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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
低ランク冒険者編

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131/295

131:穴場

 洞穴の中、俺とシャリテイルは立ち止まっていた。

 歩くほどに道幅は狭く天井は低くなっている。

 奥からは空気が吹き抜けるような音や、コウモリだろうか、羽ばたきや甲高い鳴き声が聞こえてくる。

 未知の魔物ではないと思いたい。


 そんな不安な場所で立ち話なんて勘弁してほしいが、そうもいかない。

 どうやらシャリテイルは、俺の無理難題を覚えていてくれたんだ。

 有利な立地から攻撃可能で、一匹ずつ魔物を引っ張ってこれそうな場所。しかも俺が対応できる限界である、四脚ケダマ以下の素早さの魔物だ。


 どうせなら硬さはモグー程度でお願いしたかったが、贅沢はいえない。

 忙しい中で場所を選定してくれた。

 それだけでも感謝しなければならない。

 そう素直に感謝したいところだが!


 暗い空間に、俺の子供用ランタンの小さな灯りが揺らめき、シャリテイルの笑顔を邪悪なものに見せる。 


「この先を見て。道が分岐しているのが見えるかしら」


 言われて、ランタンを掲げてみる。

 灯りはぼんやりと周囲の壁を浮かび上がらせ、届かない場所が暗く強調される。


「確かに、分かれているように見えるな」


 どこを見て、自分の居る位置を確認してるんだ?

 辺りを見回すと即座に注釈が入った。


「低い位置に目印があるでしょ。毎回形を変えてあるし、適度な距離で彫ってあるから覚え易いわよ」


 なるほどと思い探ったが、蹴りを入れただけんじゃないかという窪みだった。

 足跡だろこれ。

 しかも、そこからヒビが入っているし。危ないことしやがる。


「じゃあ、この場所の説明をするわね。ここは広い場所がないでしょ」


 促され、顔を上げると改めて周囲を見た。


 入り口付近にあるような、穴だらけ天井のドーム部屋のようなものはない。

 それどころか、ちょっとした広さの空間も見当たらなかった。この奥のことは分からないか知らないが、この通路が続くなら囲まれる心配はなさそうだ。


 けど、狭ければ少なくとも回り込まれる危険は減るが、その分追い詰められるんじゃないだろうか。


「背後を気にせず戦える、ということか? しかも逃げて間合いを稼げるだけの距離もあると」


 まずは誰かが片づけてくれている前提の気がするんだけどな……。


「ううん。ここからは、あちこち分岐があるのよ」

「ああ、そっちか」


 曲がり角から対象を捕捉しやすいし、距離を取っての待ち伏せもしやすいとか?


「そう、窪みのような分岐があちこちあってね。すぐに行き止まりよ。これなら敵を追い込んでぶちのめしてもいいし、自分が隠れて不意打ちするのもバッチリ!」

「バッチリ! じゃねえよ!」


 追い詰められて穴だらけにされるイメージしか湧かないだろうが!


 いかん。せっかく探してくれたんだ。落ち着こう。


「ええと……とにかく、一応見てみようか」

「もう着いてるわよ? そこ、今タロウが立ってる場所もそう」

「は? どこにそんな通路が……」


 振り返って壁を見た。

 全体的に歪んで、わずかに抉れたような、いかにも洞穴壁面だ……って。


 俺が背を付けてどうにか隠れる程度じゃねえか!

 いや隠れるのかこれ。ポンチョの裾がはみ出そうだ。


「物音の具合からいって、魔物の数は戻ってきてると思うのよね」

「なら急いで戻りませんか」

「タロウだってビチャーチャと相対できるんだもの。この辺の魔物くらい平気よ」

「平気じゃねえ!」


 文字通り相対しただけだろうが。

 大体な。シャリテイルだってビチャーチャは倒せないじゃねえか。

 そんな恐ろしい相手がうようよしているなんて、言わないよな?


