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最弱だろうと冒険者でやっていく~異世界猟騎兵英雄譚~  作者: きりま
駆け出し冒険者生活

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 魔物は狩り尽したとはいえ、森の中だ。そんなことはお構いなしに、気が抜けたまま地面に座り込んで、ひんやりとした黒い土を眺める。


 人生の岐路に立たされるって、こんな状況のことなんだろうか。

 農地に行くのが嫌なんじゃない。どちらかといえば、俺には鉱山の方が向いてる気がするけど、そういうことではなくて。

 なれるもんならと冒険者になって、それから思い直すには、少しばかり時間が経ち過ぎたんだ。


「執着心なのか……結局は、ただの、わがままじゃねぇか」


 もう少し頑張ってみて決めたい。そうやって先延ばしにしようとしていた俺のお気楽さが、ビオの気に障ったんだと思う。

 ビオの立場だからでなく、何か問題が起きれば他の奴らもそう思うはずだ。生半可な気持ちでやるなって、砦の兵たちも言ってたじゃないか。

 多分、こういうことなんだ。


 土の表面を這うように生えた雑草を毟る。

 俺は、背高草ほどの利用価値もない。この雑草と同じだ。




 ふと、クロッタやデメントたちの顔が浮かんだ。

 あいつらも、まだ冒険者歴の浅さで右往左往しながら頑張っていた。そんなところは、身体能力がどうとか関係なく、俺もあいつらも似たようなもんだった。


 俺が……この世界の外から来た人間だとしても、生きていかなきゃならないことに違いはない。

 笑えるよ。

 俺の身には特別なことが起きたはずなのに、特別なことなんか何もない人生を送ってるんだもんな。


 なんだか最近は、元の生活のことをあまり考えなくなっていた。記憶や知識は連想するが、そうではなく。本来あった未来への道が途絶えたことへの、不安や怒りや惜しさとかが消えて、自分のものだったのが不思議になりつつある感覚というか。

 海外に長期滞在することになった人の、そんな話を読んだことがあったな。外国で長く暮らしていると、日本にいた頃の感覚や友達との反応などに隔たりを感じるといった内容だったっけ。厳密には違うんだろうが、そんな感じかなと思った。


 今はまだ何を見ても物珍しさはある。

 それが段々と、日常として浸透し、新鮮さは薄れて当たり前になっていく。慣れるってのはそういうことだし、だからってつまらないということはない。

 毎日同じ日々を送る。

 一言にまとめようとすればできるだろう。仕事して帰って一日が終わる。それだけだ。

 けど、その日々に、一日だって全く同じ日なんかない。寿命を迎えるまで、毎日進み続ける。


 元の世界で、将来はどうするかと思い悩みながらも未来に希望を持って生きていた。それがリセットされてしまった。悩んでいようがいまいが、俺自身が作り上げてきた人生で代わりなんてないもんだった。それが突然に奪われたんだ。なのに急に用意されたこの世界で、過去から今の自分に続く道のない地点に放り出されてさ、進む先を決めろと突然に言われても、どうしろっていうんだよ!


 もちろん、ビオが俺に起きたことを知るはずがないから不条理な怒りだ。


 俺にしては不思議と落ち着いていられたのは、せめてこの世界だったからだ。


「……忘れてしまうのかな」


 何もかも、昔のことだと。俺とは関係のない出来事として、記憶の彼方に、ふっ飛ばしちまうのかな。家族や友達のことも全部。


 他に行き場所なんかないからと、そんな理由でこの街に居座っている。

 だが状況は変わる。多少ながら事情にも明るくなり、先の選択肢も提示された。


 それなのに、何を悩むんだ。食っていけるなら、それでいいじゃないか。十分だろ?

 そう思うのに、納得いかない自分がいる。

 わがままかな。わがまま、だよな。


「だからって、諦めてたまるか!」


 来たばかりの頃ならともかく、ここまでやってきた。

 思えば、本当に色んな人に手助けされてきた。善意だけ受け取っておきながら、駄目だ無駄だと言われたから投げ出す?


「んなことできるかボケぇ!」


 俺だって、なれるもんなら、強くなりてえよ!


