなってる。気を取り直して明日の事だ。たまたま今日はシャリテイルが居たが、明日からのことは聞いていない。


「コエダさん、次の依頼はどうなってます?」

「少々お待ちを……明日は人手が分散しますので、山周辺を離れたところをお願いしたいですネ」


 大枝嬢が紙をめくると、シャリテイルが覗き込んだ。


「どれどれ。そうよね、明日は南側に人が行くから、東西の森かしら。東は手薄になるし、西方面がいいと思うわ」


 俺の頭はお任せモードに移行だ。


「はい、川方面の整備依頼ですネ」

「あ、やっぱり依頼きてたわね。じゃあ明日は、畑の西の端倉庫で待ち合せましょう。って、タロウ?」

「はっ、西の端倉庫ね。草原側のすみにあるやつ」

「そう、そこ」


 西の森は、警備の人数も減らせないんだろうな。灯りがいらない分、洞穴の中よりは歩きやすいし気も楽だろう。

 そう決めると、シャリテイルと二人でギルドを出た。




 今日一日で、装備代金を回収しちゃったな。

 ゆっくりと通りを歩いていると、嬉しさが湧いてきた。また苔草からのマグが400ほど入っていたのも、地味にありがたい。

 どれだけ恐ろしい草だよ。厄介なところに生えるだけのことはある。


 今日の苔草は青臭いが腐臭はなかった。捨てたと言ったら砦の兵達、とりわけメタルサは悔しがるかもな。


「虫よけ用に拾ってこれなくて残念だったな」


 気が付けば、まだ隣を歩いていたシャリテイルに話しかけた。


「あんなに持ち帰っても作るのが大変よ。広げて数日は乾燥させないとならないから、場所に困るわね。それから砕いて、ほどよく固まる水で練ったりして、手間はそこそこかかるわりに効き目もそこそこだし」


 そんな微妙なものだったのか。

 たんにメタルサが虫嫌いなだけだったりして。


「砦の奴らは、必須って気迫だったけどな。そんなもんなのか」

「山の反対側まで泊りがけになると、欲しくなるのかもね。人手が足りないのは砦も同じだから、交代で遠出が続くのは大変でしょうし」

「他人事のように言ってるな」


 大変なのはシャリテイルも同じだろうに。


「虫なんか気合いで跳ねのけちゃえばいいのよ!」


 それは、並みの冒険者には難しい注文だろう。兵のランク付けのようなものがどうなってるかは知らないが。つうか……鍛えたらどうにかなるのか?


「ここ笑うところよ?」


 良かった。

 鍛えて虫よけスキルが上がるなんて夢のないことは起こらないようだ。


「そうそう、もし拾うなら、フラフィエちゃんのところに持ち込むといいわよ。器用だから大抵の道具は作れるんじゃないかしら」

「へえ、虫よけってくらいだから、薬屋かと思ってたよ」

「ん? 言われてみれば、釣り目のドラグも作ってた気がするわね。まあ、時間さえあればご家庭でも作れちゃうものね」


 ドラグって薬屋のチャラ男か。たしかに釣り目だった。


「次に寄るときは頼んでみるよ」


 羽虫やら幹を這う細長いやつらやらは結構見るし、森に入る度にそういうもんだよなと慣れてしまっていた。

 蚊を見た覚えはないから平穏な気持ちを保てるのかもしれない。

 待てよ? あいつがいないなんて……ここは天国か?


「でも持ち込みをするなら、落ち着いて依頼できるフラフィエちゃんのところがいいと思うかな?」


 たしかに。あれは薬屋とは思えない熱気だった。

 まあ、蚊の他にも毒持ちがいたら嫌だし、試しに使ってみるのも悪くないか。


「それにしても、充実した一日だったわね」


 ふと見ると、シャリテイルの笑顔と合った。


「ビチャーチャなんて充実はない方がいいけどな」


 あんなハラハラする思いは、できればもうしたくない。

 ゲームでいえば、セーブできるし安全地帯だと思っていた街が、突如雑魚とエンカウントするようになったくらい焦る。


「それと西の森なら、タロウも戦闘の機会はあると思うわ。強くなって稼げるようになるといいわね」


 それで西の森をチョイスしたのか?

 だけど、稼ぎが目的じゃないんだって……ああ、そうか。ここの常識だもんな。

 魔物討伐したいってのは、イコール稼ぎたいってことなんだ。普通の冒険者の中では、そう染みついてんだろう。


 強くなるってのは、結局副次的なものでさ。

 始めた仕事の要領が掴めたとか、技術が身に着いたというノウハウでしかないんだろうな。


「今まで、この街に人族の冒険者が稼げるような依頼はなかったわ。でも今日のような依頼の相場が、大きな街と比べても、低くはならないよう配慮したつもり。これからは、稼ぎの心配はないと思うわよ?」


 純粋な良心で言ってくれていると感じられて、胸が痛む。

 俺はただ、あわよくばレベルアップを図れたらと考えているだけで。しかもコントローラーで遊びたい気持ちが含まれている。


「お蔭さまで防具も買えそうだしさ。本当に助かりました」

「うん。じゃあ、私は晩御飯の道を行くから、また明日ね!」

「あ、ああ、また明日」


 美味い店は、裏通りの方が多いのかね。

 なんとなく、見えなくなるまで後姿を追う。


 姿が夜に紛れると、俺はなにをやっているのかと頭をかいた。


「うぇ、最悪だ」


 固まった泥や苔草汁で頭がばりばりだ。色々と振り切るように頭を振ると、宿へと向きを変えて走った。




 今日も何事もなく終わった。何事もなく?

 うん、なにもなかったなー。なにか、こう、どっと気疲れしたけど。


 冷たい水で汚れを洗い流すと、嫌でも気は引き締まった。

 南の森へ行かなきゃな。俺自身の稼ぎは、これからが本番だ。

 謎の草刈り依頼に殺到したのは、物珍しさや問題が積もっていたせいだろう。状況が落ち着けば、コンスタントに依頼として出すものは決まってくる。

 この雑用バブルが弾ければ、結局は俺に残された道は南の森のみだからな!


 すっかり汚れきっていたポンチョは、洗って干してしまった。

 そういや、こんなときのために上着を買おうとしてたんだった。


「なにもないよりいいか」


 替えのシャツをもう一枚重ねて、部屋を出た。


 ビチャーチャから得たマグもある。そろそろコントローラー……というか、ヴリトラソードのチェックも済ませておくか。

 残量は一万ほど。十分だな。どうせ一瞬でなくなる。

 今回の検証に魔物は必要ないから、夜の狩りを始める前に確かめておこう。


「ええっと、再確認事項はなんだっけ。はたして柄に見える部分は触れるのか、だったな」


 威力だけは把握できたが、使い物になるのはまだまだ先だ。

 ……使い物になんのかねこれ。

 ため息をつきながら、背に跳び付いてシャツに引っかかっているカピボーに手を伸ばす。

 ちょっと爪が痛いが、二枚重ねにしておいて良かった。


 そしていつものように、むしる。


「あ、あああっ! お前、このバカ、なんてことを!」

「キェキューッ!」


 シャツの一部が軽快な音を立て、カピボーの爪と共にはがれていた。


「破れた……買いたてのシャツが」


 当たり前だ。

 うなだれつつも、俺は悲しみを込めてカピボーをぶちのめして回った。


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