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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
低ランク冒険者編

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120:地揺れ

 コントローラーと聖獣の関係は、保留ということにして。


 普段から聖獣の話など、ちらとも聞くことがなかったのは、使い勝手の悪さとプライドの問題?

 西の森のまとめ役のような奴らを思い出せば、そういった力に頼るのは嫌いそうだ。仲間に頼ることは恥でもなさそうだけど、それも、各々の力で努力してるのを知っているからだと思う。


 ただ、あるものは使うというのに忌避感はなさそうだ。

 シャリテイルも気軽に使ってたし。


 そういえばビオとギルド長が言い合ってるときに話題になった、遠征にシャリテイルの能力が必要だとかなんとかって、これのことだったんじゃないか?

 長期間、魔技石の補充ができない環境では、制限時間ありだろうと自動回復できるのは便利だ。

 某腐人射的ゲームの無限ロケランのような破壊力はないが、人より多くリロードが可能なのは羨ましい限りだな。


 シャリテイルの姿をまじまじと眺める。今は、木のかなり上の方にいるキツッキを杖の下を持って伸ばし、叩き落していた。


「便利だよな、その杖。色んな意味で」

「そお? ふふ、まぁね。見ての通り特大マグ水晶を埋め込んだ特注品だもの。使用回数も多いし、魔技使いとしては一級品だって自慢できるわ」


 殴り率の方が高いと思いますが。


「ばんばん使えるいい子よ。もっと大きなものでも良いのだけど、持ち歩くのに邪魔なのよね」

「それは確かに」


 シャリテイルの杖は身長ほどもあり、水晶は拳よりもでかい。

 ゲームのキャラなんて実用より外見の特徴をはっきりさせたデザインが多いもんだから、そんなキャラだと気に掛けもしなかった。それが、ここではどれだけ異様か分かってきた。


 他の奴らが持ち歩いているのは、デメントが持っていた小ぶりの剣よりは大きいくらいのものがほとんどだ。シャリテイルが怪力なのかと思ったが違った。

 道具袋を漁るのに「ちょっと持ってて」と渡されたとき、キャラメルなコーン菓子をでかくしたらこんな重さか、といった驚きの軽さだったのだ。


「人族で杖を持つ冒険者も、見たことはないけれど」


 シャリテイルは前置きをしつつ、杖選びについて聞かせてくれた。

 俺が杖を作りたそうに見えたんだろうな。実際、ちょっと興味はあるよ。

 でも口ぶりからして、人族はMPが足りないし期待できないらしい。


 ともかく、杖を作る際に重要なのは、埋めるマグ水晶のサイズをどう決めるかのようだ。

 魔技は、各人の資質によって同じ魔技が強力になったりするものではない。そのため、使用回数の多さが強さの指針になる。


 金さえあれば強力になるかと言えば、またそれも違うらしい。

 杖のマグカートリッジを介すという銃のようでいて、マグを引き出すためにも自分自身のマグ量が、わずかながら消費されていく。この体内のマグ消費量を抑えることが目的だ。

 だから、限界まで使えるサイズを作るのではなく、使いつくしても無理のない範囲のものを作成するべきだそうだ。

 それは銃で戦うにしろ、集中力や体力が必要なのと似たようなもんか?


 魔技は足止めしたり殴るより早く殲滅したいなど補助的に使い、後は力技のようだ。

 やっぱ、聞いてると、本人の基礎力が重要なんだよな。

 ハァ……ますます外付けのアップデートで強くなる希望は潰えていく。


 シャリテイルが中ランクの上位者である理由は、何度も魔技を放てるだけの魔力を持つことだけではないんだろう。全体的に高いステータスを持っているに違いない。


 そうなると、シャリテイルに強さがおかしいと言われるカイエンは一体……。

 本気を出したところなんて、できれば一生見たくない。そんな魔物がいる場所ってことだからな、戦いを見る前に俺は消滅する。




 肩を落としつつ、ぼやぼやと歩いていると、シャリテイルが鼻歌まじりにホカムリを蹴り飛ばして振り向いた。


「そろそろ、おひさまが拝めるわよ」

「そうだな」


 言われて前方に目をやり、木々の間から見覚えのある景色が見えてきたときだった。


「うわっ!」


 地面をドリルで削るような振動が、足を襲い腹に伝わった。

 まるで何かが地下から唸っているような気味の悪さだ。

 それがさらに大きくなっていく。

 まさか、地震?