 腕を振り上げ、殴りつけた土がへこむ。柔らかく見えたが、グローブをつけた拳にも、それなりに衝撃が伝わった。

 拳の痛みで少しは頭も冷え、近くの木に背を預けた。




 ぼんやりと辺りを見ながら、冒険者に必要な要素について思いを巡らせる。


「……強さって、なんなんだよ」


 ここでは魔物を倒せることだ。

 よりランクの高い魔物を、倒せることだ。


 行動パターンを知っていれば対処しやすい魔物は多い。だが、一定のレベルを超えた魔物相手に、小細工なんか意味がない。大抵は、ある程度の力量のやつらを集めて対応させるんだろう。


 だけど高ランク冒険者は、一人で覆す。カイエンに連れられた草原での光景が浮かぶ。


「何か、技っぽいのを使っていた」


 川でアラグマと戦ったことを思い返す。あの時、クロッタたちにとっては慎重に戦わなきゃならない相手だったにもかかわらず、カイエンのような技は使っていない。

 まとめ役たちはどうだった?

 派手ではないが、たまに衝撃が重く響いていたような気がする。ただの馬鹿力ではないだろう。

 ゲームでいえば各キャラが持っていた特殊攻撃の方だろうな。魔物でいう突進のような、MPを使用する行動の一つみたいなものだ。


 マグを使用して打ち出すなら、MPの少ない低レベルの奴は気軽に使えない。

 だったら、あれを使えるようになるのが、ランク内で順位を分ける指標の一つに使えそうだ。


 カイエンとはそれなりに長い時間を草原で過ごしたが、一度見せてくれただけだったはず。格好つけようと披露しておいて勝手にへばってたし、それこそ必殺技みたいなもんか。強力だが簡単に使えるものではないってことだ。


「ほんと必殺技っぽいな……」


 その言葉を聞くと、まず頭ん中にヴリトラマンが浮かぶことに若干イラつくのは親父のせいだけど、そんなことすら懐かしい。

 ヴリトラタロウの必殺技か。昔の感覚は分からんが、直球なネーミングが多い気がする。


「ヴリトラソードだって、だっせーよな」


 手刀でソードかよとか、ツッコミしかない……なんだ?

 体に振動が走ったような。いや振動してる。発信元は、道具袋?

 腰の袋を開いて中を覗くと、コントローラーがぼんやりと青く光っている。見た目に震えはない。

 取り出した途端、ごく微かに空気を裂くような音と共に、コントローラーから光が溢れた。


 今は消えたケーブルの生えていた位置に、光は細長い形を作る。


 青い、刀身だ。


「……まじかよ」


 殻の剣と同じくらいの長さだろう。

 刃の縁が、蜃気楼のように揺らめいて見える。


 息をのんで、それから強張った肩から力が抜けていった。

 救われた気がしたんだ。

 いや、いつも助けられていた。


「本当にお前は、お守りかよ……」


 こんな言い方はおかしいかもしれないが、非現実な光景に、さっきまでの悩みが嘘のように消えていた。

 もしかしたら、これが今の俺に示された新たな可能性じゃないかと。俺にも、これで少しはあてができたのかもと、そんな希望の光そのものに見えたんだ。


 感激に胸が詰まって、コントローラーを掲げて青い光の刀身を見上げる。

 眺めてばかりいてもしょうがない。


「つ、使ってみるか」


 あ、どうやって収納するんだ?

 ボタンでも押そうかと思ったとき、学校の非常階段にある古い蛍光灯のように光がちらつき、スッと消えた。


 おお、収納したいと思ったら消える仕様か!


「んで、出すときも念じるのか? 出ろ……ぐぬぬ」


 出ねえ。

 さっきは、なんで出たんだ。う、まさか、言わなきゃなんねえの……?


「クソッ……ヴリトラソード!」


 やっぱ出ねえ。


「どういうこと?」


 困ったときは光の文字を確認だ。そこには新たな項目が出現していた。



『レベル22:マグ0/48759』


 見間違いだろうか。

 もう一度見る……は?


「マグ、ゼロ」


 大きく息を吸い込んで、止めた。

 さんざん苦労して集めたマグが、ゼロ。一気に、ゼロ!?


「ゼロってなんだよ……ふ、ふざくんなああああっ! 使えねええええっ!」


 いっそ全ての未練を断ち切るために、壊せるもんなら壊していただろう。


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