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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
低ランク冒険者編

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123/295

123:苔草討伐

 暗く細い坑道をしばらく進むが、他のやつらや道具類を見ない。

 入り口の受付に零区域に行くと言っていたな。零ってことは、採掘とは関係ない場所なんだろうか。


 すっかり入り口の明るい穴が見えなくなってから、ある重大な違和感に気が付いた。思わず前を歩くメタルサの肩を叩こうとして、カゴが邪魔だったためカゴを掴む。


「ちょっと待った! メタルサ、俺は確か、鉱山入り口周辺の苔草取り依頼と聞いていたと思うんだが?」


 疑問形だが、依頼書にもそう書かれてあった。

 曖昧な書き方だが、ある程度広範囲だからと受け取っていた。だがここの場合は山の入り口なんて、実際は街を出てすぐのところになってしまう。

 あくまでも確認のつもりだが、つい恨めし気なニュアンスがこもってしまった。


「山は裾野が広いし、中は中で広いからなあ。この辺もまだまだ入り口のようなものだぞ」


 くっ、はぐらかしやがって。

 歯ぎしりしていると後ろからヴァルキの補足が入った。


「ここは連絡路だ。鉱床のある区域とは別でな。先は、高難度の魔物が出る区域に通じている。通れればいいと、なかなか手が入れられなくってな。助かるぞ!」

「そんな場所に!」


 飛び上がってそわそわと辺りを見回す。途端に、あちこちの暗がりが不気味に見えてきた。


「ははは、落ち着け。その手前が目的地だ」


 二人の笑い声が反響し、微かに別の物音が重なった気がする。幻聴でありますように。

 暗く足元の危うい中を魔物の気配を気にしながら歩く。

 気まぐれにシャリテイルと洞穴に行ったが、本当に予行演習になったな。




「ついたぞ、ここだ」


 メタルサが、ランタンを掲げると、少し広めの場所が浮かび上がった。

 そこへ踏み入れた途端に、足が止まり、息をのんだ。


「なっ……なんだよ、これ。こんな、ことがありえるのか」

「うむ。異様だろう」


 強張った表情のメタルサとヴァルキを見て、責めずにはいられなかった。


「なんで、こんなになるまで放っておいた!」

「タロウ、俺達だってどうにかしたかったさ。だがな、手が足りなかった……」

「よせよメタルサ、言い訳なんて。悔しいが、力が及ばなかったんだ」


 暗く沈んだ二人の声に滲み出た無念は本物のようだ。

 改めて、通路があるはずの場所を見上げた。

 寝心地良さそうだとか言っていたから、ベッド並みとは思っていたけどさあ……縦じゃん。


「このやろう、隠しやがって!」

「いやぁ、別段隠したつもりはなかったんだがなあ。ちゃんと言ったろう?」


 ベッドはベッドでも、炎天族サイズだろこれ。

 あのグロ椎茸が、これでもかと積み重なったキングサイズのベッドが立ててあるって、もう柱だろ!

 キノコ柱なんか立っても縁起が良いとは思えない。


 なにか裏があるとは思っていたけどさ!