 次には眩暈がするような揺れに襲われ、抱え込んでいた素材袋を落として手近な木に抱き付く。


「だ、大丈夫か、シャリテ……」

「平気よ」


 シャリテイルは平然と立っていた。

 羨ましいバランス感覚だな……。


 しばらく息を詰めて怯えていると、振動は間断を繰り返しながら、波が引くように治まっていった。


「終わったわね」

「ここにも地震があるんだ……」


 地震にしては妙な感じだったが、違う世界だ。こんなもんかもしれない。


「魔震よ」

「ましん?」


 マシーンじゃないよな?


「魔脈が大地を押し上げるときに起こるの」


 それで魔震か。


「この辺は、そう多くないのだけど」

「意外だな」

「ここから離れた山脈地帯ほど活発なものなの。ここは中心地だから、たぶん魔脈も浮き上がり尽したせいじゃないかしら……あっ、仕事が増えてると思うわ。急いで戻りましょう!」

「あ、ああ。そうだな」


 一瞬、シャリテイルの顔が曇った。何が引っかかったんだ?

 いつも馬鹿みたいにのほほんとしてるのに。中心地?

 ふと、ジェッテブルク山を見上げた。


「魔震って、よくあることなんだよな?」

「ええ、まあ。魔脈にはつきものよね。ふぅん、でも……不思議ね。山の少ない場所なら体験したこともないでしょうけど」


 じっと訝しそうな視線を向けられて、俺の生い立ち詐称設定を思い出した。


「も、森の奥深くだったからな」

「うまく隠れ住んでたのね」


 シャリテイルはそれだけで納得したのか、ぷいと目を逸らした。

 そういえば、絶対に踏み込んでこないよな。

 それって、逆に言えば、シャリテイルも聞かれたくないようなことがあったりするんだろうか。


 出会った日に、街を歩きながら話していたっけ。

 この街には、希望をもって来る人が多いものね――遠い目をして、そんな風に言っていた。

 シャリテイルにも、何か目的があるんだろう。


 急いで森を抜けると、シャリテイルは駆け足のポーズで振り返り俺を見た。


「今日のところは、これで勘弁してやるわ。じゃあまた遊びましょうね!」

「遊びって、おい! 素材どうすんだよ!」


 そのまま、すっ飛んでいきやがった。いい走りっぷりだ。俺が叫んだときには姿が小さくなっていた。

 大枝嬢に預けておけば、どうにかしてくれるよな?

 うん、そうしよう。シャリテイルもギルドへ行ったと思うし、俺も行くか。




 そういえば俺は、シャリテイルのことを何も知らないんだよな。

 カイエンやストンリにフラフィエたち、ゲームのレギュラーキャラだったやつらが、どこでどう育って、今こうしてこの街に居るのか。


 思えば、会話一つとっても、ゲームでの出会いイベントなどと同じだったものはない。

 とっくにそう気づいていたとはいえ、やっぱりゲームのシナリオ通りに進んでいるのではないんだろう。


 大抵のことは同じだが、それも存在しているもんが同じというだけで……あ、おかしいな。存在すること?

 魔震なんて、大掛かりで変わった存在というか現象だと思うけどな。

 似たものがなかったか、特殊クエストの内容まであれこれと記憶をさらう。


 せいぜい、ボス戦なんかのエフェクトで、ジェッテブルク山を描いた背景画像が、地響きのサウンドと一緒に揺れるくらいのものだ。

 それと最終シナリオのフラグを立てると、聖なる祠も揺れたっけ。

 ん?

 山や、祠が、揺れる。

 そんな場所に関連するといったら……邪竜。

 は、はは、まさかね……。


 やめやめ。ゲームになかったことなんか、いくらでもあっただろ。


「あー、もう。なんで中途半端に網羅してんだよあのゲームは……」


 ゲームから省かれていた設定、なんてことが浮かぶ。

 それらも俺が気が付かないだけで、仕込まれているのかもしれない。説明書に無理やり詰め込んだ情報や、わざとシンプルにしたのかといった揺れるだけのエフェクト……さすがに、考えすぎかな。


 せっかく現実……じゃないや、日本でのことを忘れて、こっちの生活のことだけ考えようって、そう意気込んでるってのに。

 突如、重要な点が現れては、俺の気合いを邪魔する。

 どうしても、振り切ることができないでいた。


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