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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
低ランク冒険者編

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103:気持ち新たに

 掲げた愛用のマチェットナイフが、日差しを受けて鈍く光る。


「今日から俺は、誰に恥じることもない正真正銘の低ランク冒険者!」


 ただし特殊な条件下のもとによる。


「こまかいことはいいんだよ」


 ギルド長に認められたからには、いっぱしの冒険者だ。堂々と名乗ってやる。

 当分は他の駆け出しの奴らに追いつけるとは思えないが……。



 それでも俺は、まだ――最弱だろうと、冒険者として生きていく!



 目の前には万の軍勢。

 だが今の俺は負ける気がしない。


「次のラウンドを始めようじゃないか、緑軍団」


 腰をかがめ、敵と向かい合った。


 ギルド長の条件をのんだからといって、さっそく何か事が起こるでなく、俺は相も変わらず草退治に励んでいる。ガーズ一周耐久草刈りレース続行だ。

 今は北東側へ進んでみているが、森と牧草地で人通りはないからか、あまり真面目に整えているようには見えない。これ幸いと叩き切ってはまとめていく。


 はっきり言われたわけではないが、これまで通り自由にしていいらしい。自由業とうそぶけば、自立できた感が増してかっこいいような気がしないでもない。自由人と言えば途端に胡散臭いし、自由とはなんと変幻自在な言葉だろうか。どうでもいいわ。つい、意識が遠くへ向かってしまった。


 放置の理由は単純なことだ。

 まだ、国から派遣されてきた奴らがいるからな。余計な口を出されたくないなら、ビオたちが帰ってからになるんだろう。


 ギルド長に示された、正式に低ランク冒険者として扱うという、その条件。特に明言はされていない。

 ただ協力してくれと言われ、俺は頷いた。それだけだ。

 要はあの、勝手に周知された雑用依頼が来たら断るなということだ。

 そもそも勝手にあれこれ進めてんだから、俺には言質を取りたかっただけだろうしな。


「……まったく、今までのランクは、なんだったんだよ」


 俺が使えそうか判断するのに、わざわざ依頼を調整しつつ様子を見たのも本当なんだろう。でもどっちかといえば、囲い込もうとされてないか。


 これまでの制限といえば、通常はなされる手続きがなかったことくらいだ。

 まず新規登録者にされるだろう説明がなかった。受けられる依頼は、低ランクの最低難度の案件に限定されていた。討伐も南の森のみお勧めされていた。パーティを組むよう手配をされなかった。まあ、それは俺が討伐の邪魔だからだろうけど。

 とにかく全ては、続かないと思われていたための対応だった。


 それが低ランクに仮認定されたときは、ケダマ草採取という、わずかに難度が上がる程度の依頼を受けさせられた。しかも、わざわざシャリテイルに安全な範囲を案内させて。


 どうも安全に気分よく仕事をさせることで、足抜けの機会をなくされていったような気がするんだよ……なんか居たたまれなくなってきた。

 それに職員の雑用を割り振りたいのも本心のようではある。


「くそっ……まさに真の低ランク冒険者だな!」


 ギルド長め。

 いいように使われてるのに気が付いてるかだって?

 んだよ、あのおっさん。


「てめえが一番こき使うつもりじゃねえか!」


 今さら気が付き、ムカつきを草に叩きつける。

 少しおだてられただけで調子に乗る方が悪い。誰がチョロタロウだ!

 この怒りで以って全力で草と雑念を断つ!


 斬――といった擬音を頭に浮かべて気合い一閃。


「おお?」


 久々に体中に活力がみなぎる感覚が広がった。


「なんでだ。カピボーすら倒してないのにレベルアップ?」


 しっかりと手にしていた草を見た。草だって生きている。生きているから魔物ほどでなくともマグを持っていたな……。


「草でレベルアップって舐めてんのか!」


 思わず全力で草を地面に叩きつけていた。




 つい気合いが入りすぎて、早々に北側の森沿いは刈り尽したため、いったん結界柵まで戻って休憩がてら、東の森沿いはどのくらいかかるかと考える。

 こっちの森境にも背高草はまばらに生えているが、東の方は地面が木の根やらでガタガタしているから、綺麗に生えそろってなかったんだ。倒れて枯れかけていたり、浮いた木の根の下をくぐるように飛び出ていたりだ。


 そのせいか知らないが背高草と背の低い雑草も混ざりあっていて、その辺りまで、遠目には牛にも羊にも見える家畜の姿がある。


「あの辺の草は食ってんのか? 勝手に刈るのはまずいかな」


 視線を近くの建物沿いに向ける。

 結界柵の外を囲うように小さな畑が連なり、放牧地との間は植木と呼ぶには乱雑な、柵替わりの低木がぽつぽつと並ぶ。

 あの牛もどきなら簡単に突き抜けてきそうだが、作物に被害はないなら、近付かないように躾けているんだろうか。

 その眺めていた垣根から人が抜け出てきた。


 すぐそばに道があるのに、なんでそんなところから出てくる。農地の人間はみんな似たように見えるが、どこか見覚えのある姿だ。

 シェファ?

