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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
低ランク冒険者編

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112/295

112:砦長対ギルド長

 見送り一同は、ぞろぞろと街道を歩きながら街へと戻っている。

 俺が長話してしまったせいだろうな。砦の偉い人やギルド長は、ビオとの別れ際の挨拶に、せかせかと何事かを伝えていたのを見て気まずい。


 せめて、これ以上は目に付かないようにと彼らの後ろを歩いていると、シャリテイルが大枝嬢から俺へとターゲットを変えたのが分かった。

 ちらっと横目に見たが、その口をわざとらしく尖らせていた。


「なぁにタロウったら、一人だけビオちゃんと仲良くお別れの挨拶するなんて。ずるいわよ」


 ずるくないです。

 どこが仲良く見えたんだよ。手に汗握る水面下でのバトルだったろうが!

 だいたいな、シャリテイルが居たら俺も突き上げ喰らわずに済んだ、かもしれないんだ。


「それにしても長かったよな、遠征」


 正面から責めるわけにいかず、ぼやきとなって漏れてしまった。

 こんな言い方はよくない。


「遠征って定期的にやってんだろ? 山ん中で長期間野営って、そんなに物資も持ち運べないし、大変だよな……」


 愚痴めいた物言いを誤魔化す意図もあったけど、体一つで野宿とかお疲れさんと、労いの気持ちを込めたつもりだった。


「あははやだー、山を越えながら近くの村に寄ってるに決まってるじゃない。そうしないと、手荷物だけの遠征なんて無理よ」

「あ……ああ、なるほど。それもそうだよな」


 いつも人を笑いやがって。仕方がないけど。

 突然、別の声が遮った。


「ようやく面倒がなくなったな」


 振り返ったのはギルド長だ。しめしめといった表情を隠しもしない。やけにくだけた雰囲気だが、それが素かよ。一応、ビオ達に対しては外行きの態度だったんだな?


「それじゃ俺はこれで……」

「そう、これで依頼に専念できるな!」


 くっ、先を越されたか。


「ついでだ。少し話を詰めようではないか」


 嫌です。

 とは言えない。

 ならば先にリアクションしておこうか。


「なんなんすか。あの勝手な依頼は」

「ふむ。気が付いたか」


 嫌でも依頼されたら気が付くだろ!


「でも、予定で伝えてなかったでしたっけ。砦から頼まれたのが一番早いと思いますよ。誰かさんが知らせを広めてから真っ先に聞かれたんで」

「時期は伝えていなかったと思うが、別に急ぎではないだろう。正式に依頼書を発行したのだから、それから受け付けてもらえばいい」


 うん?

 どうなるのかな。


「砦の兵も、ギルドの依頼を受けるんですか?」

「そりゃあそうだ。ギルドの依頼は公平にと規定されている。身分にあかして順番を無視するような真似はさせんよ」


 それなら、なおさらのような。

 依頼書はギルド長が出したものだから、いつから募集したのか知らなかったが、俺がそれを承諾した時は、すでに話を受けていたからな。


「ビオたちが帰ったら頼みにくると言われてるんですよ。ええと、たしか、メタルサとヴァルキだったかな」


 そう口にしたとたん別の顔がこちらを振り返り、野太い声を響かせた。


「ほう! メタルサ・アーガとヴァルキ・プロルか。さすが行動が速い」


 炎天族のおっさんで、青マフラーの砦兵だ。鍛えてゴツゴツとしているが、整えた口ひげを生やしているし、兵隊というより雰囲気は偉い指揮官だ。西の森警備のまとめ役のように荒っぽい感じはない。

 そのおっさん兵が声をかけてきたとき、ギルド長は思いっきり顔を歪めた。

 ギルド長、あんた今、舌打ちしかけたろ。


「一々口を出すな、フロンミ。こちらの話だ」

「砦の者の名が聞こえたぞ、ドリム。またぞろくだらんことを思いついたんだろうが、今回は面白そうじゃないか。わしが気に入らんからといって、無視したりはせんよな?」

「気に入らないなどと、人聞きの悪い言い方をするから嫌われるのでは?」


 だ、駄目だこの人たち……。

 そうだ一応、兵の勝手なお願いなのかどうかくらいは確認してみよう。


「あのー、依頼のことはご存じなんですか」

「おお、タロン君だったな。わしはフロンミ・ショーン。ガーズ防衛拠点に配備された隊を任されている。通称で砦長と呼ばれている者だよ」

「タロウです!」


 既に名前を知られまくっているのはまだしも、なんで伝言ゲームになってるんだよ。間違えるような長い名前じゃないだろ!


