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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
低ランク冒険者編

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124/295

124:臨時収入

「到着! 精算するから寄ってくれ」


 晴れ晴れとしたメタルサとヴァルキに促され、以前に来た砦の会議室へ向かう。

 砦に戻ったときは、まだ日が落ちるよりも前だった。

 安全を期して、早めに戻る予定にしてあったようだ。


 常日頃から人が多い場所なだけあってか、魔物に出会うハプニングはなかった。

 思った以上に何事もなく、肩透かしを食らったような、仕事が捗って良かったような。

 採掘されたマグ水晶は、この街で使う最低限を確保し、王都に直送らしい。

 大きな産業だろうし、安全には力を入れているんだろう。


 考えてみれば、農地関係は住人の生活を維持するためだ。

 鉱山は、経済的には大きいどころか、唯一の産業といってもよさそう。

 実は冒険者街じゃなくて、鉱山町のほうが相応しいんじゃないだろうか。


 悄然とし、とりとめもなくそんなことに思いを馳せていたのは、体中が臭いからだ。


 キング苔草め……ああ、確かにお前は強敵だったよ。

 最後まで、心に傷を残しやがって。


「いやあ本当に、今日はいい日だったな!」


 テンションだだ下がりの俺とは裏腹に、二人は元気そうだ。

 よっぽど嬉しかったんですねー。

 椅子に投げ出すように腰かける二人に倣って、俺も近くの椅子を引き寄せた。


 そういや、なんで俺は砦にいるんだろう。

 あとは署名さえ貰えればいいかと思っていたんだが。


 依頼書を取り出して机に置くと、崩れた書類の間からペンを掘りだしたメタルサに尋ねる。


「精算ってなんの話だ?」

「虫よけの話をしただろう。ほとんど廃棄となったが、それでも結構な量だ。まあ、そういった追加だよ」


 そんな簡単に上乗せして問題ないんだろうか。

 あの砦長とのやりとり、雑用依頼を承認させるまでの話を聞いた限りでは、砦はギルドよりも予算には厳しそうだった。

 快く承諾したのも、ギルド長との対抗心という子供じみた理由のようだし。


 ただ、実際に引き受けてみたから言えるが、メタルサたちの提案は正しかった。

 あいつは倒されるべき存在。魔物合体の産物といっていいくらいだ。


 ともかく、どんな事情があれ、俺が引き受けたのは草むしりだけだ。

 たまたま除去したゴミが使えるものだったからと、取り分を主張する気はない。

 日当分さえいただけば文句はないというか、早く汚れを洗い流したい……。

 ペンを掘りだした次は、ヴァルキが書類を発掘した。


「お、依頼書の紙。こっちにあったぞ」

「まったく! 毎回毎回、こうも勝手に定位置を変えるんだか」


 ヴァルキが交代時の愚痴を吐き、メタルサが依頼書に書き込んでいく。


 たんに採れた素材分は分け前とするとか、決まりでもあるんだろうか。

 冒険者とは規則が違うだろうし、立場に関わらずの習慣なんて知らないから、余計な口は出すまい。




 今回の依頼も含めて、ギルド長から受けた一連の依頼について、報酬額については全く意識していなかった。

 目的が別にあるらしいからということもあるが、ギルド長からのまとめ依頼のようなもんだ。

 一件の金額が低かろうと、代わりに数をこなすってことで問題ないと思っていたこともある。


「よし。これに署名してくれ」


 メタルサが机を滑らせた紙きれを手に取り、ペンを受け取る。

 署名をしつつ内容に目を走らせて、手が止まった。


「いひっ……ごほん。一万五千マグ」


 声、裏返ってない。セーフセーフ。


 元の金額が八千マグだった。倍近く増えてる。



「ははは、驚いてるな」

「ありがたく思えよ」

「本気でありがたいけど、なんでまた」


 拘束時間は早朝から日暮れ前までだが、移動時間や休憩時間も含めると、普通に一日働いたなって程度だ。

 フラフィエの汚店の報酬だって、雑用の依頼にしては十分な額だった。

 あれは三日分だったからだけど、おかげで宿代も払って余ったし。


「だってなあ、まさかあのでかいもんが一日で綺麗さっぱりなくなるなんざ、思ってなかったんだぜ?」

「半分でもなくなれば、万々歳だと考えていた。余った予算を成果に応じて追加することは、砦長にも話してある」

「雑務といっても特殊な例だったろ? それに加えて、危険地域の手当てだ」

「臨時だからな。次があれば、こうはいかないぞ」


 二人が理由を上げ連ねてくれたが、融通してくれたのは伝わった。


「そういうことなら……ありがとう」


 依頼書を道具袋にしまうと席を立つ。

 砦の外へ出ると、二人を振り返った。


「普段から気を付けてくれよ。あんな化け物キノコの山を、ぽこぽこ育てられても困るからな」

「もちろんだ。俺達だって御免だよ!」


 砦からは宿の方が近いし、先に洗濯だな。


「またなにかあれば頼む!」

「お疲れさん!」


 労いの声を受けると、俺も自然と顔が緩んだ。

 軽く手を上げ礼をすると、砦を後にした。

 ひとまず、砦のミッションコンプリートだ。




