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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
低ランク冒険者編

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105/295

105:帰ってきた冒険者

 右手にナイフ、左手に殻の剣。

 前方に交差して構えた腕から、剣を外側へ振りぬく。

 切っ先が目的の藪に吸い込まれると、体をひねって引き抜き、その反動を利用してナイフを別の藪の軌道上へと伸ばす。

 回転するように周囲の藪をつき、そうしながら少しずつ移動していく。


 無駄にせっせと藪をつついているだけだ。


「この手応え。そこか!」

「ャブリャアァーッ!」

「ヤブリンご一行さまご案内! コントローラーん中で眠れ!」


 躊躇なくヤブリンを倒すと、遅れてツタンカメンが茂みから顔を出した。

 すかさず近くの一体に近付き、腹の下へ爪先を突っ込んで蹴り上げる。

 浮いたツタンカメンの首へとナイフで狙いをつけていた。


 甲羅だけとなった一匹目が近付いていた二匹目にぶつかり動きを止める。

 その隙を逃さず殻の剣で突き、三匹目の甲羅を足で押さえ首を落とす。

 四匹目が飛ばした蔦を掴んで引き寄せ首を落として終了。


「蔦を飛ばされる前に倒せると思ったんだけどな」


 そうそう上手くはいかないか。

 それにしても、元からとろくさい奴らだが、こんなにサクサクと倒せたかと思うほど手応えがない。

 すぐに他を探しに移動する。


「遠慮するなよ。全力で来い!」


 などと言いつつ、二組目は蔦攻撃をさせる前に倒していた。


 こんな簡単にツタンカメンの首を落とせただろうか。

 草の束を切るよりも、さっくりと切れていく。

 剣を新しくしてから来てなかったっけ?

 それとも、力加減を覚えたのか。草退治で培われた経験が、こんな風に生きるとは不思議な気分だ。


 ヤブリンどもを三組狩ったところで、甲羅をとりまとめにかかった。これ以上は嵩張って運びづらい。


 風が吹いて枝葉を揺らすと、物音では敵の接近も分かり辛くなるから、定期的に目線を周囲に走らせる。

 葉が不自然に舞ったのが見えて、剣を掴んだ。


「ケキッ!」

「うわっ」


 でかいくせに素早く木の上から跳んでくる、忌々しい四脚ケダマだ。

 距離をとるために当たればいいと剣を持った腕を振りぬくと、ケダマの顔ど真ん中にヒットし、丸い体が地面に叩きつけられバウンドした。

 殴りつけた勢いのまま足を踏み出し、ケダマが足場を捉えるより早く、斬りつける。


「キェぶッ!」


 後から来るやつらから逃げるため、甲羅をまとめた蔦を掴むや撤収した。


「だから、調子に乗るなって……」


 いつもの中継地点に戻ると、腰を折って息を吐く。

 膝に手をついて息を整えていると、笑いが込み上げてきた。


「四脚の不意打ちをくらって、真正面から、倒したんだよな」


 小さな満足感を覚え、街へ戻ることにした。




 南街道入り口へ近づくと、大声で叫ぶ男の声が届いた。それも一つじゃない。


「戻ってきたどー!」


 なんのことか、ぴんときた。

 走って柵をくぐると、通りの道幅を埋める集団が、住民に歓迎されている。


「遠征組だ!」


 土に汚れ、汚らしいボロ布をまとったゾンビのような見た目になってるが、間違いなく見覚えのある顔ぶれだった。

 行きと違って荷がなくなり身軽そうだ。一部は道具袋の巨大版を背負ってるが、素材なんだろう。


 笑っておかえりと言おうとして口ごもった。

 疲れは見えるが暗い雰囲気はない……数が減っているようには見えないが。

 解散の号令がかかり、人だかりがのろのろと動き出していた。人込みの中から飛び出ている頭を探す。


「カイエン!」


 振り向いたカイエンの周囲には、いつものメンバーが揃っていた。

 まだ、状況は分からないが。


「えーと、お疲れさん!」


 面々に声をかけると、いつものようにぼやきながらも笑いがこぼれた。


「あーまじで疲れたよ」

「これだから遠出はまいるよな」

「ベッドで眠れるってのはありがたいこった」


 他のやつらは安堵からか、力なくへらへらと顔を緩めた。

 カイエンだけが、苦笑いを浮かべて一瞬目を伏せる。


「まさか……何かあったのか?」

「喋るのも億劫なだけだ。なんでもないって」


 その笑い方は癖なのかよ。思わせぶりな笑い方はやめろ。

 またバシバシと背を叩きにくるカイエンと攻防を繰り広げるが、行きがけのような馬鹿力は感じない。


「近寄んな。くせぇんだよ」

「んだと? 貴様も汚タロウにしてやろうか!」


 それよりシャリテイルはどこだ?

 と言いかけたところに、当人の声が聞こえてきた。


「ほらそこー、さっさと戻って休んでちょうだい」


 変わらず気の抜ける声に、安堵する。

 シャリテイルに追い立てられるように、俺たちは並んで通りを歩き始めた。


 野郎連中と同じく、シャリテイルも髪は油っぽくなり、マントも全体がざらついてそうに砂埃まみれだ。首で結んでいる背中の風呂敷包みはぺったんこになっていた。


「シャリテイルも、おかえり」

「もちろん、戻るわよ」


 にこっと笑ったシャリテイルの笑顔も、やはり力はない。

 よほど大変な行軍なんだな。


「てか、なんだよその葉っぱは」


 シャリテイルの鼻の頭には、濃い緑色の柔らかそうな葉っぱが貼りついている。

 よもぎだか春菊みたいな葉っぱだ。


「なにって、ただの傷薬よ」

「怪我!? 平気なのか」

「自分の足で歩いてるのが見えてるでしょ? こんなのよくあることよ」


 こんなのったって、怪我だぞ。それも顔!


