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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
低ランク冒険者編

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110/295

110:耐久値

 すかすかの南の森を基準にしてしまって、危うく転がるところだった。

 全く整備されていない道なき道だ。走るほうが危ない。

 こけずに済んだのは、密集具合のおかけで掴むものがあったお陰だ。


 道なりに歩くだけとはいえ、一人で、慣れていない森の深くにまで来てしまい内心焦る。

 案内役きどりで、見栄を張るからだ。


 他に利用する奴もいるかもしれないしと、ついでに目に付く枝葉を切り払いながら、慎重に歩いて戻る。

 大きな茂みを越えて放牧地の草原が見えてくると、ほっと胸をなでおろした。


 安心したのも束の間、明るい視界を遮る茂みが、唐突に生えた。

 地面から伸びる、茶黒い山のてっぺんに、でかい葉っぱが一枚。


「ゲゥ?」

「ぉわっ!」


 モグーかよ!

 首だけひねって背後の気配を確かめている今の内だ!


「ぅおらああぁっ!」


 物音に気が付き全身をこちらに向けようとするモグー。その背、どこが首だか分からないが、うなじ辺りを狙って上段から叩きつけた。

 ナイフは首半分まで食い込み、モグーの体は引き摺られて地面に倒れる。

 その勢いで、ナイフはさらに食い込んでいた。


 ころんと、頭の葉が落ちた。

 モグーはヒレのような短い腕を震わせて葉っぱへと伸ばしたが、届く前に力尽きた。


「なんで、そこまで葉っぱにこだわる」


 謎な習性だよ。

 前拾ったやつよりは小さめだが、一応拾っておこう。

 葉っぱを拾って、そそくさと移動した。




「はぁ……ナイフ持ってる時で良かった」


 魔物は数組で移動が基本じゃなかったのかよ。

 考えれば、モグーは毎度変なところに現れる。


 初めて会った時が一番ひどいが、結界が近くて居心地が悪いはずの南の森の外まで出てきた。

 どう考えても、昼間だったし分裂行動のためにはぐれてるとも思えない。


 もう一つ理由があるとしたら、今思えば、繁殖期の直前だったな。

 繁殖期前も、夜間のようにやや興奮状態になってたと思う。

 それに加えて、特性か?