 さて、宿で洗濯し体を洗い着替えたはいいが、ポンチョの替えはない。

 あれ特殊な生地らしいからな。

 この街で同じものは買えそうにない。


 これからギルドに報告へ行こうと思うが、ペラペラのシャツ一枚だ。

 報告だけならいいが、これで夜の戦闘は尻込みする。

 そろそろ適当な上着でも買った方がいいだろうな。


 買い物へ行くにも、衣料品店は店が閉まるのも早い。

 覚えていたら明日買おうと思いつつ、ギルドへ向かった。


 話に聞いていたとおり、今日も窓口にはトキメがいた。

 依頼書を確認するとトキメは微かに目を見開いた。


「これはまた、よく働いたね」


 まったくだ。

 俺もマグタグの内訳を見て、深く頷いた。


 苔草のやつ、たかが草のくせに百マグも持ってやがった。

 サイズと苦労を考えたらおいしくもなんともなさそうだけど、儲けた気分だ。

 依頼料とは別に入手できるもんなんだから、ありがたくいただくけどさ。

 こんな臨時収入は二度となくていい。




 ギルドを出たところで、一日で稼いだ金額に実感が湧いてきた。


「一万五千か。これは、少しくらい無駄遣いしたっていいよな?」


 気が大きくなっているのは自覚がある。

 でもさ、たまにはこういったノリで何かしないと、知らず鬱屈してしまうよな。

 多分そう。


 そうだ、何を買うにしろ俺には必要なものだらけだ。

 必要な物なら仕方がない。


「今開いてる店で、買えそうで、必要なものといえば……薬屋?」


 いや、塗り薬だって、あれから使用する機会はない。

 マグ回復の魔技石も使う予定はない。道具屋もなしと。

 食料品店に所狭しと吊るされているソーセージらしき肉を買い食いなんかもしてみたいが、それは必要とは言い切れない。


「装備……そうだ、防具!」


 一番重要なことだっていうのに、すっかり忘れていた。

 自作の装備品で事足りていたからな。追加といえば頭に巻いた布だけだけど。

 失敗してばかりだったわけではない。ちょっと俺には合わなかっただけだ。


「なんにするかって、革の胸当てだろうな」


 よし買ってしまおう。

 決意すると、大通りから路地へと道を変えた。





「ストンリは居る、よな」


 久々に訪れた気がするベドロク装備店の扉を開くと、またしても眠そうなストンリが迎えた。


「よう、タロウ」


 こっちをちらと見て目礼と不愛想な返答で応え、カウンターに詰まれた大きな木箱の一つを、がさごそと漁っている。

 いつも以上に疲れて見えるな。この辺、人手不足なんだろうか。


 気まぐれに棚を見回してみる。

 以前は、精神的にも金銭的にもじっくりと物色する余裕はなかった。

 物珍しさで見はしたが、なんていうか、あの時は自分が使うことを想像できなかったんだよな。

 かっこええ使ってみてえ、とかじゃない。これはこういった状況で使い勝手が良さそうだとか、これなら俺にも扱えるんじゃないかといった、実体験に基づいた感覚だ。

 やけに冷静に選んでいる状況が、我ながら不思議な気分だ。


 おお……!

 これはちょっと、冒険者っぽくないか。

 本職さんっぽいよな?


「にやけるような装備があるか?」

「なんでもない」

「待たせて悪い。久しぶりの気がするな」


 ストンリは手を叩いて埃を払うそぶりを見せてから、手を差し出した。

 握手の催促ではなく、装備を寄越せという意図らしい。

 ナイフと剣を渡すと、ストンリはカウンターの向こうへ手を伸ばし道具箱を引き寄せた。


 なにやら赤い石を取り出し、剣を研ぎ始める。

 マグを固めたようなものに見える。

 砥石のようなもんなのか、それともマグ加工の道具かなにかだろうか。


 こんな地道な仕事を一人でずっとこなしてるんなら、目も疲れるだろうな。

 肩も凝りそう。若いのに爺むさ……貫禄があるのは、そのせいだろうか。

 もう一人いるはずの職人であるストンリの父親は、どこかの街へ用事があって出かけていると聞いたな。


「そういや、親父さん帰ってこないな」


 確か、革以上のランク素材を利用したものを作るのは、まだ許可されてないと言っていた。

 俺は余りものを加工してもらうだけで十分だろうし、買うだけなら問題ないとは思うが。

 それにしても、随分と長い出張だ。

 出かけていると聞いてから、かなり経ってないか。


 答えは意外なものだった。


「戻ったよ。この前の行商団と一緒に。ああ、装備を新調したかったのか」

「いや、考えてはいるけど、予算のこともあるし。在庫で合うもんがあればそれにしておこうかと」


 なんだ戻ってたのか。

 なら、なんでまた眠そうなんだ?


「新調する気があるんなら、相談くらいはしてみたらどうだ。それで予算の都合がつきそうなら、隣の奴に頼むよ」

「それなら、ちょっと考えをって、なんで隣?」

「また出かけて行ったからな。行商団と一緒に」


 なんとも、忙しい人だな。

 見送ったときに、すれ違っていたかもしれないのか。


「じゃあ、以前相談した胸当てなんだけどさ」


 知識もないから俺の方に希望は特にないが、ストンリは話している内に閃くことが多いようだからな。きっと何かしら秘蔵の、在庫処理品を提供してくれるに違いない。


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