「予算の問題があるから当然、報告は上がっている。ただし詳細は知らん。予算の枠内ならば、必要なことは各自が判断して行わせる方針だ。依頼者と冒険者の間で汲々とする、どこかのギルド職員とは違うものでな」

「ならば部下から話を聞くといいだろう」

「今は貴様にではなくタロリ君に話しているのだ」


 このおっさん、叩いていいだろうか。


 それはともかく、二人の会話が神経を削りすぎる。

 俺だって予定をまぜっかえされるのは嫌だし、ここはギルド長には納得してもらおう。


「ただの雑用なんで、受け付けた順にぱぱっとやりますから。まずはメタルサさんからの依頼でいいですよね」


 有無を言わせないように言い切ったつもりだが、俺の威嚇なんて効くとは思えないから様子を窺う。

 睨み合っている二人のおっさんに挟まれ俺のことで争ってほしくなどない。挟まれるならビオとシャリテイルの谷間で頼む。


 短い沈黙の後、ギルド長が引いた。


「……では、砦の顔を立ててやるか」

「いつもいつも気を使っていただいて、申し訳ないなあ」


 ギルド長と砦長は、向かい合ってにこりと笑い合った。

 目はまったく笑っていない。

 派閥争いっておっさん連中にはつきものなのか?

 こんな世界に来てまで、そんな現実は見たくないよ。


 ふんと互いに鼻を鳴らして、足早に去っていくギルド長と砦長。

 大枝嬢は、呆れた顔でギルド長の後姿を見て溜息をついていた。そんな大枝嬢の姿に、なんとなく同情して話しかける。


「なんかギルド長って、冒険者らしくないですね」

「一応、あれで爵位持ちですカラ、立ち居振る舞いは品があるように見えるかもしれませんネ」


 いや品がどうとかいう話は今の光景には微塵もないし、じゃなくて……シャクイモチ、新手の餅だろうか。


「へぇシャクイモチですか。って、え?」


 しゃっくりもち、しゃくとりむし……爵位、持ち?


「ハハ、たしか、貴族とかそういった身分の人が、そんなものを持っていると噂には聞いたことがあるな。まさか、そんな立場の人が冒険者なんてヤクザな商売やってないですよね」

「ヤクザ? それは売っておりませんが、貴族の出ですヨ?」


 バカな!


「いやだって、俺……結構、失礼なこと言った気が……それより態度。まずい態度とっちゃってたりしてるよ! まさか急いでたのは打ち首獄門計画のためか。街の入り口の看板を俺の晒し首でデコってみたりとかするために!」

「お、落ち着いてください、タロウさん。おっしゃっていることは理解できませんが、そのような厳しい罰則はありませんヨ」

「えっ、そうなんですか」


 そ、そうだ。何も階級制度の全てが、厳格なものとは限らない。

 制度ごとに違いがあったり、時代や地域でも変わるだろう。


 ゲームの話だと、この国の王様なんか周囲の貴族に方針を押し切られるくらいだから、頼りなさそうだし。


「コエダさん。タロウは、そういった知識の方は頭でっかちで、現状にそぐった感性は持ってないと思うわよ?」


 大きなお世話だ。


「そうでしたねシャリテイルさん。人里離れて暮らしていれば、必要のないことかもしれませんネ」


 大枝嬢も俺の頭を越えて納得し合わないでくれ。


「はっきり言えば、ドリムは私たちとなんら変わりないですヨ」


 いやいや、さすがにそれはないだろう。


「王都の東に位置するジェネレション領がありまス。ドリムは、領主様の三番目のご子息にあたるのでス」

「やっぱり本物じゃないか!」

「で、ですから。当主ではないのですヨ。タロウさん顔が近いでス」

「あ、すみません」


 思わず緊張に姿勢を正してしまう。前倒しの死後硬直だろうか。


「ドリムの兄、お二方が健在ですし、お子様にも恵まれてらっしゃるので、万が一のために残してあるだけの肩書きと話してらっしゃいましタ」

「誰が」

「ドリムご本人の談でス」


 自称!

 俺大したもんじゃねぇからぁ、なんて信用できない筆頭だろ!

 もしかして影で暗躍しちゃってたりなんかするんだろうか。


「もうタロウは大げさね。そういった家の事情なんて、すぐに広がるんだから、隠してもしょうがないのよ?」


 そりゃゴシップ好きは、どこにでもいそうだけどさ。


「シャリテイルさんたら、そんな曖昧な噂ではないでス。そもそも、そういった地位の者から辺境に派遣されまス。国から正式に任命されているのですヨ」


 じゃあ、ご栄転ってやつなのか?

 窓際貴族。

 おかしい……うだつの上がらない単語を、こうも優雅な響きに昇華せしめるとは……。


 それにしても、これは後で困ったりするんだろうか。知っていても身近でないから実感が湧き辛いことの一つだ。


 お貴族様か。

 地球だったら西洋のものに近いんだろうな、王様いるし。

 あれ、でも、生まれはともかく。


「それなら、まだ爵位はないんじゃ」


 いや、幾つも所領があったらどうなんだろう。肩書だけというのもあった気がするけど。

 人種だって違いすぎるのに、すでに一緒に暮らしていたりするし、地球の制度と同じとは思えないが。


「いえ、このガーズを治めていますヨ?」

「ああ、なるほ……」



 えええええ!



 そうだ、この世界は単純だった。


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