「届くといいのだけど。動かないでね。――棒線!」


 なんだよ棒線ってと言う間はなく、シャリテイルが杖を掲げる。赤い線状のマグが、先端から一瞬にして伸びた。

 槍にしては細く、矢と呼ぶには長すぎる。

 その生み出され固定化されたマグの棒は、杖から放たれ、一直線に闇の中へと消えて行った。


 ……なんてことをしやがる。


 魔技の属性はどうなってるんだとかいった疑問も渦巻いたが、次の言葉に思考は止まった。


「うんー、いそうかな? じゃあ、そっちに追い込むから待ってて」

「なに言ってんだよ!」


 瞬く間に、シャリテイルは奥へと走り去った。


「おい、灯かり無くて平気なのかよ! こんなところに置いていくなよ……剣、剣はしっかり握ってるよな」


 ランタンは足元に置いた方がいいだろうか。逃げることも考えたら、持っておくべきだろうか。

 文句は言ったが、不安になって壁の窪みに背中を押し付け息を殺す。

 そもそも、灯りがあったらバレバレじゃね?


 ここは、いつもの通りに乗り越えるしかないか。

 呆れて窪みを出ると、通路の真ん中で剣を前に構えた。

 そのとき足音が聞こえてきた。


「あはは。こっちよ!」

「ブンヴブーッ!」


 楽しげに追いかけっこしてくるんじゃねえよ!


 落ち着け。

 あの羽音はカラセオイハエ。

 倒せなくはない。

 しかも、羽音は一匹?


 どうやって群れから分離したのか。

 やっぱり他のは倒して、わざわざ一匹連れてきたんだうろか。


「タローゥ! ブンブン君、そっち行ったわよー」


 一々気が抜けるな。


「分かった!」


 ともかく、カラハエなら剣は囮にしかならない。

 強化してもらったとはいえ、元はあいつの羽と同じ素材だ。また割れるんじゃないかと気が気ではない。


 ランタンを持ちなおした手を、掲げた剣の下に添える。

 来た。

 薄暗さで距離間は掴みづらい。

 けどな、夜の森で鍛えたんだよ!


 姿が見えたと同時に踏み込み、上段から振り下ろす。

 いつものように、カラハエは反射的に殻を閉じて丸くなった。

 すぐに持ち上げ壁に叩きつける。


 カラハエは意外にも、羽を開いてすぐに飛び上がろうとした。

 ここの壁は土交じりで柔らかい。思ったより衝撃を与えられなかったのか。


「チッ、くたばれ!」


 飛び上がりかけて低い位置にいたカラハエに膝を入れる。

 ハエの眉間、と呼んでいいのか分からないが、真っ黒で巨大な複眼の間にヒットした。


「ぎャヴッ!」


 また叩き落され怯んだところに、剣を突き入れる。

 前より、容易く貫けた。

 殻の羽を破れるか試す気にはなれないが、剣の性能差を実感できたのは嬉しい。

 吸い込まれる煙を眺めつつ、止めていた息を吐きだした。


 残った殻の羽を隅に寄せていると、ため息が聞こえてきた。


「お疲れさま。でも、なによタロウったら。隠れてないんだから」


 それ、本気で言ってるんだよな?

 シャリテイルだもんな。


「俺は灯かりなしじゃ戦えない」

「ああっ! そういえばそうね……良い場所だと思ったのだけど」


 今さらだが、俺は声を上げて返事もしたんですが。

 初めから隠れる意味はなかった。


「うっかりしてたわ! さすがに私も真っ暗じゃ戦えないものね」

「今までどうやってたんだよ。ずっと手ぶらじゃないか」

「そのランタンの灯りがあるじゃないの」


 えらい高感度だな!

 森葉族の印象が、どんどん恐ろしいものに変わっていく……。

 腕力値が低めでなかったら、この世は森葉族の天下だったんじゃないだろうか。


「ちょっと遊んでから行こうかと思ったのだけど、しかたないわね。仕事しましょう」

「問題発言すぎる」

「どのみち、仕事はこの先からよ」

「えっまだ進むの」

「まだ半分も進んでないわよ。もちろん、奥までは行かないけれど」


 またさっさと先へ進んでいくシャリテイルの後を追った。



 幾つか分岐する通路を通り過ぎると、やや広い場所に出た。

 壁面には湿気があり、どこから伝ってくるのか、水が滴る音も聞こえる。


「こりゃまた、うようよ居るな……」


 ここも、苔草に埋もれていた。

 昨日の奴とは違い、巨大化はしていない。

 代わりに、足元一面が苔草の床だった。


「どうして、こんなに放っておくんだよ」


 誰にともなく文句を呟きながら、苔草狩りをはじめる。


 ――苔草軍団よ。グラスキラーと呼ばれた一騎当千の力を見るがいい!


 気分を盛り上げるための中二ごっこも忘れない俺だった。


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