 ちらちらと後ろを振り返りながらの不審な動きは、ああ、また目当ての女の子に会うための脱走か。ちょうどいい。

 腰かけていた柵から飛び降り、小走りに近付きながら声を掛けた。


「おおい、シェファ!」

「うわっ馬鹿、でかい声出すな!」


 馬鹿はどっちだ。

 自分で大声出すから、すぐにシェファの背後から枯れたような声が追ってきた。


「なに叫んでるシェファ。おぅどこに行こうってんだ!」

「見つかっちまった!」


 いい歳して、どんだけさぼってんだよ。


「おっさん、ちょっとシェファ借りるぞ!」

「あん? なんだタロウか。ちょっとだぞ!」

「助かった。じゃあ俺っちはこれで」


 逃がすか。


「手助けしてやったのに、それはないだろ」


 とっさに首元を掴み、来いと目線で促す。


「ぐえっ分かったから首根っこ掴むな! つか、タロウおめぇ力つええな……」

「えっそうか? すまん」


 慌てて離した自分の手と、シェファが首をなでシャツを伸ばすのを見比べる。

 腕力がそう上がったとも思えないが、握力でもついたのかな。

 まああんだけ一点特化してんだし、それくらいは鍛えられていて欲しいもんだ。


「んで、なんだよ」


 不服そうながら好奇心の方が勝ったらしい。シェファは俺に並んで歩きだした。

 柵沿いを北の森へ向かいながら、気になる場所を指差す。


「あの辺の草でも刈ろうと思ったんだが、こっち側の知識がなくてさ」

「あぁ餌を気にしてんのか。森のほうにゃ、あんまウギは近づかねえぞ」

「ウギ?」

「ウギの居ない村もあんのか……まあでけぇから狭いと飼いづらいかもな。あの、草をもしゃもしゃ齧ってるやつらのことだよ。おめぇも毎日食ってるだろ」


 ウギ……ウシとヤギを合わせたような名前なのは偶然ですよね。

 なるほど、あれがこの世界で一般的な食肉なのか。


「あの干からびた謎肉の素が身近に……」

「謎ってなんだよ。俺っちも唯一真剣に取り組んでる仕事だぞ」


 唯一って、おい。いや気持ちは分かる。

 宿の飯には圧倒的に肉が足りないもんな。


 でも、こうして眺めてみれば、家畜を飼うのも難しそうな場所だ。安いからというだけでなく、文句は言えないよな。


 肉談義を交えつつ、ウギとやらの移動範囲を大まかに教えてもらった。

 放牧地を囲む森の向こうは、すぐに小高い丘というか小山が連なっている。こっちは誰もいないんだなと話すと、シェファはなぜか、その辺の魔物事情も話し始めた。


「こっち側は南より危険ってこった。だから放牧地にすることで、人家を離したんだとよ」


 シェファは意外と物知りだった。

 冒険者と違って、住人は防衛的な話には疎いと思いこんでいたせいもある。

 学校のようなものは存在しないようだが、子供を集めて年寄りが読み書きを教えているらしい。ときに歴史の勉強といっては、昔話から現在話題の事件までお喋りが始まるらしいから、嫌でも街の成り立ちや現状にも詳しくなるとシェファは顔をしかめていた。


 各々が家の中に引っ込んでいても済むような、現代日本とは違うよな。

 毎朝の、言葉通りの井戸端会議がニュース速報な時代なんだ。

 良いことも悪いこともあるだろうが、俺も妙なことを口走らないように心がけねば。


「それでって、聞いてんのか?」

「うむ、耳には入ってる」

「おめぇな。呼びつけておいてなんだ。警備がいないって言うから教えてやってんのに。ほらこっちだ」


 シェファは背高草の網の中へとずかずかと入り込み、鬱蒼とした木々の狭間へと指先を向ける。


「ほっそい獣道みたいなのが見えるだろ」

「先生分かりません」

「ふざけてんのか」

「いや、本気で」


 じっと眺めて、どうにか通れるように繋がってみえる線を認識した。

 道、ね。

 下生えの葉が擦れ合う狭間で、地面なんか見えないじゃねえか!


「なんとなく、分かった」

「そっから魔物のよく出る山方面に抜けるんだと。冒険者たちの通り道だ」


 あー、それで教えてくれたのか……。

 悪いなシェファ。どうやら俺には関係のない道だったようだ。


 急な傾斜で遮られるお陰か魔物は出てきづらいだとかで、森沿いに警備を置かず、念のため小山の上に人を集中させているらしい。当然というか、中ランク冒険者が入り込んでいるようだ。

 多分だが、西の森の浅い場所は低ランク冒険者の修行場所なんだろう。




 今のところ必要なことは一通り話を聞いた。礼を言うと、引き返そうとするシェファの近くで、草むらが激しく揺れる。


「シェファ!」

「おぅ?」


 気楽にしてたが、ここは草むらの中だ!

 叫んだときにはカピボーが跳びだしていた。

 武器を取る暇もなく、飛び出そうと足に力を込めた俺はつんのめる。


「キェピッ!」


 シェファは、カピボーを手の平で叩き落した。


「そんなハエたたきみたいに!」

「一々おかしな反応すんなよ」


 そして足元に転がったカピボーを踏みつぶした。

 まるで部屋の隅をカサカサと蠢く黒い物体を丸めた雑誌でつぶすかの如き躊躇のなさで!

 え、えええ?


「いやだって人族で最弱が冒険者にもなれない厳しい土地だろって……」

「タロウ、支離滅裂だぞ。幾ら腕っぷしが弱いからって、カピボーくらい駆除できなきゃ仕事になんねぇだろが」


 ……今までの、俺の苦労は一体なんだったんですかね。


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