「くそぅ、やって、やるぜ」


 恐る恐るキノコ塗りの壁に近付くと、粒々ぬめぬめとした緑色の物体が潰れながら折り重なっているのが分かる。したたった汁のせいで、足元からびちゃりと音が鳴った。

 グロだこれ。


 グローブ越しでも触りたくねえ。

 胞子や変な汁が飛んできたら嫌だ。布を取り出し、鼻から口を覆って頭の後ろで結んだ。

 今一番欲しいのはゴーグルだな。でも街中の誰一人としてメガネすらかけてるやつを見たことが無いから、存在しなさそうだ。


 キノコ柱の隅に、人が背をかがめて通り抜けられるだけの隙間がある。切りつけられた跡が生々しい。通る時だけ削ってる感じか。

 ちょうどいいから、ここから切り取っていこう。


 隙間の前に立つ。

 渡されたヘラなんか、役に立つとは思えないな。

 ヘラは腰のベルトに差し、代わりにいつものナイフを取り出して、振り返った。


「やるぞ」


 二人が静かに頷き返したのが合図だった。





「ぐっ、相変わらず頑丈なやつめ。ただ硬いだけならまだしも、わずかに弾力があるところがどうもな」

「ああまったくだ。フッ、悪いな。俺はもう腕があがらないぜ」


 メタルサとヴァルキは、揃って退避した。


 こいつら……枕ほどしか切り取ってないだろ。

 いや、種族特性だ。多分。仕方がないことなんだ。そうに違いない。


「二人は辺りを警戒していてくれよ。切り取ったら呼ぶから」


 気配どころか、ときおり叫びだとか物音があからさまに聞こえてるんですが。

 そのたびにビクッとしてしまう。


「よし、その任務は俺に任せろぉ!」


 特に、キノコ防御壁の向こうから不穏な気配を感じるからと伝えると、ヴァルキはうきうきと隙間を通って行った。

 あの野郎。


 物音は壁を伝わって大きく聞こえるだけで、実際は距離があるとのことだから、怯えを追い出しキノコ削りに集中した。


 ぐちゃりぐちゃりとした水気の音だけが続く。

 なにこれ精神力が削れる。

 こいつもう魔物でいんじゃね。どう見てもMP削りに来てるだろ。


 ナイフを壁にざきゅざきゅとツッコミ、四角く切り込みを入れては掻きだしていく。床に落としていった欠片を、メタルサが丁寧に集めていった。


 力加減も慣れてきて、喋る余裕が出てきた。


「それ、使うのか」

「さっき少し話したが、こいつの効果を利用するんだ。虫よけの薬ができる」

「へえ。気持ち悪いが、役に立つだけマシなのかね」

「それに、この辺に捨てられても困るからな。カゴが埋まったら入り口まで持ち出す」

「分かった」


 これだけの塊だ。持ち出さないと自分が埋まりそう。運び出す時間もあるなら、もう少し急ぐか。

 しばらく切り出していると、メタルサから話を始めた。


「タロウ、一つ聞くが」

「どうした」

「本当に疲れないのか。不安定な体勢で、ずっと切り結び続けるとは、見ているだけで疲れ、いや圧倒される」

「本音は聞こえた」


 力を入れ過ぎると滑りそうだから、やや腰を落として、切れ目を入れたキノコ壁に拳を突き入れたりしている。やけだ。


「場所が悪いから。ここで働いてるやつらだって、似たようなもんだろ。水気が無い分、マシだろうけどさ」


 こんな無理な体勢を続けるかは知らないが、足場が悪い中を掘り進めるのだって大変そうだと思う。まあ大変そうだと言いつつ、人族ならこれくらいは問題ないんだろうなと、今なら分かるけど。

 つい以前の感覚で考えてしまうから、どうしても作業の見積もりがおかしくなる。


「そうかもしれないが、彼らはきっちり休憩を挟んでいるぞ。だからタロウも、遠慮せず休憩をとれよ」

「水が飲みたくなったときにでも、ついでに休憩するよ」


 昼休憩だけじゃないんだな。

 向こうは大所帯だし、毎日の仕事だから、その辺は無理なくやるんだろう。


 その後も二人はたまに手を貸しては休憩を兼ねた警備をし、一杯になったカゴを交代で外へ運びだしたりと分担してくれた。

 そんなバックアップを受けつつ、俺とグロキノコとの削り合いは続いた。





「こんなもんか」

「ああ、完璧だ」

「大したもんだ」


 まじまじと惨状を眺めた。

 悪のキノコが綺麗さっぱり取り除かれて、通路は普通の狭い通路に戻った。

 ただし黒い岩の壁には、茶色がかった緑色のキノコかすが、まだらに模様を作っている。酸味を加えた刺激臭もひどい。

 おえ。吐きそう。


「一日では難しいだろうと考えていたってのに……まさか、時間が余るとはな」

「さすがだタロウ! これは本気の煽てだ。俺たちだけでは、ありったけの覚悟をかき集めてさえ三日ともたずに飽きて放置になったものを」

「ヴァルキ。その言い方は聞こえが悪くないか?」

「そうか? とにかく助かった!」


 感激してくれたようで、メタルサとヴァルキは口々に感嘆の声を上げた。


 カゴにつめた最後のえぐい物体を外へ運び出して、用意された箱に詰める。

 さすがに、腐ったような臭いを発している部分は使えそうもないらしく、捨てられることになったようだ。

 大量の虫よけ剤になると期待していたメタルサは気を落としていた。


 ふと不思議に思ったことを質問する。


「今さらだけどさ、これって兵の仕事なのか」


 しかも虫よけ素材拾いって、冒険者とやってることは変わらない気が。


「何を言うか。後方連絡線の維持は重要なものだろう」


 いやいや、もっともらしく言っているが、それサボってたからな。

 巡回時の緊急連絡のために道を確保するのは分かるけど、虫よけは……やっぱり虫が多いんだろうか。


 暗闇の中、それまで平気で歩いていた場所に、ランタンの灯りに浮かび上がる壁一面に蠢く虫。そんなもんを見てしまったら、叫んで転げながら逃げる自信がある。

 意地でも腰を抜かす真似はしないからな。




 一旦、生ごみを抱えて外へ出た。

 箱に蓋をしたヴァルキは、受付係のマインスに台車で運んでもらう手配をする。何箱もあるから、どうやって持ち出すのかと思ったが、定期的に鉱石を運び出す荷車がある。それの一つに便乗するようだ。

 ヴァルキが戻ると、メタルサは次の行動を指示した。


「まだ時間が残っているな。あとは、その辺の苔草を除去しよう」


 予定通りに時間を消化したいとのことで、また通路に入り込む。

 歩きながら、その辺の窪みに埋まっている傘を見つけては引っこ抜いていった。


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