「掠り傷よりも、戻って早々に山だろうってのがなぁ」

「そっちのが、しんどいよな」


 カイエンの仲間がそんなことをぼやいた。


「嘘だろ、一日くらい休まないのかよ」


 なぜかへらへらと笑われた。


「へへ、そんな風に心配されるなんて、いつぶりかなぁ?」

「はは、たぶん緊急討伐が待ってっからなあ」


 ああ、そっか。こいつらが抜けた穴を、他の奴らが人数増やすことで埋めてるんだった。

 それだけで、難度の下がる西の森沿いまで魔物が流れていたんだ。休みたくとも、休めるはずがない……。


「ふふ、大丈夫よタロウ。もちろん、それが終われば休むわよ」


 シャリテイルの言葉に頷くしかない。

 俺に何が言えるよ。負担はものすごいんだろうなってくらいの感想しか出ないし、想像もできない世界だ。


 間隔は分からないが、一定期間ごとに遠征に出ていると話していたっけ。

 魔物の分裂元である強力な魔物が生まれる魔泉。そこでの討伐が、高ランクでも最高難度の依頼となるんだろう。


 高ランク冒険者は参加が義務付けられているようなことをカイエンは言っていたが、この街にさえ五人しかいない。

 それで道中の安全確保などのために中ランクの上位者が随行するが、こっちはもう少し数はいるし他の者と交代できるようだ。


 そういえば、いつもカイエンとつるんでいる三人は、パーティーメンバーにしてはおかしいと思っていた。中ランク以降は基本、三人組だからな。

 明日からの割り振り予想をしてぼやいているのを聞いていると、やっぱりこいつらは中ランクの上位陣らしい。


「はぁ……明日はオレ、別行動だな」


 カイエンはそう呟いて肩を落としていた。


「もう慣れてきただろ」


 三人組のリーダーらしい、くたびれたような岩腕族が含み笑いを堪えるようにして、カイエンを宥める。前は、同じパーティーだったのかもな。

 高ランクはパーティーを組まず、臨機応変にヤバイ場所へと派遣されているようだ。都度、その場の奴らと組むようなもんか。すげー大変そう。


 ふとノマズとの戦いで、命を落としかけたことが頭を過った。こいつらでも、あんな危機を感じたりするんだろうか。

 魔物の源泉なら、どれほど危険だろう。

 ……いや、低ランクと比べるのはどうかと思うが。


「タロウったら辛気臭いわよ。なんの仕事だって大変なものでしょ?」


 それはそうだけどさ……いや俺が気を遣わせてどうする。考えを変えよう!


「……でも、ちょっと怪我人を出してしまったのが悔しいわね」


 変えようと思ったら、よりによってそんな話するかよ!

 シャリテイルの唸るような口ぶりに、その時のことを思い出したらしく、口々に状況を話しだした。


「まあ、あれはしゃあない。シャリテイルの補助はうまくいってたよ」

「あの辺の魔物は特殊能力持ってるヤツばかりだからな。油断せずとも容易い相手なんかいないさ」

「しかし、シャリテイルのスッ転び具合は気合い入ってたよなぁ」

「そうそう顔面でああも地面が抉れるとは驚いた。ぬかるんでて良かったな」

「ちょっと仕方ないでしょ! 相手はケルベルスだったんだもの」


 拗ねたように呟くシャリテイルの鼻を凝視する。

 顔面でスッ転んだって……。


 軽い話し方だが、誰もからかっている雰囲気はない。

 それもそのはずだ。俺にとっては意外なことが知れた。

 聞き覚えのある魔物の存在、ケルベルス――ゲームでは中ランクの最後辺りに出で来る討伐クエストにあった、中ボスの名だ。


 ケルベルスは成功率の高い麻痺攻撃を放つ面倒なやつだ。現実にくらうと、急に体が止められたりするんだろうか。

 走ってるときにでも仕掛けられたら、顔面スライディングもするだろう。よく掠り傷で済んだな……。


 まあ、そんな話ができるなら、命を落とした者はなかったんだな。


「本当に、無事で良かったよ」


 ようやく、その言葉を告げられた。

 こいつらにしてみれば毎度のことで、俺は大げさすぎるように見えるだろうか。

 そう思うと少し恥ずかしいが、妙に懐かしい感じのする奴らだ。やっぱ何かあったら嫌だ。


 これは、ゲームキャラに対する愛着なのか。それとも、現在の人間らしい関係が育っているためなのかは分からない。

 そんな気持ちも、また変化していくんだろう。


 どっちにしろ、何事もなく再会できたことを素直に喜んでいるのは本当だ。

 みんなの顔を見れば、以前とは、また違った目で見ている。


 なんの整備もされてない山の中を何日も歩くなら、野郎だけでなく女の子もこうして薄汚くなるのは当たり前だ。この汗や泥にまみれた臭いは、そうして仕事を成し遂げた証だ。誰にも代えられない仕事を。

 仕事に疲れて、よれよれで夜遅くに帰ってきた親父の姿が重なった。誇っていい臭さなんだ。


「じゃあ、少しは休めよ!」


 ギルド前で、しっかり声をかけて別れた。まずは甲羅を宿に置いてこなきゃな。

 俺は俺の仕事をしよう。

 マグ集めにも、随分とやる気が湧いていた。


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