 目が退化していて音で判断しているはずだが、それが行動に影響してるんだろうか。

 目で獲物を狙えないから、わざわざ土から頭を出して音を探るとか。無理して結界に近付いてでも狙うとか、あるのかもしれない。




 モグーの生態はどうでもいいか。

 それより、素早く倒せた。それを喜ぼう。

 以前は掠り傷をつけられる程度だったモグーだが、ステータスアップの恩恵だろう。一撃、といっていいかは微妙だが倒せたんだからな。


 あんなに殴りあった強敵(ライバル)モグーよ。

 俺は一足先に次のステージへと進んじまったみたいだぜ。


 腕力値が上がったところで、武器自体の強度が変わるわけではない。

 俺がナイフの扱いに慣れてきたから、うまく力を乗せられるようになったってことなんだろう。


 それにしても、話に聞いていたように手のヒレ以外は柔らかいというのは本当なんだろうか。


「それでも硬かったぞあいつ」


 ただの薬屋にすぎない森葉族の男が、ノマズごときに怪我したのかと呆れていなかっただろうか。

 あれで倒しやすいというなら、モグーなんて軽いもんだろう。

 冒険者ならなおさら、濡れ手で障子に指を突くようなものだろうか。

 解せん。


 魔物の硬さも、変だよな。

 レベルの有無はおいておくとしても、濃度がどうとかいったって中にマグを詰めたぬいぐるみのようなもんだろう。

 ぬいぐるみであれば、サイズが大きくなったから丈夫になるというわけでもないはず。丈夫な生地は使うかもしれないが、ともかく。

 その外側の強度は、なんで決められてるんだろうか。


 ツタンカメンやカラセオイハエのように、素材として残るなら理解もできる。

 でも、致命傷を受けると全部マグになって消えるわけだ。


 種族補正に関わる持久力のような裏パラメータがあるのか。

 そもそも持久力と呼ばれているのだって、たんに体力値と生命力値の高さなんかの影響をそう呼んでいるだけなのかもしれない。

 呼び方はなんであれ、削れば減る体力とは、また違うものだし、仮に耐久値と名付けてみる。


 人間でいえば生命力に該当するもののような気はするし、ゲームの魔物にも生命力値はあった。

 生命力の働きは、HPが0まで削られたときにHP1で蘇生することだ。値が高いほど、その確率が上がるというものだった。


 だけどこの世界には蘇生どころか回復魔法はないんだから、耐久値と呼ぶ方がしっくりくると思ったんだ。


 見たことはないし見たくもないが、人間が致命傷を負っても煙のように消えたりはしないだろう。

 それはケダマ草や動物の肉なりが残ることを見て、同じだろうと判断できる。

 純粋にマグだけで出来ているのは魔物だけというのも、シャリテイルと話していて聞いた気もするけど。




 そんなことをつらつらと考えながら、気が付けば北の森沿いの草殲滅ミッションを終えていた俺だった。

 まさか、終わるとは思っていなかった。

 仕方なく早めにギルドへ戻る。


「タロウさん、明朝だそうでス」


 大枝嬢から聞かされた情報に驚かされた。

 昼にまだ分からないと聞かされたばかりだったし、早くとも明後日になるだろうと思っていたのに。

 本当に、ビオたちはシャリテイルの報告だけ待っている状態だったのか。




 晩飯を食おうと宿に戻ったが、早めだからか、四人組はまだ戻っていない。

 変に気を使わせてしまったし、朝に挨拶できればいいが。

 晩飯を頼んで食堂で頬杖をついた。


「いよいよか」


 また何かちくちくと言われるのかと想像するだけで、気分は落ち込む。

 それよりも、気にしなければならないのは、面と向かってきちんと伝えられるのかだ。途中で遮られたりしたら、言い切る自信がない。

 言わねばならないことを考えると、今から緊張してきていた。

 そんな緊張を断ち切るおっさんの声。


「北の森の方まで片付けてくれたんだってな。ありがとよ」

「他にできることもないし」


 おっさんから盆を受け取ると、頭を切り替えた。


 礼儀正しくとか、小難しい言い方考えたって舌噛むだけだ。

 率直に、俺はこの街で暮らすと言えばいい。



 ぼんやりとしていたら、口の中に違和感が走った。

 ジューシーな違和感だ。

 おかしい。

 いつも俺は、野菜汁の底に沈んでいる肉を真っ先に食うはずだ。


「ぬぅ……これは、二切れ目!」


 おっさんから、北のお礼か。

 考え事に没頭していたせいで、せっかくのエクストラボーナスを味わい損ねたというのかよ!



 ショックに、残りをのろのろと食べながら予定を考えた。

 明日からは東の森区域へと突入する。

 区域といっても、木々はまばらに生えてるところもあるし、緩やかにカーブしているから、遠目から見て北と東の中ほどから勝手にそう決めた。


 東の森も北と似たようなものだが、より結界から離れる分だけ、警戒した方がいいだろう。

 恐らく、西の森に近い。

 魔物も四脚ケダマが、森の浅いところにもいそうな気がする。

 ま、警備の兵を置いてないんだから、北の森と大差ないだろうけどさ。

 もちろん入り込まないけど。

 木々から離れて、背高草だけ狙うのは変えない。

 さっさと一周して、目的を一つ達成したいからな。


 今晩こそは、南の森が狙い目。

 魔物も十分に復活しているはずだ。


 飯を食い終えると、ランタン用のロウソクの残りや予備を確認し、南の森へと向かった。


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